博報堂は、全国の各地域で、地域が抱えるさまざまな課題解決のサポートをおこなっています。その中心となっているのが、2015年に誕生した「地域創生ビジネス推進室」です。
本連載では、地域創生ビジネス推進室を中心に地域創生に携わるメンバーがリレー形式で登場、それぞれの活動内容や地域の魅力、大切にしている想いなどについて語っていきます。

8回目に登場するのは、静岡博報堂のクリエイティブディレクター保崎哲也。静岡で生まれ育ち、いまも静岡でローカルライフを満喫している保崎に、これまでどのような仕事を手掛けてきたのか、いま描いている地域の未来像などについて聞きました。

「静岡の地元愛を盛り上げたい!」一心で展開したキャンペーン

僕は2007年に中途採用で静岡博報堂に入社しました。以前の職場から、基本はコピーライターとしてスタートしたものの、学生時代に美術の勉強をしていたこともあって、知らぬ間にイラストやデザインも自分でやるように。いまはクリエイティブディレクターという肩書のもと、デザイン、イラスト、コピーワークまでマルチに仕事をしています。
実は静岡県って、日本一とか、日本初のものがすごく多いのですが、そもそも県民さえも知らなかったりするほどに、なぜかそれらを声高に誇ることをしない、良く言えば奥ゆかしい県民資質があります。ちなみに静岡県は東部・中部・西部と大きく3つの地域に分かれていて、東部は比較的東京寄りの目線、中部は保守的、西部は革新的とかなり異なる県民性を持ち合わせています。浜松市を中心とした西部地方はホンダ、ヤマハ、スズキなどのパイオニア企業が多数誕生した地でもあり、とにかくやってやろうという「やらまいか精神」が息づいており、一方、静岡市のある中部地方は、西部の「やらまいか」に対しての「やめまいか」と形容されるほどに保守的で、「まぁまぁ、いいじゃないか、やめておきましょう」といった、何か新しく始めることに対しては基本避けがちな風土があります。徳川家康のお膝元DNAなのかなとも推測したりもしますが、基本、土地が豊かすぎる故に調和が乱れることを自然と避ける気質になったのだと思います。気候が温暖で海山の幸も豊富なため、ハングリー精神も育ちにくい環境かもしれません(笑)。これらは他県と比べた時の静岡県全体の特徴としても言えることで、総じてPR下手なところもあります。そんな中、僕の中で最初に地域おこしを意識して取り組んだのが「ラブいぜ!しずおか」というキャンペーンでした。静岡県をもっと誇ろう!をテーマに、自分たちのことをもっと知って郷土愛を盛り上げたいと、2009年から2010年にかけてSBS静岡放送・静岡新聞社と組んで展開しました。静岡県が誇れる沢山のうんちくネタを伝えるために世界観とキャラクターをつくり、マンガのようなストーリー仕立てで夕方のワイド番組やラジオ番組でコーナーをつくったり、新聞広告やCM、Webなど、多角的にPRしました。もちろんコンテンツとしては楽しんでいただけたし大成功だったとは思っていますが、終わって振り返ったときに、生活者を巻き込む「アクション」が足りなかったなと、それが大きな反省点でした。

