博報堂研究開発局と、体験型アトラクションの企画・制作を行う株式会社プレースホルダが、AR・VR領域における共同研究を開始しました。
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ブランドへの継続的なファン効果を促すアトラクションと、博報堂が追求する生活者の体験づくりは、どんな相互作用を生み出すのか。両社の共同研究のきっかけ、8月末に博報堂社屋で開催された社員家族向けオフィス開放イベント「Open!SUNDAY 2017」におけるパイロット企画「Spray Painting/デジタル落書き」の振り返りや今後の展望などについて、博報堂研究開発局の福世、木下、道堂とプレースホルダ代表取締役の後藤さん、施設運営部の一色さんが語り合いました。

異例のスピード感で、とんとん拍子に進んだ共同研究契約

後藤:私たちプレースホルダは、昨年の9月に設立、ARやVRをベース技術として活用しながら、基本的には子ども向けの体験型アトラクションを制作しており、デジタルの最先端技術と、アナログを組み合わせた新しい遊び、学びといったものを追求しています。
もともとは僕がテーマパーク好きということもあり、いまのテーマパークをデジタル主体に書き換えられるか?というところに興味があったんですね。そんななか、近年は保育園や公園、公共施設から子どもの遊び場がどんどん減少しているという事実を知りまして。僕らがかつて享受していたような遊び、学びの機会をなんとかつくれないだろうかと考え始めたのがきっかけで、“子どもが思い切り遊べるアトラクション”を核にビジネスを考えるようになりました。


プレースホルダ代表取締役の後藤貴史さん。

道堂:僕はふだん研究開発局木下グループで、クリエイティブ・テクノロジーの領域で、需要傾向や市場性について基礎研究を行いながら、プロトタイプ開発などに取り組んでいます。
デジタルって、たとえば業務効率を上げる一方で、物事をシュリンクさせていく側面がありますよね。わかりやすく言えばオンラインショップの登場で、人はものを買うのに外にも出なくなり、町の商店がなくなっていっている。でも一番面白いのって、お店に行ったついでに、そこで飼ってる犬と遊ぶといったちょっとした体験だったりする。シュリンクしていくデジタルの世界ではそういうことがないので、面白くなくなると思うんですよね。だから、AR・VRを使って体験を拡張させていくというのは、おそらく人間性を教育、形成していくための一つのチャネルになり得るのかもしれないと考えていたんです。

福世:私は福世グループのマネージャーとして、テクノロジーをベースにしたマーケティング、クリエイティブへの基礎研究、応用研究、それからサービスの適用まで一気通貫で目指すといった取り組みを行っています。
実はプレースホルダさんと初めて出会ったのが、今年の5月末、まったくのプライベート時間に訪れた品川のイベントでした。「品テクマルシェ」というテクノロジー系の祭典だったのですが、とあるブースが大賑わいで、子どもたちの人だかりができていたんですね。みんな笑顔ですごく楽しそうだったので、僕も早速展示を体験させていただいた。そのときに、普段から考えていた「エデュテインメント」――エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)の造語なんですが、そういった楽しみながら学ぶ、体験しながら学ぶことが、まさにこのアトラクションだったら可能だなとひらめいた。そこですぐさま、声をかけさせていただいたんです。


研究開発局 福世グループ福世誠GM。

木下:僕も同じく研究開発局で、ふだんはメディア動向、コンテンツ動向における生活者行動研究といったものに取り組んでいます。生活者のメディアの接し方が最近特に変化していることから、クライアントさんの依頼を受けてユーザーに関するデータや心理状況の分析なども行っているのですが、その結果をもっとデジタルやテクノロジーの部分で拡張させ、何か新しい体験につないでいけないだろうかということをずっと考えていました。
それから、いまは誰もがデジタル、PCやスマホの中で過ごす時間が増えているわけですが、そこでの新しいデジタル体験を提供してくれるソリューションはまだすごく限定的です。一方、コンテンツビジネス研究の過去の成果には、ライブなどのリアルな体験を通してやはり心が動いて、その結果お金を使っていたり、何か新しいコンテンツを触りたくなるということがわかっています。だからこそ、そういうリアルな体験の場に、デジタルな要素を組み合わせたものというのがいまは必要なんじゃないかと思っていたんです。
そんなタイミングで、福世さんが後藤さんと出会ってくれた(笑)。すぐさま共同研究のご相談をしたいと、紹介をお願いしました。


