世界80カ国の研究機関やベンチャーが保有する新事業や新技術、投資情報データに精通するアスタミューゼ株式会社と博報堂が業務提携。イノベーションを総合的に支援する「Connecting Dots Action Program」の提供を開始しました。
(※ご参考 http://www.hakuhodo.co.jp/archives/announcement/41432
アスタミューゼが誇る「技術の目利き力」と、博報堂の「生活者発想のアイデア力」が掛け合わされたとき、どんなサービスが可能になるのか。提携の背景や、今後の展望などについて、アスタミューゼ株式会社の嶋﨑真太郎さん、波多野智也さんと、博報堂ビジネス開発局の堂上研、大津翔に話を聞きました。

複合的課題が横たわる、イノベーションを取り巻く現状

堂上:僕らはビジネス開発局に所属しながら、つねづね広告宣伝領域以外でのビジネスの可能性について考えているわけですが、3000社を超えるクライアントの担当者に話をうかがっていくなかで、「研究開発」「事業開発」あるいは「経営企画」に関する相談が近年非常に増えています。確かに現在は「イノベーションばやり」とも言えるような状況で、「なんでもいいからイノベーションを起こさないと」といったプレッシャーをかけられているものの、どこから手をつければいいかわからないというクライアントも多い。そして、それぞれの企業で、イノベーションにかける人が足りない、研究テーマがわからない、実際の事業に至らない……といった複合的な課題が横たわっています。そういう状況下で、最初の研究テーマ選定から最後の事業開発・サービス化といった実際のアクションに至るまでを併走していくような存在が必要ではないかと考えていました。

大津:博報堂はこれまで、ターゲットを決め、実際にクライアントとともに社会に顧客を生み出したり、市場を生み出したりしてきた。それこそが博報堂にとっての「イノベーション」に当たるのではないかと考えています。そして、そうした新しい市場をつくるうえで我々が得意としているのが、マーケティングからイベントからCMから、各プレイヤーのプロフェショナルと共働しながら一貫してエージェンシーとして併走していくことです。新規事業開発という点においても、事業計画をつくるプレイヤーやプロトタイプをつくるプレイヤー、あるいはそれらをマッチングさせるプレイヤーがいるわけですが、現状ではそれらがバラバラに動いていてうまく機能していないケースが多いと聞きます。それらをつなぐ存在、事業全体を見ていく存在に、僕らがなれるのではないかと考えました。

嶋﨑:堂上さんがおっしゃったように、いまはイノベーションやオープンイノベーションという言葉が独り歩きしていると感じます。
なぜイノベーションが必要なのか、当事者がきちんと整理できていないことや、「死の谷」と表現される研究開発から次の段階に発展しないことなどが現状の課題だと思います。
僕らがこれまでの経験から得た肌感として、コンサルティング会社は既存のものを整えていくことが得意な一方、まったく新しい何かを生み出すことは不得手だとか、マッチングサービスを提供する会社は相性を見て関係性を繋げていくのは得意だけど、それぞれの会社が持つ技術に対する深い理解が足りず、イノベーションがスケールしないといったことがあります。そういう意味で、イノベーションを支援する側も、される側も、もう一度基本的なところからしっかり取り組んでいかないことには、日本のイノベーションを加速させることはできないだろうとずっと考えていました。

波多野:嶋崎が事業部の責任者として感じていた課題と近いものを、僕も広報の責任者として感じることは多いです。
アスタミューゼは、世界80カ国から収集したイノベーションに必要な新技術・新事業のデータを基盤として、新規事業開発や技術活用、人材採用支援に取り組んでいます。
自分たちが保有している強みや提供サービスへの自負があると同時に、アスタミューゼだけでイノベーション支援の全てが担えるわけではないことは、メディアで取り上げられる機会やその内容に対する社外の反応を見て感じていました。

博報堂ビジネス開発局の堂上研。当取組みの博報堂側のリーダーを務める。

相思相愛!?互いに補完しあえる、力強い関係性

堂上:クライアントからくる相談事の種類は大きく分けると2つあって、一つは技術ドリブンの話、そしてもう一つは生活者ドリブンの話なんです。僕ら広告会社としては、生活者ドリブンの案件はずっと行ってきたことですし、広告やマーケティングにおけるクライアントのパートナー支援は当然得意なわけですが、前者の、事業開発や研究開発の分野における技術ドリブンの知見については正直弱い。そこで一緒にやってくれそうな会社はないかと探していたところ、アスタミューゼさんの存在を知りました。僕の一方的な片思いというか、それからもうずっと「会いたい会いたい」と言い続けていました(笑)。

嶋﨑:実は堂上さんにお会いする前から、「組むなら博報堂さんと」と思っていました。というのも、アスタミューゼには波多野が説明した“データ分析”という客観的な事実、ファクトベースの素材はたくさんあるので、そこに温度感のようなものを足していくことができれば僕らも面白い提案がいろいろとできるのではないかと考えていたんです。
広告クリエイティブなどを見る中で、つねづね博報堂さんの温度感はいいなと思っていたので、堂上さんにお会いした瞬間に、何か歯車ががっちり合ったような気がしました。

大津:まず僕らが一緒に行ったのが、戦略から研究開発マッチングなど、イノベーション領域における支援という観点から、互いの強み、ケーパビリティや不得意分野を洗い出すことでした。エクセルで50項目くらいのリストをつくり、〇×をつけていったのですが、見事に相互補完するような関係性だとわかったんですよね。まさに、パズルのピースが合うような感じだった。

