福岡県みやま市の筒井時正玩具花火製造所にて。今回取材にご協力いただいた筒井時正玩具花火製造所・三代目の筒井良太さん(写真左)と、今日子さん(写真右)、博報堂ブランド・イノベーションデザインの加藤由佳(写真中央)。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第20回に登場するのは、「筒井時正玩具花火製造所」三代目の筒井良太さんと、今日子さん。聞き手は、博報堂ブランド・イノベーションデザインの加藤由佳。インタビューの最後には、なんと線香花火作りも体験させて頂きました。(この記事の最後に、線香花火作りに挑戦している動画もあります)

このままでは国産線香花火は無くなる――三代目がつないだ未来へのバトン

「筒井時正玩具花火製造所」は、日本で唯一の国産線香花火を中心に、様々な新しい花火の楽しみ方を開発しているブランドです。看板商品である「東西の線香花火」の他に、龍や鯨をモチーフにした「どうぶつはなび」、活火山のように吹き上げる「花富士」など、斬新な商品を世に送り出し、子どもから大人まで幅広い層に人気のブランドです。2014年に完成した新社屋には、工場の横に体験教室をつくり、線香花火作りのワークショップを開催。さらには、暗室のような「花火の部屋」も併設されており、昼間でもその場で遊ぶことができます。

福岡県八女市の手すき和紙を使った「東の線香花火」。

300年の歴史を持つワラを使った「西の線香花火」。

加藤:今日はよろしくお願いいたします。渋谷の雑貨店で「筒井時正玩具花火製造所」と初めて出会ったのですが、POPに「大人の線香花火、プレゼントに」って書いてあったんです。私はそのとき、「花火を贈り物にできるんだ」ってびっくりしたんですが、どんな経緯でこんな新しい花火ブランドが生まれたのか、今日はぜひお聞かせください。

筒井良太:筒井時正玩具花火製造所は、昭和4年から玩具花火を作り続けて来たのですが、実は線香花火を作り始めたのは私の代からなんです。以前は線香花火を作る会社はいくつかあったのですが、中国製の安いものに圧倒されて、国内では1社を残すのみになってしまいました。その会社は、私の伯父にあたる人が社長だったんです。このまま国産線香花火が無くなるのはもったいないと考えた私は、伯父のもとで3年間修業したのち、道具や職人とともに筒井時正花火製造所に戻ってきました。

筒井今日子:私は、育児期間中は仕事にはノータッチだったんですけど、ちょうどそのころ子どもが大きくなり、少し手が離れてきたんですね。それで、会社のことにも関わり始めたのですが、線香花火は正直全然売れずに、在庫がたまる一方でした。良い素材を使って職人が丁寧に作っても、1本数円の中国産には歯が立ちません。でも、すごくいい線香花火を作っていると思っていたので、どうしたらいいのか模索していたんです。
そんな時、行政が企画した「九州ちくご元気計画」という、地元のモノづくり企業向けのデザインの勉強会があったんです。花火の世界はデザインと全く無縁だったんですけど、良い機会だと思って参加しました。そこで福岡在住のデザイナーの方を紹介いただいたんです。
彼との相性はとても良くて、お付き合いを始めて今年で8年目になります。毎回の打ち合わせに持ってくるものが新鮮で、見るたび感動しますし、私たちの話も一生懸命聞いてくれて、こちらの想いが形になって出てくるんです。今では、このギャラリーのデザインまでお願いしています。

デザイナーとの信頼関係から生まれた、ヒット商品とは

加藤:それは、マッチングが本当にうまくいっているんですね。
ところで、「筒井時正玩具花火製造所」ブランドの魅力は、花火のバリエーションの多さだと思うんです。商品開発についてお聞きしたいんですが、「次はこれを作ろう」って、どうやって進めているんですか。

筒井今日子:デザイナーの方と話しながら、こちらからアイデアを出す時もあるし、デザイナーからアイデアをもらうこともありますね。
まず商品化したのは、「東西の線香花火」でした。実は昔は、東と西で線香花火の使い方や外見がまったく違ったんですよ。西の線香花火は柄の部分がワラでできていて、火薬の部分を上にして火をつけます。浮世絵にも残っているんですがもともと線香花火は、江戸時代に女性が香炉に立てて鑑賞して遊んでいたようなんです。それがお線香に似ていることから、「線香花火」と呼ばれるようになりました。その後、線香花火は関東でも作られるようになるのですが、関東ではワラの材料である米作りは少なくて「紙すき」業が盛んだったので、柄はワラの代用品として紙で火薬を巻いて作られるようになりました。
うちでは両方作ってどちらも「線香花火」として売っていたのですが、柄がワラになっている「西の線香花火」は、西でしか売れなかったんです。デザイナーと「関東風と関西風という事にしてセットにしよう」と考え、名前やデザインを変えたら、同じ数ずつ売れるようになりました。これが、線香花火をブランディングした初めての事例でした。

