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【普遍ハンター須田和博がゆく】第一回/電通CMプランナー澤本嘉光さんと“おもしろい”を探る。“当たり前のこと”のある一点をズラすと…

2017.06.30
#スダラボ

今回探す普遍:「おもしろい」の普遍

今回のゲスト:電通でCMプランナーをされている澤本嘉光さん

初回のゲストは、なんと電通の澤本嘉光さん。ソフトバンク「ホワイト家族」のCMなどで知られる澤本さんと、“おもしろい”という普遍について語ります。同学年の二人ならでは思い出話から、澤本さんの東大進学の秘密も明らかにされて…

雪かきとスマホアプリを連動させて、重労働な雪かきを楽しいゲームに変えてしまう「Dig-Log」や、鏡に映った人の年齢や表情を読み取って、その人に合った広告を表示する「FACE TARGETING AD」など。一風変わったあたらしい広告の可能性を切り開く「スダラボTM」の代表 須田和博が、“あたらしい普遍”を探求する本企画。毎回テーマを定め、その道のプロをたずねて普遍の根っこを探ります。
普遍ハンターこと、スダラボの須田和博(左)と澤本嘉光さん

“おもしろい”がなければ、人は歩き出すことさえしないかもしれない

須田(以下、須):栄えある一回目のゲストということで、よろしくお願いします(笑)。

澤本さん(以下、澤):よろしくお願いします(笑)。

:そもそも“あたらしい普遍”って何なの?という話なんですが、以前「サマーウォーズ」の細田守監督に「いい物語ってどうやってつくるんですか?」とたずねたとき「普遍的なことをいかにあたらしく言うか、それだけです」と教えてくださって。それ以来、いろんな普遍をあたらしくする、というのがぼくのテーマになっているんです。澤本さんは“おもしろい”ということをずっと追求されている方だと思っていて、今日は“おもしろい”という普遍について探っていければいいな、と。

:“おもしろい”って、なかなか定義しにくいですよね。たとえば「おもしろい人ね」というのも、人を笑わせるという意味で“おもしろい”だったり、行動が奇妙で“おもしろい”だったり。単純に、そのものに対して興味を持ったということを“おもしろい”と言語化しているんだと思うんです。それこそ、博報堂さんのサウス・バイ・サウスウエスト※のブースに行ったときはおもしろかったですよ。

:ありがとうございます。

:基本的にあそこは「見たことないもの発表会」じゃないですか。音を着るジャケットとか、概念からしておもしろい。ぼくが「おもしろいものをつくりたい」というのも、ただ人を笑わせたいというのではなく、見ているひとが興味を持つポイントを与えたいということなんです。

:それは同感です。産休から復職したウチの女性部員にきいた話にとても興味深いものがあって、赤ちゃんがハイハイするのは、部屋の中に「あれなんだろう?」と気になるものがあるからなんですよ、と。それに向かって動いているんですよ、と。じゃあ興味をもたなかったら、ハイハイもし始めないんだな、と思ったら、人間はぜったい興味本位で動いていいんだ!それが正義なんだ!とすごく納得しちゃって。結果いろんなものに首を突っ込んで、落ち着きがないって言われますけど(笑)。

  • サウス・バイ・サウスウエスト 米国・テキサス州オースティンで開催される、世界的なテクノロジー・スタートアップ・イベント。2017年、博報堂ブースでは、身に着けることで音楽を全身で体験できる「LIVE JACKET」や、須田が開発に携わった「FACE TARGETING AD」など計6つのプロトタイプを出展。澤本さんはこのブースで、90秒に7回「おもしろい」と言った。(博報堂社員によるカウント)

“まったく新しいもの”に、人はついていけない

:澤本さんは、昨今“おもしろい”が変わってきている気はしませんか?かつての100万人が見るテレビジョンに対して、ソーシャルメディアのつぶやき単位のおもしろさが無数に存在する、というような。
:本質的にはあまり変わっていない気はします。ただ、いまは個人が放送局になっているので、個人的におもしろいと思っていることを言ったら、意外と世の中にも同じ事を考えている人がいるんだ、という発見がある。これ、言っていいのかわからないけど、ぼくココ(人差し指の第二関節)のにおいを嗅ぐのが好きなんですよ。
:えっ!?(笑)

:鼻をこすっているように見えるんですが、嗅いでいるんです。たぶん、落ち着くんです(笑)。このことは誰にも言ったことないですけど、ツイッターでつぶやいたら「いいね」がついたりするかもしれない。
:手の甲ににおいがあるのはわかる気がするけど、第二関節のにおいって自覚したことないですね。(笑)
:サントリーのマスターブレンダーだったらわかるでしょう。これは「第二関節だ」って。あ…こんな話で大丈夫ですか?(笑)
:大丈夫です。初回なので、フォーマットもないし。自由です。(笑)
:でも、今このにおいの話をしたのも、たぶんこの話をしたらおもしろがってくれるだろうな、と思ったからです。おもしろいの普遍って、ある本筋があって、その軸からちょっとだけズラす。そこに興味をもってもらうということだと思うんです。
:冒頭の細田監督の話と同じですね。『サマーウォーズ』だったら大家族とか、『バケモノの子』だったら師弟関係とか。普遍的なテーマを掘っているけど、設定をズラしている。
:ストーリーをつくるということは、たぶんそういうことなんだと思います。“当たり前のこと”のある一点をズラしていけば、話はそこからおもしろくなっていく。まったく新しい話って、人はついていけないですからね。
:そうですね。コマーシャルをつくるときにも意識されていますか?
:とくに意識して、ということはないですけど、すごく奇をてらったものはつくってないですね。昔、「写ルンです」のCMやってたじゃないですか、デーモン小暮の。あの話をCMプランナーの田中徹さんに聞きに行ったとき「あれはズラしているだけだからね」って。会話だけみると、「パパ〜」と子どもが呼びかけてカシャッて撮るだけなんですけど、それが悪魔だっていう。そこがおもしろければ、あとは何をやってもおもしろい。
:意外とシンプルな方法というか。
:ソフトバンクだってそうですからね。親父が犬だっていうだけで(笑)。

