(右から)博報堂ブランド・イノベーションデザイン局HUX部の岩嵜博論、大倉誠一。

博報堂が2016年3月から展開しているプロジェクト「HUX(HAKUHODO UX & Service Design)」では、生活者にとって真に意味のある体験価値を創造するため、UX(ユーザー・エクスペリエンス)を基点に戦略立案からデジタル体験・サービスのデザイン、マーケティングコミュニケーションの実施までワンストップで提供しています。本プロジェクトは2017年4月より、新たにブランド・イノベーションデザイン局内の新部署・HUX部として始動しました。プロジェクト始動の背景やコンセプト、今後の展望などについて、岩嵜博論(ストラテジー)と大倉誠一(UX&クリエイティブ)が語りました。

UX(ユーザー・エクスペリエンス)を根幹にビジネスを開発する

大倉:HUXがプロジェクトとして立ち上がったのは昨年ですが、UX(ユーザー・エクスペリエンス)という言葉が言われ始めたのも、社内ではここ最近のことです。これまでの事業では、まず戦略があり、製品サービスをつくり、それをマーケティングに落としていくという発想でしたが、近年は、「顧客にどういった体験を提供できるか」という発想を起点とし、そこから戦略や製品づくりへと発想を広げていくという考え方に移行しつつあります。

岩嵜:デジタルテクノロジーの進化によって、かつてはテレビや新聞などのマスメディアのタッチポイントしかなかったのが、いまはスマートデバイスによって常時接続状態にある。たとえば、アプリを使ったり、プッシュ通知でメッセージが来たりというように、スマートデバイスによって、人は常に何かしらのエクスペリエンス(体験)をしている状況にある。ですから当然、そこは重視されることになるわけです。
下図はぼくたちの活動を紹介するときに使っているものですが、これまでだと事業者発想でビジネスストラテジーをつくっていたのを、これからはUXを中心に考え、そこを起点にするかたちでビジネスストラテジーやプロダクト、マーケティングなどが存在するという考え方です。

大倉:多くのインダストリーにおいてこういった発想はまだあまりなじみがないかもしれませんが、ふだんから「生活者発想」で考えてきた僕らとしては、この図は非常にしっくりくるわけです。事業者のサービスや製品がどう使われるかや、新しい価値をどう理解してもらうかといった点では、顧客側の視点から見た“翻訳作業”というのは、広告会社として僕らが現場でずっとやってきたことなんですね。その考え方を拡張し、戦略立案からデジタル体験・サービスのデザイン、マーケティングコミュニケーションの実施まで――上流から下流までを一気通貫して手掛けるというのが、HUXチームです。

博報堂ならではのクリエイティブコンサルティング力

岩嵜:現在UX領域にはさまざまな業界が参入しており、実際に大手のコンサル会社などもすでに取り組みを始めています。そういう中での我々の強みとしては、やはり広い意味でのクリエイティブ力にあるのではないかと考えます。仮説の構築や、最短で正解を導き出す力、製品やサービスが実際にどのように使われるかの具体的なイメージから逆算する力などです。クリエイティブ、ストラテジー、リサーチ、デジタル領域の専門家が集い、生活者視点でビジネスの機会を発見し、それを元に創造的に事業やサービスをつくる力は、当社ならではだと思います。

大倉:たとえばとある自動車リース会社とのお仕事では、高齢者ドライバーの運転を見守るというサービスを開発し、すでに提供が始まっています。これは車の挙動を検知する特殊な機器をセットすることで、ドライバーが危険運転をしていると家族にアラートが行くというものです。
最初にいただいたお題は、クライアント企業がすでに持っている運転データ取得デバイスを活用することを前提に、コンシューマー向けのビジネスを考えてほしいということでした。それに対して、法人向けの車両管理の仕組みをうまく使い、高齢者の運転を見守るという事業を提案しました。

岩嵜:通常の広告会社の仕事は、「こういう製品をつくったので、マーケティングしてください」ということが発端となるわけですが、このケースでは、クライアントさんと一緒に事業やサービスをつくるというところから入っていった。これまではクライアント企業が事業をつくり、マーケティングを博報堂がお手伝いするという形式だったのに対して、事業創造段階から並走させていただくということが近年増えてきました。

大倉:UXというと、単純にユーザーのことだけを意識しがちですが、やはり事業者のアセットやリソースなども常に意識しながらサービスを考えることが重要だと思います。クリエイティブ力ももちろんですが、そういう意味ではストラテジストのリサーチや、定性的なものをちゃんとデータとして評価できる人間がいることも強いですね。事業者が次のアクションを起こせるような素材をちゃんと提供できる能力があるかどうかも重要です。

新しい視点をもたらし、未来を切り開くようなサービスを

岩嵜:ここ最近は多くの企業で、デジタル技術とからめたビジネスクリエーションや新規事業に対するニーズがとても高まっていると感じますし、既存事業のデジタル化の流れも続いています。デジタル領域のサービスデザインは、今後も大きなテーマとなってくると思います。

大倉:いいサービスというのは、やはり利用者を主体的にさせるし、ふだんの生活の中で何か新しい視点を与えてくれるものだと思っていて、そういうものをこれからも目指していきたいです。

岩嵜:そうですね。その結果、何か世の中に必要とされているような、人間の未来を切り開いていけるようなサービスをつくり出せたら、と思います。

<終>

岩嵜博論(ストラテジー)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 HUX部

国内外のマーケティング戦略立案やブランド、イノベーションプロジェクトに携わった後、米国シカゴのデザインスクールを修了。その後、米国デザインファームでのインターンを経て、現在博報堂において、イノベーションコンサルティングプロジェクトをリードしている。

大倉誠一(UX&クリエイティブ)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 HUX部

カンヌライオンズ4年連続受賞等、国内外の広告賞を多数受賞。2012年米国サンフランシスコに留学し、ストラテジー&デザインファームCooper社にてUXデザイナーとして実務研修を修了。現在、博報堂のUXディレクターとして、社内のイノベーションプロジェクトをリードする。