博報堂イノベーションデザイン / 博報堂こそだて家族研究所
根本 かおり

■はじめに
「こどもを通じて未来を考えてみると、次世代の豊かな社会づくりのヒントがもらえるのではないだろうか。」
このような問いを出発点に、博報堂ブランド・イノベーションデザインと博報堂こそだて家族研究所の2つの組織がタッグを組み、協働でワークを実施しました。この連載企画では、本取り組みで得られたきづきや成果をご紹介していきます。

「こそだて家族研究所」:子育て家族に関する専門ナレッジをもつプランニングチーム
「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」:企業のブランド・イノベーション創発活動支援の専門チーム

今回は、前回ご紹介したシナリオ①「次世代こそだてネットワーカー」に関連して、現在、既に先行的な取り組みをしている「地域・教育魅力化プラットフォーム」代表の岩本悠さんに、取り組み内容や今後への展望などを取材してきましたので、ご紹介します。

■シナリオ①「次世代こそだてネットワーカーの台頭」の概要
いま:「こそだては、女性・主婦がメインプレーヤー」
これから:「こそだては、男性やシニアも含めマルチプレーヤー化」

※シナリオの詳細は前回記事をご覧ください。

「地域・教育魅力化プラットフォーム」について

「学校を核とした地域創生」を掲げた取り組み。島根県での実行モデルをはじめ、全国規模にスケールしていくことを目指している。

岩本悠氏について

教育魅力化特命官。学生時代にアジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡り、「流学日記」を出版、その後、ソニーを経て、2006年より島根県隠岐島前の教育に携わる。著書「未来を変えた島の学校」(2015岩波書店)
日本財団主催の「social innovation forum 2016」にて特別ソーシャルイノベーター最優秀賞に輝く。

地域創生の問題からはじまった、学校改革

根本:岩本さんが考える、未来のこそだて社会はどうなっていくのかという話が聞きたいです。あまり俯瞰した話というよりは、個人的な思いや、今まさにやろうとしていること、問題意識などを具体的に教えていただけますか。

岩本:もともと、子育ての問題とか教育の問題ではなく、今でいうところの「地域創生」の問題から始まっているんです。ちょっとわかりやすく「学校」という言い方をしていますが、学びの場、子育て、教育の環境という意味で、「学校」と言っています。地域の担い手がいなくなっている中で、そこを変えていくと、子ども・教育が変わるというだけでなく地域に大きな変化が起こっていく、そんなことをやっています。

対話を重ねることで、どんどん地域に 開いていく学校

岩本:今まで学校は学校、家庭は家庭、行政は行政と、みんなばらばらでやってきたけれど、それをつなげてチームにしていくということをしてきました。具体的には、対話をずっと重ねていって、共通の自分たちのつくりたい未来を描いていく。そこに対してこれからどういう人が必要なのか。そのためにはどういう教育が必要で、どういう学校や環境が必要になってくるのかを対話を通じてつくっていく。そこに向かうにあたっては、それぞれがただ自分の役割をするだけではなくチームみんなで取り組んでいこうと。

そうしていくと、学校というものすごい閉鎖的なシステムがだんだん開いていく。開いていく中で、学校は学校だけで何とか子どもを育てようとしてきたところを、学びの場を狭い学校や校舎の中だけでなく、地域全体にしていきましょうとなる。実際は、子どもの数が減れば教員の数も減って、予算も減ってと、やれることがどんどん減っていっている。でも、一気に開くと、全然違う景色が見えてきて、それこそたくさんアクティブシニアたちがいるとか、いろいろな施設があるとか、コミュニティに使えるものがたくさんある。学校にはICTさえまともに入っていないけれど、そういったリソースをふんだんに活用しながら、子どもたちが学びに向かっていくということができます。

リアルな地域の課題に向き合うことで こどもたちの中から「よりよい社会をつくりたい」という意志が生まれる

根本:そのような学び方は、こどもたちにどんな変化をもたらすものなのでしょうか?

岩本:ただ知識を得て、それがいつか使えるかも、ではなく、リアルな地域の課題解決に取り組んでいくようになります。それを地域の高齢者や行政といった様々な人たちと共に取り組む中で、子どもたち自身の課題発見・解決の力や、共同生活のいろいろなセンスも育っていくし、自分が地域や社会の一員として、よりよい人生、社会をつくっていくために自分がこういうことをしていきたいとか、こんなことを学んでいきたいというような「意志」が子どもたちの中から生まれてくる。

皆にとっての幸せを粘り強く調整していく「地域コーディネーター」が、活動の肝

岩本:今まで、島根県内で複数のプロジェクトをやってきたわけですが、うまく広がるところと広がらないところ、やれるところとやれないところがはっきり分かれていた。それは何が違うのか、見えてきた一つの要素は、地域コーディネーターの資質・能力。セクションとかセクターを越えた協働を生み出していくときに、うまくつながりをつくっていく、チームをデザインしていくようなコーディネート機能を持った人が必要。

根本:具体的にはどのような資質でしょうか?

