深谷 信介

スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表

小さな川を渡ると、結界を超えるかのごとく、ただよう空気の質感がすこし変わった。

まちの一番奥にある、ここは集落丸山。まちづくり業界では超有名な先駆的エリアです。
地方創生で有名になったまちがあります。それぞれ事例が紹介され、他の地域はそれを模して自分たちのまちを蘇らせようとしています。古民家宿が複数点在するたった10軒ほどのこの集落には、どんな秘密と奇跡が眠っているのだろう。

行ってみないとわからない
体験しないと腹落ちしない
科学脳より自然体

そんなわたしが、行こうと思いつつ、なかなか行けなかったこの地に導いてくれたのは、やっぱり頼りにしている知り合いのひと。超小型モビリティがキッカケで、その方とはお友達になった。そのひと自ら徹底的な黒子でこの地を支えていることを、ついこのあいだ知ったからだ。普通なら同席できないようなものすごい方は、気軽で身軽でいつも汗をかいている。そんな姿をみていつも思う、ホンモノなひとは清々しい。

<写真1|集落丸山>

山合いを奥深く入ると谷あいになり、田畑も小ぶりになってくる。
「すこし違いますよねっ」
いままでクルマで通ってきた集落と明らかに趣が違う。小さな川を渡った瞬間、そんな会話になった。
「そうなんですよ。ここはこの地域一帯の水を見守ってきた水守さんの集落なんです」

水守〜みずもり〜
田畑しごとにとっても日々のくらしにとっても、水はかけがえのない生命線。
流域全体の集落をまさしく水で守る、そんな重要なおしごとをしていた方々の誇り高き集落。
そういう生業もあったんだっけな。忘れっぽいわたしを、覚醒してくれる。

古民家もすこし大ぶりで屋根が高いなあ〜、なんて思いながら、現地に到着すると地元のお母さんらしき方々が出迎えてくださった。

「ようおいでになりました。どちらから? へえ、いろんなところからいらしてるんですね」
そう、今回も現地集合の7~8名の地方創生ワーカーズ。西から東から、いろいろな想いを秘めながら、この地で出会っています。


<写真2|古民家宿のトタン屋根>

「わたしたちが住んでいた、古いふる〜い空き家を、ちょっと直しただけなんですよ・・・」
この土地の土と木・茅で作られたここらしい水守さんたちの古民家群。少し前までこの地に住んでいたのは4軒だけで、あとはすべて空き家になっていたんだそうだ。
茅葺きを守るトタン屋根の意匠がちょっとお洒落。最近は職人の減少もさることながら、茅葺き自体の技術伝承もかなりむずかしくなっている。そこで、ちょっと素敵なトタン屋根を載せているんだそうだ。地域によって気候によって茅の吹き方が実は違うらしい、その地に根付いている職業なのだ。
なかに入ると、高い天井、黒々としっかりした張りがこの地の暮らしを支えてきた年月を物語ってくれる。カマドがあって、お風呂は五右衛門風呂で回廊があって中庭があって思いの外、日差しが優しく降り注ぐ。
何かすべてがやわらかい。
ここにいると、いつしか自分もこの自然の営みに同化できる気がしてくる。
いい季節に寄らせてもらったな〜。

(左から)<写真3−1|古民家宿_軒先> <写真3−2|古民家宿_かまど> <写真3−3|古民家宿_風呂>

全国各地で古民家のお宿はかなり増えてきている。が、まちや集落内で複数の古民家宿を営んでいる例は、まだまだ少ない。

「お偉い方々もたくさんいらっしゃるんですよ。再生した限界集落って言われてね〜。そんなたいそうなもんじゃないんですけどね。昔のままを、ただ続けているだけなんですよ」


<写真4|水源へ向かう>

「水源の方へも行ってみましょうか?」
「水守の郷ですし、ぜひぜひ」
夏の終わりにさしかかっているものの、今年の日差しはやけにきつい。すぐに汗だくになる。

水源に向かうだけあって、緩やかにすこーし登っているこの小道・あぜみちを歩き始めると、稲刈りが終わった田んぼがひろがっていて、そこここにさっそく稲穂が干してある。お米は天日干しにすると、その美味しさはほんと格別で、機械で水分を飛ばすやり方とはなぜか違うんだな。


<写真5|天日干し>

すこしずつ登っていくと、今度は稲刈り前の田んぼがひろがりはじめた。

「あっ、あそこになにかいる!」
「さぎですよ。みなさんすごいですね。滅多にみられないんですよ」
誰かなにかを持ってるんだ。運がよいな〜。


<写真6|白鷺>

もうすぐ水源、といったところに、なんとお蕎麦屋さんが・・・
駐車場らしき広場には、クルマがたくさん停まっている。
ここはミシュランの星を何度ももらっているお蕎麦屋さんとのことで、お忍びでびっくりするような有名人・著名人が多数訪れるそうだ。
美味しい水はかかせないよね、お蕎麦にも、くらしにも。

汗だくになりながら、とってもいいものをたくさんみることができた。足を運べば足を伸ばせば、まとまった資料とかありきたりの視察では知り得ないことを、いとも簡単に届けてくれるんだ、感動をセットにして。みんなの顔が汗よりも光っていた。

「もっとゆっくりしていったらいいのに〜。まだお茶も出してませんがな」
いつまでもいつまでも、われらのクルマに手を振ってくれるむらの人たちに後ろ髪を引かれながら、まちなかまで戻ってきた。

この崇高な水守の郷、集落丸山に入ってこの地を拓いていった方がいらっしゃる、ワークショップという手法を片手に。自分たちのくらしを、集落みんなで話し合う。話し合う。話し合う。何度も何度も。そんな中ひとことも発言しない、けれど全回出席したおばあちゃんがいらっしゃったそうだ。ただそこにいる、ただただみなの話をだまって聞きいっていた。
みんなが知り得なければ、みんながそうだなと思わなければ、みんながこうするしかないなと腑に落ちなければ、集落単位でなにかをすることはできない。数百年続くコミュニティとは、いかに力強いものなのかを。思い知らされた。この寄り添う・寄り添い合う長い月日を経て、集落内で3軒のお宿を始めることになった。まち上げてのおもてなしがあるのは、このおかげなのだ。


<写真7|篠山宿NIPPONIA>

その地に立てば、まだ見えない何かを感じることが、気づくことができるのかもしれない。
昨日泊まった宿を背に、朝早くまちなかを散策しながらそんなことを思う。

このしずかな時間帯こそ、そのまちがよく語りかけてくれているような気がするのだ。
まちのそこここを気持ちとカメラに収めながら歩いていると、急にパタッとスマホの電源が落ちた。
えっ、たしか満充電だったのに・・・
そしてその夕方にも、また同じところで同じことが起こった。

そこには篠山のお城が、そして深く静かな水を湛えたお堀がつづいている。
水守のひとが、私になにかメッセージを送ってくれたんだろうか?

自然ってなんだろう
当然と必然と偶然が織りなして、諸所の現象が起きるからこそ、自然なんだな〜。
ひとはそこに暮らしている、丹波の美味しい黒豆を頬張りながら、そんなことを考えていた。


<写真8|丹波黒豆>

次回は、かまどです。

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