THE CENTRAL DOT

“Cue”が“Work”し現場が変わる。誰もが働きやすい環境づくりを目指して―

2017.12.08
#AD+VENTURE
2017年6月、生産性向上のためのコミュニケーション/マネジメントツールの開発とコンサルティングサービスの提供を行う専門会社「株式会社Cueworks(キュ―ワ―クス)」が、博報堂DYグループの公募型ビジネス提案プログラム「AD+VENTURE(アド+ベンチャー)」から誕生しました。(ご参考 http://www.hakuhodody-holdings.co.jp/news/corporate/2017/10/1453.html
第一弾サービスとして提供を開始したのが、サービス業の現場やイベントなどで、タスク起点で人をアサインし、スムーズな業務遂行を実現するスマホ・PC向けアプリケーション「Cueworks」。本サービスはすでに10月に開催されたad:tech Tokyo(アドテック東京)で導入され、好評を博しています。Cueworksのメンバーが、会社設立のきっかけやサービス開発に込めた想い、これからの展望などについて語りました。

審査で選ばれた4人。このチームが生み出していくものは

西村:Cueworks代表取締役の西村です。私自身はずっと関西でプロモーションや統合マーケティングに携わってきて、この4月に東京に戻ってきたところです。通常のAD+VENTURE(アド+ベンチャー)では、仲間同士でビジネスを企画し、会社設立を目指すというケースがほとんどですが、今回は初の試みとして“チームビルディング型”という形が採られました。まず「デジタルプロダクトをつくり、プラットフォーム型のビジネスを生み出す」という大まかな事業内容があり、そこに賛同するメンバーが公募で集められるという形でした。ここにいるメンバーは何度かの面接を経て、ケミストリーなども含め、総合的に見て“面白い組み合わせ”だと判断された4人というわけです。
この事業の大きなテーマである「UXで人を豊かにする」は、まさに私自身が普段から実現したいと思っていることと合致するものでしたし、さらにその実現のためには「グループ」ではなく「チーム」の力が必要だとも感じていました。このプロジェクトを通してチームビルディングの実践ができるということで、非常にやりがいを感じています。

大倉:僕は博報堂ブランド・イノベーションデザイン局のHUX部で新規事業開発の業務を行っており、複属という形でCueworksの立ち上げに関わっています。2012年から2014年の間アメリカにUXデザイナーとして留学し、帰国後は主に外部からクリエイティブコンサルとして新規事業の立ち上げを支援する業務にずっと携わってきましたが、やはり一度は、事業主体としてきちんと製品をつくってお客様の引き合いを生むというところまでをやり切る経験をすべきだと思っていました。この4人に決まったのが昨年の11月末でそこからチームビルディングし、ビジネスプランをつくり、プレゼンしたのが年明けすぐ。無事承認が得られ、事業化にこぎつけました。あっという間の出来事でしたね。

向野:博報堂アイ・スタジオから来た向野です。アイ・スタジオに入社したのは2年ほど前でしたが、実は入社当時から、自分の3カ年目標として「新規事業を立ち上げる」というのがありました。かつ、一人で開発するというよりも、できれば博報堂DYグループの中核になるようなドメインでできないだろうかと考えていました。これまで培ってきたITの知見をいかし、ものづくりというフレームのなかで、テクノロジーが生活者をどのように豊かにしていけるかということを、このチームで確かなものにしていければと考えています。

白石:私は2003年から博報堂アイ・スタジオにいたのですが、UXデザイナーとして勤務するなか、UXを本気でやろうとしたときの限界というものも感じていました。立場上どうしても、プロジェクトを設計してようやくローンチしても、そこで手放さざるを得ない。最後まで自分のものとして責任を持ち切れるような製品づくり、ビジネスに取り組んでみたいなと思っていました。ただ、いざ自分たちの手によって製品が完成すると、今度はなかなか冷静に見られないというか(笑)。どうしても愛着というか熱が入ってしまうところもある。いままで知ることもなかったそういう感覚を、自分でも面白いなと感じているところです。

Cueworks代表取締役の西村康朗.

