ここは宇宙空間か?と思うような不思議なお茶室にて。左から、SHUHALLY代表であり、裏千家 茶道家・松村宗亮さん、ブランドたまご編集部・竹本しおり。

「ブランドたまご(ブラたま)」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインの若手メンバーが中心となって話をうかがう連載対談企画です。
横浜に、ヒップホップ好きな青年が作った、宇宙のような茶道教室ブランドがある—−−。そう聞いた私たちは、さっそく行ってみることにしました。
駅から徒歩5分、どこにでもありそうなマンションの506号室。恐る恐るインターフォンを押すと、扉の向こうで迎えてくれたのが、今回登場する「SHUHALLY(シュハリ―)」ブランドの仕掛人、裏千家 茶道家・松村宗亮さん。首相官邸や海外でも茶会を展開する松村さんに聞く、茶道の本質とは。京都出身ながら、茶道に全く詳しく無いブランドたまご編集部の竹本が、素人丸出しで質問してきました。

哲学好きの青年が「モテる」ために始めた茶道が、いつのまにか本業に

「SHUHALLY」は横浜、関内駅近くにある茶道教室ブランドです。2009年にオープンしてから、主に30代の働く女性に支持されて会員は150名を超えており、その独特の茶室は2010年にグッドデザイン賞も受賞しています。庵主の松村さんは、現代アートの若手作家とコラボしたり、首相官邸や海外で茶会を行うなど、茶道全体のブランディングでも活躍しています。


マンションの扉をくぐり抜けると、そこは別世界。

「ようこそ」
にこやかな笑顔と、ドクロマークの着物。ただものじゃないと思いつつも、松村さんに促されるままに、部屋の奥へと進みます。
「茶室ですし、まずはお茶でも飲みましょうか」
松村さんに促されるままに、母屋からベランダの庭に出ます。


マンションのベランダとは思えない、立派な庭

松村:今日はお天気がよくて良かったです。これは利休梅という品種なんです。つぼみが大きくなってきましたね。

竹本:ここは本当にマンションのベランダですか…。


(左)ところどころに置いてあるアート作品にぎょっとしながら進む。(右)「にじり口」とよばれる狭い入り口から茶室に入ります。

にじり口をくぐると、そこは、黒い茶室。おいしい和菓子に、奇抜な器で薄茶を頂きます。結構なお点前です。

<茶道教室用の広めの茶室に移動して、お話を聞きました>

竹本:美味しいお茶をありがとうございました。さっそく、松村さんのご経歴から伺いたいと思います。お茶は社会人になって始められたとお聞きしました。

松村:きっかけは海外でブラブラしていたときなんです。大学では哲学を学んでいました。哲学の本場ヨーロッパに行ってみようと思って、フランスを中心に留学…というか、いろいろな国を回っていたんです。
フランスの学生と仲良くなると、「日本から来たの?禅っていいよね。小津安二郎のあの映画見た?」と、彼らの方が日本の文化に詳しかったりするんですね。私は、フランスの単館映画館ではじめて小津安二郎を見ましたよ(笑)。
自分にとって当たり前の日本文化に、彼らはすごく興味がある。がんばってフランス哲学を学ぶより、日本の文化に詳しい方が、話も弾むし、モテそうだぞ、と(笑)。そんなよこしまな思いから、お茶、習字、お花の3つを同時に始めました。
日本に帰って就職した後でしたから、25歳ぐらいでしたね。
始めてみると、実は、お茶が一番「良く分からなかった」んです。習字もお花も、型を学べば理解できるし、うまくなる。でも、茶道だけは、お点前(お茶をたてる動作)を学ぶことの意味が全く分からなかった。お点前を覚えることが茶道のゴールではないと気付いてから、その深みにハマりましたね。

竹本:私は茶道について無知なのですが、何が茶道のゴールなんですか?

