申込方法は往復はがき!?熱心なファンを集める山田屋のいちご園にて。右から、山田屋の山田修平さん、山田優子さん、博報堂ブランド・イノベーションデザインの松田有加。

「ブランドたまご(ブラたま)」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインの若手メンバーが中心となって話をうかがう連載対談企画です。
ところでみなさん、「好きな果物ランキング」で常に1位になるもの、ご存知ですか?
そう、不動のトップは「いちご」です。
今回は、そんないちごの魔法に魅了され、淡路島でいちごの観光農園を展開する、山田屋の山田修平さん、優子さん夫婦が登場します。「農業を通じた地域貢献を、身の丈で」がモットーだというお二人。1日4組限定、2時間貸し切り、申込方法は「往復はがき」など、いちご狩りの常識からは考えられないアイデアの数々は、どうやって生まれたのか? なんでもネットで買える時代の、少し不便だけどとっても愛されるブランドの秘密に迫ります。聞き手は今回初登場、大阪出身のデジタル系プランナー、松田有加です。

見知らぬ土地への移住。決め手は、一目ぼれした景色

山田屋のいちご園は、2015年にオープンした兵庫県淡路島にあるいちごの観光農園です。神戸から車で明石大橋を渡ると、景色が一変。高層ビルが消えて、左手は海、右手は山が広がります。三宮からわずか40分程度、急な坂道を登ると山田屋のいちご園に到着します。

坂道を登ると、突如登場するガラスハウス。

出迎えてくれたのは、大学時代に農学部で同級生だった、山田修平さん、優子さん夫婦。

松田:山田さん、今日はよろしくお願いします。とってもいい景色ですね。

山田修平さん(以下、修平):僕もはじめてこの場所に来た時、ガラスハウスは放置されてツタだらけだったんですけど、このすばらしい景色を見て、ここでやるんだって一瞬で決めたんですよね。さ、中へどうぞ。
早速ですが、いちごを食べてみますか?カーテンの奥です。お客さんが来るときは少しご挨拶してから開けるんですが、今日は早速開けちゃいましょう。

カーテンが開くと、自然と「おぉーっ!」という声が出てしまう。

松田:これは、テンションが上がりますね。

(左)修平さんは食べごろの熟したいちごをとって、手のひらに乗せてくれました。(右)早速いただきます。

松田:おいしい! 品種によって味がちがうのもおもしろいですね。もっと食べていたいところですが、お話をお聞きしたいと思います。
まずは、この淡路島にいちご園を作った経緯を教えて頂けますか。お二人は県外から移住されたとお聞きしましたが…。

修平:そうなんです。淡路島に来る前は、滋賀のブルーベリー農園に勤めていました。妻の実家が香川にあったので、途中にある淡路島にはその頃からよく通っていましたが、2012年4月にいちご農家として独立しようと、土地を探していた時にこの場所に出会い、一目惚れで決めました。

優子:まずは、自分たちの育てたいちごのジャムや、淡路島の農家が育てた果物や野菜のジャムを作り、イベント等を通じて自分達で売る仕事から始めました。今では、ジャムの種類も30種類ぐらいに増えていて、売る場所も広がっています。

修平: 3年後の2015年には、観光農園としていちご園をオープンしました。3月と4月のいちごの収穫量と味が比較的安定する時期だけいちご狩りを楽しんで頂き、あとの季節のいちごはパックで販売したり、おいしくジャムにしています。

松田:見知らぬ土地に移住ということですが、地元のコミュニティに入るのは難しそうな印象があるんですが、いかがでしたか?

修平:やはり、最初の2〜3年は「定着するのかな」って、みなさん様子をみていたと思います。荒れ果てたガラスハウスを掃除するところから始めて、ジャムを売り、観光農園としてお客さんが来るようになって、「定着するかもね」と思われてきました。今日もこのあと地域の総会があってみんなで飲みにいくのですが、そういうところにいれてもらえるようになりました。
ただ、淡路島の中でも、ここ東浦は神戸に近くて、通勤している人も多くいます。外から来る人に対しても寛容で、とても助かりました。

松田:それにしても、知らない所からコミュニティに入るのって、勇気がいりますよね。

修平:心配よりも、お気に入りの場所で好きな仕事をするんだ!というエネルギーに満ちあふれていました。未来しか見えてなかった。今はそのときほどのエネルギーはありませんが(笑)、そのかわりこの地に根がはってきたな、と感じています。