「コミュニケーションツール」というお題から注目したトランシーバー市場

大倉:このプロジェクトを進めるにあたってお題として提案されたのは、マーケティングとコミュニケーションを得意とする僕らに、敢えてコミュニケーションに関わるデジタルプロダクトの開発とそのプラットフォームビジネスに挑戦してもらいたい、というものでした。そこで最初に行ったのが、電話からビデオチャットまでコミュニケーションツールのフィールド全体を俯瞰することでした。見込み顧客や市場機会がどこにあるかを横目で見ながら、何をつくればいいのかを逆上がり的に定義し、その往復で製品のコンセプトを絞り込んでいきました。結果たどり着いたのが、業務連絡にトランシーバーやインカムが用いられているルーティーンワークの現場でした。

Cueworks取締役の大倉誠一。

西村:いざトランシーバーの市場規模を調べると、およそ600億円ということがわかりました。1%とれても6億という大きな市場なわけです。トランシーバーがアプリに移行しつつある流れも薄々感じていたので、いまこの波に乗るしかないとも思いました。何より私自身、博報堂で一番と言えるくらいトランシーバーを使ってきた人間です。プロモーションイベントの現場でトランシーバーを使うたびに「こうだったらいいのに」と思うことがいくつもあったので、途中からは完全に「自分が欲しいものをつくるんだ」という心境でした(笑)。
そして実際、いろんな業種でトランシーバーを使う方に話を聞いたところ、使いづらさやストレスを感じている人がとても多いということがわかしました。たとえば、トランシーバーではシンプルに短く指示しようとするあまり、「消せ」「上げろ」「走れ」など、きつい命令口調になってしまうんですね。責任者はそうした情報を耳で聞きながら中央集権的に管理しなくてはならず、現場のやり取りを聞いているうちにストレスになってしまうということもあるんです。また、トランシーバーでは1対1で用件が相手に伝われば終わりなので、それぞれの現場で何が起きているのかを互いが関知できず、現場の煩雑化にもつながっていることもあります。

大倉:実際に現場に立っている方々のインタビューを通じて、チャットの構造をリデザインすれば、業務上のタスクがどのように完了したか、一連の経緯がわかるようになるのでは、という仮説が生まれました。そして、タスクを依頼したい人をグルーピングしてチャットルームを開設し、そのタスクが完了したら、チャットルームごと消し込むことができるアーキテクチャーに辿り着いたんです。それぞれのユーザーにはタスクが「To Do(今やるべきこと)」としてやってきます。それに対して「私がやります」と意志を示し、そのタスクが終わったら、To Doアプリのように消すというものです。

Cueworksの画面イメージ。それぞれのタスクごとに人をアサインし、チャットルームを開くことが出来る。

西村:たとえばそこにごみが落ちていたとする。トランシーバーにおける指示であれば「ゴミ拾え」となるでしょう。でもCueworksの場合、「ゴミが落ちています」という情報に対して、タスクグループ内の対応できる人が「私が拾います」という反応を返す。一方的に指示をされるのではなく、あくまでもその人の自発的な行動によってタスクが消化されることになるわけです。もしかしたらその人はさらに近くにある別のゴミにも気づいて拾ってくれたり、「ほかにもゴミがないかな」と考えて探し始めるといった動きに出るかもしれない。言ってしまえば、働く人がもっと能動的に、楽しく働けるようになるきっかけにもできるわけです。

白石:働く人の自発的な動きを促すというのは、本当に目指すべきところですよね。そういう意味では、極論かもしれませんが、これがひいては働く人、あるいは労働の民主化を助けることになるかもしれないとすら感じています。

向野:実際Cueworksは、既存のコミュニケーションツールの在り方を破壊するくらいのインパクトのある、特徴的なアーキテクチャーになったのではないかと思います。従来のSNSが存在するなか、「コミュニケーションツールをつくる」という極めて難しい、レッドオーシャンで戦わなければならないお題を掲げてきたわけですが、わずか半年間でこれまでにないまったく新しいものを世の中に生み出すことができた。この4人でやってきた成果として、非常に達成感を感じるものでした。

Cueworks取締役の向野宏幸紀。

アドテック東京で実装。現場のチームにポジティブな空気を生み出した

大倉:今年の10月に開催された「アドテック東京」の運営公式アプリとして、実際に現場スタッフの方々に使って頂き、2日間の会期中に延べ400くらいのタスクがこのCueworksを通じてやり取りされました。ミスが許されない現場で無事に運用できたことにとりあえずホッとしましたね。

