深谷 信介

スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表

「ご一緒しませんか?」
いつもニコニコ物腰柔らかく、実はキレキレのお隣さんのお誘いで、またも中国地方に出向くことになりました。出たっ、はじまりはいつもこのパターンっ。
「なんか深谷さんの顔が浮かんだんですよね〜。あっあと数人声かけました、空港出口集合ということで笑、よろしくお願いします!」
地域ワークは大抵こんなノリ。これが妙に心地イイし、嬉しいのだ。
はじめて会う方々と現地集合という、地域出会い系珍道中。
興味関心ごとが3つ以上あると友だちになれる確率がググッとあがる、そんな都市伝説を信じてやまない私は、他のしごとも絡めて羽田から空路広島空港へ向かうのでした。
空港には、とても背の高い大柄なITベンチャー社長、小柄で華奢なフリーデザイナー、そして国の中枢で大きな舵取りをしているキャリア官僚の方がザックを背負って待っていました。

<写真1|移動中の風景>

「はじめまして〜っ」
こんな挨拶から5分と経たない間に、大柄ベンチャー社長の素晴らしい場作りに助けられ、会話が超盛り上がりっぱなし、あっという間にトキが過ぎていく。圧倒的な質と量の生態系的情報交換・アイデア探索・面白雑談が、車外に広がる快晴のお天気と日差しを浴びて萌えあがる山々の緑、川のせせらぎを、より素敵に演出してくれる。

「あれー、ナビに出てきませんね〜。」
「あっ、ほんとだ。まっいいでしょ、近づいたら多分この辺だってわかりますよ。」
頂いた住所をナビにインプットしようとしても、なぜかその住所が出てこないのです。ナビの更新が遅れていればそんなこともあるか?いや住所だしな〜そんなことあるのかな?なんて思いながら、またすぐさきほどの会話の続きとなり、些細なことはふわっと車窓に消えていく。

<写真2|匹見町旧庁舎>

あっという間に約2時間の移動が終了、本日の第1目的地「匹見(ひきみ)」に到着しました。
クルマを降りると、現地を案内してくれる国の元職員がお出迎え。最近のUIJターンの多様性はもの凄い、こんな人がこんなところに!と思うのは都会人の曇ったメガネ目線で、ほんとに地球を世界を相手に先を見据えて動いている人ほど、いま地域というエッジシティでイノベーションを起こしまくっているのです。ここにもいるんだ、そういう方々。挨拶をしていると、第一村人ならぬ人影が・・・

<写真3|イです>

「あっどうも〜」って、このひとと知り合いなんだ。
一通り挨拶をし、ちょこっと会話を楽しみながら、頂いた名刺を見直してみると、おやっ?気になる記載が・・・
「すいません、◯◯さん。いま改めて名刺を拝見して気づいたんですが、この『イ』ってなんですか?」
「『イ』は、『イ』ですよっ」
「匹見イ っていう住所なんですか?」
「そうです、『イ』ですっ(笑)」

へ〜っ
昔セメント町とか鉄鋼団地とか、ユニーク地名や住所を巡ったことがあったけど、自分史上、住所で『イ』は初体験、日本ってやっぱり面白いな〜。

すかさずIT社長が切り込んでくる。
「ということは、『ウ』もあるんですかね?」
わたしも応戦。
「『ロ』じゃないですかね、『イ』の次は?」

「ハハハッ、『ロ』ですね。『ハ』もありますよ」
やったあ、当たった(笑)
「皆さんにとっては面白いんですね。たしか隣町にもあったと思いますよ」

(どうも気になったので出張後、郵政関係のひとにお話を聞いたら、富山とか千葉とかにも『イ』や『ロ』や『ハ』という住所があるそうです。いや〜知りませんでした・・・)

なんか嬉しい発見をした感じで、気分上々で匹見探検の開始です。

「みなさん、これから山合いにいきますっ」

んっ?もう山合いだけど・・・なんて思いながら、連れて行っていただいたところが、なんと谷あいの棚田、もといワサビ田でした。なんか厳かな雰囲気です。


<写真4|わさび田>

「おっ軟水ですね、しかもかなり柔らかいっ」(IT社長)
「え〜効き水できるんですか、すご〜い。どれどれっ (ゴクゴクッ)、美味し〜〜〜いっ」(デザイナー)
「葉っぱもなかなか辛くて美味しいですね」(キャリア官僚)
「この石垣、すんげ〜なっ」(わたし)

ほぼこんな感じっ、みなさん珍道中の一端を垣間見れましたでしょうか?

「ワサビは、畑で栽培するやり方と谷筋で栽培するやり方があるんです」
とは、アテンドしてくれたワサビ職人さん。
「匹見にはこんな谷筋がたくさんあって、そうだな〜いまでも100位はあるかな? 水も良くて、わさび栽培に適した場所なんですね。でも後継者がいなかったり、そもそも谷筋のわさびづくりは超重労働で、しかもできるワサビが不揃いになってしまう、味はいいんですがね・・・そんなこともあって、谷でのワサビづくりがあまりやられなくなった。荒れ果てた元ワサビ田の谷筋を復活させたいんですよね〜。味はいいんで。」

ワサビか〜っ

綺麗な空気、おいしい水、自然豊かな里。
そんなイメージがすぐに立ち上がってくるワサビづくり、超重労働だったんですね。しかし、いったいいつから野菜の形や長さを揃えて売るようになったんだろうか?ひとは個性が大切って言っているのに、野菜も自然と育てば、いろんな長さ太さ曲がり方になって、味わいも多分谷筋などの育った環境によって微妙に違って・・・。そういうことをまた愉しめるようになったらいいのにな〜。
「このまちはなんにもないんです、でもワサビがある。むかし、東の静岡、西の匹見と並び称されたワサビの産地だったんです」

おっ、なんか聞いたことがあるフレーズだ。
西の吉野、東の桜川
東の魚沼、西の仁多
これで3つめ、このお相撲番付フレーム、最近結構気に入っています。そしてそれって結構ほんとうです。

「ワサビで、このまちを復活させたいんです。」
力強く遠くをみながら語ってくれたワサビ職人も、先人のIターンの方。

日本食が世界文化遺産になって、少し時間が経ちました。
旨味が認められた瞬間でもありますよね。その旨味を体現できる天然調味料の1つが、このワサビ。
東京など経由せずに、一気にグローバルにブレイクスルーさせたいな〜。
などと思いながら、そのあと巡り巡って最終目的地、地元スーパーに立ち寄らせてもらったところ、地域応援・地域産品率20%を目標とされているそうだ。このスーパーの中を歩いていると、なんかナショナルブランドもの、グローバルブランドものが逆に不思議に見えてくる。
素敵なロゴ入りTシャツをもらって、今回も珍道中終了。

<写真5|地元スーパーTシャツ>

いや〜、またまた今回も発見ばっかりだったな〜などとオフィスで思い返していたところに、郵便が届いた。

<写真6|封筒と匹見ワサビ>

そうなんです、地域の方々って、こういうちょっと素敵なことをしてくれるんです、嬉しいなあ〜。都会も地域もウインウインになれることが、日本中に埋まっている・育っているとあらためて思ったワサビ田なのでした。

次回は、◯—◯ です。

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島根県益田市匹見町観光協会:http://hikimichou.com/
キヌヤ:http://www.kinuya.co.jp/

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