研究開発局 木下グループ木下陽介GM。

後藤:福世さんは週末の昼下がりに、ごくごく普通に一般のお客様として来られていたので、まさか名刺交換させていただいて、こういう結果になるとは思ってもみませんでしたね(笑)。
その後改めて博報堂さんを訪ね、チームの皆さんといろいろとお話をさせていただいて、それからとんとん拍子で話が進んでいった感じです。

福世:具体的には、AR・VR領域における「体験型アトラクション」についての共同研究契約を結びました。両社が保有するアセットを提供し合い、融合することで、クリエイティブ・テクノロジー領域に新たな市場を開拓しようという狙いです。もちろん、研究だけでなく、ソリューションの共同開発等も実施し、企業のマーケティング活動への提案も想定しています。
その契約を進めている中で、たまたまタイミングが合い、オフィス開放イベント「Open!SUNDAY 2017」(日曜日に博報堂社員やその家族が集まり、社内で交流するイベント)があったため、これは良いと、パイロット企画「Spray Painting/デジタル落書き」をお披露目させていただきました。それが8月末のこと。考えてみれば、初めての出会いからほんの2、3カ月しか経ってないですね(笑)。

後藤:ベンチャーとしてはスピード感が非常に大事だと思っているので、とてもありがたかったです。僕らのような設立1年足らずの会社と付き合うとなると、それなりに足踏みをして当然だとも思うのですが、今回博報堂さんがこれだけのスピード感をもって話を進めていただいたのは本当に驚きでした。

子どもも大人も楽しんだ、Open!SUNDAYでのアトラクション

一色:私はプレースホルダの施設運営部に所属しているのですが、実は前職で7年間幼稚園教諭をしていました。なので、その経験を活かし、現在は施設運営にあたって子どもの視点に立って考えたり、私たちがナビゲーターと呼んでいるキャストやスタッフを教育したり、どうやったら楽しく盛り上がるか、満足して帰っていただけるかというのを念頭に指導しています。
「Open!SUNDAY 2017」での「Spray Painting/デジタル落書き」にも立ち会いましたが、子どもたちは本当に楽しそうに遊んでくれていましたね。デジタルを通してスプレーで色を塗る体験なのですが、まずスプレーで色を塗るということ自体、やったことのない子どもがほとんどだったと思うんです。何色と何色を混ぜたら何色に変わる…といったことに夢中になっている様子が印象的でした。


プレースホルダ 施設運営部の一色沙織さん。

木下:そもそも子どもがスプレーを触るのは危険だ、という考え方もありますからね。スプレーで楽しそうに遊ぶ子どもたちを見ていると、いまの子どもは本当に、あれもこれも危ないからやっちゃだめ、という規制に囲まれていて、なかなか新しい体験をする機会に恵まれていないのかもしれないなと実感しました。

後藤:確かに、お客さんによっては危険だから触らせたくないという声もありますし、逆に、家でいたずら描きをされるくらいならこの装置がそのまま欲しい、いくらで買えますか?という声もありました(笑)。

Open!SUNDAYで実施の様子。

道堂:スプレーを使うというアクションもそうですが、プレースホルダさんの企画されるアトラクションは、子どもが自然に、能動的に動けて、楽しめるようになっているんですね。テクノロジー系のイベントって、テクノロジーのための体験というか、そのテクノロジーを活かすために無理やりアトラクションに紐づけるといったことが多いような気がしますが、そうではない。スプレーをすると色が塗れて楽しいとか、砂場で砂を掘っていくと水が出てきて面白いとか、そういう遊びの原型みたいなものがちゃんとある。本当に小さな子が、好奇心のままちょっと触れてみる、押してみる、といった行動がまずできることが、非常に面白いなと思いました。