幸せないちごのある時間を共有したい。だから、2時間必要なんです

松田:山田屋さんのいちご園はどういうお客さんが多いですか。

修平:やはり、神戸や大阪の人が中心ですね。「山田屋のジャム」は神戸や大阪でも販売しているのですが、そこでいちご園を知って来てくれる方が多いです。

松田:普通のいちご狩りは30分ぐらいの時間制限がある場合が多いですが、山田屋のいちご園は2時間ですよね。しかも、その2時間は1組限定! どういう使われ方が多いんですか?

修平:2時間もいちごを食べ続けられませんからね(笑)。みなさんいろんな使い方をしていますね。スポンジと生クリームを持参して、おばあちゃんの誕生日ケーキを作ったり。毎年来る、お父さんだけ小上がりで昼寝している家族とかもいますね(笑)。

いちご園のすみにある小上がり。お父さんでなくても、寝たくなります。

優子:シャンパンを2本あけた家族もいたよね。びっくりした。楽器を持ってきて演奏した人もいましたね。

松田:いちごと全然関係ない使い方もあるんですね! みなさん発想がクリエイティブで、おもしろいですね。山田園として、ヨガのイベントなどもなさっているとか。

修平:2014年にプレオープンのイベントをやりました。その流れを引き継いで、2015年のオープン以降も毎年3月は週末を中心にイベントを開催しています。ヨガは暗いうちから集まってもらって、朝日の中でヨガをやって、いちごを食べて9時には終わる。一日が気持ちよく始められますよ。スクリーンを持ち込んで映画館にしたこともあります。

松田:普通のいちご狩りは、時間を気にしながらせわしなく食べるような印象がありますが、全然違いますね。

修平: どんないちご園にしたいかを考えた時、まず自分たちが楽しめるような、楽しい空間が作りたかったんです。淡路島に来ていちご農家になってみて、寒い時期でもぽかぽかのハウスの中で海を見ながらおいしいいちごに囲まれた暮らしは幸せです。この幸せな時間を少しでもお客さんと共有したいと思いました。ここにはいちごを食べるだけじゃもったいない景色と空間があるので、それをゆっくり楽しんでもらうには2時間くらい必要じゃないかと。これはいちご園でのイベントを通して得た感覚です。で、2時間あればいちごの種類の違いとか、スーパーのいちごとの違いとかも伝えられるんじゃないかな。くれぐれも説教っぽくない範囲でですけど。こんな仕組みなので一日最大4組が限度で、農園の規模も小さいので来てもらえるお客さんの数には限りがありますが、お客さんの数を増やすより、来てくれたお客さんの満足度を上げたいです。

松田:お客さんにとってはすごく贅沢な体験ですよね。でも、人数が少ないとお仕事としてまわらないのかな、と心配になってしまうのですが。

修平:山田屋の場合は、お客さんに摘んでいただくのは年間の収穫量の2〜3割にとどめています。で、残りは生果での販売やジャムに加工しています。それぞれの形で楽しみにしてくれているお客さんがいるので、そんな方法でビジネスが成立しています。

早い者勝ちではなく、熱いもの勝ち! お金や時間よりも大事にしているものは熱量

松田:なるほど、そういうことだったんですね。ところで、いちご狩りの申込方法が往復はがきだとお聞きしました。私はデジタル系の仕事をしているのですが、この時代になぜ往復はがきを使うのか、気になっていて。

修平:そうですよね(笑)。実は、1年目はインターネットや電話でも申し込むことが出来ました。そうしたら、受付開始日にほとんどの枠が埋まってしまったんです。その日は朝から電話やメールの対応で大変でした。予想以上の反響で、嬉しかった反面、なにか物足りなくて…。

優子:後日、ジャムのお店に「孫と一緒にいちご摘みに行きたいんですけど」っていうおばあちゃんがいらっしゃったんですね。「インターネットで申し込みが埋まっちゃったんですよ」というのが、本当に心苦しくて。

