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コンテンツファン消費行動調査2017分析 リレーコラム#6(美術展編)~美術展は「自分らしさ」を表現・演出する空間に~

2018.03.29

最近、美術館を訪れたのはいつですか?

こう質問されて、「最近行ったのはいつだったかな…」、「ライブや映画館は気軽だけど、美術館ってなんだか足が向かなくて…」と思う方が多いかもしれません。
コンテンツファン消費行動調査では、ユーザの行動を「興味層」「利用層」「ファン層」「支出層」の4つに分類し、コンテンツ消費を定義しています。「美術展・イベント・博覧会」のジャンルでは、興味層のボリュームに対し、利用層のボリュームが68.1%であり(図1)、この数字は音楽(84.4%)、映画(87.7%)など他ジャンルと比べると低い数字となります。
面白そうな美術展・博覧会に興味はあるが、気軽に展示を観に行くというユーザは音楽・映画に比べるとまだ少ない現状を表していると考えられます。

図1:「美術展・イベント・博覧会」のファン構造

展示に行く人ってどんなひと?

では、実際に展示に訪れている「利用層」はどんなひとなのでしょうか?性年代構成をみると、5年前の2013年と比較しても、全体の傾向として大きな変化は見られません。年齢層が高く、特に女性比率が高い傾向となります。(図2)

図2:美術展・博覧会利用層の性年代構成

では、別の切り口として、先日の調査レポートで発表した「コンテンツクラスター」別にみてみましょう。※1

「コンテンツクラスター」別に1年間に訪れる展示数をみると、ユーザ構成比率としては高い「定番うけとめ族」、「トレンドおさえマス」、「仲間とおしゃべりサークル」は全体の訪問展示数(1.9)を下回りますが、「タグ付け消費ピープル」、「情報コスパフォーカス層」、「さきどりコンテンツ・ピッカー」は2.0以上となっており、積極的に展示に訪れていることがわかりました。(図3)
また、「情報コスパフォーカス層」、「さきどりコンテンツ・ピッカー」のクラスターの性年代構成比をみると、ともに約7割が男性で10〜20代が中心となっている点でも、今までの美術展・博覧会に訪れていたユーザ像とは異なる新しい層が一定数存在することがわかります。

図3:コンテンツクラスター別1年間に訪れる展示数

また、「コンテンツクラスター」別に訪問した展示ジャンルをみると、どの「コンテンツクラスター」も「美術展」ジャンルへの訪問率が高いですが、支出もコミュニケーションも活発な「タグ付け消費ピープル」、「情報コスパフォーカス層」、「さきどりコンテンツ・ピッカー」は「美術展」ジャンルだけでなく、どの展示ジャンルも訪問率が高く、さまざまなジャンルの展示に訪れていることがわかります。(図4)

図4:コンテンツクラスター別訪問展示ジャンル

この3つのクラスターはTwitter、Instagram、LINEなどSNS等Webサービスを使いこなし、情報のインプット、アウトプットを積極的におこない、「自分が体験したこと」も発信するクラスターです。ジャンル横断で積極的に展示に訪れる行為自体も「自分らしさ」を表現、演出するための材料のひとつとして捉えているのではないか、とも考えられます。

展示は自分らしさの演出空間?「tailorable space(自分を飾り立てる空間)」への変容

この3つのクラスターの行動をより顕著に表したニュースがあります。

Instagramが、2017年に世界で最もシェアされた美術館ランキング「Most-Instagrammed museums of 2017」を発表しました。※2
1位ルーヴル美術館、2位メトロポリタン美術館、3位ニューヨーク近代美術館と、世界でも名高い美術館が続くのですが、10位に聞き慣れない名前がランクインしています。(図5)10位の「MUSEUM OF ICE CREAM」は、言葉で伝えるよりも「MUSEUM OF ICE CREAM」のInstagram公式アカウントを見ていただくのが早いのですが、フォトジェニックさを全面に押し出した、ピンク×ピンクの空間がこれでもか!といった具合に続く、アイスクリームをテーマにした展示となっています。※3

このInstagramの公式アカウントや「MUSEUM OF ICE CREAM」に訪れた人のInstagramの投稿を見ていると、

アングルにこだわった写真を撮り、
撮影した写真にフィルター加工を加え、
タグ付けして、発信する。

といった行動が多く見受けられます。

作品の世界観や歴史的背景、その時代の思想など、予備知識を必要とする展示が主流だった中で、この「MUSEUM OF ICE CREAM」では「非日常感」という非常にシンプルな空間を提供しています。先程挙げた3つのクラスターにとってこのような展示空間は、「非日常感」を材料に、ちょっとした演出を加えることで「自分らしさ」を表現・演出する、そんな「自分を飾り立てる空間=tailorable space」として機能しているように感じます。※4

日本でも、感性のままに直感的に展示を楽しむ事ができる、メディア・アート、インタラクティブ・アート、アート・イベントといった体験型を押し出した展示も徐々に増えてきています。今後「tailorable space(自分を飾り立てる空間)」としての展示が増えていくのかもしれません。

図5:2017年に世界でもっともInstagramシェアされた美術館

※1【調査レポート】コンテンツファン消費行動調査2017
http://www.hakuhodody-media.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/contents_report_1017_revised2nd.pdf
※2「Most-Instagrammed museums of 2017」(美術手帖)
https://bijutsutecho.com/news/9609/
※3「MUSEUM OF ICE CREAM」のInstagram公式アカウント
https://www.instagram.com/museumoficecream/
※4
「自分を飾り立てる空間」として、tailorable(仕立て可能な)+ space(空間)を組合せた造語

北原由佳
コンテンツビジネスラボ(博報堂 研究開発局、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

2016年博報堂中途入社。博報堂入社後は、研究開発局が立ち上げたSpontena,LCC.にてチャットボット開発、サービス提供に従事。その他、コンテンツファン動向、プレイガイドのデータ分析など、エンタテインメント領域を中心に研究。コンテンツビジネスラボでは美術を担当。
※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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