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ブランドたまご第32回 /「美しい」より「おいしい」のために。器の楽しみを広げる、家族ブランド「HOTOKI」

2018.03.07
#イノベーション#ブランディング#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
HOTOKI店舗前で今回取材にご協力いただいた清水家のみなさまと。左から洋二さん(弟)、久さん(父)、大介さん(兄)、友恵さん(大介さんの奥さま)、祥子さん(母)、博報堂ブランド・イノベーションデザインの美田真知子。

「ブランドたまご(ブラたま)」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインの若手メンバーが中心となって話をうかがう連載対談企画です。第32回のブラたまは「器を楽しむ場」の新しいブランド「HOTOKI(ホトキ)」。家族みんなで育てるブランドに、それぞれがこめた思いとは―。聞き手は本人も趣味で器を選び、使うのが大好きな博報堂ブランド・イノベーションデザインの美田真知子です。

器を買う、つかう、つくる。3つの体験が一体となった複合施設「HOTOKI」

京都市北部、岩倉の住宅街を歩くと、突如現れるお店。一見開放的なカフェのように見える店舗が今回の取材先ブランド「HOTOKI」です。 HOTOKIは、「うつわをもっと楽しむ場」をコンセプトに、器を買う、つかう、つくるという3つの体験が一体となった複合施設。HOTOKIには、「清水焼」とよばれる京都の伝統的な焼き物を現代風にアレンジした、日常使いできる器が並びます。また、たった15分から可能な陶芸体験も。
2015年にオープン以来、海外の観光客から地元の方まで、なんと約9割のお客様がわざわざここでの体験を求めて訪れるという人気の施設です。

HOTOKI店舗の外観
2階にあがるとまず器を買うショップがあります。そこで試してみたい器を選び、奥のカフェで実際に使ってみることができます。カフェから見下ろす位置にある工房では、実際に器を作ってみる体験も。

HOTOKIを運営するのは、清水洋二さん。陶芸家である父の清水久さん、そして母の祥子さんの3人で経営をしています。父・久さんは工房で器を作りながら陶芸体験の体験講師を、母・祥子さんは制作をサポートしながらカフェの厨房に立ちます。そして洋二さんは店舗に立ち接客をしながら、HOTOKI全体のプロデュースを行っています。

HOTOKIでは、父・久さんが工房で作られる器と、別の場所で制作活動をする兄夫婦の器、両方が販売されています。兄の清水大介さんと奥さまの友恵さんは、同じく京都の山科にて工房兼ショップを運営していますが、実はHOTOKIの発案者は、彼らだといいます。今回は兄・大介さんとその奥さまの友恵さんにも来てもらい、HOTOKIのブランドづくりについて、家族全員にお伺いしていきます。

器の魅力は、料理を盛ってみないと伝わらない

右手前より、弟・洋二さん、兄・大介さん、大介さんの奥さま・友恵さん。

美田:さっそくHOTOKIの話をお聞きしたいと思いますが、立ち上げはお兄さんの大介さんが中心に進められたとお聞きしています。そもそもどんなきっかけからHOTOKIを作ろうと思ったのですか?

兄・大介:きっかけは、私が山科でやっている器の工房兼ショップ「トキノハ」で以前行った写真展です。その写真展は、元料理人のカメラマンさんがうちの器を11種類選んで、さらに、その器に合う料理を考えて、盛りつけて、写真に撮って、展示するというものだったんですね。トキノハはショップを併設していますので、私は普段からお客様の反応を聞いている方ではあったと思うのですが、この写真展ではお客様の反応が明らかに違った。「器っていうのは、何かを盛って見てもらわないと伝わらないものがあるな」と気づかされました。
ただ、写真で奇抜な盛り方をするとそれはそれで縛られちゃう側面もある。そこで、ライブで使われているシーンを見てもらうことができたらよりいいなと思うようになりました。ちょうどその頃、父と母がちょうどここ(実家)を売りに出して、より商売に適した場所に移って、新たにやりだそうという話をしていたんです。ただ、2人の目指す工房兼住居兼ショップとなると、なかなかいいところがなく、決まらないまま2年近く経過しました。