修平:インターネットは便利ですけど、ネットでは伝わらないようなお客様の熱い思いもくみ取りたいと思って、翌年から申込方法を変えました。一次募集は往復はがきのみ。希望の日時を書いてもらって、まずは機械的に振り分けていきます。希望者が1組しかいなかった枠はその時点で予約確定。で、希望が重なった枠については「いちご園に対する思いの熱さ」で決めます。早い者勝ちではなくて、熱いもの勝ち(笑)。様式がばらばらだと管理がしにくいので往復はがきで統一しました。
今、ちょうど申し込みの期間なんですが、毎日郵便ポストをみるのが楽しいですよ。みなさん、熱心に書いてくれるんです。中には、かわいい子どもの字で「だいすき」なんて書いてあって。「ズキューン」ってやられました。

山田さんがぐっときたという子どもの字で書かれた往復はがき。

優子:それはたぶん、「いちごが大好き」っていう意味だよって、言っているんですけどね(笑)。

松田:子どもの力を使うのはずるいですね(笑)。

修平:もちろん、この時代に往復はがきですから、「それなに?」「どこで買えるの?」といった反応や、往信面と返信面を反対に書くなど間違いもたまにあります。一方で、想いがはがきに収まりきれずに便せん3枚に綴って送って下さる方がいたり、中にははがきにQRコードがあったり。読み取ったら、小さいこどもがいちごをほおばっている動画が流れてきて、「これはずるい!」なんていいながらも、にやけてしまいます(笑)。

松田:たしかにずるいですね(笑)。

修平:子どもに弱いんですよね(笑)。ある2歳のお子さんがいるご家族から来たはがきには「うちの子はいちごとバナナしか食べられません」とあったので、スーパーでバナナを買ってきて吊るしておいたんですね。そうしたら、子どもは気付かなかったんですが、お父さんとお母さんはすごく喜んでいました。
いちごを食べさせるというよりは、来て欲しいお客さんを我が家に招待するような気分です。お客さんと2時間で心が通う関係を築くことが、自分達のモチベーションにつながるんです。

松田:お客さんの立場で考えても、往復はがきを書いている時から楽しそうですね。今年は誰といこうかな、から始まって、当日の準備も楽しそうです。

修平:返信はがきは入園券の形にして郵送します。デザイナーと相談して、当日まで飾っておきたくなるようなデザインにしました。さらに、いちご園で楽しんだ後は思い出として残るような仕掛けもありますが、それは来た人だけのお楽しみということで。


当日が待ち遠しくなる入園券。

松田:山田屋のいちご園は、いちごをたくさん食べるだけの場所ではなくて、幸せな2時間を過ごす場所ということですね。

修平:そうなんです。だから、料金も、子どもと大人を分けず3人ごとのグループ制にしています。いちごを食べる量にかかわらず、0歳からおじいちゃん・おばあちゃんまで、大切な家族や仲間といちご園で過ごすための料金と考えてもらっています。

松田:デジタル系の仕事をしているからこそ感じるんですが、インターネットは時間も空間も拡張してくれますが、時として身の丈を超えてしまいますよね。行きたい人が、行ける場所に行く、というのが昔だと当たり前でした。今は、お金を出せばなんでも買えるんだ、と思っている人が増えている気がします。

修平:手間をかけてでもお客さんとなるべく顔の見える関係を築くことができればと思います。山田屋がセレクトしたジャムを定期的に送る「頒布会」というサービスがあるのですが、これも商品をおくるというよりは、贈物を届けるような気持ちです。「何が来るか分からないけど、山田屋さんに託すよ」、そういう関係が築けると嬉しいですね。

いちごって、ずるい!だから、いけると確信できた

松田:往復はがきを使う理由は良く分かったのですが、一つだけわからないことがあります。お客さんの立場に立つと、往復はがきを書くのって面倒だと思うんですよね。でも、なぜみんなそんなに熱心に書くんでしょうか。

修平:そうですよね。それはね、やっぱり、いちごの持っている「ずるさ」だと思います。

松田:ずるさ、ですか。

修平:はい。いちごって、すごくずるいと思うんですよ(笑)。赤いし、甘いし、みんな大好きですから。

松田:たしかに、そうですね。これがちがう果物や野菜だったら、こうはならなかったかもしれませんね。

修平:昔、ブルーベリー農園にいたときに、近くにあるいちご農園を見ながら、「ずるいなー」って思っていたんですよね。
観光農園とジャム屋さんでの独立を考えていた時、栽培の経験もないのに「あ、いちごやろう!」って降りてきた瞬間がありました。それから土地を探していたら今のハウスを紹介してもらって、「淡路島のこの場所でいちご農園、これだけで十分いけるやろ」っていう確信が一瞬でわきました。

