博報堂は2017年11月、オリジナルの経営者向けスピーチコンサルティングサービス「Powerful Speech Developers(パワフル・スピーチ・ディベロッパーズ)」を提供開始しました。博報堂PR戦略局が持つトップ広報ナレッジを活用して企業経営者のキーメッセージを決定していくほか、スピーチライターや音声表現コンサルタントといったプロフェッショナルとも連携。聴衆=ステークホルダーの目線に合わせた伝え方を提案し、経営者層による、本当に“伝わる”スピーチを実現します。
本サービスのスピーチ制作で連携するCEOスピーチコンサルタントの佐々木繁範さんと、PRの仕事を通して長年トップのメッセージ発信をサポートしてきた博報堂の牧志穂が、スピーチが持つ力、人を動かす要素として普遍的なものと、今の時代ならではのことなどについて語りました。

インナー向けメッセージに求められる “泥臭さ”

佐々木:私は現在、CEOスピーチコンサルタントという肩書で仕事をしており、社会人としてのキャリアは30年になります。なかでもソニーにいた12年間、盛田昭夫さんと出井伸之さんの補佐役として、何度もスピーチライティングを行った体験が大きいですね。独立した当初は経営全般のコンサルタント業をしていましたが、結局自分が世の中に一番価値を届けられるものは何だろうと考えたとき、トップリーダーのメッセージ発信のお手伝いをすることだと思い至り、いまの肩書に落ち着きました。

牧:私は博報堂で、10年ほどPRに携わってきました。折に触れて、ステージに立つ社長や事業部長達のスピーチ、プレゼンなどのサポートを行っていたのですが、次第にトップに近いところで行うコーポレート広報に仕事の重点を置くようになりました。経営者層の周辺サポートという事では、例えばメディアトレーニングやプレゼンテーショントレーニングの実施から、大きなプレゼンの際のステージ衣装の調達、新任社長のプロフィール写真撮影まで、なんでもやってきました。その中でも特に、「キーメッセージ」の発信や、「スピーチ」は、継続的にサポートすべき重要なテーマだと考え、この領域のサポート内容を強化してきました。そこで、スピーチのプロフェッショナルである、佐々木さんの存在を知ったわけです。
私たちが得意としてきたのは、どちらかというと外向けのメッセージなんです。メディアの視点に立って、求められるコメントを逆算し、発信に応用してきました。一方で、佐々木さんはインナー向けのメッセージを中心にされていますが、やはり社内となると、少し意味合いは異なってきますよね。

佐々木:社外向けであれば、言葉の美しさやメディアを意識したキーワードなどをおさえる必要がありますが、インナー向けの場合は、少し泥臭い発言などが求められたりする。明確に違いますね。
ありがちなケースは、トップが一旦IR向けに業績の振り返りや中期計画について話した内容を、社内に向けても発信してしまうこと。前者は明らかに証券市場、株式市場向けで、お金の話がベースになっている。これだと社員には物足りないんですよね。社員は、自分たちがお客さまのためにどんな価値を届けていくのかとか、トップが社員に期待していることとかを聞きたいと思っているはずですから、まずは社員がどんなことに関心を持ち、何に悩んでいるのかといったことを把握し、そこに特化したメッセージを発することが本来必要なんです。
社員はお客様にどんな驚きを提供して、どう喜んでもらうか、といったことにやりがいを感じている。その頑張りの結果、数字も上がってくる。外部向けには「数字」と「戦略」が欠かせない一方で、内部向けには「やりがい」「価値の共有」といったことが鍵となるわけです。

CEOスピーチコンサルタントの佐々木繁範さん。

牧:確かにいまの時代、昔のように社長が数字を掲げて「頑張るぞ、おー!」といって動く時代ではありません。
最近は企業に対して短期的なリターンを求めるというよりは、環境面、ガバナンス、社会性の面からも中長期的に成長できるかどうかが一つの投資判断軸にされている。そういうなかで、株主総会や決算などIRの場面でもトップと役員たちがどうメッセージを発信すべきか、という相談も来始めています。これはいままでになかった傾向です。

佐々木:いまは情報化の進展で、企業が隠し事をしようとしても隠せないところがある。メディアでかっこいいことを言っても実態はどうか、というところが問われていて、外面と実態が乖離していると一気に信頼を失います。企業もより本音で、正しいこと、良き行いをしないといけない時代です。