妻・友恵:その間にトキノハも少しずつ名前が売れるようになり、わざわざ市内からすこし離れた山科の地まで足を運んでくれる人も現れるようになったんです。山科に来てくれるのであれば、もっと遠くにある岩倉にも足を運んでくれる人も多いのではないかと考えるようになりました。

兄・大介:そうなんです。そこでこの実家を改築してやってみないかと父母に提案したんです。
ただ、初めは、なかなか意思疎通が難しいところもありました。やるなら僕の色を出したい、という思いが強くあったので、数ヶ月膠着状態が続きました。

美田:お父様はどんな思いだったのですか。

父・久:その時は本当に家を移る気でいましたから、全面的に改装すると聞いて悩みました。ただ、最終的には家を売らずに済んで安堵したというのもありましたね。

兄・大介:それでとうとう思いを形にする段階になったのですが、最初は買う前に器に料理を盛って体験できる、安直にカフェが併設されているというイメージしかありませんでした。知人の建築家に相談すると、「カフェを楽しみながら工房を見ることが出来る」という今の構造を提案してくれました。目からうろこが落ちましたね。「うつわをもっと楽しむ場」というコンセプトを体現する「HOTOKI」が誕生したんです。

父と兄。それぞれの道の先に共通した「日常使いの器」への想い。

美田:「日常使いの器」には最初から想いがあったのでしょうか。

兄・大介:いえ。僕の師匠は父とは対極にいる方で、その影響から以前は日常使いというよりもバリバリ作家になって、のし上がってやろうと思っていました(笑)。

妻・友恵:そこから外れるきっかけとなったのは、山科の清水焼団地に引っ越さないかとお話を頂いたことですね。ちょうど一件空きが出たので若い人が入らないかと声がかかったんです。そこで工房とショップを併設したトキノハを始めました。自分たちのショップを持ち、お客様の反応を直接聞くようになったのが大きかったです。

兄・大介:器ってどこまでも加算できるものなのですよ。だから足し算を重ねて自分の個性を出すことができる。しかし、作家として個性を出すことが、いいことなのか、お客さんの声を聞く中で疑問をもつようになりました。無個性であることのよさを意識するようになってきたんです。

美田:お客さんの声を聞くというのは大事ですか。

兄・大介:大事ですね。使ってもらって、はじめてその器の善し悪しがわかる。お客さんの声を聞くのは、自分たちの器作りの成長に欠かせないんです。作家のエゴだらけの器では、使ってもらえないですから。

父・久:そうそう。それに、使い手は、僕らには想像つかんことを言われるときがありますからね(笑)。

美田:お父様はもともと日常使いの器をつくっていたのですか。

父・久:そうですね。「まずは使えんとあかん」という想いは昔からありました。おうどん屋さんに卸していた影響が大きかったように思います。京焼は「薄づくり」とよばれる薄手のものが多いですが、おうどん屋さんはとにかく割れにくいものを求めていましたから、厚みを持たせたものを作るようになりました。器は使われてこそのものですから。しまって置いてはダメ。使っていくと味わいがでますし、汚れたら汚れたでその方が愛着も湧いてきます。

兄・大介:もともと生まれ育ってからずっと、父の日常使いへの思いは感じていましたので、作家として進んでもどこかで融合するんだろうな、とは自分の中でも思っていたんです。ただ、最終的に思った以上に父に近い方向に進みましたね。

父と兄の一番のファンとして。魅力を外に発信したい。

美田:洋二さんがHOTOKIでお勤めになったのはいつころからですか。

弟・洋二:僕はHOTOKI誕生のころは普通にサラリーマンをしていました。京都市内のアパレルの企画営業です。当時は何か面白そうなことしているな〜と取り組みを横目で見ている感じでした。本格的に働くようになったのは、HOTOKIができたちょうど一年後ですが、その前から土日だけ手伝ったりするようになりました。そして、父と兄、それぞれ思いがあって、2人がうまくコミュニケーションがとれていないのをもったいなく感じるようになりました。やっぱりここで生まれ育ったので、何か協力できることがあるんだったら、自分ができることをやりたいなという思いになりました。

