「MONPE」も販売するアンテナショップ「うなぎの寝床」前にて。右から今回取材にご協力いただいた白水高広さん、博報堂ブランド・イノベーションデザインの阿部成美。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第19回に登場するのは、福岡は八女、久留米絣で作るワークパンツ「MONPE(もんぺ)」を提案する、うなぎの寝床代表取締役・白水高広さん。建築学科を卒業後、地域活性化プラン「九州ちくご元気計画」にてさまざまな商品開発・ブランディングサポートを手がけた白水さんが、自身のブランド立ち上げに込めた思いとは?聞き手はMONPEを日常着として愛する阿部成美です。

本当の意味で作り手と使い手をつなぐ場所を―。都市部ではなく産地にあるアンテナショップ「うなぎの寝床」

「MONPE」は、伝統工芸である久留米絣のテキスタイルからつくられた、ワークパンツ。限りなく手織りに近い風合いで、やわらかく丈夫なのが特徴です。
もともと、久留米絣で「もんぺ」の生地が織られていた経緯から、「もんぺを、今の時代でも履ける日本のジーンズに」を目指して開発されました。白水さんが経営するアンテナショップ「うなぎの寝床」をはじめ、オンラインショップ、全国のセレクトショップにて販売しています。


「MONPE」。

もんぺの型紙も販売し、好評を得ている。

阿部:「MONPE」を最近オンラインショップで購入したのですが、楽で気持ち良くって、すっかり虜になってしまいました(※取材時も着用)。今日はMONPEブランドを立ち上げられた背景や、こめた思いなどをお聞かせいただけたらと思っていますが、その前にそもそもアンテナショップ「うなぎの寝床」を先に始められたとのこと、まずはそのきっかけからお教えいただけますか。

白水:僕は佐賀の生まれで、大学では建築を学びました。卒業後、就職せずに、友人何人かと福岡でグラフィックの仕事を始めたんですね。パッケージデザインなどをちょこちょこやっていたら、その活動が福岡県庁の人の目にとまって、「九州ちくご元気計画」という地域活性化プロジェクトに誘っていただいたんです。それが2009年の8月でした。
雇用創出を目的に、農業・工業などの地域事業者とデザイナーや建築家・コンサルタントなどの専門家をマッチングして、勉強会や商品開発などを行うというものなのですが、2年間ほど関わりました。推進員として、今お店でも扱っている若手果樹農家“うきは百姓組”の商品開発や、“筒井時正玩具花火製作所”のリブランディングのサポートなどを専門家と共に行っていたんです。全部で100超のプロジェクトをお手伝いしました。うまくいかなかったものも、もちろんありますけどね。
プロジェクトでは販路開拓のお手伝いをすることも多かったのですが、東京や福岡などの都市部では買える場所が増えているのに、作り手がいる筑後地方では買える場所がないことに疑問を感じ始めました。生産地を訪れてくれたお客さんに、ショールーム的な場所がないのはどうなのだろうと。そこで、作り手の情報を発信しながら商品を紹介し、購入できる場所ということで、5年ほど前に「うなぎの寝床」を始めたんです。

阿部:なるほど。通常“アンテナショップ”って都市部にあるイメージなので最初その言葉を聞いたときに違和感があったのですが、そのような思いだったのですね。

白水:都市部はお客さんがたくさんいるので、お店としては成り立つでしょうけれど、作り手の制作環境や意図などは伝わりづらい。だから担当者が変わったら、値段を下げてくれとか、ちょっと下請け的な感じになる気がするんです。うちは作り手が近くにいるので、材料や工程を理解して使い手に伝えられますし、流通コストもかからない。修理やクレームもうちが受けて、それをうまくフィードバックして、よりよい商品をつくることも出来ます。
また、うちにある商品を見て、取り扱いをしたいというお店さんがいらっしゃったら、直接作り手を紹介しています。競合店であっても、作り手にとってきっかけになればいいと思っているんです。そういう行政と民間の間ぐらいの機能かなと思っていますね。

阿部:なるほど。本当の意味で作り手とお客さんの間に入って、しっかりと両者をつなぐことをお店としてやっていらっしゃるんですね。取り扱われている商品は、お店から車で一日で行ける範囲に作り手がいらっしゃるとお聞きしましたが、それ以外に選定基準などはありますか。

白水:「作り手」「土地性」、さらに「経済」という観点を大事にしています。意外に見落としがちですが、みんな“生活”しているので、「現代の経済に載せられるか」という観点ですね。

