この秋、クライアント企業活動全般をフィールドに事業アイデアをクリエイティブするプロジェクトチーム「TEKO」が始動しました(http://www.teko-leverage.com/)。
★発表したリリースはこちら⇒http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/41263
メンバーは、広告・マーケティング領域から、企業の事業戦略、商品開発、インナー改革など、さまざまな分野で活躍する5人のクリエイティブディレクター、マーケティングディレクター。TEKO誕生のきっかけや、5人が目指す“co-direction”型のスタイルなどについて話を聞きました。

異なる領域を得意とするCD、MDが集まった

ーではまず、自己紹介からお願いします。

大澤
言い出しっぺで、行きがかり上、リーダーをやっている大澤です(笑)。
入社からずっとプロモーション畑でしたが、「売るためにどうするか」を考えるうちに、少しずつ企業経営の領域に目が行くようになりました。今は広く企業活動全般のクリエイティブディレクションに携わっています。

「TEKO」は、1年ほど前に同世代のCD、MDが集まって、“広告会社のマーケティングやクリエイティブの未来”を議論する機会があり、そこに吉澤くんを除く4名が参加していたことが発足のきっかけになりました。(吉澤くんは海外留学中でした)。集まった中でも、課題認識や目指す方向性が近いメンバーで結成した感じです。

デジタル化が急速に進み、生活者を動かすことが年々難しくなってきています。だからこそ、広告会社はより広い領域をクリエイティブし、実行していかなければならない。広告領域だけでは、なかなか差分が生み出せない。だから、より広い視野でのクリエイティブにチャレンジしていくべきだ。・・・そんな考え方が一致したメンバーが集まりました。

市耒
市耒です。
僕は2つのことをやっていて、1つが『恋する芸術と科学』というラボの主宰です。社会彫刻(ソーシャルスカルプチャー)をモットーに、芸術と科学、デザインとエンジニアリングといった、相反する要素をぶつけることによって新しいクリエイティブを生み出すという取り組みです。そしてもう1つは、経営にストーリーテリングを結びつけることで、いかに企業を成長させられるか、ということへの挑戦です。

このチームが生まれた背景は、さっき大澤さんが言った通り、「課題認識」が共有できたことですが、同時に「チャンス」も感じました。僕は以前から、主に4マス媒体で使われてきた広告会社の力が、実は企業そのもののストーリーテリングや商品開発などでも求められているということを、強く感じていましたが、その認識が同じだったからです。ですから、キャンペーンベースだったり、メディアベースだったり、どうしても分断されがちな今までのクリエイティブのスキームを越えられるといいよね、全てのデザインフィールドをまたいで、クリエイティブディレクションできるような運動体、ダイナミックな運動体があったら面白いよね、という話になったんだと思います。

中村
メンバーの中で唯一、マーケティングディレクターの中村です。
僕はこれまで、商品開発や事業開発、統合情報戦略といったことに関わってきました。最近ではデータやデジタルによるマーケティングの進化といったことに取り組んでいます。また、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターにも所属していまして、先端技術研究などの、グループ横断型のプロジェクトなどで活動しながら、デジタル・システム・メディアを俯瞰したプランニングを行っています。

普段は、左脳的な思考に浸かっていることが多いですが、最後に人を動かすクリエイティブの重要性も再認識していて、「仕組み」と「仕掛け」両方のバランスが重要だと痛感していたところ、「TEKO」に誘ってもらいました。すごくいいタイミングだったなと思っています。

原田

原田です。TBWA\HAKUHODOのスタートアップスタジオ「QUANTUM」に出向しています。

「QUANTUM」ではベンチャーから大企業まで、幅広く新規事業開発の支援をしています。そこで僕はチーフクリエイティブオフィサーとして、プロダクトデザイナーやエンジニアと同じチームに入り、ビジネスアイデアを立案するだけでなく、事業ビジョンやコンセプト策定、商品開発、サービス開発までを、クライアントと一緒に行っています。

「TEKO」では、僕なりの商品開発やサービス開発の視点を活かして、クライアントの中にあるビジネスアイディアの種を、実際の形にするフェーズで力を発揮できるといいな、と考えています。

吉澤
吉澤です。
2016年にロンドン・ビジネススクールのSloan MSc(修士)というプログラムに留学し、事業戦略やイノベーションについて学んできました。現在はブランド・イノベーションデザイン局に所属しています。少子高齢化、グローバル化などにより、今までのやり方では解決策が導き出せなくなっている企業に対して、デザイン思考やスペキュラティブ・デザイン~解決ではなく問いを提示するやり方~でイノベーションを起こし、企業の事業開発や組織変革などを支援していこうとしています。

