博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では毎年末、その年の“ヒット商品”と翌年の“ヒット予想”、そして翌年の“景況感や楽しさ予想等”について生活者に調査を実施し、分析した内容を発信しています。
★今年の発表内容はこちら
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/42008
(2017/10/27 博報堂生活総合研究所 生活者が選ぶ “2018年 ヒット予想” &“2017年 ヒット商品”ランキングを発表)
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/42721
(2017/11/17 博報堂生活総合研究所 生活者にきいた“2018年 生活気分”を発表)
本結果をふまえ、生活総研の石寺所長が、今年の振り返り、来年の動向、生活総研の2018年の活動について語りました。

生活者を支援する「サンキュー・テック」と、「トキ消費」傾向が目立った2017年

2017年のヒット商品を振り返る前に、まず前提としてお伝えしておきたいのは、生活総研が発表する「ヒット商品」「ヒット予想」はあくまでも“生活者自身に選んでもらっている”ということ。世の中のランキングとは異なり、評論家でも、イノベーターやアーリーアダプターでもない、いわゆるマジョリティが実際にどういったものを選択したのかがわかるわけです。パッと見で新奇性には欠けるかもしれませんが、ある意味非常にリアリティのあるランキング結果となっているはずです。テクノロジーについても、慶応大学の小川克彦先生が語られている「技術が気持ちを変え、気持ちが技術を選ぶ」という言葉通り、まさに生活者の今の気持ちにフィットしたものがしっかり見えてくるランキングとなっています。

2017年のランキングからヒットのトレンドを見てみると、やはり2016年のヒット予想で掲げた「サンキュー・テック」の存在感があります。サンキュー・テックとは、「補助」「代行」「拡張」など生活者を多様に支援してくれるテクノロジーを我々生活総研で名付けたもので、ランキング内の「ドローン」(3位)、「高齢ドライバーの事故防止策」(10位)、「電気自動車」(15位)、「自動運転システム搭載車」(16位)などがそれに当たります。

それから、ここ数年の消費に見られる「その場・その時限定の盛り上がりを楽しむ“トキ消費”」の傾向も依然強い。「トキ消費」とは、新しいものや珍しいものを所有するといったhaveに価値を置く「モノ消費」、モノが行き渡った結果、経験や行為のdoに価値を求めるようになった「コト消費」に続いて、SNSで見せたりシェアできるような、その場にいること、参加するといったbeに価値を置く消費傾向として生活総研が定義しているものです。たとえばランキングにある「インスタ映え」(1位)は体験の一瞬を切り取って共有するためのツールですし、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(9位)、「ナイトレジャー」(19位)、「体験型エンターテインメント」(30位)などがいずれも「トキ消費」に当たると考えています。

不安はあるけど不満はない。2018年も続く「常温社会」

では、来る2018年、一体どんなヒットが生まれるのでしょうか。私たちの調査から浮かび上がってきたキーワードは「ひとり助け」です。単身者や共働き世帯の増加などを受け、自分ひとりでなんとか課題を解決しようとする人を支える商品やサービスに注目が集まっています。さらに、トップ30にランクインした商品・サービスを分析すると、「ひとり助け」の4つの傾向が見えてきました。一つは、「格安スマホ」(1位)や「フリマアプリ」(9位)のように「お金」を助けるもの、あるいは「宅配ボックス」(2位)、「無人レジ」(8位)、「時短家電」(17位)、「家事代行」(30位)のような「時間」を助けるもの、また「高齢ドライバーの事故防止策」(2位)や「自動運転システム搭載車」(6位)など「能力」を助けるもの、そして「インスタ映え」(11位)、「民泊」(14位)といった「つながり」を助けるものです。2017年までの傾向でもありましたが、AIや自動化といったテクノロジーは、まず人が苦手と感じたり嫌だと思うような行動から少しずつ置き換わっていくはずです。2017年はそれが「サンキュー・テック」という形で表れてきましたが、2018年はさらに一歩踏み込んで、社会問題化しているような事象をテクノロジーに代行・代替させて解決しようという、ある意味高いところからのニーズに応えるものが出てくるのではないかと考えられます。