牧:そのためにも、繰り返し言葉にして、伝えていくことが大事ですね。

佐々木:そうですね。やはりスピーチ、プレゼンでは、情報をわかりやすく伝えるということだけでなく、発信者の心根や、志、動機、目的といったことがきちんと伝わるかどうかが、大事だと思います。

博報堂PR戦略局の牧志穂。

その人の想いと、声や表情が一体化したスピーチはパワフルになる

牧:佐々木さんはご著書『人を動かすスピーチの法則』(日経BP社)のなかで、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが唱えた、「ロゴス(論理)、パトス(感情)、エートス(信頼)という3大要素こそが、スピーチにおける説得力の源泉である」ことを最初に説明されています。

佐々木:これはスピーチの基本でもありますが、結局大事なのはその人の人柄、あるいは「この人の言うことは信じられる」というエートス(信頼)なんです。いかにロゴスとパトスのテクニックを磨いていいことを言っていたとしても、そもそも信頼がないと相手に聞いてもらえません。トップの情報発信においても同じで、信頼を醸成するためには、会社がなぜそれに取り組もうとしているのかとか、どういう覚悟のもとで、どんな未来を実現させたいのかといった、芯の部分を伝えていくことが求められます。

牧:広告においても、「商品の機能や競合優位性」という“ロジック”があり、CMなどで表現する世界観で“情緒的価値”を高め、「この企業は世の中にいいことをしている」という“社会的信頼”によって人は商品を選択している、という話があります。ご著書にあったスピーチの3大要素と同じだと気付いて驚きました。人間の基本心理というか、何が人を動かすかというエッセンスは普遍的なんですね。

佐々木:そうかもしれないですね。そして、もう一つ大事なのが非言語コミュニケーション。相手の表情や声、非言語の部分を通して、人はその人の心根を探り、感じようとしているからです。そして、そこをつかさどっているのは心、感情。その人がどんな意識、心で臨むかという部分がもっとも問われます。これは、体の動きや表情を表面的に繕ってもダメですね。その人の心根の部分、背後にある気持ちと、非言語で表れている声や表情に乖離がないかどうかを、聞き手は無意識的に感じ取っていますから。そこに一体感のある人のメッセージというのは、すごく強力で、響くんです。
たとえば、短時間でスピーチのコンサルティングをするとなった場合、心の深くまではなかなか踏み込めないので、「もっと笑顔で」とか「身振りを大きく」と言ったぐあいに、表情や身体の動きについてアドバイスせざるを得ない場合もあるわけですが、本当はそれだけでは十分ではないんですね。我々は対話を通じて、その人の本気の想いがどこにあるのかを探り、本人が意識していない場合は、一緒になって掘り起こしていきます。それを整理し、しっかりと発信できたとき、非常にパワフルなスピーチになっているはずです。

牧:そういう意味で、このサービスはリターンが非常に大きな投資と言えます。経営者層のスピーチ力をサポートすることで、社員がより高いモチベーションを見出したり、その企業に対して世間が持っていた印象がガラッと変わることにつながるかもしれない。規模や業態を問わず、どんな会社、経営者にとっても有効です。

佐々木:そうですね。そしてやはり欠かせないのはトップの想い。実体験に基づいた言葉、ストーリーであれば、腹落ちしやすいですよね。ロジカルで明快であることは重要ですが、それ以上に大事なことは、決して誰にでも言えることじゃなくて、その人にしか言えないことを伝えること……そういう言葉は一番強く人の心に残ると思います。

牧:数年前、外資の広告会社の方と仕事をしていたときに「日本人の企画書はなぜ課題から入るのか」と指摘されたことがありました。日本では、まず課題があり、その原因はこうだから、それを解決するためにどうするかというアプローチが一般的ですよね。でもそうじゃなくて、「いま自分たちが一番実現したいのはこれなんだ」「これを実現するために、いま我々に何ができるか」というビジョンを真っ先にしめすべきだという指摘でした。確かにそうすると、前向きなエネルギーが出てくるんです。
日本でもまずトップのビジョンというものをしっかり伝えていかないといけないですし、何より、先人たちの努力や、科学の進歩のおかげで日本は居心地の良い、便利な世の中になりました。もちろん、残された課題や新たな課題もたくさんありますが、今の時代「課題を解決しよう」よりも「こういう世の中にしよう」というビジョンの方が人を動かす力になるという事を、いま改めて実感しています。