博報堂は、すごくフラットで越境しやすい組織だと思いますが、それでも領域がどんどん拡張し、複雑化しているので、サイロ化が進んでいるのではないかという危惧も感じます。
その点、ここにいるメンバーは、全員が“博報堂20年選手”なので、各々が異なる社内リソースを持っています。ですから、メンバー内で議論するだけで、「何と何を」「どう」組み合わせれば最良のフォーメーションになるか、短時間で答えを導き出せると思っています。とてもいい座組だと考えています。

-なぜこのメンバーになったのですか。

大澤
最初に声をかけたのは原田くんでしたが、そのころ話していたのは、さっき市耒くんが言ったような「全てのフィールドにおいてクリエイティブディレクションできるチーム」、「企業の活動全体をクリエイティブできるチーム」を作りたいね、ということでした。そのためには当然ながら、得意技が異なる顔ぶれで集まるしかないわけです。そうやって誰に声をかけるか、相談していました。

原田
そうだったね。
もちろん、ここにいる全員が、広告クリエイティブのプロなわけですが、これだけ得意領域が違うメンバーが集まると、それぞれが広告で培ってきたクリエイティビティをベースにしながら、幅広く事業に関わっていくことができるはずだと思っています。僕は普段から商品開発をしていますし、大澤くんはインナーや流通に深くかかわっています。中村くんはデータとクリエイティブ両面の視点を、吉澤くんは留学もして経営視点・事業戦略視点を持っています。市耒くんは社会や世界といった視点で日々の仕事をしています。それぞれの視点を融合すると、これまでとは違うものがつくれるんじゃないかと思ったんです。それに、全員がクライアントのCEOと対峙しているメンバーなので、5人とも経営者視点に立って、広告・マーケティング・コミュニケーション領域までを一気に見ることもできるはずです。

大澤
当たり前のことなんですが、経営者の方とお会いすると、広告会社が考えるような区分~広告会社の組織、機能単位~で物事を見ていません。そんな方々のオーダーに、ワンストップで応えるためのシンプルなソリューションが、「TEKO」なんだと思っています。今の世の中は「体制を作るのでお待ちください」と言えるような悠長な時代ではありません。スピード感も大切だと思います。その結果が、異なる強みを持つ「5人」というコンパクトな規模になった理由です。

co-direction(コ・ディレクション)が、新しい価値創造を可能にする

―融合することの強みとは何だと思いますか。

中村
僕がマーケティングディレクターとして強く感じているのは、博報堂のマーケティングは、「世の中に何を生み出すか?」というクリエイティブの領域と常に一体であるということです。これが、コンサルとは大きな違いだと思います。博報堂には日々増えていく膨大なデータがあり、もちろん、その分析を進めてはいますが、分析するだけで世の中が動くわけはありませんし、それでは、「博報堂のマーケティング」ではなくなってしまいます。それはデジタル、テクノロジーも同じことです。データやデジタルを、世の中を動かすエンジンにするためには、もっと右脳と左脳の世界をごちゃまぜにする場が必要です。それを小規模で濃くやれるのが「TEKO」なわけで、こういう場に身をおいたら絶対面白いだろうと思っています。データはデータとして冷静に見なければいけませんが、同時に必要なのはジャンプすることです。これを一緒にできる“右脳の人”と一緒に考えていくことが、今の時代はすごく大事だと思います。ですから「TEKO」では、時代に合った、博報堂らしいマーケティングとジャンプを同時に行う活動ができれば、と考えています。

吉澤
そうだね。僕がいるブランド・イノベーションデザイン局でも、今はイノベーション領域を強みとするコンサル系の会社と競合することが多くなっていますが、そこでは、広告会社ならではのケイパビリティは何か、ということが問われるわけです。中村くんが言う「ジャンプ」と同じことだと思いますが、僕は広告会社には「価値創造」に強みがあると思っています。オプティマイゼーション(効率化)していくだけではなく、その先にあるジャンプ~クリエイティビティや新しい価値観を提案できることが、僕たちの価値だと思います。

市耒
ちょっと抽象的になってしまいますが、いまAIとかIoTとかビッグデータとか、クリエイティビティ以外の部分がものすごい勢いで加速化しているなかで、「本当の意味でのクリエイティビティって何なのか」を、僕らの世代が再定義しないといけないと思うんです。その意味でこの5人は、「その企業が何のために存在しているのか」「その商品やサービスが、どういう物語を世の中に書けるのか」などを、色んな角度から話せる集団だと思うんです。今は5人のクラフトマンシップの融合ですが、将来もっと大きなクラフトマンシップの集合体に昇華していけば、広告業界はもう1回カッコよくなれるような気がしているんですよね。
もっと言うと、10年後に博報堂は「広告会社」から脱皮して、「クリエイティブエージェンシー」と呼ばれることが理想なのかもしれない、とも思っています。イノベーションを起こすとか、経営を再建するとか、プロダクトを作る、インナーを活性化する、イベントをプロデュースする・・・全てがクリエイティブですから。そんな“脱皮”のプロセスの一助に、「TEKO」はなれるんじゃないか、って思っています。

