第4回目のゲストは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司先生です。前野先生は、著書『幸せのメカニズム: 実践・幸福学入門』(講談社)の中で、人間が幸せになるためには、自己実現と成長の「やってみよう!」、つながりと感謝の「ありがとう!」、前向きと楽観の「なんとかなる!」、独立とマイペースの「あなたらしく!」の4つの因子が必要だと説いています。“超ソロ社会”の未来、ソロたちの幸せの可能性を模索します。

結婚=幸せ、独身=不幸は本当か?

荒川和久(以下、荒川):今日は、「幸せ」についていろいろお伺いしたいんですが、よく言われているのは、独身者の不幸感が高いっていうことなんですね。僕が調査したところでも、既婚者と比べて圧倒的に独身者の方の不幸感が高い。この先、人口の半分が独身になると推計されている中で、これは結構問題ではないかと…。

前野隆司さん(以下、前野):僕も男女の独身者と既婚者の幸せ調査をやったことがありますが、同じような結果でした。あと、働く女性の幸福度調査では、独身のキャリアウーマン、特に事務職の女性がすごく不幸を感じていたんですよ。女性の8割は事務職なのに。一方で、コンサルやクリエイティブの女性は幸せという結果で。

荒川:そうなんですか。コンサルやクリエイティブの女性は生涯未婚率もかなり高いですよね。デザイナーとか、あとは女医さんも。

前野:高いでしょうね。仕事の方が面白くなっちゃうから。仕事をバリバリこなす女性で、結婚しない方は多いですよね。

荒川:生涯未婚率と年収って、男女でまさに真逆なんですよ。女性は年収の高い女性ほど未婚率が高く、男性は年収が低いほど未婚率が高い。でも、大体みんな自分と同じ年収の人と結婚する同類婚の傾向にあって、しかも共働きも増えているから、結果として高所得夫婦と低所得夫婦の世帯間格差がものすごく広がっていますよね。

前野:まあ、価値観が合うんでしょうけど、みんなが中流になるようにうまくマッチングできれば良いんですけどね。

荒川:結婚したがる独身女性の不幸感って何かって考えたときに、根底に「他者との比較」があると思っているんですね。たとえば、無意識のうちに結婚した誰かと比較している。その比較自体、幸せを生まないんじゃないかなと思うんです。

前野:結婚するとみんな「幸せになります」なんて言うから、独身の人は「結婚できていないから幸せじゃない」と思い込んでいるだけじゃないですかね。地域の幸福度を調査したんですが、ある幸福度が低い地域があって、その地域から一度出て、戻ってきた人の幸せは高かった。つまり、地元にいる時にはわからなかったけど、一度外に出るとどんなに幸せなのかに気付けるんですよ。同じように、一回結婚してみると、「独身の方が幸せだったじゃん」って気付けるかもしれない。

荒川:なるほど。その一回が難しいかもしれませんが(笑)。

前野:ただ、データから言うと結婚した方がやっぱり幸せにはなっていますし、普通に考えても人間は一人で生きるより、心の拠り所とか助け合える存在とか、人とのつながりがあった方が良いですからね。

「金、物、地位」を所有する幸せから、「いま、ここ」を体験する幸せへ

荒川:人とのつながりってものすごく重要だと思いますけど、リアルにつながっていなくても、ネット社会は、充分「つながっている感じがする」っていう人、いますよね。それは幸せなんでしょうか?

前野:ネット上でも実感があって、不安感が無くなっていれば良いと思いますよ。ただ僕は古い人間なのか、やっぱり一度リアルでつながった方がいいと思うんですよね。本人が良いなら良いかもしれないんですけど。ただ、知らずに不幸になる場合もあるんですよ。人間は「フォーカシング・イリュージョン」といって、目先の幸せなどの幻想にとらわれがちです。すると、本当の幸せを見失いやすい。

荒川:確かにそれはあると思いますね。でも、リアルでつながることで、お互いが深く立ち入ることをあえて避けているという印象があります。SNSでもできますが、アップした後すぐに消える映像機能というのがあるんですよ。ずっと記録として残るわけでもなく、その一瞬を共有してリアルタイムに見てなかった人はもう見れなくていい、みたいな。

前野:うわ~、新しい時代に入っていますね~。今、マインドフルネスが流行っていますけど、「今ここに集中しましょう、過去や未来に囚われずにいることが幸せ」っていうことですから、基本的には近いですね。そもそも、原始人の頃は、何も残らなかったじゃないですか。そこに戻ろうとしているという意味では、本質的に正しい感じがしますね。

荒川:そういった刹那的というか、ライブ感は重視されていまして、音楽の話で言えば、今はCDが売れない時代と言われています。ですが、一方でライブのチケットはすごく売れています。CDで音楽は聴かないけど、ライブには行く。他にはハロウィンですよね。普段、パリピでもなんでもない人でもハロウィンでは仮装して大騒ぎをします。