こうした傾向と合わせてご紹介したいのが、「生活気分」の調査結果です。私たち生活総研は2015年から毎年秋に翌年の景況感や楽しさ予想、力を入れたい生活行動など来年の動向を予想してもらう調査を行っていますが、2018年について景気も家計も「悪くなる」と答えた人は3年連続で減少。好転すると考える人は3年間で微増した程度で、もっとも多かったのが景気も家計も「変わらない」という回答でした。この結果は、生活総研が隔年で行っている、生活者の意識・価値観を定点観測する「生活定点」の最新調査データ(2016)ともシンクロしています。「生活定点」においても、「日本の行方は、現状のまま特に変化はないと思う」や、「今後の暮らし向きは、同じようなものだと思う」という回答が増加しているんです。いずれの調査でも、“今後良くなる”という回答数はほぼ横ばいが続いているので、将来について特に明るいイメージを抱いてはいないことがわかる。とはいえ、身の周りで幸せを感じているといった回答はいずれの調査でも増えていて、自分の半径数メートル内では幸福感をおぼえている様子が見えてきます。

実は内閣府の「国民生活に関する世論調査」でも、今後の生活は「同じようなもの」になるだろうという回答が最多になっていて、生活総研の調査結果と符合しています。ちなみに内閣府の調査では、収入や貯蓄に対する不満はありながらも、食生活や住生活、自己啓発、レジャーなどにおいては満足している人が多い。つまりいまの世の中は、「不安はあるけど不満はない」状態。逆に経済が順調に成長しているときであれば、「不安はないけど不満はある」状態になるのかもしれません。

いずれにしても、この現状を僕らは「常温社会」と呼んでいて、おそらくこの傾向は今後もしばらく続くのではないかと考えています。近年「定常型経済」という言葉がフォーカスされ始めているように、もしかしたらいまの経済はゼロ成長のまま循環するフェーズに入っているのかもしれない。そう認識してみると、「常温社会」の中にあって、せめて身の回りだけでも、あるいはわずかな時間だけでも賑やかに、楽しくしていこうとする「トキ消費」の傾向も大いに頷けます。

その際に何かを動かすドライブとなるものが、生活者の「好き」という気持ちでもある。「好き」を起点とする生活者の動きを、社会とうまくつながるようにしたり、さらに大きくするような仕組みを企業や自治体が提供することで、経済が大きく動くきっかけにもなるのではないか。2017年1月のみらい博「好きの未来」で提言したこうした考察も、引き続き有効であると考えます。

いまがまさに分岐点。これからの生活者とお金の話

もう一つ、私たち生活総研が2018年以降に大きく変化していくだろうと考えているのが、お金にまつわる生活者の意識と行動です。中国のキャッシュレス社会化が話題を呼んでいますが、日本でも若い世代を中心にキャッシュレス化は進んでいますし、最近はファーストフード店がクレジットカード決済を始めてニュースになりました。そんな動きもあって、生活総研では来年「お金の未来」について発表をしていく予定です。

たとえば「フリマアプリ」(9位)の人気の背景には、個人間でお金をやり取りする楽しさ、あるいはお金を回すことを楽しむゲーム性のようなものもあるだろうし、「クラウドファンディング」(27位)の中には、ものを買うというよりも寄付のような、見返りを求めずにお金を出す人もいる。また、たとえば2012年に誕生し、国分寺を中心に流通している地域通貨「ぶんじ」は、裏面にメッセージを書くスペースがあり、ぶんじを使用した人が「コーヒーおいしかったです」「のんびりできました」などと書き込んでいくことで、どんな人が使いどんな気持ちだったのかが次の利用者に伝わるようになっている。コミュニティーの絆づくりにおいて非常に成功しています。

いずれの例からも、国や企業が主導する既存のお金のシステムにただ従うだけではなく、生活者自身が新しい通貨やお金の仕組みをつくるなどして、主体的に、楽しみながらお金と向き合っていく姿が見て取れる。つまり、生活者自身が、お金を自分たちの手に取り戻そうとするような流れが来ていると言えるのではないでしょうか。なお最近実施したお金に関する生活者調査においても、キャッシュレス社会に対する意識や仮想通貨に関する意識等で、興味深い回答結果を得ています。お金に関する生活者の意識が、まさにいま分岐点に来ていることがわかりました。

そんな「お金の未来」については、12月の速報調査レポート、さらに1月の研究発表会「みらい博」にて、詳しくご紹介する予定です。生活総研のこれからの発表にぜひご期待ください。

石寺 修三(いしでら しゅうぞう)
博報堂生活総合研究所 所長

1989年博報堂入社。マーケティングプラナーとして得意先企業の市場調査や商品開発、コミュニケーションに関わる業務に従事。以後、ブランディングや新領域を開拓する異職種混成部門や、専門職の人事・人材開発を担当する本社系部門を経て、2015年より現職。
著書:『地ブランド ~日本を救う地域ブランド論~』(共著・弘文堂・2006年)
東京農工大学 法政大学 非常勤講師。