日本は今、「女性活躍推進」「働き方改革」のまっただ中。その流れを受けて、こそだて家族の働き方、暮らし方も大きく変わりつつあります。しかし、そこはまだまだ過渡期。大小様々なトライ&エラー(という名のバトル?!)を、企業や家庭の中で繰り返しながら、ちょうどいい折り合い所を模索しているところではないでしょうか。
ほどよい時間で、ほどよい仕事量で、ほどよくやりがいもあって、ほどよく効率的にできる仕事。
パパやママが働きながら、ほどよく家事も育児もシェアする家庭。
そんな理想の世界が本当にあるのでしょうか?
そこで、こそだて研では世界に目を向けて、ヒントを探してみることにしました。もちろん国が違えば行政の制度も違う、文化的背景も違う中で、丸ごと真似をすることはできないですが、そこには何かしらの発見、学びがあるハズです。
近所のママ友との井戸端会議にも「へ~、ほ~」はあるのですから!
世界のこそだて家族と井戸端会議。
初回は、就業者の46.8%、管理職の43.6%が女性(※独立行政法人労働政策研究・研修機構 「データブック国際労働比較2017」より)と、女性の活躍が、男性と比べてほぼそん色なく実現されている国アメリカはワシントンD.C郊外に住む家族、Mina & Ken Seat夫妻に話を聞きました。

Mina & Ken Seat夫妻と子どもたち。

夫の“失敗談”よりも、素晴らしいところを褒める!

「日本が謙遜文化だからなのでしょうか?友人家族と集まった時に夫がいる前でも、本人が傷つく可能性がある“夫の失敗談”を話す場面に遭遇することがあります。実は私も結婚当初はそうでした」とミナさん。しかし、アメリカでは夫の愚痴に聞こえるようなことを、本人の前で話すような事は控えるのが一般的。逆に、夫と一緒にいる時は、基本的に夫の素晴らしいところを褒めるようにするそうです。子どもが産まれると、家事や育児の負担が増える中で「協力的じゃない」「分かってくれない」と、ついつい不平不満が増えることがありますが、「愚痴は言わないように心がける」。実はこんなところにも、幸せな暮らしのヒントがあるのかもしれません。

子どもを預けて夫婦二人でお出かけする「クオリティータイム」

ベビーシッターに子どもを預けて夫婦で息抜きにワインを…なんてタレントさんのブログが炎上している日本ですが、アメリカの女性から見ると「なぜそんなことで炎上?」と不思議で仕方がないようです。夫婦の時間を大事にするアメリカでは、夫婦が、それぞれお互いのためを想って時を過ごす「クオリティータイム」という時間があり、定期的に子どもをベビーシッターや友人、知人、祖父母、さらには学生のベビーシッターアルバイトなどに預けて夫婦でおでかけするそうです。「逆にクオリティータイムがないと、アメリカのママは爆発しちゃいますよ!」とミナさん。「夫婦だけで映画を見た」とか「子連れでは行きにくいレストランに行った」という話題も、ごくごく一般的なママ友トークのネタだそうです。赤ちゃんはママといるのが一番、というのがなんとなーく染みついていて、赤ちゃんを人に預けて自分の時間を楽しんでいるママを見ると、羨ましさも手伝ってバッシングが起きちゃう日本と、全く違う育児観を、アメリカのママ達は持っています。

「男だから」「女だから」ではなく、収入が高い方が働けば良いというスーパー合理主義

子どもが生まれ、しばらく仕事から離れて子ども優先の生活になる時がありますよね。そんな時、アメリカの特に若い世代では、男女は関係なく、収入が多い方が仕事をして、少ない方が子育て優先の生活をすれば良い、という合理主義的判断をするそうです。家庭をメインで預かっている人であることを示す「ステイアットホームマム」という言葉があるだけでなく、「ステイアットホームダッド」という言葉があるそうです。日本語で言うところの「主婦」と「主夫」のようなものでしょうか?もちろん、「ステイアットホームマム」も、「ステイアットホームダッド」も、一生ステイアットホームな訳ではありません。「子どもが小学生までは」など、「子育てのために、一時的に」と先を見据えているので、そう呼ばれる事はいたって自然。その言葉に対する偏見は一切ないのです。
この背景には、実はアメリカは保育施設などの国や自治体の補助が手薄だから、という事情もあるそうです。0~4才くらいまでの乳幼児を週5日、1日8時間程度預けようとすると、ひと月12~15万円程度かかってしまう。「男だから」とか言っている場合ではなく、収入が少ない方が子育て優先の生活に切り替え、少しでも保育費用を抑えないと、家計が成り立たない!というケースも。双子とか兄弟児でも、日本のように半額になったりすることはなく、2倍になるのが一般的だそうです。アメリカのこそだて家族も、お金の面では結構苦労しています!