美田:洋二さんがHOTOKIに入ることについてどのように思われましたか。

父・久:給料が…(笑)。そこまで儲かるかというのが一番心配でした。

兄・大介:最初は今ほどお客さんは来ていなかったので。ただ僕は薄給でぎりぎりになりながら過ごした下積み時代があって今があるので、そういう時代を洋二もぜひ経験したらいいと思いました。

弟・洋二:僕はあまり難しく考えていなくて。「まぁ、大丈夫ちゃうんか?」という感じでした(笑)。

美田:洋二さんはHOTOKIをこんなふうにしたい!という思いがあったのでしょうか。

弟・洋二:私自身が「こうしたい」ということはありませんでしたが、発信がまだまだだったのでそういうところや、商品について助言したりしています。例えば売上がよくないものは作らないようにするとか、トキノハにならってこちらでもシリーズものを作るようにしてみたりですね。僕は営業で商談をまとめるということばっかりしていたので、その辺は得意でした。今って、つくるだけではモノって売れないですし。僕を介すことによって、もっともっと発信ができやすいモノになるのではと。

美田:多くの人に伝えていきたいという想いもあったんですね。

弟・洋二:もともと人と話すのがとても好きなので、もっと器の楽しさを知ってもらうためにお客様ひとりひとりとのコミュニケーションを楽しんでいます。おかげさまでHOTOKIをインスタグラムで発信してくれたり口コミで広げてくれる人も増えています。

洋二さんが撮影する写真には、毎回たくさんの「いいね」がついています。

お客さんのワクワクのために、ここにしかない体験にこだわりぬく。

美田:今回ろくろ体験もとっても楽しかったです。特に15分で体験できるというのは気楽でいいですよね。

兄・大介:15分というのは設立当初からこだわっていたことです。HOTOKIで提供したいのは器を楽しむ生活の入り口。だから、時間をかけて作品を仕上げることよりも気楽に試せる長さにこだわりました。

弟・洋二:せっかく器を作りに来たのに、土を渡され、何時間も土と向き合わないといけないのはしんどいと思うんです。それよりもせっかく職人と一対一で向かい合うことのできる機会なのだから、父がサポートして楽しくできたらいいんじゃないかと思うんです。体験の中でのコミュニケーションを大事にしていますね。もっとも、楽しくできるのはそもそもの父の人柄ですね。

美田:他にもこだわっていらっしゃることはありますか。

弟・洋二:カフェの器や料理は、担当いただいている料理家の方と一から一緒に相談してつくっています。うちは工房があり、その場で一から作ることできるのが強みなので。例えば、ここにしかない感動を提供したいと作ったのがこの玉手箱型の容器です。

美田:あけるときのワクワクったらないですね!

弟・洋二:正直、カフェと工房の併設やろくろ体験って他でもやっていることなんですね。でもHOTOKIは「うつわを楽しむ場」であることを第一に、それぞれの体験をここにしかできないものにするにはどうすればいいか考え続けながらやっています。常に考えて、思いついたらとにかくやってみるという感じです。

器への入り口を更に広げるために。 家族の力を結集し生まれたオリジナルブランド「TUKU」

弟・洋二:HOTOKIができて2年が経って、はじめてオリジナルの商品ブランドができたので是非紹介させてください。
こちらの「TUKU」というブランドです。壁につける一輪挿しの花器で、ドライフラワーと押しピンもセットになった商品です。

