第4回目のゲストは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司先生です。前野先生は、著書『幸せのメカニズム: 実践・幸福学入門』(講談社)の中で、人間が幸せになるためには、自己実現と成長の「やってみよう!」、つながりと感謝の「ありがとう!」、前向きと楽観の「なんとかなる!」、独立とマイペースの「あなたらしく!」の4つの因子が必要だと説いています。“超ソロ社会”の未来、ソロたちの幸せの可能性を模索します。前編はこちら。

幸せのカギはつながりとコミュニティ

荒川:独身の幸せの話に戻るんですが、自由・自立・自給の価値観を持つ独身男性をソロ男と定義したんですが、彼らは、とにかく趣味に時間もお金もかけて、没頭しているし、それは毎日幸せそうなんですね。で、結論付けたのは、「彼らは幸せを消費という形で獲得している」ということでした。

前野:なるほど。消費で幸せ、ですか。

荒川:守るべき家族も育てる子供もいない彼らは、「仕事や趣味に没頭したり、何か物を買ったりして興奮や感動を得て(ドーパミン消費)、癒されたい時もお金で解決(セロトニン消費)することで幸せを代替えしています。そうした行動に僕は納得するんですが、読者からは「すごく刹那的だし、本質的な幸せではない」っていう批判もありました。

前野:やっぱり、金、物、地位みたいな刹那的なことを目指しちゃっているからですかね。やっぱり、「金持ちになっても、もっと金持ちになりたい」というのと一緒で、時間を消費しても何も残らない達成感もない消費は良くないですよね。そういう定型作業的なオタクに陥ると確かに幸せにならないかもしれません。ワクワク感、独自性や人とのつながりが満たされれば良いと思います。最近のオタクは、家にこもらずにオタク同士でつながるじゃないですか。あれは、良いですよね。

荒川:ニコニコ超会議とかコミケなんかはまさにそうで、あそこに集まるオタクたちって、現地までは一人で行くんですよ。ですが、そこに行けば顔なじみがたくさんいる。

前野:なるほど、それはすごく幸せ度高いですね。気が付いたら誰かとつながっている状態ならすごく良いです。挨拶くらいから始めていいから緩く誰かとつながる。弱いつながりも幸せに結びつきますから。

荒川:つながりで言うと、クラウドファウンディングも面白くて、たとえば「荒れ地を開拓してみんなの遊び場を作ろう」っていう案件に、お金の支援だけではなく、みんな力仕事を手伝うんですよ。お金を払った上で労働もするって話なんですけど、これがかなり楽しそうで、普通だったら一生会わなかったであろう人同士が、そうした共通の目的ややりがいのために集まるんですよ。

前野:あ~、それは良いですね!

荒川:きっかけがネットでも、リアルに会えば化学反応は起きるんですよね。そういうのがどんどんつながっていくと、昔は家族、職場、地域でしかつながれなかった従来のコミュニティとは違う、新たなコミュニティが生まれる気がするんですよ。

前野:それは大賛成ですね。想定外の人と会って想定外の事が起こる。つまり無駄ってことですよね。それでネットとリアルの組み合わせができるのなら最高ですよね。

荒川:私も、会ったことがないけど対談したい方には無遠慮に「お話しませんか」ってメールを送るんですよ(笑)。大半断られますが、でも実際お会いすると、やっぱりそこで何かが生まれますね。独身とか少子化の話って、結局は社会の話になりがちですけど、社会を構成するのは人間です。そうすると人間の感情というか、幸せの問題は切っても切り離せないと思うんですね。そこを無視して、制度やシステムだけを語るのはちょっと違うなと思っていて。

前野:そうですね。マクロの話も大事だけど、一人一人の個性や生き方がありますからね。そこがうまくつながって良さが出せないと幸せになれない。省庁のように縦割りでスペシャリストしかいない場では、専門的な議論になりがちなのが現状ですね。

荒川:あえて「縦の人」と「横の人」に分けるとすると、ひとつのことを極めるスペシャリストは深く掘り下げるから「縦の人」、反対に広く見識のあるジェネラリストは「横の人」。これからはどっちかだけでは通用しないと思っていて、「自分はこれだけは負けない」っていう縦軸のものがあった上で、それだけに固執しない幅広さが必要かなと思います。

前野:それはそうですね。それは、オタクの話にも近いですよね。コミュ力、つながりのあるオタクですね。

AIが、人と人とをつなげる未来

荒川:前野先生は以前にロボットの研究もされていたそうで、それも人間の幸せを作るという意味では今の研究と近いですよね。今はテクノロジーがものすごく発達していて、「攻殻機動隊」の世界って本当に実現しそうな気がするんですが、そういうことも含めて未来についてはどうお考えですか?