後藤:それから、現地で気づいたのは、意外と大人の方も子どもと一緒に楽しんでくれていたこと。“家族で楽しむ”という点も、これからの大きな鍵になっていくような気がしています。

可能性が広がる、エンターテインメントとエデュケーションの掛け合わせ

後藤:10月26日(木)には、ららぽーと立川立飛内に期間限定のAR・VRテーマパーク「Little Planet(リトルプラネット)」がオープンしました。AR砂遊びの「SAND PARTY!」、デジタル落書きができる「SPRAY PAINTING」、不思議な塗り絵が楽しめる「DRAW YOUR WORLD」、オリジナル3Dアバターが体験できる「PLANET PORTAL」、デジタル紙相撲の「PAPER RIKISHI」、AR積み木の「LITTLE BUILDERS」などまずは6つのアトラクションを用意しています。そのほか、期間限定のアトラクションやワークショップなど、さまざまなコンテンツを準備中です。ぜひ多くの家族連れに遊びに来ていただきたいですね。

ららぽーと立川立飛内にオープンしたLittle Planet。

木下:実際に目にしてわかったことですが、やっぱり子どもが、すごく素直に何の先入観もなく楽しんでいる。もしかしたらそれに引っ張られるようにして、大人の方も何か心の垣根がとれるような、童心に返って楽しめるアトラクションになり得るんじゃないかなと思いました。これから、いままでにない体験をどんどんつくっていけたらいいなと思いますし、もしかしたらビジネスの現場でも、ワークショップの仕掛けなどに使って、より活発に意見交換を図るといったことにも応用できるかもしれない。可能性はいろいろとありそうですよね。

道堂:ライブというのは、やっぱりその場ですぐフィードバックが来ることが非常に面白いんですよね。ふだん研究開発局のメンバーだけで物事を考えていると、自分の中で思考が凝り固まっちゃうことも多い。今回、こうして実際にアトラクションを手掛けている方々と共同研究できるのは、自分たちの研究内容をリアルな場に反映させ、そしてすぐにフィードバックを得られるという、とても貴重な機会だと思っています。研究自体も、スピード感を上げてやっていければいいですね。

研究開発局 木下グループ所属の道堂本丸。

福世:いまは、単純に子どもの笑顔が見られればいいというステージかもしれません。でもこれから、さっきの話にあったように、大人や、またさらにシニア・シルバー層の方に向けて発展していく可能性があるかもしれません。これから2、3年後には、まったく思いもよらなかったような別のターゲットと別の領域で、こうした体験型アトラクションが利活用されているかもしれない。その可能性の面白さに、この数年は賭けてみたいなと思っています。

一色:私は、唯一幼児教育現場を体験した立場から、これからは子どもたちのお母さん方、保護者の方からの需要といったものも、積極的に取り入れていけるといいなと思います。そうした声にも耳を傾けながら、「ここに来ると自然に遊びながら、楽しみながらいろんなことを学べるよ」といった場にしていけたらいいですね。
「Little Planet」という名前には、ここにはいままでに体験したことのない世界がある、という意味が込められています。スタッフはナビゲーター、お客様はプラネッターと呼んでいて、ナビゲーターがフォローしたりサポートするなか、いろいろなプラネット(惑星)を旅している方がたまたまここにたどり着き、その世界を体験する、というコンセプトがあるんです。そういった世界観も、合わせて楽しんでいただけるといいですね。

後藤:親御さんも、子どもだけを遊ばせて見守るのではなくて、ぜひお子さんたちと一緒に飛び込んで、楽しんでいただけたら。
それから僕自身、エンターテインメントについては多少の知見がありますが、エデュケーションについてはまだまだ足りないところがあります。これからは、博報堂さんとの共同研究という形で、しっかりと両方の知見を貯めていき、エビデンスとしてもきっちりしたものを出し、両社でエンターテインメントとエデュケーションの掛け合わせに挑戦していけたらと思います。

<終>