深谷 信介

スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表

「おはようございます。一緒にされますか?」
「えっ、あっ、いきます!」


<写真1|台所へ>

まだくらい朝の長い廊下、ゲストハウスの奥まった角に向かうと、バチバチッと小気味好い音を立てている厨房/台所へ。
かまどが、活きている。
かまどをみる機会が増えてきたけれど、「現役かまど」ははじめて出会った気がする。

<写真2|かまど>

「じゃあ深谷さん、ご飯炊いてくれますか?」
「えっ」
炊飯ジャーのスイッチすらドキドキしながら入れる私が、かまどでご飯などとんでもない話だ。しかもこんな早朝から。

「御釜はもう用意してますから笑。火を焼べてくれれば大丈夫です。あっそこに板の切れ端がありますよね。それ、となりの家具工房からもらってきた端材なんですよ。その穴に適当に入れてくれれば。大丈夫、簡単ですよ」

ええっと、この木をこうだな、こんな感じで入れるかな。こんなもんかな?

「ちょっと多いかな〜。空気の通りを作らないと、火が勢いよく回りませんよ」
おっそうか、こんな感じか?縦に入れた方がいいかな、どうかな?

「いい感じですね、その調子。じゃ、火お願いしますね」

主人は、となりで魚を焼きはじめた。
この方はなんでもサササッ、テキパキとこなすすごいひとだ。

「いやいや、そんなことないですよ」
「最初見よう見まねで、とりあえずやってみちゃうんです。このかまどもはじめて使ってみたら、台所中煙だらけになってしまって(笑)」
「そう、となりのおばあちゃんが教えてくれたんですよ。まずこうやって奥に火を入れて、奥を温める。そうすると、煙突の方への気流ができて、煙がちゃんと登っていく」

<写真3|まきを焼べる>

ほ、ほんとだ!

「火をみながら、御釜をみててくださいね。その内湯気が出てきますから。湯気の匂いがお米からご飯に変わったところがいい感じのところなので。ものの10分、15分ですから。すぐですよ」

メディアのイメージは強烈だ。竹の筒で口からフーフーっと空気を送りながら、じっくりと時間をかけて・・のかまどご飯づくりかと思いきや、実際は違っていて、かなり手際よく進んでいくものだ。感心ひとしお。

<写真4|湯気>

木もそこここにある端材で十分。
「ねっ、お金かからないでしょ。あっもうすぐ炊けますね〜」
ここまで自然のチカラ以外なにも使ってないな〜。

「あっそろそろいいですかね〜。火止めましょうか? そこの蓋しちゃってください」
「おっ、そうか。はい、こんな感じで」

「あとは少し蒸らして」

<写真5|ごはん炊き上がり>

いただきますっ!
「朝食はここで済ませてもらうようにしたんですよ」
前回宿泊した時は、地元パン屋さんの美味しいパンとコーヒーを、ひろーいひろーい居間でゆったりとくつろぎながら朝食を頂いたけれど、今回はまったく装いが違う。

「オンもオフもないですね〜。土日が休みで月〜金が働く日っていつか誰かが決めたこと、それって自然じゃないですよね。ここではすべて自分で決められる。起きたら朝ごはん、暗くなったら寝る。疲れたら海に行く。朝は畑へパクチー農園に、パソコンはどこでもできるし・・・」

<写真6|あさごはん>

ゲストハウスオーナー。パクチー農業経営、事業開発コンサルタント、旅行業、DIYリフォームアドバイザー、音楽家・・・
ここの主人は、多彩で多業だ。地域では1つの生業では生計が立てにくいことが多い、半農半Xが大切などとよく言われるけれど、まちに入るとこまごましたおしごとがいろいろと隠れていて、なんかできそうなひとが現れると、そういうお願いがあちらこちらから湧いて来るようだ。それをひとつずつこなしていると職業という既定概念からすーっと外れてしまって、なんでも頼めるひと=まちのなかの大切なひとになっていく。

「東京にいく必要はないですよ、いろんなひとがわざわざここに来るので」
「面白いですよ、地元の人って。ゲストハウスをオープンした当初、どうもわたしのいない時にも覗きにきているらしい、なんとなく来た形跡がある。みんなに覚えて欲しくて、こんな自己紹介プレートつくって、飴を置いてみたんです。そしたら確実に飴が減っている、これは面白い。それで調子に乗って笑、パッケージにわたしの名前入りのビスケットを置いてみた。
するとこれも面白いくらいなくなっている。そろそろわたしの名前を覚えてくれたかな? なんて思ったときに、庭先でビール宴会したんです。そしたらこのまちのひとがたくさんたくさんやってきてくれて・・・受け入れてくれたんだな〜って。嬉しかったですね」

<写真7|外出中プレート>

「わからないことはなんでもまちの人が教えてくれる。まあおせっかいと言ってしまえばそれまでですが、いつも気にかけてくれている感じがする。この家はまちのなかでも超成功者が住んでいたところ。石州瓦が斜陽産業になって、倒産して、十数年も空き家になっていた超豪邸。以前はひとであふれていた、働くひとの声と音がまちにこだましていたはず。なのに、し〜んと静まり返ってしまった・・・
そんなまちに、また少しだけれど、息吹ができてきた。すくなくとも、ここには誰もこなかったのに、今はいろんなひとがやってくる」

こんなに大きなゲストハウスを構えている素敵な若者がみているものは、わたしたちの想定を圧倒的に超える広範で奥深いものなんだろうな、それだけはわかる。

自分が今まで以上にちっちゃい感じがしながら、でもこの若者に会えたことを嬉しく思いながら、自作のかまどご飯とお魚がめちゃくちゃおいしい、この宿のなかで多分1〜2を争う小さなスペース台所で、からだじゅうがあったまる、ここにしかない格別の朝食をいただきました。

「普通やらないでしょ、こんな僻地で、こんな規模で。ゲストハウスも、農業も、コンサルも。だからやりたい、ここのモノだけで、勝負してみたいんですよ!」
このまちは、やっと白いなみが建ち始めようとしているところ。出来上がっているまちなど、彼の眼中にはない。真にホワイトなキャンバスに、誰も見ぬ壮大な絵を着実に描きはじめている。

腹黒を標榜しているここのご主人の笑顔は、清々しいくらいまっしろだった。
かまどのご飯と湯気がびっくりするくらいに。

<写真8|アサリハウス全景>

次回は、イワシビル です。

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島根県江津市ゴウツゲストハウジーズ
URL: http://52-ghs.com/

*写真7、8は 江上 尚さまよりご提供頂きました。

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