博報堂は、全国の各地域で、地域が抱えるさまざまな課題解決のサポートをおこなっています。その中心となっているのが、2015年に誕生した「地域創生ビジネス推進室」です。
本連載では、地域創生ビジネス推進室を中心に地域創生に携わるメンバーがリレー形式で登場、それぞれの活動内容や地域の魅力、大切にしている想いなどについて語っていきます。

5回目に登場するのは、北陸博報堂富山支社の開上真樹支社長。富山県氷見市発のイベント「トトタベローネ」が全国規模に育った背景や、「地方創生」について広告会社として抱く想いなどについて聞きました。

博報堂DYグループの協業とスピード感で、瞬く間に全国規模に広がった「トトタベローネ」

僕が博報堂に入社したのは2001年、当時はまだ博報堂北陸支社富山営業所という時代でしたね。当時は酒造メーカーや銀行をメインのクライアントとして、全部で4~5人くらいで回していたような規模でした。仕事に慣れるうち僕も何か新しいことをやりたくなって、新たに地元の電力会社を開拓することになります。前職でも地元の広告会社にいたので、アイデアはたくさんあった。「このデータによると他地域はこうですよ」とか「年間の出稿を調べてテーマ性を持った広報計画にしてはどうですか」など、とにかくいろんな提案を持っていったところ、少しずつ信頼していただけるようになり、2003年にはその電力会社のブランディング業務を指名で受けるようになりました。東京のクリエイティブのチーム、マーケティングのチームとも一緒になって、どんどん僕自身の業務の幅が広がっていった時期でしたね。それからも、電力会社や銀行、あるいは百貨店など、地元のクライアント企業のPR、コミュニケーションの仕事に携わってきました。
氷見市が行う日本財団の「トトタベローネ」というイベントの運営事務を担う話が富山支社に舞い込んできたのは2015年のこと。ミラノサローネをもじって名付けられたこのイベントは、氷見発の魚食文化推進プログラムで、博報堂本社の発案で始まりました。日本各地が魚食文化を発信し、ゆくゆくは全国展開を行うことで互いにつながっていこうという構想が練られていました。当社は早速地元の新聞社にも協力を仰ぎ、もともと氷見で開催されていた「氷見まつり」の前夜祭として「トトタベローネ氷見」を開催しました。主催の日本財団の意向もあり、“子どもの教育に役立つ文化発信コンテンツとする”といったお題もあったので、たとえば地引網の見学体験やバーベキュー、海岸のごみ拾い、水鉄砲で遊ぶなど、子どもたちが地元の海で遊び、文化に触れ、学びにつながるような内容になりました。


トトダベローネの様子

当社が参加して最初のトトタベローネが開催されたのが2015年。2年目の2016年には石巻市でも開催。そこには氷見市から10人くらいの子どもたちを案内し、交流を図ったり、グッドデザイン賞をいただいた東北博報堂の「泳ぎ寿司」(http://ishinomaki-6jika.jp/swimming-sushi/)を見てもらったりしました。

そして3年目となる今年、石川、青森、愛媛、富山、山口、長崎、高知と、全国7カ所の魚食文化発信地に当イベントが派生することに。当社は各地方自治体、地元の漁協や商工会などとの調整作業を行いながら、イベントの運用・広報計画を設計、事務局として全体統括を行うほか、公式サイト制作やプロジェクト推進のための各種クリエイティブツールを制作。各地域におけるパブリシティ増幅を図りながら、プロジェクトの推進と拡散に努めています。ちなみに情報拡散のベースとして制作した「インスタ魚ラム」も好評なので、ぜひ一度ご覧ください(笑)。
こうして今年、氷見発のイベント「トトタベローネ」を全国開催まで発展させることができたのには、博報堂DYメディアパートナーズとも協業し、各地の放送局の協力を仰ぐことができたことが大きかった。地方局とのスムーズな連携が可能になったのも、博報堂DYグループならではの協業体制とスピード感があってのことだと思います。