加藤:たしかに、西の線香花火というのは初めて見たのですが、どちらも試したくなりますね。
その他の商品はどのように生まれたんですか。

筒井今日子:「筒井時正玩具花火製造所」にはもともと、線香花火以外にも色々な商品があったので、それらをベースに新しい商品を開発していきました。デザイナーは「見た目を変えるだけではなく、コンセプトが伝わる商品開発が大事」だと言うんですね。例えば、「金属花火」という商品ですが、金属を使った花火は昔からありました。でも、パッケージに「チタニウム」「アルミニウム」を書き、燃える様子を「しとしと」「さらさら」と表現すると、お客さんが「やってみたい」と言って興味を持ってくださるんです。

加藤:東西の線香花火も、金属花火も、昔からあるものを組み合わせたり、逆に分けて特徴を引き出したりして、新しいものに見せているのですね。伝統を押し付けず後世に繋いでいく、理想的なあり方だと思いました。

筒井良太:デザイナーとは「持ちつ持たれつ」という感じで、一緒になって作っている感じです。例えば、「どうぶつはなび」シリーズの「龍」は、最初はこちらで「動く花火」を作ったんです。可動式の花火は無いから、デザイナーに「これはどう?」と見せたところ、「動くだけでは難しいですね」ということで、動物シリーズにすることになりました。龍に続いて商品化した「鯨」は、デザイナーの発案ですが、すごく売れています。

海をイメージさせる青い火花と、豪快な潮が特徴的な「噴き上げる鯨花火」。

加藤:デザイナーとの信頼関係で新しい商品が生まれていったんですね。ただ、新しいものを人に説明したり、売ってもらうのは大変なことだと思います。営業活動はどのようになさっているんですか。また、BEAMSさんとコラボ商品も出されていますが、どんな経緯だったんでしょうか。

筒井今日子:私たちは、個別の営業はせずに、展示会への出店などで販路を広げています。BEAMSさんとのコラボは本当に幸運でした。昔、「九州ちくご元気計画」のプロデューザーの方と、「将来、BEAMSとかで扱われたらいいね」「いやいやー、そんなこと無理でしょうー」なんて話していたんですが、一番最初の展示会に来て頂いたのがBEAMSのバイヤーの方でした。「うそー!」みたいな感じで驚きながらも、お声掛け頂いた方に誠実に対応するというのが今のスタンスです。

壁面の棚には、夏になるとたくさんの花火が並びます。

花火を選べない、現代の子ども達。

加藤:このギャラリーでは、花火作りのワークショップをなさっているとお聞きしました。すごく素敵な場所だと思いますが、このような場を作るきっかけは何だったんですか。

筒井今日子:この辺りは花火を作っている工場が多くて、夏休みになると自宅の座敷に花火をざーっと並べて、近所の子どもが買いに来ていたんですね。私も店番を手伝ったりしたものですが、その季節になると知らない子どもが勝手に上がってきたりして。
今までは問屋さん相手が中心だったので、お客さんと1対1で関わることはほとんどなかったんです。最近になって、展示会や店頭へのブース出店を通じてお客さんと触れ合う機会が増えてきた時に、気が付いたことがあるんです。
それは、「今の子どもたちがあまり花火を知らない」ということです。うちの商品を店頭に並べて見てもらうのですが、興奮しているのは親だけです。親が「○○君、好きなの選びなさい」って言っても、じーっとして、1本だけとって親に渡すんです。親が、「これだけでいいの?」とか言っても、無反応です。

加藤:それは驚きですね。楽しいはずの花火なのに、なぜそんなことになってしまったのでしょうか。

筒井今日子:加藤さんは、花火ってどこで買っていましたか?私が子供のころは花火は駄菓子屋さんで買うものだったんですね。ばら売りされている花火を、50円玉を握りしめて、どれを買うか店先で悩みに悩んで買っていたんです。今の子ども達は、コンビニやスーパーで売られているセットの花火を親にドンっと渡されて、ただ順番に燃やしているだけ。どの花火からどんな火花がでるかなんてじっくり見てもいない子がほとんど。だから、選べないんですね。本当は花火って、選ぶところからもっとワクワクするものだったんですよね。
だから子どもたちに花火を選ぶところからの楽しさを体験して欲しくて、このギャラリーでは夏は店いっぱいに花火を並べて、ばら売りをしているんです。

筒井良太:本当は国道沿いに直営店を出そうか、なんて話もありました。でも、工場の横で花火が買えるって、楽しくないですか。「立ち入り禁止」とか書いてある建物も多くて、花火製造所って感じでしょ。タイミングがあえば工場内での製造風景も柵の外から見ることができたり。体験型のエンターテイメントかな、と思っています。

花火のために、「米作り」をはじめました。

加藤:今の子ども達に花火の楽しみ方が浸透していないというのは、大変驚きました。都心では空き地も少なくなってきて、花火ができる環境も限られていると思います。今後、花火が生き残るためには、何が大事だとお考えですか。

筒井今日子:やはり、子ども達に体験してもらうことが一番大事です。子どもの時に自分がやらなかったものは、我が子にもやらせませんからね。
たまに、おばあちゃんから電話がかかってくるんです。「雑誌でおたくのことを知ったんだけど、孫に本物の線香花火を見せたいから買いたいのですが」って言われるんですね。その方は日本産の線香花火を子どものころにやっているので、スーパーで売っている中国産の線香花火に違和感があったそうなんです。すぐ火が落ちちゃうし、何でだろうと。国産花火の良さを知っている人を絶やさずにしていきたいですね。

