アメリカでは大きな市場になっており、日本でも今後ますます広がりが予想されるオーディオアド(ネット上の音声広告)。博報堂DYメディアパートナーズでは、ラジオ番組などオーディオコンテンツが無料聴取できるアプリ「ラジオクラウド」の運営を始めとし、オーディオアドビジネスを本格化させるべく、2017年10月、新たに「オーディオビジネスセンター」を設立しました。

オーディオビジネスセンター長も務める、博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局長の大木秀幸と、ラジオ局ビジネス企画開発部長の岡田進が、ラジオの可能性や、オーディオアド市場の未来図について語ります。

■音声コンテンツ配信プラットフォームアプリ「ラジオクラウド」の挑戦

大木:オーディオビジネスセンターが運営する「ラジオクラウド」アプリは、2017年1月末にスタートした、ラジオ番組などオーディオコンテンツが無料聴取できるアプリサービスです。当初は11のラジオ局からスタートし、現在は64のラジオ局、そして新聞社1社、テレビ局1社に参加いただいています。サービス開始からおよそ1年、おかげさまで現在は36万ダウンロード、月間20万人のユーザーの方に使っていただき、動画再生数は月620万回を数えます。ダウンロード数は順調に伸びており、1日に500件以上、月では1万5000~2万ダウンロードされていて、我々としても手ごたえを感じているところです。今後は魅力的なコンテンツを充実させ、他のプラットフォームとも協働しユーザー拡大を図って行きます。

岡田:ラジオクラウドでは、ニュース、バラエティ、トーク、ラジオドラマ、教養番組など、約2万本を超えるコンテンツをアーカイブしており、それぞれのコンテンツが再生される前に、プリロールと呼ばれる、15秒or20秒の動画あるいは音声広告を配信する仕組みになっています。
既存のポッドキャストなどの場合、最初から番組と一体化した広告しか流せないので、ダウンロードしたユーザーは皆さん同じ広告を聴くことになります。また、基本的には無料ダウンロードして番組を聴いて終わりなので、こちらにはどんなユーザーが聴取しているか分からない。そのため、ターゲティングもできず、ビジネスにできていなかったんですね。
「ポッドキャストでは非常に大きなダウンロード数を誇る一方で、全く収益化できていない」として、TBSラジオさんなどとポッドキャスト以外のやり方はないか?と相談しながら順次発展していきました。

大木:さらに、たとえば現状のradikoでは地上波でのCMがそのまま流れますが、ラジオのデジタル化を考えるとき、やはりYouTubeやTVerのように、“オンデマンド”で聴取でき、さらにはきちんとターゲティング広告ができる仕組みが鍵だと思いました。そうして、2015年にラジオクラウドの構想が始まりました。

岡田:2017年1月のサービス開始から約1年経ち、ターゲットのユーザープロフィールの特徴もわかってきました。ラジオのリスナーの平均年齢は52.5歳、radikoは44.4歳ですが、ラジオクラウドのユーザーはそこからもう一段階若い、20代、30代が中心です。
さらに黒船とも言えるSpotify(スポティファイ)が昨年上陸しましたが、音声広告はアメリカではすでに約3000億円の市場になっています。音声の場合、バナーなどのインターネット画面上の広告に比べてビューアビリティの問題も少ないですし、ほぼ確実に接触が図れる。その結果、インプレッション時の反応、CTRも高い。そうした音声広告ならではの効果も、我々の調査分析から次第に明らかになりつつあります。

■スマートスピーカーの普及から広がる、新しい広告ビジネスの可能性

大木:背景としてもう一つ大きいのが、スマートスピーカーの登場です。日本でも昨年Google Homeが発売になり話題を呼びましたが、AmazonやMicrosoft、Apple、LINEもそれぞれスマートスピーカーを手掛けていて、今後さらに普及することが予想されています。我々もラジオクラウドをスマートスピーカー上で動作するようGoogle,Amazonの開発チームと協同してアプリ開発をして来ました。さらに、今後はスマートスピーカーがさまざまなモノとインターネットでコネクトしていき、たとえば車に乗っているときに、「目的地の天気は?」「この先渋滞している?」などのやり取りをしながら運転できるようになったり、家の中でも、「エアコンつけて」「テレビ消して」などの音声で家電がコントロールできるようになっていくでしょう。
こうしたオーディオテクノロジーは、これまでのように実際に手を動かして操作するより、各段に早いし、直感的なんですよね。おそらく商品をじっくり検討する際にはPCやスマホの画面で確認し、もう一度同じ商品をリピートして買いたいときには、音声で「〇〇をもう一カ月分注文して」という風に、将来的には使い分けが進んでいくのだと思います。
いずれにしても、新しいテクノロジーの誕生・普及に合わせたタイミングで、我々は音声エンターテインメントも含めて、音声の情報を提供し、新しい広告ビジネスを展開していこうとしているわけです。