優子:孫を招待して自分の誕生日会をやりたいっていうおじいちゃんもいましたね。普通、そんなことできないじゃないですか。でも、それができてしまうのがいちごの魔法かな、と思います。

松田:いちごの魅力がすごく伝わってきました(笑)。では最後に、今後の山田さんの展望についておしえてください。

修平:私たちの密かなモットーは、「農業を通した地域貢献を、くれぐれも身の丈で」、です。いちご園の規模を広げるつもりはなく、今後も2人が中心となって地域の人を巻き込み、巻き込まれながら、活動の幅を広げていきたいです。その表現方法の一つがジャムであり、観光農園です。今後は、カフェや農業体験などもやりたいですが、「地域貢献」を声高に言うのはうさんくさいので、自分から発信はしません。淡路島の楽しさを伝える事で、結果的に地域の貢献になったらいいなと思います。

優子:山田屋のジャムは、自分たちのいちごだけでなく、淡路島の農家さんの野菜や果物を使ったジャムも売っています。わたしたちのジャムがきっかけで、お客さんから直接農家さんに問い合わせがいくような、そんな機会になればと思っています。


ジャムのPOPには、原料となる野菜や果物を作った農家さんの名前が入っている。

修平:今、このいちご園の上に、熊本から移住してきたイタリアンのシェフが、ワイン用のぶどうを植えようとしているんです。40年以上放置されてきた土地に、ワイナリーを作るという計画に、僕も片足を突っ込んでいます。そうやって色々とできてくると、この地域の景色も変わってくると思います。地域の人が関われる仕事も生まれるはずです。やりたいことはたくさんあるので、今後もいろいろ動き続けたいですね。

松田:とっても楽しみですね。今日はありがとうございました。

■ご参考■
淡路島 山田屋 http://awaji-yamadaya.com/

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「山田屋のいちご園」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【形】いちごに囲まれた生活は幸せ。一番いいところを、必要なぶんだけ楽しんでもらう。
往復はがきで熱い思いを伝えてから行く楽園、それが「山田屋のいちご園」です。
山田園のことを知った時、広くあまねく人にリーチすることのできるインターネットでの流通がある中、なぜ往復はがきというアナログで、一見効率が悪いと思える方法を使って、募集をかけているのか疑問でした。それは、オープン当時、インターネットなどでの応募を受け付け、すぐに枠が埋まった。嬉しい反面、使い方のわからないおばあちゃんが孫といちごを摘みたかったのに申し込めなかったという話を聞いて、「平等じゃない!」と感じたという経緯から。そこで、山田屋のいちご園を楽しんで欲しい人に、どうやって体験を届けるかということに知恵を絞り、2年目から今の方法になったそうです。(着想はラジオなど身の回りのものからだそう!)
非効率なようにも思えますが、一番美味しいいちごを、一番よいカタチで、本当に欲しい人へ提供することにこだわった結果、一番しっくりくる方法だった。そこに、身の丈にあった方法で、地域へ還元するという、山田屋の理念を見た気がしました。
山田さん夫婦が持つ、自分や周りを幸せにするための企画力、やりたいことを実現する実行力、生きていくためのそろばん力、成功するための巻き込み力。これらは、会社の規模に関係なく、新しい事業やブランドを生み出す時に必要になってくる力ではないでしょうか。
いちご大好き園長さんと、自らを「ジャムおばさん」と呼ぶ優子さんの、柔らかく、飾らない雰囲気の中にある、隠し持った芯の強さに、山田屋のブランドの力を感じました。山田屋が私たちに提案しているのは、いちご園というサービスや、いちご、ジャムという商品だけでは無く、大きく変わっていく世の中で、私たちの暮らし方への示唆ではないでしょうか。消費行動が劇的に変化していく今の時代に、規模や届けるものが変わっても、どのブランドや事業にも一貫していえる、これからの愛されるブランドの一つの形を見た気がしました。
いちごってすごいな(笑)。

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