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【Creator’s Interview】 「ブランドに帰結する‘読後感’を残すことに徹底的にこだわる」(奥山雄太 統合プラニング局/SIX)

2017.11.21
今年も博報堂グループが手掛けた多くの作品が、さまざまな広告賞を受賞しました。その中でも、奥山雄太(博報堂統合プラニング局/SIX)がクリエイティブディレクターとして手掛けた「GRAVITY CAT」(※)が高い評価を受け、「ACC東京クリエイティビティアワード」フィルム部門グランプリ、「カンヌライオンズ」「ワンショー」「クリオ」の世界三大広告賞すべてでゴールド、「ニューヨークフェスティバル」フィルム部門グランプリ及びブランデッドコンテンツ部門グランプリ、「スパイクスアジア」エンターテインメント部門グランプリなど、国内外で多くの賞を受賞しました。
入社9年目で、今年最も輝いたクリエイターの一人である奥山に、受賞に関すること、仕事に対する姿勢について聞きました。
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメントから発売されたゲームソフト『GRAVITY DAZE 2』の発売プロモーション映像

神は細部に宿る

―博報堂に入社したきっかけは?
昔からファッションが好きで、大学ではファッションショー団体を設立し、自分でミシンを踏んで服飾作品をつくったり、ファッションショーを企画・演出・運営していました。その中で、「コンセプトをつくり、どうしたら人に伝わるのか考え、形にする」ことのおもしろさや難しさを知りました。広告もどうやら似たような仕事らしい、ということを知って、博報堂のインターンを受けたのがきっかけです。

―始めはCMプランナーでしたね。
コピーライターとして配属され、CMを専門とする”師匠”の下についたので、ひたすら15秒30秒のテレビCMを考える毎日でした。企画の考え方から、絵コンテの描き方、映像編集の考え方、演出家やプロダクションとの協働のしかたまで、職人芸を叩きこまれました。あとは映像に苦手意識があったこともあって、カンヌやACCの受賞作品をひたすら見て、映像の話法のようなものを自分なりに分析していましたね。

―今年は奥山さんにとって、輝かしい年でしたね。特に「ACC 東京クリエイティビティアワード・フィルム部門」でのグランプリは博報堂にとって久々の受賞となりました。この成功の理由は何だと思われますか?
フィルム部門の審査委員長の澤本さんが「広告のオンラインムービーも、手間をかければ、ここまでのエンターテイメントができるという可能性を見せてくれた」というようなことをおっしゃっていましたが、ひとえに、ちょっと無謀な企画を妥協せず丁寧に丁寧に作り上げた、ということかなと思います。

―どのように作っていったのですか?
企画が決まってから納品の瞬間まで、1点でもあげられるポイントはないか、足掻きつづけていました。企画の時点で、演出は絶対に柳沢監督がいいと決めていたので、長文のお手紙を書いて口説いたり、演出コンテの打ち合わせは4〜5回やって何度もブラッシュアップしたり、撮影前日まで「コピーをこうして、ストーリーをこう変えた方がいいのではないか」と監督にメールしたり、撮影現場でも新しい演出アイデアを提案したり。

水道が逆さに流れ、タオルが逆さに落ちる流れのアイデアは現場で思いついたものですが、「ここが好き!」と言ってくれる人も多いので、粘ってよかったなと。撮影後も、3フレくらいしか映らない本の中身やら背表紙やら、小道具の合成デザインやら、スマホの時計の時間設定やらについて、その必然性を議論しつづけたり。さすがにそのあたりは受賞とは関係ないと思いますが(笑)

―すごくディティールにこだわったのですね。
「神は細部に宿る」と思います。また、ディティールにこだわること自体も大事なのですが、そうした細部のバグに気づけるレベルまで思考がめぐらされているか、考え抜けているのか、ということが大事なのかなと思います。
チームにも恵まれていました。エージェンシーチームもプロダクションチームも、そうしたディティールを詰めつづけることがこの作品をよくすると信じていて、粘りつづける空気があった。クリエイティブから監督からプロデューサーまで、30代前半の若いチームなのですが、そんなチームならではの同世代の熱量みたいなものが、フィルムに宿ったのではないかなと思います。

ブランドに帰結するような“読後感”にこだわる

―ご自分の得意技、必殺技はありますか?
必殺技…(笑)そんな大それたものはないですが、基本的に心がけていることは「翻訳」、ですかね。

―ここでいう「翻訳」とは?
ブランドの価値やプロダクトの魅力を見つめて、体験コンテンツへと翻訳すること。言い換えれば、ブランドの価値を「伝える」より「伝わる」、「伝わる」より「感じる」コンテンツの形にして世の中の人々に届ける、ということです。
例えば、上手な外国語通訳は、話した言葉をその他の言語に訳して「伝える」だけでなくて、言葉のニュアンスや空白、その人の想いや人格をくみとって、相手に「伝わる」ように「感じてもらう」ように訳しますよね。それと同じで、ブランドの価値にも、定義やコトバにおさまりきらない、ブランドのスピリットだったり、たたずまいだったり、人格だったり、シズルだったりと、非言語的なものを多く含んでいる。それをあますところなく、コンテンツへと翻訳して、ブランドの価値を直感的に感じてもらい、体験したあとにそのブランドならではの読後感を残すように設計するのが、翻訳クリエイティブの腕の見せどころなのかな、と。