吉澤
確かにそうだね。そういう大きなことをやろうとすると、やっぱり個の力じゃなくて、チームクリエイティブじゃないとだめだと思うんです。だからこそ、co-direction(コ・ディレクション)が重要になってくる。ここ10~20年の広告業界は、個人で名を売って世に出ようというような風潮がありましたが、僕は、もう一度、「チームの時代」に戻るんじゃないかなと思っています。あらゆるクリエイティブのケイパビリティを持っている総合広告会社にしかできないこと、チームにしかできないことが増えていくような気がします。「TEKO」は色んなかたちのco-directionをやっていければいいですよね。必要に応じてデュアルでもトリプルでも、もちろん全員でも。

大澤
そうだよね。今はクライアントの課題って、複雑化し、拡がっていく一方だから、1人でディレクションできるCD、MDっていないはずだと思うんです。領域はどんどん広がっているのに、個々の難易度も上がっているので、1人で応えていくことは、もはや無理なのではないかと思います。だからこそco-directionの時代かな、と。
あと、co-directionにはもう1つ楽しみなことがあります。それは、これまではAというCDがチームを率いると「Aさんらしいアウトプット」って言われましたが、それが、co-directionになるとどうなるのか、ということです。AとBのco-direction、AとBとCのco-direction・・・と可能性は無限に広がっていくので。これも「TEKO」の新しいチャレンジだと思っています。

企業活動全体にクリエイティブを投資する

-「TEKO」という名前の由来は。

原田
色んな候補があったのですが、最終的に、「僕たちがやろうとしていることは、“梃子”のように、クリエイティブで企業活動全体をレバレッジ(leverage)するということだね」ということになって、こうなりました。短くて覚えやすい、“テコ”という響きがカワイイ、ということもありましたが(笑)。
今までの広告ビジネスはコミッションとフィーで、働いたら働いた分だけもらえるという構造だったわけですが、これからは「投資をする」という考え方も必要なんじゃないかと思っています。僕たちのクリエイティビティをクライアントに投資することで、企業そのものや商品、サービスの価値が上がる。その結果、リターンも何倍になる…そういうことを目指していかなきゃいけないはずです。一見小さくても、クリエイティブには企業の価値を大きくレバレッジする力があります。そんな“梃子”のような働きをしたい、と思ってこの名前に決めました。

―「TEKO」でやっていきたいことは。

中村
僕は、発注を受けて広告の領域だけを担当する仕事と、クライアントと一緒に、経営全体に関わっていくような仕事では、世の中に広まったときの喜びが全然違うと感じます。そして、実際にそういう仕事が増えてきていますし、今後はCDやMDの役割がますます広がっていくのではないかと思います。「TEKO」がそんなニーズの受け皿になって、僕たちの価値、広告会社の存在価値を大きくしていけたらいいな、と思います。

原田
僕は、エンジニアやプロダクトデザイナーを率いているので、今までは「メディアに乗って」日本中、世界中に届けられていたアイディアが、「プロダクトやサービスに乗って」届くことにチャレンジしていけたらいいな、と思っています。100万人にCMを見てもらって届けていたことを、100万個のプロダクトで届けられるようになれば、と。「TEKO」ではそんな取り組みの起点を作っていければ、面白いと思っています。

市耒
イノベーションを起こすためには、異なる言語を話す専門家同士が、決して低い握手をせずに、互いにプロフェッショナリズムを戦わせることが、すごく大事だと思うんです。だからこれだけプロフェッションが異なる5人が集まれたというのはすごく面白い。クリエイティブディレクター、マーケティングディレクターだってイノベーションしていかないとだめだと思っていたところでしたし、「TEKO」というこの取り組み自体が、これからの時代のクリエイティブディレクター像、マーケティングディレクター像になっていくかもしれない、と思っています。気が合う者同士というわけではなく、この、半端なくバラバラな5人(笑)が集まったらどんなことが起こるのか、すごく楽しみです。

吉澤
今、企業によってはマーケティングが「コスト」でしかなくなってしまっていて、そういう会社では、業績が悪くなるとその「コスト」は圧縮されてしまいます。クライアントの成長と僕たちのビジネスの成長が一致していないわけで、それに非常にジレンマを感じています。ですから、企業が成長すると、僕たちのビジネスも成長していけるような、スキームを作っていきたいと思っています。たとえば、クライアントと一緒に新規事業を立ち上げる、あるいはジョイントベンチャーを組んでみる、みたいなことです。「TEKO」では、クライアントと僕たちの成長を同期させることにチャレンジしたいと思っています。

