深谷 信介

スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表

ふらっとどっかへ行きたくなる、ひとってそんな生き物のようです。

1〜2時間ぐらいの移動が、ふらっと感にはどうもピッタリ。
トンネルを抜けた瞬間の壮大な景色、一山越えた先の眩しい太陽・広がる草原、地平の先まで行けそうな海岸線。。。
終着地を決めない、スマホも見ない・・・流れるままになにかに身を委ねていると、なんとも言えない心地よさが広がってきます。ふらっとの先にキュンと心する瞬間があることを、きっとDNAが知っているのでしょう。
目的ばかりのよのなか、あてのない旅は魅力に溢れていて、現代人にはなかなか手に入れられないひとときかもしれません。

<写真1|北陸新幹線>

夏の賑わいが少し落ち着いたこのごろ、わたしは北陸に向かう新幹線に乗りました。
通い慣れた出来立ての駅舎に到着し、改札口を抜けると、すぐそこに電車がみえます。


<写真2|駅改札から見るトラム>

今日も駅に電車が刺さっている?!
いま降りた新幹線と間違えなく直角に交差するその電車は、いまわたしの立っている場所からすぐ目の前、一直線。見ればそれが電車だとわかる、そこが乗り場だとわかる。車両自体が最強のサイン標識にもなっている。
どんなひとにもやさしいフラットな駅構内を、ふらふらっと歩いて十数秒、乗り継いだのはトラム=次世代路面電車でした。

ひと・自転車・クルマ、そして路面電車・・・
あらゆる移動体が道路という同一平面空間をなかよくフラットに動いていくと、それぞれの乗り物によってまちの風景が変わることに気がつきます。クルマ越しにいつも見ていた街並みを路面電車越しにまちを眺めなおすと、気づかなかったものが目に止まり、ゆっくりとゆったりと景色がかわっていく愉しさが広がります。ガタゴトと音をたて、かつ心地よく揺れながら走る路面電車は、ひとのパルス・リズムに妙にあっている感じ。窓わくが額縁となり、まるでうごく絵画をみているよう。程よく気に入ったお店が目に入り、ふらっとつぎの駅で降りることができる、こんな移動はひとの気持ちまでフラットにしていきますね。

このまちは、歩いて暮らせるまち。


<写真3|街並み俯瞰>

平坦なまちほど、歩くことに適しています。でもそれだけでは、歩いて暮らせるまちにはなりません。歩くだけだと、ひとは数百メートルで飽きてしまうんだそうです。刺激のないまちなみは、逆にひとを痛めてしまう。まちの賑わいには、歩ける機能と歩きたくなるウキウキ・ドキドキ感がともに必要なのですね。

実はこのまち、70年ほど前にまちがフラットになりました。戦争による空襲で市街地のほとんどすべてを消失、日本一の焼け野原になったのです。ゼロから、いやマイナスから、道路を引き、水を確保し、電気を通し、家を建て、鉄道を通し・・・まちを少しずつ新しいまちにしていく、懸命にし続けていく。活気を、賑わいを取り戻していく、フラットにされてしまったまちなみを。

まちなかに花を飾ったり、歩道に本物のアートがさりげなく飾られていたり、綺麗な額縁に入った広告看板があったり、あの隈研吾さん設計の図書館と美術館が合体したなかを自由に行き来できる施設があったり、みんながいつでも集える空がみえる広場・グランドプラザがあったり、いつまでも元気でいられるための健康増進施設に集ったり・・・などなど、トラム以外にもまちなかをワクワクさせるちょっとユニークな仕掛けがそこここにあります。


<写真4(左上から時計回り)|まちなかを彩るフラワーバスケット1|まちなかを彩るフラワーバスケット2|まちの広場・グランドプラザ|まちなかの綺麗な看板|キラリ・美術館+図書館複合施設(内装と外観)>

まちで花を買って乗れば、運賃がタダになったり、外国人なら無料だったり、遠くからまちなかに来るひとに優しい運賃体系を考案したり(市の外れから市街地までなんと100円!)、など・・・トラムの仕掛けもユニークで負けていません。


<写真5|花トラム>

食べ物だって、いたってフラット。農産物や海産物などが豊富に採れるこの地は、季節の変化を食の素材そのものでいただき、感じるという食文化。ほんのちょっとの手仕事しか加えない、素材を活かす精神が息づいています。

思わずそとに出たくなる仕掛け、行ってみたくなる場所。体感したくなるサービス。
ちょっとしたアイデア1つ1つの集積が、ひとを動かしこころを動かす、強いては体を動かし健康を増進させる。ファンクションとエモーションのフラットなコラボレーションがクリエーションしてるっていう感じ。そんな歩みが早いもので15年以上も経過、あっと驚く歩いて暮らせるまちに大変身してきています。

<写真6|トラムが走る街並み>

こんなにたくさんの凄いことをしていてもやけに奥ゆかしくて、決して自慢などしないまちのひとたち。心持ちはややフラットb=半歩引いていて、やっていることはかなりシャープ#=一歩先んじている。だからこそ、人びとのなかに雄大なハーモニーが生まれ、悠久の流れに沿うようにまちを奏でつづけていくことができるんだろう。

日常から日常へ。
よのなかには異なる日常がひろがっているだけなのに、あるひとにとっては異空間で非日常。そこのひとたちにはいつもの日常空間。
場を動くことで、あらたな見方・感じ方ができる。気づかなかったことに気づける、発見する。場所の力・風景の力ってやっぱり果てしない、ひとを浄化し昇華する素晴らしいものです。

海外の著名なひとや名だたる企業ほど、お忍びで日本に来るのもうなづけますね。
次なる何かはわざわざ外に求めなくても、日本のなかにある。

話題のあのまちが気になる方々、「あんたとやまにまたこられ〜っ」
すべてが繋がるスーパーフラットで先駆的なまちが、社会が、くらしが、目前に壮大に広がっていて、ふらっとくるはずです。

<写真7|富山市全景>

次回は、みずもりです。

にっぽんトコトコッ
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富山県富山市

URL: http://www.city.toyama.toyama.jp/

*写真4−1~4、5~7は、富山市役所さまよりご提供頂きました。

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