持続可能なビジネスモデルとしての「ふじさん部」、 ファンとのつながりから広がっていったサポーター活動

2013年、富士山が世界遺産になったのをきっかけに、SBS静岡放送が独自に「ふじさん部」という事業を立ち上げました。県内の小学生を対象に富士山について学ぶ無料イベントを行っていたのですが、地域独自のとても良い活動だと共感し、翌年2014年に静岡博報堂も地域貢献活動の一環として参画させていただくことになりました。そこで「せっかくやるなら、持続可能な地域活性ビジネスモデルとして、きちんと収益を生み出せる有意義なコンテンツにしましょう」と提案。前述の「ラブいぜ~」の教訓も踏まえつつ、事業全体の計画から活動コンセプトの明確化、地元を巻き込んでいけるイベント設計、シンボルとなる魅力的なキャラクターづくりなど、事業全体をプロデュースする仕事にすべく取り組みました。まずは活動コンセプトを「富士山と三保松原について『学び、守り、活かす』をテーマに子どもたちの郷土愛を育む」「同時に、世界遺産であり続けるための『保全活動』の持続と『観光集客地』としての発展を目指す」と言葉化し、活動体のシンボルに「フジノコ」というキャラクターを開発。富士山のヒミツ(知識・雑学)の数だけ(ふじさんの語呂合わせで223種)サブキャラクターをつくり、子どもたちが楽しく学べる骨格づくりを。活動内容は富士登山をはじめ、体験学習から清掃活動、歴史、文化、芸術まで、年間を通じ様々なイベントを行っています。三保松原では環境保全のための松葉拾いを地元市民団体や県内企業と共に定期的に取り組み、県内小学校へはSBSのパーソナリティが出張授業に行くなど、バリエーション豊か。ちなみにキャラクターを始め、クリエイティブはすべて僕が自前作業でつくっているのですが、例えば地元の天気予報番組で流れるアニメーションソングでは、富士山の雑学知識を歌詞に詰め込みました。何年も視聴を繰り返すうちに静岡県の子どもは全員、富士山にまつわる知識を自然と口ずさんで歌えるようになっている、そんなことを夢見ています。そのほか地元企業や学生達とのコラボ商品開発なども視野に入れながら、いまもコツコツ地道にSBSさん主催のもと共同企画運営しています。活動認知も少しずつ広がってきており、当初81名だった部員(参加者数)は200名近くまで増加しました。

ふじさん部部員たち(三保松原にて)

また最近だと、完全に個人的趣味からスタートした活動もあります。僕はサッカーが好きで、もちろんJクラブは地元・清水エスパルスを熱烈応援しているのですが、SNSを通じてたくさんのお仲間サポーターさんができました。そんな中、昨年チームがなかなかホームで勝てない時期があり、願掛けの思いつきでスタジアムの草刈りボランティア活動を企画しSNSで発信してみました。すると意外にも反応が高く、沢山の方が賛同してくれたため、「おっ!これはただの草刈り作業だけにしておくのはもったいないぞ!」と職業病スイッチが入りました。発案してから草刈りまでは一週間。突貫作業は慣れたもの。チラシ・ポスター的なものを瞬時につくり、さらには知り合いの得意先から協賛品(サンプリングとして)も頂戴するなど、仕事の合間を縫って奔走しまくり、ちょっとしたミニイベントの仕立てに。当日は80人近いサポーターさんが参加してくださったのですが、草刈りなのに皆さんとても楽しそう。その時、発見したのが「ヒトとの繋がりたい欲求」です。サッカーサポーターさんは基本、ひとり〜少数応援の方が多いため、意外にもこのようなリアルで会える場は、貴重な機会なのだなという気づきがありました。元々、一度きりのイベントとして声を上げてみたものの、とても好評だったため昨年は2回目も実施。サポーター同士が交流できる場ということを裏テーマにし、120名強の方が参加してくださり大盛況。協賛していただけるスポンサーさんも増え、スタジアムさん側も日々の作業人材が限られているために草刈り清掃自体は大歓迎。まさにWinWinWinな取り組みになりました。また地元のラジオ局さんも積極的に取り上げてくださり、かなり好循環な「ローカルの場」が生み出せた気がします。そして、実はこれこそが地域活性の縮図なんじゃないかなと実感しました。みんな個々では、ああしたい、これやってくれたらいいのにという思いがあっても、具体的に何をどうしたらよいのかわからない。世の中にはそんな人たちがたくさんいる。そこに、思いをきちんとまとめて編集し、一つわかりやすい目印を掲げてみせると、驚くほど多くの人が賛同してくれる。それを身をもって知ることができました。