前野:ハロウィンは「あなたらしく!」因子(独立とマイペース)がある、幸せな活動ですよね。人目を気にせずに自分の個性を出す。日本人は総じて苦手だけど、仮装というシステムと「この日だけだから」という特別感で思いっきりファンタジーに浸れる。ちょっと前は「金持ちになりたい」っていうリアルな変化を求める人が多かったけれど、今はバーチャルの変化を求めているということですかね。そう考えると変わってきているなあ。

荒川:変わってきているとも言えるし、昔に回帰している部分もあると思うんですよ。ライブもハロウィンも昔でいえばお祭りですし、今、シェアリングエコノミーが取り沙汰されていますけど、江戸時代の長屋での暮らしだって、家具も服も使う時に借りるっていう世界だったわけです。すべてが「昔と比べて変わった」んじゃなくて、「昔に戻っている」部分もある。

前野:そうですよね。20世紀は金、物、地位っていう“所有型”だったけど、それが無くなれば昔に戻るしかない。原始時代には、何も所有していなかった。

荒川:今はなんでも取り揃えられて、物質的には豊かになった分、どんどん心は貧乏になっている気がします。

前野:そうですよ。物質的な豊かさの対にあるのが、幸せの4つの因子だと思うんですけど、日本は高度成長の頃からそれらを捨てた面があると思います。「金さえあれば良い」って。でも金だけじゃうまくいかなくなったから、昔に回帰しつつ、着地点を探していますよね。昔の長屋みたいに過干渉で逃げられない村社会のつながりではなく、SNSで薄くつながってライブで濃くつながるという。フレキシブルな未来型の村社会に着地しつつあると見ることもできますね。

生産性が叫ばれる現代にこそ必要な無駄

荒川:少子化と並列して、高齢化が叫ばれていますけど、高齢化と幸せってどう関係してくるのでしょう?

前野:基本的には人間は年を取るほど幸せになるんですよ。「お天道様が当たっているだけで幸せ」みたいな。Uカーブと言われていて、折り返し地点の40代が一番不幸。ただし、高齢者が全員幸せというわけではないでしょう。大量退職時代にそのハズレ値の高齢者がたくさん出てきているのかもしれません。特に、団塊の世代って常に競走していたから、ストレス溜めたまま老後に突入しているのかな。

荒川:その世代って、日本経済が上り調子の時代に就職して、働けば働くほど給料は右肩上がりでしたよね。バブル崩壊はありましたけど、全体としてはまあまあ幸せな会社人生を送ってきました。じゃ、彼らのストレスってなんだろうと考えたときに、定年して働かないっていう状態なんじゃないか、と。ある意味、生きがいだった仕事がないことがストレス、みたいな。しかも、家では奥さんに「邪魔だからどこか行って」と言われて、さらに友達も少なく、行く場所もないからさらにストレス。

前野:定年後のおじいさんの問題ですよね。まあ、趣味もなく働いてきた訳ですもんね。僕はこれから、〝敬老義塾大学“をやりたいんですよ。定年後であろうと、人は、のんびりするよりも、学んだ方が幸せなんですよね。これがなかなか伝わらない。学びって勉強でも趣味でも利他的なことでもオタク的なことでも何でも良い。学びは幸せに寄与しますから。

荒川:おっしゃる通りですね。達成感ですからね。高齢者の学びはこれから鍵になってくると僕も思います。何もしない毎日、それこそ一日中テレビをみている日々が続く方が辛いと思います。

前野:僕も、たまに何もない日曜日なんて退屈でつまんないです。

荒川:今、仕事の生産性が話題になっていますけど、やっぱり没頭できるって幸せだと思うんですよ。時間を忘れるくらい打ち込めるということ。

前野:逆に生産性が低い人は没頭していないんだと思いますよ。「嫌だな、どうしたらいいかわかんないなあ」って思っている人が生産性を下げていますし、ストレスを溜めている。一方で、生産性や合理化だけで働くと、良い無駄がなくなりますよね。よく「イノベーションは無駄から始まる」と言いますが、新しいことを作ることは幸せにつながります。無駄がないっていうのは、機械みたいに効率的に働く訳ですから、それは確かに幸せではないなという気もしますよね。
無駄は進化のためにも重要です。無駄があることは変化に対処できることです。無駄がないと現状維持しかできませんよね。

荒川:現状維持ということはイノベーションにならないわけですよね。生産性の理屈だと、そうした無駄が否定されがちです。

前野:そうです。無駄のように見える物や人は、ハイリスクハイリターンです。つまり、大化けする可能性がある。無駄のようにみえる飲み会や対話をすれば新しい人との出会いやアイディアが生まれますよね。逆に効率化や合理化だけを推し進めていくと、新しい発想は生まれにくくなります。無駄こそが、イノベーションと生きがいと幸せを生むんです。

【後編へ続く】

前野 隆司(まえの たかし)

東工大卒。東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。博士(工学)。研究分野は、幸福学、幸福経営学、イノベーション教育、システムデザインなど。著書に、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『幸せの日本論』(角川新書)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(ちくま文庫)、『実践 ポジティブ心理学』(PHP新書)など多数。

荒川 和久(あらかわ かずひさ)

博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダー
早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディア多数出演。著書に『超ソロ社会-独身大国日本の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち-増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー携書)など。

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