加藤:逆に、今後も花火の魅力を伝え続けて行くために、困ったことや大変なことは何ですか。

筒井良太:西の花火で使っている軸の部分は稲の「ワラ」なんですが、もともとは「ほうき」に使われていたワラの穂先の下の部分(ほうきには使わない部分)を譲ってもらっていました。ところが、「ほうき」の生産量が落ちてしまって、良いワラが手に入りにくくなったんですね。そこで、田んぼを買って、お米を作ることにしました。

加藤:え、花火作りのために、お米作りを始めたんですか。米農家からワラを買えないのですか。

筒井今日子:ワラならなんでも良いわけではないんです。お米も品種改良されていてすべての品種が花火に使えるわけではないんですよ。なので、自分たちでどの品種が使えるのか試しながらやっています。

筒井良太:いずれは、お客さんに農業体験もしてもらって、田植えから食べるところ、そして最後は花火になるところまでできるようにしたいですね。

加藤:すごい。まさに、ピンチをエンターテインメントに変えていますね。

筒井今日子:わらを薄皮から抜く作業があるのですが、難しい作業ではないのですが手間がかかって困っていたところ、障害者の方にお願いできるお仕事であることが分かり、ご依頼しています。

加藤:新しい雇用まで生みだしているんなんて、素敵ですね。
では最後に、今後のおふたりの展望についてお聞かせください。

筒井良太:やっぱり、花火を後世に残していきたいですよね。特に、子ども達につなげていきたい。線香花火はすでに完成されつつあります。だから、今あるものを伝え残していくことが私の使命だと思っています。
そのためには、昔からある材料が無くなってしまっては大変です。作る人がいなくなることを見越して、自分達で作れるようにしておかなければ、と思っています。例えば、松煙(しょうえん)と呼ばれる、松の根っこを燻した原料も、今の仕入れ先に後継者がいなければ、自分達で作らなくてはなりません。でも、松の林にいくと、面白いアイデアが思いつくこともあります。現場は宝の山なんですよね。なので、何でも自分達で作ってみることが大事だと感じています。

筒井今日子:自分が好きで、楽しいと感じることを大事にしたいですね。私は、花火の職人ではないのですが、第三者目線で考えることが大事だと思います。中にいすぎると、世の中の当たり前が分からなくなってしまいます。経営状態がこうなっているから、と考えるのではなく、素の自分が楽しいことだけを、これからもやっていきたいですね。たまに大丈夫かな?と思うこともありますが(笑)

加藤:お二人が楽しんでやっている様子がにじみ出ています!
今日はどうもありがとうございました。

「東の線香花火」作りに挑戦しました。思ったよりも難しかったですが、自分で作った花火のかわいさは格別でした。https://www.instagram.com/p/BTImstxhBbg/?taken-by=brandtamago&hl=ja / https://www.instagram.com/p/BTIsr3JBgSO/?taken-by=brandtamago&hl=ja

■ご参考
筒井時正玩具花火製造所 http://tsutsuitokimasa.jp/

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「筒井時正玩具花火製造所」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【志】 “感情の沸点”を辿ると、隠れた魅力が見えてくる
「線香花火はすでに完成されている」と良太さんが言うように、花火は形も楽しみ方も、完成品と感じるものでした。そこから新しさをつくるのは並大抵のことではありません。そんな中で、筒井夫妻がこの難問を突破できたのは、なぜでしょうか。
それは、「花火の醍醐味は、どんな火が出るか想像する時間にある」という、花火の隠れた魅力を見出せたことではないかと思います。この魅力がブランドの柱となり、商品開発やネーミング、建物に至るまで、全ての施策につながっています。例えば、「しとしと」「さらさら」など、燃える様子を擬音語で表現したパッケージ。また、あえてセットではなくバラ売りをする売り場。そして、WEBサイトでは、あえて火が出る場面は掲載していません。全てのこだわりが、この「花火をする前の想像時間」につながっているのです。
私が一番はっとさせられたのは、この魅力をみつけるまでの今日子さんのアプローチ方法でした。今の子ども達が、花火をただ燃やしているだけなのではと疑問を感じた今日子さんは、自分は子どもの頃、何にワクワクしていたのかと、自身の“感情の沸点”を辿っていきました。
昔からあるものが売れなくなったとき、私達はどうしたら現代のお客様に受け入れられるか、ついつい相手に答えを求めてしまいがちです。しかし、そもそも素の自分が、その商品を使った時、一番何に感動したのか、嬉しかったのか、一体それはなぜなのか。自身の体験を振り返り、“感情の沸点”を辿ってみると、実はその強烈な感情の裏にこそ、時代が流れても変わらず「良い」と思ってもらえる、商品の本質が隠れているのかもしれません。

>>博報堂ブランド・イノベーションデザインについて詳しくはこちら

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