清水エスパルスサポーター草刈りイベントにて #草刈って勝つ

人が集まりやすくなる「目印」をつくるということ

ふじさん部でもエスパルスの草刈り活動でも、何か小さく始めるときは、見た目の重要性が大きいと感じています。広告的な考えかもしれませんが、ブランディングというか、要は参加する人の気分をどうつくるかという問題です。例えば、ふじさん部ではフジノコというキャラクタ(目印)のバッジを子どもたちにプレゼントしています。参加した分だけバッジがたまっていくので、子どもにとっては勲章のようなものになり、参加へのモチベーションになっていきます。サポーターの草刈りの場合は、パルちゃんというチームキャラクタをアレンジしたオリジナルキャラをつくり、そこにキャッチーなコピーを添えてみました。それが目印として一人歩きし、「なんとなく楽しそうだな」と人集め効果に貢献したと思っています。また草刈りではユニフォームをはじめ、クラブカラーのオレンジ色をドレスコードにしました。単純ではありますが一体感というかイベント気分もより一層高まりました。まずは「目印」を先につくり、そこからスタートしてみる。原始的ではありますが、沢山の人を巻き込んでいくには、非常に重要なことだと再確認しました。

地域プロデュースという視点から見ても、このように人を動かす事業の根っこには、まず「楽しさ」「一体感」が必須だと思います。地域のお祭りだって、誰がどう得をするとか一切関係なく、単純に楽しいから皆自発的に参加しているし、みんなとまた盛り上がりたいから来年も参加したいと思う。それを何十年、何百年と積み重ねていくことで、地域が誇る伝統とか文化、地域の魅力として昇華していくのだと思います。改めて地域プロデューサーの役割とは何かを考えると、みんなを繋げて、その思いを編集し直すこと、そして広告屋としてはそこに一つ、気分が盛り上がるような、わかりやすい目印をつくってあげる。それに尽きるのではないかと考えています。

笑顔のつながりこそが、豊かな地域を生んでいく

地域の未来やこれからの豊かさづくりを考えるとき、欠かせないのは地域資源を活かした「継続性のあるコンテンツ」です。そこにどれだけのファンを集め、定着させることができるか。祭りでもスポーツクラブの応援でも、継続性をもって熱狂できるものがあれば、必然的に地元愛は育っていくと思いますし、応援したいコミュニティが自然発生し、ずっとそこに住み続けたい、あるいは通い続けたいという欲求の好循環が生まれるものだと思います。ですから、良質なコンテンツを生み出すことができたら、とにかくそれを続けること。そのなかで、地域に寄り添い、生活者の肌感や時代の空気感に合わせてチューニングしながら、たくさんの人を巻き込んでいくことが必要なのだと思います。

そんななかで、地域の広告会社がこれから活かすべきなのは、「ハブ機能」と「アイデア」と「発信力」なのではないでしょうか。産官学金労言すべてにバランスよくつながりを持てるのは広告会社ならでは。そして日々の業務で培われたアイデア力や発信力、マーケティング力は他の業界にはない、強力な武器だと思っています。ただし、人材資源に限りのある地域会社の場合は、そこにどれだけの「マンパワー」を割けるかが、これからの課題と言えるかもしれません。

僕個人として大切にしている幸せのものさしは、シンプルに「笑う」こと。そして、人生における本当の豊かさは「繋がり」の中にこそ生まれる、と考えています。僕自身、静岡に生まれ、就職してからもずっと静岡に住み続けていますが、いくつかの趣味を通じたコミュニティが複数あって、同じ趣味や価値観を持つ仲間たちと集まっては、日々、笑って過ごしています。それこそがローカルライフの豊かさだし、醍醐味なんじゃないかという境地に至りました。なので、これからの地域を考えるときにも、まずは地域の人にどうやって笑顔になってもらえるか、そのイメージをまずは描きたい。そして広告会社としてのハブ機能を活かしながら、地域固有の資源を基点に、笑顔の繋がりを広げていけたらいいなと思っています。そんな繋がりがあちらこちらで溢れていくことが、幸せな未来、豊かな日本の姿なんじゃないでしょうか。

■プロフィール

保崎哲也

静岡博報堂
クリエイティブディレクター

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愛媛県松前町「はだか麦」の商品開発を通して、新たな地域の誇りをつくっていく
中国四国博報堂愛媛支社 櫛部一雄/博報堂アクティベーション企画局 山下納帆美

マーケティングナレッジを活かした「せとうち古街計画」を通し、広告会社の新しいビジネスを追求する
博報堂 国内専門事業統括局付 木村洋

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