大澤
「TEKO」のメンバーは、自分たちのクリエイティビティで企業の価値がぐんと上がったり、世の中が変わったといった成功体験を、みんなが持っています。例えばコピーライターが書いた一言で不振だった商品がよみがえったり、デザイナーが作ったインナーポスター1枚でクライアント全体が変わったり・・・、ということです。そういう時って後で考えてみると、目の前の課題だけを見るのではなく、俯瞰して全体を見ることができているものです。そして、その課題に一番効くところを、クリエイティブしているな、と思います。

変な言い方かもしれませんが、梃子の原理と同じで、“クリエイティブポイント”が課題そのものから遠ければ遠いほど、大きな効果が出る、ということな気がします。「高くて売れないから値下げする」のは、課題しか見ていない解決方法ですが、視野を広くしてみると、商品をリニューアルしたらどうか、流通を見直したらどうか、あるいは企業イメージそのものを変えてみるのはどうか、など、色んな方法が見つかります。
「TEKO」では、クライアント全体を俯瞰して、どこをクリエイティブするのか、から考えるスタイルで取り組んでいき、クライアントにとっても、博報堂にとっても、僕たちのクリエイティビティに大きな価値があることを、5人で立証していきたい、と思っています。

■プロフィール■

大澤 智規
株式会社博報堂
エグゼクティブクリエイティブディレクター
TEKOリーダー

1996年博報堂入社。SPセクションに配属され、自動車・飲料・金融・流通・保険などのプロモーションプラニングに従事。その後、マス広告、Web、店頭施策、イベント等にも携わるようになり、クリエイティブディレクターとして大手企業の統合コミュニケーションを多数担当。
現在では、マーケティング・コミュニケーション領域を越えて、新サービス開発や流通・インナー施策など、生活者に商品を「届ける」領域を中心に、企業活動全般のクリエイティブディレクションに活動の幅を広げている。

原田 朋
株式会社\QUANTUM
チーフクリエイティブオフィサー
DECs代表

1996年博報堂入社。博報堂、TBWA\HAKUHODO、ロサンゼルスのCHIAT\DAYで大手グローバルブランドのクリエイティブディレクション、コピーライティングを担当。
現在は、新規事業支援を行う博報堂グループのスタートアップスタジオ『\QUANTUM』にて、Designer, Engineer, Creativeの『DECs』チームを率いる。事業ビジョンやコンセプトの策定に止まらず、エンジニアやプロダクトデザイナーと協働するスタイルで商品、サービスを開発する。

吉澤 到
株式会社 博報堂
シニアクリエイティブディレクター

1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして大手飲料メーカー、トイレタリー、自動車、生命保険会社など幅広い業種のマーケティング戦略・ブランディング、ビジョン策定、商品・サービス開発、組織変革などに従事。また、グロースステージにあるベンチャー企業の事業戦略支援、地方病院のコンセプト開発などユニークな領域での実績も多数。2016年英国ロンドンビジネススクールにてSloan MSc(修士)を取得。
現在はクリエイティブディレクターとして企業の変革を経営戦略とブランディングの両面から支援している。

市耒 健太郎
株式会社博報堂
シニアクリエイティブディレクター
「恋する芸術と科学」ファウンダー兼編集長

1998年博報堂入社。広告領域を超えて社会全体におけるイノベーションデザインの必要性を提唱するメディア『恋する芸術と科学』編集長。美術から音楽、建築、プログラミングまで多岐にわたるメンバーで構成される『恋する芸術と科学』デザインラボを創設、理性と感性の衝突による革新的なデザインプロジェクトを、多くの企業経営陣や自治体と実施。
自然科学系の大学や美術大学とのコラボレーション多数。2014年より世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーズに選出され、活動を世界に広げている。

中村 信
株式会社 博報堂
シニアマーケティングディレクター

1999年博報堂入社。マーケティングセクションに配属後、さまざまなクライアントの事業・商品開発、キャンペーン戦略に従事。特に、統合情報戦略に関する業務を多く担当し、マス〜WEBまで一貫したコミュニケーションを多数手がけてきた。また、adtech等の公式セッション、日本マーケティング協会の講師など、豊富な登壇実績を持つ。
現在は、デジタル、データを使ったマーケティングに従事する一方、博報堂DYホールディングスのマーケティングテクノロジーセンターを兼務し、デジタル・システム・メディアを俯瞰したプラニングを行っている。