新商品「TUKU」。ドライフラワーとピンがセットになっていて、誰でもすぐに使える花器。

美田:わぁ。とっても素敵です。開発の経緯を教えてください。

弟・洋二:父や兄が作っている器ってすごくいいものだからもっと広がってもいいのに、器を買う人ってやっぱり器好きの人なんですね。カフェのお客様のように全然関係なくいらっしゃる方が、器を楽しみ始める一歩目になるようなものがあると良いなとずっと考えていたんです。
ある時店舗の柱に苦戦しながら花器を飾ろうとする母の姿を見て、もっと壁にさっと付けられて、気軽に花も差せて、すごく可愛らしいものがあったらおもしろいのではないかなと閃いたんですよ。
父が丸い形が得意なので、まず壁につけられる半円のものを作ってもらいました。兄とも相談を重ね、縦長のものも作りました。細長いタイプの方にあしらわれた巻物のように重なるデザインは、父らしいデザインです。

美田:「TUKU」という名前を付けられたのはどうしてですか。

弟・洋二:そのまま「壁につく」という意味と、器を焼く際に欠かせない道具に「ツク」というものがあり、ちょうどいいと思い付けました。当初はこれを「壁につける花器」として販売していましたが、器の入り口としてHOTOKIの名前に縛られずに羽ばたいて欲しいと思ったんです。また、人にあげたくなるようなギフトセットにして、ドライフラワーも押しピンもセットで入っていれば使いやすいかなと。名前やパッケージ、パッケージに載せる言葉にもこだわりました。

美田:新しいチャレンジもどんどんされているのですね。最後にHOTOKIを通じて伝えたい一番の思いを教えてください。

弟・洋二:やっぱり「器を使う喜び」ですかね。ただここの器を買っただけでは完結してほしくなくて、それを家に持って帰って、料理を盛りつけてもらって、それで会話が増えたり笑顔がふえたりしたら嬉しいなと思います。

父・久:そうですね。ここでの体験を通じて器に思いが乗れば、日々の幸せが少しでも増えるのではと思います。

兄・大介:「おいしい」って、一番根源的な幸せですよね。だから、「おいしい」って思うことに器で貢献したいです。食事って、一日大体の人が3回する行為。せっかくやったら楽しく過ごすほうが、人生は絶対豊かになると僕は思うんです。

妻・友恵:器は料理を美味しくしてくれる、主婦の味方ですよね。

美田:なるほど。本当にすばらしいお話をありがとうございました。

■ご参考■
HOTOKI https://hotoki.jp/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「HOTOKI」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントをご紹介したいと思います。

【形】うつわのファンを増やすために、常識を大胆に変えてみる
家族がそれぞれの役割を果たし生れたブランドがHOTOKIですが、
ここでは唯一職人ではない、HOTOKIのプロデューサーである弟の洋二さんについて特に注目してみたいと思います。
もっと、多くの人にうつわに触れてもらうにはどうしたらよいか。洋二さんは、器の専門家でないからこその自由な発想で、器に興味がない人と器の接点作りにチャレンジしています。
店先でYOGA教室をしたり、マルシェを開いたり、わずか15分でろくろ体験ができるようにしたり…。一つ一つをみると、他の工房でもできそうなことですが、ここまでうつわ初心者のことを考え尽くしたうつわのお店は、なかなかないのではないでしょうか。
その象徴が、2018年2月21日に発売したばかりの「TUKU」です。一輪挿しに、ピンとドライフラワーまで用意するなど、徹底して器初心者のハードルをさげています。「器=料理を盛るためのもの」という固定概念を越られたのも、「いかにうつわに触れてもらうか」という一点に集中しているからです。
新しいブランドを立ち上げる際には、つい「既存顧客を競合から奪ってきて…」と考えがちです。しかし、「遠巻きにみているだけの新規の人たちにとって入りやすい入り口を作るには」という視点に立つと、業界の常識を軽やかに超えることができます。
HOTOKIはうつわに触れる時間を、知らず知らずのうちに、多く持てる場でした。自分の手でうつわに触れることで、その質感や使い心地の良さを実感でき、器のある生活が豊かなものだとイメージがつきやすくなったと思います。(そしてカフェで使ったうつわがちゃんと欲しくなる!)
自分たちのうつわをどう売るか、ではなく、うつわの魅力をどう感じてもらうかの体験のデザインをしている。HOTOKIが普通のうつわ屋さんに終わらないと感じた理由は、ここなんだと思いました。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

【撮影協力】桑原雷太

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