外部の人間だからこそ、社長の想いを深堀りしていける

佐々木:外部の人間としてトップの発信をサポートするときに大切なのは、その会社の社員の方々とも一体となって支えていくことです。たとえば社内で変革が必要だというとき、現場で一体何が起きていて、どんなことで苦しんでいるとか、あるいはどんな努力をし、感謝をされたといったストーリーを共有していくことが理想的です。もっと言うと、単発ではなく、中長期的に会社の方々とチームを組み、可能であれば一緒にトップのメッセージを開発していくといった体制ができるといいですね。
本当にすごいスピーチを一度経験されると、その効果はわかってもらえるはずだと思うんです。たとえば普段のトップの発信にあまりインパクトがない企業さんであれば、「スピーチはそんなものだ」とトップもスタッフも思っている。生身の人間が、自分の人生から紡ぐ言葉で話すことに、どれだけの凄みがあるかをまだ理解されていないと思います。でも本気で変革を訴えるようなパワフルなスピーチによって、社員の意識、ラインの行動などが一気に変わるといったことも実際にある。トップによるスピーチの付加価値はそこにこそあるような気がしています。

牧:私たちも、社長のスピーチが変わった事で、会社全体が活性化し、元気になった、という事例を目の当たりにしてきました。メディアや株主など外部のステークホルダーもトップには非常に注目していて、わずかな変化でも感じ取り、その企業への期待を高め、それがその企業への評価や投資に影響します。社内も社外も巻き込んで、一気に動かす力。それが経営者が持つ言葉の力かもしれません。

佐々木:かつて、私自身も経験したことですが、社内スタッフの限界というのがあって、大胆な質問、進め方ができないんです。たとえばブランド改革が必要だと言っている社長がいたとして、社員だと「どういう風に進めればいいとお考えですか」くらいしか質問ができない。でも我々のような外部の人間だったら、「そもそもどうしてブランド改革がしたいんですか?」と、本質に迫る質問をすることができます。そこから、トップが抱いている想いの根っこを掘り下げていくことができる。

牧:確かに、社内の方は一番近くで見ているので、課題は把握している。一方で、課題を指摘したり、一歩踏み込んで「なぜ?」という質問をぶつけていくのは中々難しい。社内だけではやりきれないことを、どうブレークしていくかに、このサービスの付加価値があるのかもしれません。

佐々木:本当にいま日本を変革していこうとするのならば、いまの日本を支える会社、あるいは世界に影響力を持つような会社がもっと良くなっていくことが不可欠だと思います。その変革を支える一員としてこのチームで一緒にやらせていただけるのは非常に光栄ですし、そのために私自身の強みを存分に発揮していければと思いますね。博報堂さんの求心力を柱にしながら、さまざまな強みを持つメンバーが力を合わせれば、面白いことができるのではないかと期待しています。

牧:一緒にこのサービスを育てていきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。

佐々木 繁範
CEOスピーチコンサルタント/エグゼクティブコーチ

1963年福岡県北九州市生まれ。1987年に同志社大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行。1990年にソニー株式会社に入社。盛田昭夫会長の直属スタッフとして財界活動を補佐、その間にスピーチ・ライティングを学ぶ。1995年から97年までハーバード・ケネディ・スクールに留学、公共経営学修士号を取得。帰国後、2001年まで出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターを務める。ソニーでは計100本以上のスピーチ・サポートを手がけるとともに、IT戦略会議の議長補佐として、IT国家戦略の策定にも携わる。パーソナルオーディオ部門 事業戦略部長、グローバル戦略部長を経てソニーを退社。その後、複数の事業会社にて経営改革に携わり、2009年に独立。これまでに、1万人以上のビジネスリーダーを対象にリーダーシップ・コミュニケーション講座を提供するとともに、政財界のトップリーダーへの個別コンサルティングを行う。
著書に「思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書」(2012年 ダイヤモンド社)、「なぜ、優れたリーダーは失敗を語るのか」(2015年 PHP研究所)、「ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則」(2017年 日経BP社)がある。

牧 志穂
博報堂 PR戦略局
ディレクター

2000年入社、2004年からコーポレート・コミュニケーション局(現・PR戦略局)に所属。
企業広報を得意領域とし、メディアトレーニング、プレゼンテーショントレーニングなど、経営者層向けプログラムの実施、キーメッセージ策定やスピーチ原稿の作成、中長期発信戦略の立案などで、多数の業務に携わる。