白石:実際にCueworksを手にしていたスタッフは28名で、あとは私たち4名です。使用したスタッフのアンケートからも、好意的な感想を多数いただけたのですが、課題もわかってきた。でもすべて想定の範囲内でしたし、きちんと解決できる課題ではあるので、これから着実にクリアしていきたいですね。

向野:実際に現場の様子を見ていると、朝の時間帯で入り口が非常に混雑したタイミングがあったのですが、それをCueで出したところどこからともなくスタッフが集まってきて、受付を手分けしてマネージして行列を解消させていったことがありました。実践を引き出すことができるという事実を目の当たりにできて、嬉しかったですね。

白石:私が驚いたのは、皆さんが初めてだったにもかかわらず、思ったより悩まずに使いこなしてくれたことですね。

西村:マニュアルも用意しましたし、簡単な説明はしましたが、皆さん直感的に操ってくれたんですよね。一番大きいのは、やはりUXのプロが我々の中にいることだと思う。現場で意識することなく、簡単に使いこなせるようにデザインが計算されてるんです。
私自身の経験から言うと、通常朝早くから夜遅くまでの大きなイベントの場合、だいたい15時も過ぎると現場スタッフの顔に疲れがにじみ出てきます(苦笑)。でも今回の現場では、最後までスタッフが生き生きしてた。ニコニコと笑顔で働いていて、最後も「もう終わっちゃったんだ」といったコメントまで出ていたので、イベント自体の成功もさることながら、現場やチームの雰囲気をポジティブなものに作り上げる手助けができたんだなとわかった。これは非常に嬉しかったです。

Cueworks取締役の白石葵。

Cue(合図)のWork(仕掛け)で、組織や環境を変えていく

大倉:今回のアプリを素地に、これからは利用実態をダッシュボードで可視化し、現場の配置転換といったものに役立てていく取り組みを行ったり、外部のサービスなどと連携し、エコシステムを豊かにしていくような取り組みができればいいですね。広告会社の僕らではなかなか立ち入れない領域かもしれませんが、自分たちがつくった新しい製品が、また別の役割を果たしている外部の製品と連携しながら、互いの価値を高めていくようなエコシステムに繋げていけたらと考えています。

向野:業種、業態ごとに異なった業務用のニーズもありますから、そこにどう対応するかという点もあります。さらに、これから学校のサークルワークや、規模の小さいチームにも応用してもらえるようになるといいですね。

大倉:たとえばSNSも数年前まではとてもシンプルで誰でも扱えるものだったのが、どんどん機能が付け足され、増築を重ね、いまや新しく使い始める人が困惑するくらいのインターフェイスになっている。そうやって他社が新機能を盛り合っている中で、全く別の道があるんじゃないか。ポストイットくらいな、ごくシンプルな何かを見つけていくことが必要なんじゃないかと考えています。

白石:基本的なことですが、何か仕事を指示するとき、誰に何をお願いするのかをきちんとまとめておかないことには指示を受けるほうも混乱するわけです。Cueworksでは、お願いする方も整理して指示を出しますし、受け取る側も「仕事をしました」という報告を自然としっかりと行うようになる。互いのキャッチボールがしっかり行われて、情報の共有もできる。働くうえで、誰か一人に過度な負担がかからず、スタッフ間のコミュニケーションが有機的に回っていくという効果もあるということがわかりました。

西村:「働き方改革」というとき、どうしても時短のことに目を向けがちだけど、実際は「仕事にどう向き合うか」という根本的なところも重要なはずです。
改めて説明すると、Cueは日本語でいうと合図、という意味です。シンプルで分かりやすいCueの仕掛けで、人や組織が動き出すような、そんな意味を社名と第一弾サービス名にこめました。サービスとしてのCueworksが、そうした働く人たちの意識の部分にも、何か一石を投じるようなものになっていけばいいですし、今後会社としても、Cueの仕組みで、誰もが働きやすくなるような、稼働しやすくなるような環境づくりの一助になっていけたらと思っています。

<終>

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