松村:茶道というのは、簡単にいえば、亭主がお客さんを呼んで一服する時間の作り方なんです。
お客さんに楽しんでもらうために、部屋を掃除して、季節を感じるお花を用意して、食事の献立を考えて、料理に合うお皿を用意して、掛け軸や釜を選んで…。山ほど選択肢がありますが、すべてはお客さんに喜んでもらうため。それらを自分でチョイスできるようになるのが、茶道のゴールなんです。
私は、高校生の時に、自分の部屋をかっこよくするのが好きだったんです。レコードのポスターを貼って、ブラックライトつけて、友達を呼んで、お気に入りのミュージックビデオを見せて、「どう?」みたいな(笑)。私にとってはそれと基本的に同じなんですよね。
茶道では、先生のお点前を真似するのではなく、自分らしさをいかに表現するかが大事です。掘れば掘るほど選択肢が多くて深い。これを、400年前の人たちも楽しんでいるのかと思うと、面白い!と思って、会社をやめて茶道教室を開くことにしました。

竹本:でも、会社をやめてゼロから立ち上げるのは、不安も大きかったのではないでしょうか。

松村:実は、実家が横浜で不動産業を営んでいて、このマンションもうちのビルなんです。ですので、「SHUHALLY」は家業の新規事業として始めました。教室ビジネスですね。
茶道が好きだというだけでなく、ビジネスとしても成功の可能性が大いにあると感じていました。ビジネススクールに通っていた10年ほど前に、既存の茶道教室ビジネスを分析したんですね。当時の茶道教室は、紹介制が基本でした。それゆえに、料金も不明瞭なことも多く、若い人が飛び込むには少し怖い世界でした。一方で、私のように日本の文化を学びたい人は増えています。きちんと設計すれば少しは勝算があるのではと思って、このビジネスを始めました。
もちろん、家族からは「何言ってんだ、こいつ?」っていう目で見られていましたけどね(笑)。

竹本:たしかに、私も興味はありますが、茶道教室はハードルが高いイメージがありますね。
そもそも、日本人と茶道の歴史について、簡単に教えてもらっても良いですか?

利休、信長、秀吉…。戦国時代のバチバチ感が好き。

松村:お茶そのものは、1200年頃に中国から日本に来たようです。そこから数百年かけて、武家だけでなく庶民にも広がり、安いものから高いものまで、皆がお茶を楽しむ文化ができました。
その後、室町幕府の将軍達が好んで茶会を開くようになりますが、中でも一番の転換期は、千利休が登場した時代です。実は明日(取材は2月27日に行われたので、翌日の28日)、利休さんの命日なんですよ。なので、今日の掛け軸も利休さんのお孫さんが「おじいちゃんはこんな感じだったよー」と描いたものにしています。


利休の孫が描いたという、掛け軸

彼は大阪府の堺という街の出身。堺には禅宗のお坊さんがたくさんいて、禅宗とお茶は強い結びつきがあるんです。禅宗では、修行の間にお茶タイムがありました。普段は強い上下関係なのですが、お茶タイムの時だけは先輩後輩分け隔てなく自由にディスカッションができる、そんなシステムだったんです。また、堺市は商人の街ですが、お茶は商談を成功させる最高のコミュニケーションツールでもありました。

竹本:面白いですね。会社におけるコーヒーブレイクにも通じますね。

松村:当時の茶会は、中国からの舶来品を自慢げに使うのが主流でした。ところが利休さんは、国産の茶碗を使い、小さい茶室を作り、茶道の価値観をがらりと変えてしまったんです。いま、普通の日本人が「茶道」を聞いてイメージするものは、この時に利休さんが作ったものです。

竹本:茶道界のイノベーターだったんですね。

松村:まさにそうです。また、利休さんにはたくさんの戦国大名の弟子がいました。弟子達も一国一城の主たちですから、利休のやり方を真似しながらも、自分が良いと思う器や茶室などを作り、自分のカラーを出していたんですね。普段は殺し合いをしてる戦国武将達が、茶の湯でもバチバチ自己主張しあっている、その時代が私は一番好きで、SHUHALLYのブランドを作る上でも影響を受けています。
そうして発展してきた茶道文化も、その後徐々に縮小し、明治時代、本格的に存続の危機が訪れます。そこで、茶道文化の生き残りをかけて、女性教育の必須事項としてマーケティングしたんですね。
それが奏功し、茶道教室も各地に広がります。私たちの母親世代で、若い時にお茶していた人は結構いるんじゃないかな。その世代がだんだん高齢化して今に至る、という感じです。

茶道教室はサービス業。業界の常識を変えた、初心者に優しいプログラムとは?