「授乳」も「搾乳」も職場で普通に飛び交うオープン情報

日本では、授乳や搾乳といった話題は、ママ達がひっそりと話すこと。特に乳幼児期は、赤ちゃんとママにとって一番大事なことにも関わらず、なんとなーくパパは蚊帳の外。ましてや職場の男性陣になんて話せることではない!という空気です。ところが、ミナさんが住んでいるワシントンD.C付近では授乳も搾乳も、普通に職場の男性とも会話できちゃうようなオープン情報。授乳期のママ社員にとって、母乳育児を続けるために勤務中に「授乳」や「搾乳」をすることは当然の権利。州によっては母乳育児をしたい母親のために、企業の支援を義務づけているところもあります。驚くことに、搾乳機と保冷機能が付いたリュックも市販されていて、会社で搾乳、保冷したミルクを保育園のおむかえ時に、「これ翌日のミルクです」と保育士に渡すママも大勢います。筆者も以前冬のニューヨークで、保育園のおむかえに来たママが、母乳パックをむきだしの状態で保育士さんに手渡す姿を見た時には、衝撃を受けましたが、あちらでは、割と気にしないようです。日本でもグローバルカンパニーなどごく一部の企業で「社内搾乳室」が設置された、というような先進事例がありますが、一般的にはまだまだ「母乳で育てたいけど、仕事復帰するなら断念せざるを得ない」とか、「トイレでこそこそ搾乳…」と、職場には相談できずに悩んでいるママ達が多いのではないでしょうか。

家族全員で夕食を食べることを前提としている社会

ミナさんが、最近日本人の友人と話していて一番ギャップを感じるのが、相変わらず育児はママがメイン、パパは遅くまで仕事をするのが当たり前という日本の状況です。「『家族一緒に夕飯を食べる生活は日本ではなかなか考えられない』って、よく聞きますけど、アメリカでは可能な限り家族で一緒に夕飯を食べるのが普通。家族がリラックスして顔を合わせられる、一日で一番楽しい時間なのに、仕事が理由でそれが出来ないというのは残念だなと思います。わが家だけが特別、というわけじゃないですよ。私たちが住んでいる地域はいわゆる中流家庭のエリアで、共働きの家も多いですが、大体朝8時台に出ていったクルマが18時台には戻ってくる。みなさん、夕食は家族一緒に食べるのが当たり前という感覚を持っています」とミナさん。夕食は家族で食べるもの。そのたったひとつのことが社会で共有されているだけで、働き方も大きく変わってきます。

多様なワークスタイルを可能にする「コアアワーズ」という発想

育児だけでなく、介護などの事情によって、働く時間に制限が出てくる人がいます。制約されない人でも、「ラッシュアワーを避けたい」、「趣味の習い事に参加したい」などの理由で、働く時間の自由度を高めたい人は多いのではないでしょうか。多様な働き方に対応すべく、フレックスタイム制を導入する企業も増えています。その一方で、必要なメンバー全員が顔を合わせて打ち合わせする時間をどうやって確保するのか、という課題も。それに対してミナさんからは「コアアワーズという発想が良いのでは?」という提案をもらいました。例えば、「13時~15時」のように、みんながミーティングできるコアのワーキングタイムをあらかじめ決めておき、そこで部署の会議を設定する。時間で区切るのが難しければ、曜日で決めても良い、という考え方。これを導入すると、コアアワーズのうちの1時間を共有打ち合わせにすることで、ワークシェアも可能になります。

いかがでしたでしょうか?
ミナさんに話を聞いて、ちょっと意外だったのは「夫婦関係をうまく保つため」の工夫がたくさんあったこと。
「働き方」「家事の効率化」の前に、「クオリティータイム」や「夫の前で愚痴を言わない」「夕飯は家族で楽しむ時間」など、意識的により良い雰囲気で過ごすための習慣をつくっている様子が見られました。同じ「大変」な時期でも、良い雰囲気の中で大変なのと、ギスギスした雰囲気の中で大変なのは、全然違いますものね。一朝一夕に見習えることではありませんが、私たち日本のこそだて家族、いやそれに限らず全ての夫婦にも、「良好な夫婦関係のための習慣づくり」が、必要なのかもしれません。

【執筆者】牧 志穂(まき・しほ)
博報堂 PR戦略局コーポレートPR部・こそだて研究所主要研究メンバー

2000年博報堂入社。2004年よりPR職として、多数のマーケティングPRや企業広報活動サポート、トップエグゼクティブ向けのコミュニケーショントレーニングに携わる。2009年に長女、2014年に長男を出産。2回の産休・育休・職場復帰、育児と仕事の両立・小1の壁など、育児を中心とした様々な経験を活かして、こそだて関連ブランドのPRにも多数関わっている。