―「コンテンツ」という言語にして通訳する、ということですね
そうですね。ブランドの価値は“直訳”したコトバにすると、少し難しかったりわかりにくかったりするのですが、それを世の中の人が理解できて、興味をもてたり、共感できたり、おもしろがったりしてもらえるコンテンツに翻訳する、みたいなことです。

―「GRAVITY CAT」の場合は?
このゲームの魅力は「重力が変化する体験」で、それによって「現実世界の法則や常識から解放される」こと。そのゲーム体験を身近な現実世界に置き換え、リアルな主観ワンカット映像にすることで、「重力が変化する体験」の魅力を直感的に擬似体験してもらう、という狙いです。主役の大学生が卒論に悩むところからスタートして、重力体験のあとに新しい卒論テーマを思いつくストーリーも「固定概念や常識からの解放」というゲームの魅力をテーマに作っています。

―「『猫動画』がネットで流行ってるから」ではないんですね(笑)
話題化がミッションだったので、もちろんそういう視点もあります。ただ、子猫はゲーム内でも主人公をナビゲートする相棒として登場するので、映像で描いている設定がゲーム内容とシンクロしているんですね。最近のオンライン動画は「ネットの流行りものフォーマット」を流用する手法が増えていますが、それがブランドや商品ときちんと結びついていなかったり、視聴後にそのブランドらしい読後感になっていないと、意味がないなと。自戒をこめて。

手を動かすことで、頭を動かす

―他に、企画の仕方などで、必殺技はありますか?
だから、必殺技はないです(笑)ただ、武器になってるなと思うのは、僕が有能なマッカー(Macを使うオペレーターのこと)だということかな。

―Mac はどのように使っているのですか?
IllustratorもPhotoshopもKeynoteもPremiereも使います。企画でも、ヴィジュアルでも、コンテでも、頭が煮詰まったら手を動かしてみて、企画書やイラレをごにょごにょしてみる。そうしているうちに、自分の頭でぐちゃぐちゃになっていたものが整理されたり、ヴィジュアルにインスパイアされて新しいアイデアを思いついたり、と、手を動かすことで頭が動く、みたいなことが多いです。
映像の編集でも、違和感があるけどうまく言語化できずにプロダクションチームに伝えられなかったときなどは、自分で手を動かして検証してみると、なにに違和感があったかクリアになったりする。もちろん自分が編集したものを見せるなんて失礼なことはしませんが。あとは、フォントを選んだり文字組したりするのが好きなので、映像内で使うテロップは自分で組むことも多いです。

―監督や制作会社スタッフと有意義なやりとりができますね。
自分で手を動かした経験があると、プロダクションスタッフと近い目線で、アウトプットの具体的なディスカッションができるので、その点は僕の武器になっているのかもしれないです。

受賞で、自分自身に課すハードルがあがった。 それがよかった。

―受賞して良かったことは?
世界のレベルを知ることができたこと、そして、それを意識するようになったこと。これまでは、世界のアワードを受賞しているような作品を見ても「いつかチャンスの仕事で、こんなすごいものをつくってみたいな」くらいの、どこか目の前の仕事と関係のない存在に思っていましたが、そうした世界のレベルみたいなものを、普段から意識するようになる。「ちょっとだけいいのができるかも」くらいでは納得しなくなるので。

―自分へのハードルがあがったのですね。
賞を常に意識して仕事しているわけではないですが、ときどき「この企画で、この仕上げで、世界に通用するものになりうるのか」と自問自答してみる。そうした、自分のなかに高いハードルやものさしを持っておくことは、日々の仕事の質をあげるきっかけになるのかなと思います。

―賞をめざす、若いクリエイター達に何かひとこと。
気づけばもう32歳ですが、僕もまだまだ若いつもりだしみんなライバルなので、他の人が褒められるのは心地よいものではないので、賞なんて獲らないでくださいっていうのが、正直なところですが(笑)
デジタルやオンライン動画の時代になって、低予算の小さな仕事でも世の中で話題になりやすく、若手が目立ったり賞を獲ったりするチャンスは、昔に比べると格段に増えているのだろうな、と感じます。その分、同世代が突然チャンスをつかんだ姿を見せつけられて、嫉妬と焦燥にかられることも多い。
賞を獲った人が漏れずに言うことなので、僕も言いますが、賞はオマケです。が、賞によってそういった感情が生まれ、インスパイアしあって、新たなうねりみたいなものを生みだし、若い世代から刺激的なものや面白いものが生まれていくのだとすれば、それはエキサイティングなことだなと思います。まぁでも、やっぱり、他人が褒められるのは嫌ですね(笑)

奥山雄太(おくやま ゆうた)

1985年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。
CMプランナーとして育った知見と技術を生かし、映像のストーリーデザインからコミュニケーションのストーリーデザインまで、エモーショナルなエンゲージメントに取り組む。「GRAVITY CAT / 重力的眩暈子猫編」で世界3大広告賞すべてで金賞を受賞するなど、これまでに6のグランプリを含む50以上の国際賞を受賞。2017年5月より、SIXに複属。

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