博報堂ビジネス開発局の大津翔。

波多野:個人的には「パズルのピースが合った状態」であることに加えて、博報堂さんが取り組む
アルスエレクトロニカ(オーストリア・リンツで1979年から開催されている先端技術・アートの祭典)の日本導入支援についても好感を持っていました。
社会の課題発見や解決に、先端技術やアート、生活者自身が関与する取り組みは、新しい変化を社会に実装する段階でとても重要になるなと考えていたので、アルスエレクトロニカと提携し取り組んでいる内容を知り、考えていることが非常に近いのかなと感じました。

嶋﨑:そうですね。僕らが新規事業を提案したり、事業アイデアやサービスアイデアを考えるときに絶対忘れてはならないのが、その新規事業やサービスがどういった課題の解決に繋がるのか?ということです。
社会が抱えている課題の解決に、その新規事業が必要とされる、貢献する、これが重要です。
社会課題の解決は、日々暮らしている生活者が幸せになることに繋がる。僕らが事業を通じて目指しているこの部分は、初めから博報堂さんと近しかったのかもしれません。

アスタミューゼ株式会社の嶋﨑真太郎さん。

プロジェクト名の「Action」に込めた覚悟

波多野:最初にお会いしたのが6月くらいで、その3カ月後には提携発表に至りました。
今回印象的だったのは、僕らのような50人規模のベンチャーとほぼ同じスピード感で話を進めて頂いた点です。

大津:そう感じていただけたのであれば嬉しいです。今回はさらに、「Connecting Dots Action Program」というプログラムまでつくってからリリースに臨みましたが、これも割とレアなケースかもしれません。余談ですが、このプログラム名に関してはすでに商標申請も出しています。中長期的にしっかりとこのプログラムを機能させていきたいですからね。

堂上:ちなみにこの「Connecting Dots Action Program」というプログラム名、最初は「Action」がありませんでした。でもお二人から、クライアントの一番の課題は「最後のアクションまでつなげていくこと」だと聞き、入れました。僕らは実現可能なものを提案するし、新しい市場を生み出すまでのアクションにきっちり繋げていくという覚悟も込めたつもりでもあります。
具体的には、ある程度規模の大きな企業を対象に、得意先を互いに紹介していきながら、新事業開発を支援していくことが中心になります。互いの得意分野に応じて、また得意先の悩みに応じて、互いを協力機関として取り組んでいけたらと考えています。

嶋﨑:既存のイノベーション支援だと、スポット的に行われることがほとんどだった。僕らのように、立ち上げ、企画の部分からマーケットインまで全部やりますよ、という存在はかなり新しいのではないでしょうか。イノベーション支援に対する既存イメージも、これから僕らが変えていって、関与すべき人や企業が多く集まるような流れを生み出せればいいですね。

アスタミューゼ株式会社の波多野智也さん。

「将来どんな社会をつくりたいか」からバックキャストしてイノベーションを考える

嶋﨑:このプログラムの可能性はたくさんあると思いますが、いま興味があるのは、「これまでBtoBしかやってこなかったが、新たにBtoCに出ていきたい」という大企業さんの支援です。
すでに持っている技術を生かして、どんな新しい事業が可能なのか。私たちにはtoB、toCそれぞれのノウハウがありますし、そこから面白いアイデア、発想はいくらでも出てくると思います。
たとえば何十年もBtoB事業だけを取り組んできた企業さんにとっては、「消費者・生活者にどう届けるか?」など見当もつかないことも多いと思いますが、我々は技術ドリブンかつ生活者ドリブンの視点で、その事業やサービスを生活者にどうPRするか、ブランディングしていくかまでワンストップでお手伝いできると考えています。これは長くBtoCビジネスをメインで展開していた大手企業が新たにBtoB事業に挑戦するケースでも同様です。

堂上:いまの日本には、かつてのように、世界を驚かすほどの市場を生み出すイノベーションが圧倒的に不足しています。これからの未来、2020年、2025年といった節目で考えた時に、どういう社会をつくっていきたいのか。それをバックキャストで考えた時に、やはり日本発で、社会を変えるくらいのイノベーションをいまこれからつくっていくべきなのではないかと痛感しています。将来、いまの子どもたちが「あのときあの企業がこういうことを提案したから、いまこれだけ豊かになった」と感じてもらえるような事例を一つでも二つでも多くつくれたら。失敗を恐れて動かないというのが、イノベーションを阻害している最大要因です。勇気を出して、僕らとともに動き出してほしいですね。

波多野:堂上さんが言われた「将来、いまの子どもたちが」で思い出したのですが、僕らも普段多くの研究者やベンチャー起業家と接します。
その中には、博報堂の内定者や新卒の方と同世代の20代前半の方も多く、話しながら「現実的に、そして主体的に未来を見据えている」と感じます。
この先10年、20年かかる研究や開発に地道に取り組むモチベーションとして「これを実現した“あと”の世界に暮らすのは自分たちだ」という明確な意志がある。
「Connecting Dots Action Program」が、こうしたイノベーションに主体的に向き合う若い世代のエネルギーに呼応し、支援に繋がるものになっていくといいなと考えています。

堂上:そうですね。それと同時に、やはりCXOクラスの人たちがリーダーとなり、イノベーションを推進していくことも不可欠です。既存事業の片手間、あるいはついでにまかせても、なかなか実現には結びつかないでしょう。

大津:世界が注目している日本の技術はたくさんあります。これだけ普及しているスマートフォンだって、日本の技術が大きく寄与している。でもいまは、そうした優れた日本の技術がうまくビジネスになり、世の中にインパクトを与えられるようなアウトプットにつながっておらず、実は非常に勿体ない状態です。そんな、技術のスペシャリストであるアスタミューゼさんと、「こんな未来をつくりたい」というビジョン、僕ら博報堂の生活者発想を掛け合わせることで、世界にインパクトを与えられるようなビジネス事例をこれからつくっていけたら嬉しいですね。

<終>