岩本:「縁を結ぶ力」「多様性への寛容さ」が大事。あとはねばり強さ。皆にとっての幸せを粘り強く対話を続け調整していく。土地へのリスペクトも大切。海外経験のある人が向いている傾向がある気もする。自分のやり方に固執するコーディネーターはあまりよくない。

根本:今後は、島根でさらに強化しつつ、全国に広げていくイメージだと思いますが。
全国で広げていくときは、行政の人同士がつながってやるという感じですか。

岩本:全国に広げるときのポイントは、そのプラットフォーム。全国に広げていくためのネットワークみたいなものを今つくっているんですね。そこにいろいろなNPOとかが入りながら、やりたいと言っている行政や学校とかと一緒になって広げていくという感じでしょうか。
結局、今までって、こういう何か一つモデルをつくっても、そのモデルは広がらなかった。「あれって、小さいからできたよね」とか、「離島だからできたよね」とか、もしくは、「ああいう何かスペシャリストがいるからできるんだよね」みたいな、自分たちにできない理由をみんなつくってしまう。効果的に広がる仕組みをつくるノウハウや手法なしに、モデルばかりを国なんかはつくってきたけれども、もうそれじゃいかんよねと。

「勝手な学び合い」を誘発する ゆるやかなネットワークが活動拡大のポイント

根本:モデルを全国に拡げていくときのポイントはなんですか?

岩本:ノウハウが相互に行き来していくとか、勝手に学び合いが起きる形にしていくと、その広がりが早いということが島根県内でやってわかってきました。今までは、学校も地域も自分のことだけを考えてやってきたし、国の政策や県の政策も、頑張るところにはお金を出すよとか、成果出してねとかなど、「点」ですごくやってきた。でも、点の支援をしていくと、いくらやっても足りない。僕らは、プラットフォーム、生態系をつくるところに注力していて、一つ一つに対して特殊な支援や金を入れていくのではない形で今やり始めている。

根本:それは何か具体的な、目に見えるものとしてそういう場が実際にあるのでしょうか?それともバーチャルな場なのでしょうか?

岩本:幾つかあって、1つは例えば島根県内で言えば、島根の教育のプラットフォームという緩い組織体。年何回かは研修みたいにみんなが集まるという機会もある。みんなで学び合いたい人たちが、「じゃ、こんなところに視察に行ってみよう」とか、「うちらでこういうことをやってて、これ課題なんだけど、そっちではどうやっているの?」など気軽に聞ける場をつくっています。
コーディネーター同士を中心にしたネットワークが今できているんですよね。次はその全国版をつくっていこうとしています。

子どもの成長、地域への貢献が、 新しい教育の評価軸に

根本:他に全国展開するための問題というか、今みたいな教員のマインドセットのようなレベルで乗り越えていかないといけない要素ってありますか。

岩本:それは幾つかあります。1つは評価。子どもたちの変化や成長をどう見えるようにするのか。現場でやっている人たちはわかるんですよね。あの子がこんなふうになったとか。それって、他の人たちにはわかりにくいところなんです。

根本:学力偏差値みたいに数値ではない?

岩本:そう、数値で見えないから。いわゆる狭い意味の教科学力以外で生まれてきている、他者と協働していくとか、主体的に物事を自ら考えて動く意志の力だとか、そういったところをある程度見れるようにしていけないかと思っています。

根本:それは、どのようにやるのでしょうか?

岩本:今、いろいろな人たちがそれを研究しているんですよね。昔の学力観だけでは未来を生き抜く力を測れない。これから必要な力は幾つもいわれていて、全部をちゃんと正確に測ることはできないけど、少しでも測れる領域を増やしていこうということで、これは大きいトレンドになると思います。あとは、実行したことによって、地域に対してどれほどのインパクトがあったのかという評価とか。

根本:それは人口の増減などもありますか?でも、それってなかなか難しいですよね。

岩本:人の数だけだったらわかりやすいんですけどね。これをやって、子どもが何人増えてとかね。移住者がこのくらい来たとか。それが教育、子育て環境だけの影響かというと、いろいろな要素があるけれども。そこら辺を見えるようにしていきましょうとかね。これをやることによって、その関わった地域の人たちの行動がどう変わっていっているのかとかね。

根本:これもなかなかKPI設定が難しい。人口の増減だけで見ると、どこも減っていく傾向になりますよね。

岩本:人口だとそうですね。ただ、子どもがいる世代が、今まで何割、何%外に出ていたけれど、その割合がこのぐらいに止まって、逆に、Uターン、Iターンで、外から来る割合が高まっているのかなど、詳細をみるとわかるものもあります。

「教育移住」という、新しい人の流れをつくる

岩本:来年からやっていこうとしているのは教育移住。島根県ではすでに、東京などから地方留学生(中学生・高校生)を多数受け入れていますが、子育て環境や教育環境を求めて家族が移動していくというその流動性を高めていく。そのときに、このプラットフォームでそういう人の流れをある程度つくる。次は、国のシステムにも変えていこうという計画です。

根本:この活動は何年計画ぐらいで考えているのでしょうか?

岩本:当面4年間で考えています。2020年までに広がる仕組みをつくりましょうと。

根本:2020年までに、具体的な目標はありますか?