竹本:長い茶道の歴史を、コンパクトにまとめて頂いてありがとうございます。
松村さんが「SHUHALLY」を始めたのはいつ頃ですか。

松村:2009年です。最初の生徒は3人。飲み友達をむりやり誘う形ではじめました(笑)。その後、生徒数は順調に増えて、3年目には講師スタッフを1名採用しました。今は私を含めて3名体制でやっています。
メインは30代の働く女性ですが、最近私がメディアに出る機会が増えた関係で、男性も多いんです。若い方から、定年を迎えた60代まで、生徒さんの3〜4割が男性ですね。これは、茶道教室としては驚異的な数字です。
うちの教室の特徴は、入門してからしばらくは生徒1人のプライベートレッスンを行うことです。普通は、お弟子さんの中でもリーダー格の先輩が、入門したばかりの人の横について、基本的な所作を教えてもらう場合が多いんですよ。

竹本:うわぁ、それは聞いただけで、ちょっとどきどきしますね。

松村:普通の茶道教室は、お客さんではなく「師匠と弟子」という関係性で考えられています。ですから、兄弟子が弟弟子を教える感じです。一方で「SHUHALLY」はお客さんのことを「弟子」だと見ていません。あくまで、教室はサービス業の一つ。30代の働く女性が、洋服やネイル、料理ではなく、なぜ茶道教室にお金を払うのか、という視点で考えています。仕事で疲れていても、SHUHALLYに来ることで季節の花や、おいしい和菓子、い草やお香の香りに癒されてリフレッシュしてもらうこと、それを大事にしています。だから、最初は気軽に入れるようにプライベートレッスンにしているんです。
また、均一な月謝、前日まで振替可能、などの機能もありますが、英会話やテニスのスクール事業としては当たり前だけど、茶道教室ではやっている所は少ないかもしれませんね。
あわせて、生徒さんが亭主として実施するお茶会を年に2回開催しているのも、SHUHALLYの特徴かもしれません。家族や友人をもてなす茶会のプロデュースをしてもらうのですが、自分なりにお茶会を開く楽しさを感じてもらいたいと思っています。
決して、私のコピーを作りたいわけではないのです。バチバチしていた戦国時代の武将達のような、多様な表現が乱立する時代にならないと、茶道は発展しないと思うんです。

竹本:なるほど。価値観をぶつけ合い、切磋琢磨することではじめて茶道文化自体が発展していくということなんですね。
先ほどお茶を頂いた黒い茶室も、とげとげのついた茶碗も、どれもすごくインパクトがありました。教室を作る上でこだわったポイントはなんですか。

松村:奇抜に見えるかもしれませんが、実は、茶室の寸法は利休さんの茶室と全く一緒です。現代アートとのコラボも、300年前の武将達もやっていたことなんですよね。利休の弟子の武将達もサプライズ演出を楽しんでいたそうですが、私も同じようなことを現代の道具でやっているにすぎません。

竹本:つまり、根本的なところは変えてないんですね。

松村:そうなんですよ。自分はすごく保守的だと思っていて。お茶のもっている刺激的でクリエイティブなところが、一番面白いところじゃん!と思ってやっています。素材が現代のものに変わっているけど、やっていることは「これが本来のお茶でしょう!」という意識です。
ただし、ぱっと見て「すごい!」と思ってもらえる、キャッチーな部分をつくることは意識しています。まずは興味をもってもらえないと、始まらないですから。自分と同年代の、お茶に興味がない方々に見せても食いついてもらえるものを意識しています。

お茶会とキャンプファイヤーは似てる? 海外でお茶会が人気な理由

竹本:茶道教室以外にも、首相官邸でお茶会をなさったり、海外にも積極的に出られていますね。普段、茶道と接点がない相手にお茶会をする時に、工夫されていることはありますか。

松村:心がけているのは、「作法が無くて心配だ」という不安を取り除くことです。そのためには、まず私が常識を破ることです。派手な着物を着てみるとか、おもわずインスタにあげたくなるような、変わった色合いのお茶碗を使うとか。海の家で、水着でお茶を点てたこともありますが、楽しかったなぁ。お客さんの緊張をほぐして、お茶って面白いと思ってもらえるフックを用意することですね。

竹本:日本と海外では、お茶会をするときにどんな違いがありますか。

松村:海外でも、リアクションが国によって違います。スペインはノリがよかったし、ポーランドは最初はリアクションが薄かったけど、終了後のスタンディングオベーションは一番長かったですね。アメリカは「抹茶」がブランドになっていて、反応は良かったですね。イギリスでは、「お茶会はパブに似ている」って言われたんです。その理由は、どちらも立場関係なくフラットにディスカッションできる環境を作れるからだそうです。