地元との関係づくりは最重要事項であり、最大の課題

実際、地元の方々に対してイベントの話を持っていくときは、「こんなことやったって人は来ないよ」なんていう反応も多いんです。でもたとえば、青森の浅虫という町でやった際は、2日間で5000人が集まった。地元の方は大喜びしてくれて、来年もぜひやろうと言ってくださって。やはりどうしても、基本的には“よそ者”なわけですし、広告会社のイメージなどもあって、最初は敬遠されがちなんですね。でもそこで地道にコミュニケーションを続け、熱意をもって周囲を巻き込んでいき、実施までこぎつければ、そうやって喜んでいただくことにもつながる。それから、我々のような広告会社ではなく地元の新聞社や放送局が前面に出ると、だいぶ印象が変わるというのもあります。メディアに載り、自分達の活動をちゃんとPRしてくれるんだ、と思うと、やっぱり協力体制ができるのも早いですね。そうした地元との「関係づくり」というのは、実際には僕らの仕事の最大の課題かもしれません。でも同時に、僕らの仕事の一番の肝でもある。最初はほんの小さなアイデアの芽でも、地元のいろんなものを巻き込むことができたら、大きな塊に育っていくはずなんです。
やっていて実感するのは、新しいものをぽんと投げ込んだとしても、そう簡単には響かないということ。もともとある共通価値みたいなものをベースに一緒にやっていくことが必要なんだと実感しています。確かに「トトタベローネ」とだけ聞いても、地元の人にとっては「何それ?」となってしまうのはわかる。まったくの外国語と一緒ですから(笑)。でもおしゃれなデザインやコピーでパッケージにすると、全国にどんどん広がっていくこともできるんです。そこの山をどう越えるかがいつも課題ではある一方で、それこそが広告会社の役割であり、力であるとも思うんです。時代や地域、企業への“目利き力”でもって、ビジネスとして発展性が見込めるものに投資をしていく。地域の魅力を見つけ出し、コンテンツとして開発していく、あるいは課題解決につなげていく。それにより地元企業の利益拡大が図れれば、地域の活性化にもつながっていきます。広告会社はせっかくいいノウハウやアイデアを持っているので、ぜひ活用してほしいと思いますね。


トトタベローネ コンテンツのアイコン

これからますます求められるのは、地域をもう一度見直し、発信していくこと

「地域創生」というのは、おそらく「地域をもう一度見直すこと」なんだと思います。たとえば北陸新幹線ができたとき、ここに住む人たちの意識は明らかに変わりました。それまで立山や黒部は、地元にずっとあるもので、いいとは思っていたけれど、どれほど魅力ある資源なのかは考えていなかった。でも北陸新幹線開通をきっかけに、メディアなどを通じて外からの視点に触れるようになり、改めて僕らが住むこの地の良いところ、価値のようなものに気づくことができたのではと思っています。富山に限らず、石川も、福井もそう。僕らはもう一度僕らなりに、地域にあるものを見つめ直す必要があると思う。そしてそこで頑張っている人たちの存在に触れれば、彼らを応援したくなる。それがいわゆる地方創生につながる大きな動きになっていくと思っています。

僕自身、地域のことを想い、広告会社が地域に貢献できることは何かをつねに考えています。これからはインバウンドやデジタルシフトも起こるなか、地域はますます多様性が求められていきます。だからこそ、地域の独自性をつくり、そして発信していくことの重要性は高まっていくはずです。僕たち地域の広告会社ができること、そして求められる役割はますます拡大していくだろうと思います。

■プロフィール■

開上真樹
北陸博報堂富山支社長

2001年から博報堂北陸支社富山営業所(現・北陸博報堂)で勤務。営業職で電力会社や地方銀行を中心に県内企業のブランディングに携わっている。その他、官公庁を担当し、北陸新幹線開業PR、行政広報を多数手がける。

■チイキノベーション! バックナンバー

VOL.4 広告会社として、母として新潟の未来を考える(新潟博報堂 岩城由香)

VOL.3 東北に選ばれ、東北を動かす仕事を目指したい(東北博報堂 佐藤雄一)

VOL.2 中国四国を舞台にクリエイティブな地域ネットワークを構築(中国四国博報堂 我那覇健一)

VOL.1 広告会社だからできる。未来のための地域づくり(地域創生ビジネス推進室 山口綱士)