“おもしろい”を追い求めていたら、広告にいた

:澤本さんは昭和41年生まれ、僕は42年の早生まれなので、学年が同じなんですよね。子どもの頃からおもしろい、と感じていたことを掘り起こしていくと、そこに法則性があるような気がするのですが。ちょうど小学一年生のときに小学館からてんとう虫コミックスの『ドラえもん』第1巻が出ましたよね?
:そうですね、小学校低学年のとき読んでいました。
:今考えると、ぼくは『ドラえもん』にすごく影響を受けていて。地球や宇宙などの自然科学とか論理的思考に興味を持ったきっかけもそうですし、アイデアのつくり方の基本を教わったと思っています。澤本さんにもそういう漫画やアニメはありますか?
:『オバケのQ太郎』も『ドラえもん』も、藤子不二雄は読んでいましたね。あと、星新一もすごく好きで。星新一も、日常の中に何かしら一点ヘンなものが出てくる。考えてみたら、SFが好きだったんですね。大人になって気付きましたが(笑)。そういうことに興味をもった理由を突きつめていくと…。小学校に入る前かな?『学研まんが ひみつシリーズ』という教育漫画があって。
:『○○○のひみつ』というやつですね。
:そうです。その中の『宇宙のひみつ』っていうのが…
:あ!『宇宙のひみつ』読んでた!ピコっていう宇宙人が出てきて、
:そいつがガイドしてくれる。
:読みました、読みました。
:漫画で描いてある専門書みたいなのをすごく読んでいて。『日本の歴史』というのもほぼ完全暗記するくらい読んでいました。大学受験までは、その知識でほぼいけましたね。ぼくの中の歴史上の人物は、全部その漫画の絵で出てくるんです。セリフまで覚えていて(笑)。
:すごいな、澤本さんの東大進学の秘密が…(笑)。
:何が好きかを決めるのは、幼稚園や小学校の頃に触れたものがきっかけだったりするんですね。
:だから、子どもの頃に出合う本はすごく重要ですね。そこでおもしろさの初期値が設定されるから。

:“おもしろい”にレーダーチャートみたいなものがあるとしたら、いくつかの要素の中に“ふしぎ”というのがあると思うんです。SFもそうだし、ぼくはそっちにすごく興味がある。ちょっと“ふしぎ”なものをつくっていたいな、というのはあります。
:ぼくが今やっていることも、ドラえもんすげぇ〜と思っていた頃とあまり変わってないんじゃないかな。“おもしろい”を追い求めてたら自然と広告の世界に入っていて、何か楽しいぞ、という感じで仕事を続けていて。
:広告会社って、何をやっているかわからないって言われがちですけど、何かわからないというのは、何でもできるということなんですよね。何かおもしろいことをやろうと思ったとき、手っ取り早くいろんなジャンルで考えられる。こんな業種ってなかなかないですし、ぼくは広告というところにいてよかったと思います。
:テレビも新聞も、広告はあらゆるメディアとあらゆる技術、あらゆるコンテンツが扱えますもんね。どんなに世の中とかテクノロジーが変わっても、何かおもしろいことしたいぞ!といったらいちばん向いている業種が広告なのかもしれない。
:広告って、クライアントからすると効率を求められる部分もあるじゃないですか。どういうメディアで誰に打てば商品が売れるか、と。でも、データで分析して効率を追求しすぎることで、つまらない未来になったらよくない。そこに何らかの“おもしろい”を付加することで、すごく“上ブレ”する可能性がある。ぼくたちは、上ブレさせる魔術師にならなきゃいけないと思うんですよね。
:あ、今、テーマと本業がガチッと合体した瞬間をみました(笑)。
:はい、ものすごく一生懸命まとめました(笑)。

普遍ハンター須田の、本日のまとめ

「興味本位で『面白い!』を追求しつづけたら、いつの間にか今の仕事をしていて、しかも気がついたら50歳になっていた! 」(須田和博)

澤本嘉光
株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー
1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ。」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の 10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当。)映画「ジャッジ!」の原作脚本。クリエイター・オブ・ ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭銀賞・銅賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞金賞・銀賞、TCC賞 グランプリ、ACCグランプリなど受賞多数。

須田 和博
株式会社 博報堂 ビジネスインキュベーション局
エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
スダラボ代表/広告新商品開発室メンバー
1990年多摩美術大学GD科卒業。アートディレクター、CMプラナーを経て、インタラクティブ領域へ。2014年3月自主開発型クリエイティブ・ラボ「スダラボ」発足。 紙~CM~WEBの全てがわかるCDとしてメディアを問わずコンテンツからサービスまで企画制作。1985年ぴあフィルムフェスティバル、1999年ACC賞、2000年TCC新人賞、2007年モバイル広告大賞、2009年東京インタラクティブ・アド・アワード・グランプリ、カンヌ国際広告祭メディアライオン・ブロンズ。2009年アジア太平洋広告祭・サイバー部門審査員。2016年、2017年ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。

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