岡田:ラジオクラウドでは再生数の増加とより多くのユーザー獲得のために、現在、著名なタレントさんやアーティストさんの期間限定番組などを企画しています。いまは著作権の関係で、現時点では音楽以外のコンテンツしか放送できないんですね。こうした権利関係を徐々にクリアしていきながら、これからは音楽番組にも本格的に取り組んでいければと考えています。
放送局と一緒にオリジナルコンテンツの制作にも取り組んでいきたいですし、通常のラジオ番組だけでなく、たとえば新聞や雑誌インタビューの読み上げ、絵本の朗読、あるいはビジネスマナー本などを聴けるようにするなど、構想はいろいろと広がっていて、最終的に月間ユーザー300万人を目指しています。

■ラジオのエンゲージ力とコンテンツ力が持つ大きな可能性

大木:ラジオというのは面白いもので、タレントさんがラジオ番組でなら本音を語っていたり、テレビでは言わないようなことをしゃべったりする。相手(聴取者)との距離が非常に近いメディアなんだと思います。また、ラジオショッピングは売り上げがいいことも知られています。音声は、おそらく人の想像力を刺激するし、人の注意をひいて意識づけることもできる。人に近いところで、非常にエモーショナルな部分にエンゲージできる稀有なメディアです。

岡田:このプロジェクトを開始するに当たり、「スマホの平日1日あたりの利用時間シェア」を調査してみました。「画面を見ずに音楽やラジオを聴いている」層が8%、「画面を見ながら音楽やラジオを聴いている」層が11%、「テレビ番組やネット動画を視聴している」層が22%、「音楽やラジオを聴かずに画面を見ている」層が59%いることがわかりました。

ここから、全利用時間の約8割=「テレビ番組やネット動画を視聴している」以外の時間に、オーディオアドを届けられる可能性があることがわかりました。確かにスマホ上の広告は、動画広告、バナー広告、テキスト広告と、目から入る広告で飽和状態になっている。でも耳の時間にはまだまだ空きがあることがわかったんです。この「耳時間」の発見は大きかった。

大木:確かにそうですね。ほかのメディアとも重なって時間を獲得することができるので、大きな可能性が感じられます。

岡田:それに、ラジオのリスナーというのは、先ほど大木が言った“エンゲージ力”によるものかもしれませんが、非常にロイヤリティーが高い。放送局がリアルでイベントをやれば、イベントによっては数10万人が集まります。特定のパーソナリティや番組が好きな人たちによるファンコミュニティもしっかりと存在している。この層、パワーを、どうやって維持拡大していくかが我々の命題になってくると思います。

大木:ラジオ局が持つコンテンツ制作力も大きいです。たとえば某飲料メーカーさんの企画で、ある人気アーティストが廃校になる学校のテーマソングをつくって、生徒たちと合唱するという企画がありました。きっかけは番組に届いた手紙で、それにこたえる形でアーティストが楽曲を提供し、生徒たちが練習を重ねる様子をドキュメンタリーで追っていった。とてもエモーショナルな作品で、弊社の仕事なのですが、思わず泣いてしまいました(笑)。リスナーとの距離感、インタラクティブな関係もそうだし、聴いている人の感情に直に伝わっていく感じなど、ラジオならではの企画だと実感しました。こうした、単なる動画メディアにはないラジオならではのエンゲージ力、コンテンツ力は、まだまだ非常に大きな可能性を秘めていると思います。

岡田:そもそもラジオクラウドのプラットフォーム開発は博報堂DYグループで行いましたが、基本的にどの広告会社でも販売できる仕組みです。デジタルオーディオアド自体が日本ではまったく新しい市場ですから、各社とも力を合わせて、ともにこのプラットフォームを盛り上げていけたらいいですね。

大木:そうですね。ユーザーを増やすこともそうですが、ユーザーインターフェースの改善やコスト面など、課題を確実にクリアしていきながら、広告業界や、新たに関係性を築いていく業界の方々と、この新しい市場をともに切り拓いていけたらと考えています。

大木秀幸
博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局長

読売広告社1986年入社。テレビタイム、スポットの現場を担当後、2003年に博報堂DYメディアパートナーズへ。ラジオ局 業推部長、ビジネス企画開発部長を経て、2015年 ラジオ局長、2017年よりオーディオビジネスセンター長兼務。

岡田 進
博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局ビジネス企画課発部長

博報堂1990年入社。ラジオ局に配属される。その後、博報堂DYメディアパートナーズ関西支社テレビラジオ局ラジオ部長、テレビ部長を経て、現在、ラジオ局ビジネス企画開発部部長 兼 オーディオビジネスセンター所属 。「ラジオと音声コンテンツの未来を考える」業務を担当。