前野:そうですね。未来はさらにインターネットが進むからこそ、よりつながれる社会が来ると良いですよね。70億人も人口がいたら、アフリカやヨーロッパに自分とすごく気が合う人がいるかもしれないじゃないですか。やっぱり孤独なオタクにならないこと。そういう、人がつながるメディアがあったらいいなと思います。
自分も気付いていない良さとか本当に得意なこととか、自分を豊かにするものってそれぞれあるじゃないですか。それを見つけられずに家にこもったりするのは勿体ない。彼らの良さを上手く繋げると、みんなが幸せになると思うんですよ。基本的には幸せは自己実現してつながること。あらゆる種類がそうなれば良いですよね。コミュ力だけがある普通の横だけの人と、コミュ力の無い縦だけのオタクに分断せずに、バランスをとっておくと幸せになれると思うんですよね。

荒川:その、縦と横が出会う場所が欲しいですよね。

前野:そう。飲み屋でも、偶然に出会えた方の中に良い人はいるじゃないですか。もっと緩やかに出会えるような社会にすべきなんですよね。会社も仕事は縦割りでやらざるをえないとしても、昼休みに多様な人に出会えたら良いし。ネットでも、「あなたには合う人がいるよ」と教えてくれたら良い。

荒川:僕は将来的に、一人一人に自分の事を全部わかっているパーソナルAIがいて、これらが絶えずネットにつながって、個人のAI同士が互いに代理コミュニケーションを取れるようになって欲しいと思ってるんです。そうして「あなたに合う人がいたよ」って言って、AIが本人に教えてくれるのが理想だなと思っているんです。

前野:そうそう! 僕の理想像もまさにそんな感じですよ!

荒川:「話してみたら良いんじゃない?」って提案してくれるんですよね。話してダメならそれで構わないんですけど、最初のきっかけを作ってくれるAI。マッチングをしてくれる自分の分身ロボットですね。恋愛だけじゃなくても、ビジネスで合う人もいるだろうし、ただ単に「話したら面白いんじゃない?」っていう人でもいいだろうし。

前野:それ、いいですね! それにしましょう! 僕がやりたいことにドンピシャですよ! 僕は結婚についても、本当は結婚する前こそ、幸福学の学びを教えたいんですよね。恋愛で興奮している時はホルモンが大量に出て判断力落ちるじゃないですか。そこで一回冷静になって、幸せの4つの因子を見直すべき。要するにそのAIが見直して、マッチングをしてくれたら良い。それで僕が言っていたこと解決しますよ!

荒川:この話を前に、とあるインタビューで話して記事化されたんですが、結構叩かれましたね。「そんなことでマッチングされた結婚には幸せはない」とか(笑)。AIが怖い人ほど、「そんなもので人生操られちゃ困る」って思うのかも知れません。

前野:それは、未来が見えてないかもしれないですねぇ。今だって相当テクノロジーに操られているじゃないですかね。でも、それ絶対できますよ。だって、あると絶対に良いじゃないですか。実現しましょう。

荒川:やりましょう!人間って案外自分のことをよく理解していなかったりします。自己の内面を客観的に判断してくれる「自己分身AI」が気付かせてくれることも多いと思うんですね。昔、近所とか会社にお節介おばさんっていたじゃないですか。たぶん、これからのAIに求められているのは良い意味のお節介なのかあって思っていて。

前野:まさに、そうですね。お節介分身ロボット。一緒に作っていきましょうよ!

荒川:なんかここでひとつ新しい仕事が生まれましたね。本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

前野 隆司(まえの たかし)

東工大卒。東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。博士(工学)。研究分野は、幸福学、幸福経営学、イノベーション教育、システムデザインなど。著書に、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『幸せの日本論』(角川新書)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(ちくま文庫)、『実践 ポジティブ心理学』(PHP新書)など多数。

荒川 和久(あらかわ かずひさ)

博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダー
早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディア多数出演。著書に『超ソロ社会-独身大国日本の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち-増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー携書)など。

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