岩本:僕が「魅力化」といって作っているこのプラットフォームが、その地域ごとにできている。これをやっている100自治体がネットワーク、プラットフォームになっている。
ちなみに今はまだ20~30くらいです。100というと、新たな評価システムが高校入試や、学力調査として、都道府県単位でもう使われているという状態。新しいシステムが実装されて、うまくまわっている状態です。

「社会に開かれた教育」のつくり方

岩本:もう一つの目標が、地域や社会の問題の解決に立ち上がる子どもたち、そういう子どもが1万人いること。僕はこれから、ソーシャルイノベーションの「甲子園」と「オリンピック」をやろうと思っています。

根本:これはグローバルイベントになるのですか?

岩本:はい、グローバルです。2019年までは甲子園だから、日本の子たちがやるんだけど、2020年は東京オリンピックだから、世界中から子ども社会起業家みたいな子たちが集まって、ただビジネスというよりは、ソーシャルな課題解決にどう取り組んでいるのかという観点で切磋琢磨すると。ここでメダルラッシュになる。そうすると、「日本すげぇ」と、「何でこうなっているの」と関心が高まるのではないかと。

それをやったときに、日本の中でも、僕らがつくってきているネットワークの中の、100自治体の子たちがどうしても勝っちゃうと思うんですね。そうすると、「これはすごい」と日本中にも広がっていく。あと、2020年って、センター試験がなくなる年なんですよ。国が決めている「学習指導要領」も改定されて、「社会に開かれた教育課程」という新しいコンセプトに変わるんです。僕らがやっているこの「開かれた……」と同じことを国が進め始める。センター試験が変わっていくのは2020年からだけど、僕らと一緒にプロジェクトに取り組んできた子どもたちは、ちょうど大学受験のタイミングになって、海外も含めてがんがん行きたいところに行ける。日本の中の多くの教育関係者や親たちが「これはすごい」「うちでもこういう取り組みをやりたい」となると思うんです。
指導要領が変われば、全国の学校はやらなきゃいけなくなる。「社会に開かれた教育課程」って、意味がよくわからないけどどうするんですかといったときに、もうすでにモデルが全国にありますよと。そこでみんなが取り入れてやり始める。2020年から一気に国内にも、海外にも、教育システムの変化を起こしていく、それが僕らのシナリオです。

自分がおかしいと思った課題に対して、自分なりのプロジェクトをつくり実行していく。そんなこどもたちを増やしたい

根本:具体的にはどのような取り組みなんでしょうか。

岩本:何でもいいんですけどね。自分がおかしいと思った、何とかしたいと思った、地域や社会の課題に対して、自分なりのプロジェクトをつくって、自分たちで進めていく。

根本:何かしら実行するということがポイント。

岩本:そうですね。社会問題に対して、圧倒的な当事者意識、オーナーシップを持って、それを多様な人たちと協働でアクションしていく。それが成功しようが失敗しようがどちらでもいいんです。僕は逆に失敗すればいいと思っているから。その失敗から、さらに学んで、次に生かすというふうに。そういうインテンションを持って、次にアクション、それからリフレクション。そういったところを、ちゃんと学びながら、自分の生き方、あり方、それを学びにつなげて、さらなるチャレンジに向かえばよいと思う。

根本:そんな先のことまでを見据えて活動をしているなんて知りませんでした。今日はありがとうございました。ぜひ引き続き、お話を聞かせてください!

「学校を地域に開き」「ゆるやかに学び合い」「ねばり強く皆の幸せを追求」していく、次世代こそだてネットワーカー

地域コミュニティの課題を起点としてこそだて環境の充実に取り組む「次世代こそだてネットワーカー」のパイオニアとして、岩本さんにお話を伺いました。もともと、このような役割は、主婦として地域コミュニティに根ざしている女性が担っているという印象がありましたが、岩本さんは男性、かつ、もともとは東京出身で島根とはゆかりがなく、今までとは違うやり方でコミュニティをリードしていくヒントを頂けるのではという期待で取材をお願いしました。

お話を伺い、学校を地域にどんどん開き対話を重ねていくことで、こどもたちが自分の力で地域・社会をもっと良くしたい、と強い当事者意識を持つようになる。そして、それが「教育移住」などの地域の新しい動きにつながっていく。そのような動きをサポートしていく「地域コーディネーター」という新しい社会を支えるキーパーソン像や活動内容が具体的に見えてきました。

「地域に開く」「ゆるやかに結ぶ」「ねばり強い調整力」など、次世代こそだてネットワーカーに必要となる具体的なキーワードも、新しい社会像を支える重要なキーノウハウとしてとても参考になりました。

BACK NUMBER
・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?①
・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?②
・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?③

■プロフィール■
根本 かおり (ねもと・かおり)
広告づくりの現場で自動車、化粧品、家庭用品など各種広告マーケティングやブランディングにたずさわる。その後、生活者発想・未来発想に軸足を置いた事業・商品・サービスデザインに従事。博報堂内シンクタンク・こそだて家族研究所にも在籍し、妊娠期~小学生の子どもを持つ家族の生活を研究、提案を行っている。自身も2児のママ。