竹本:各国によっても反応が違うんですね!その独自の文化と相まって、反応がそれぞれで面白いです。でも、海外だと茶室もないし、環境を整えるのが難しそうな気がします。何があれば“お茶会”は成立するとお考えですか。


にじり口から茶室のなかを覗く

松村:最低限必要なのは、「結界」です。お茶会は、日常から非日常の空間になるのが大事なんです。庭をわざと歩かせたり、にじり口をくぐらせたり、茶道には、そのための仕掛けがたくさんあります。結界を超える行為がないと、ただの抹茶カフェと変わりません。
ですので、十分な準備ができない海外のお茶会でも、布をはってのれんのようにくぐったり、照明やお香で工夫したりしています。手段はいろいろですが、日常・非日常のラインを超えてもらう環境さえつくれたら、お茶会が成立するのかなと思っています。なので、提供するものは例えば和菓子ではなくその国のお菓子だったり、抹茶ではなくて違うものだったりでも良いのかなとさえ思います。

竹本:日本のみならず、海外の人も魅了してしまう。そんなお茶会の魅力って、結局、何でしょうか。

松村:うーん。まずは、みんなお茶が好きなんでしょうね。もともと、食事をして酒を飲み、最後に締めの「お茶」を飲む習慣があったわけですが、当時の人たちが、「あの、締めのお茶の時間がよかったよねー」と思って、「締めのお茶」のパートに集中して作り出したのがお茶会です。いうなれば、キャンプファイヤーを囲んで、ぽろっと本音を言っちゃう感じ。普段なら恥ずかしくて言えないことも言えてしまう空間を作るのが、お茶会の魅力なんじゃないかなぁ。

竹本:たしかに、あの黒い茶室は暗い中で炭に火がついていて、独特の空気感を感じました。どの国の人たちも、非日常感の中で本音トークできるのが、お茶会の魅力かもしれませんね。
では最後に、今後のSHUHALLYの展望について教えて下さい。

松村:これまでの茶道教室は、お手本をコピーするようなものが多く、情報も一方通行だったように思います。いまは、個の情報発信が強い時代です。先ほども申しましたが、お茶の世界は、正解をみんなで真似するのではなく、私はこういうお茶が素敵だと思う、という「自分流」が増えていくべきだと思います。もちろん基本が大事ですし、流派の茶を学んだ上で、ではあるのですが…。
私は自分でお茶会を開くのも好きですが、誰かのお茶会に出て、「すげー!やられた!悔しい!」という感情が欲しい(笑)。自分ももっとやるぞ、と思えるような、そんなプレイヤーが増えて欲しいんです。いつか若い人に、「松村のお茶は、超ダセえ」ってコテンパンに言われるのを夢見てますね(笑)

竹本:今後のご活躍も期待しています。今日はありがとうございました。

■ご参考■
SHUHALLY https://shuhally.jp/

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「SHUHALLY」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【形】奇抜なアウトプットに潜む、多様な価値観の受容性。
(お茶をいただく機会なんてほとんどないから、失礼があったらどうしよう)
(「お点前頂戴いたします」って言うんだっけな…)
お伺いする前ドキドキしていた茶道超初心者の私ですが、
今回のSHUHALLY訪問で、茶道へのイメージは180度変わりました。
「茶道教室はサービス業」と語る松村さん。そこで学んで欲しいのは、お客さまに喜んでもらうための“あなた流”のおもてなし。松村さんは自身の価値観を紹介しながらも、生徒さんはその“あなた流”を見つけにSHUHALLYに来ているというのです。しかも松村さんは、それは多様であるべきだといいます。
言いかえれば、SHUHALLYは、多様な個々の価値観を磨く場であり、自らの好敵手(ライバル)を生み出す場でもある―。
ブランドを設計する際、自社のファンをどう作るか、コミュニティをどう設計するかといった視点はよく語られますが、「自社と異なる価値観を許容する」という姿勢にハッとさせられました。
自身の好みや価値観をまず伝えた上で、それ以降のカタチをお客さんの価値観に委ねてみる。しかも松村さんは、それがきれいごとでも独りよがりでもない、絶妙なバランスなのです。ここに、情報があふれ、自らも発信できる時代の新たなブランディングのヒントを見た気がしました。
ちなみに、おもてなしを受ける側の「客」のあり方として「客っぷり」という言葉もあるようです。なんて奥深い茶道の世界。私も、少し足を踏み入れたくなりました。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

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