阿部:すごく共感します。「ブラたま」でも「伝統を革新する」というテーマで取材を進めていると、みなさん情緒的な視点だけでなく、ブランド存続のために、いい伝統を若い方に受け入れられる方法をしっかり考えていらっしゃいます。

白水:そうですね。現代でも通用するもので、経済がちゃんと回って初めて文化の継承ができると思います。なので、この部分が弱い作り手さんには、値段を一緒に上げたり、生産効率を上げるご相談をしたりしています。

予想外の展開で生まれた「MONPE」ブランド

阿部:ここからは「MONPE」のお話をお伺い出来たらと思いますが、「うなぎの寝床」初めてのオリジナル商品なんですよね。どういった経緯で立ち上げられたのですか?

白水:僕も春口(うなぎの寝床店長)も、建築をやっているときから「新しい物は基本的に作らなくてもいい」という考えを持っているので、実はもともとオリジナルを作るつもりはなかったんですね。
ある日僕らが物産店に行ったときに、久留米絣のチュニックやワンピースに混じってもんぺを売っていた。たまたまちょっと買ってみて着たら、着心地がよかったんです。しかも使えば使うほど風合いがよくなっていく。さらに、文化的にも、言葉的にもおもしろい。
従来の久留米絣って、問屋さんがかなりの量を購入していて、百貨店での催事販売が主。ターゲットも年齢層が高い人たちだったんです。でもその体験がきっかけで、提案の仕方次第でもっといろんな年齢層に着てもらえるんじゃないかと思い、「もんぺ博覧会」というイベントをやったのがきっかけです。
1年目はオリジナル商品ではなく織元さんの商品を集めてやったのですが、当時どこの織元さんも、「なぜ今頃もんぺ?」と言う感じだった。逆に、失敗するだろうという空気さえありました。

阿部:もんぺは売れないものだという概念があったのでしょうか。

白水:実は、過去、もんぺを作っていた業者が潰れていった事実があるんです。昔ながらのもんぺはとにかく厳しい条件で作っていたようなんですね。販売価格も安価なので、つらい仕事だった。
もともとはご存知のように、戦争の際、もんぺは「婦人標準服」として強要されていました。空襲演習のときに、着物では逃げられないので、もんぺを履きましょうというルールだったんです。それが、実は着心地がよかったこともあり、戦争が終わっても、各地で農作業着として定着し、現在に至ります。
第1回もんぺ博覧会は、人が来ないだろうと思っていたら、結果的に取材も多く入って、好評のうちに終了しました。

阿部:それを受けて、オリジナルブランドに着手されたのですか?

白水:いいえ。実は第2回もんぺ博覧会で提案したのは「もんぺの型紙」でした。家にある着物や反物でもんぺを作りたいという要望が多かったので、作ったんです。

阿部:「型紙」が先だったのですね。

白水:はい。型紙を販売する際、それを使って作ったもんぺを展示していたら、「そのもんぺが欲しい」という要望が多かったので、織元さんに作ってもらい始めたのが「MONPE」ブランド立ち上げのきっかけです。その後展示会の規模も大きくなり、卸の要望も増えてきたので、オリジナルの布を作って縫製工場に入れて作るようになりました。

良いなという感覚は過去に実証されていた!「日本のジーンズ」というキャッチコピーにこめた思い

阿部:もんぺを「MONPE」としてブランディングされるにあたり、「日本のジーンズ」というキャッチコピーを置かれていますよね。もんぺをアップデートする上ですごく素敵な言葉選びだと思いました。


「MONPE」ホームページのトップページ(2017年6月現在)

白水:ありがとうございます。もともとジーンズってアメリカの坑夫のワークパンツから日常着に転換していきましたよね。もんぺももともと農作業着なので、そこから日常着に昇華していく可能性があるんじゃないか、という思いを込めました。

阿部:お話を聞いていると、歴史や過去を大切にされていて、その振り返りから気付きやチャンスを発見していらっしゃるように感じるのですが、何か意識的に取り組まれていることはあるのでしょうか?

白水:僕は、過去を調べないと新しい商品って生まれないと思っているんですよ。
たとえばもんぺも、最初は「なんか気持ちいいから提案したい」という感覚なんですけど、その感覚の裏付けは過去にあるんです。調べたら、戦争後、強要されていないにもかかわらず勝手に農作業着として定着した歴史がわかった。つまり、着心地は過去を見ても実証されているということなんです。

阿部:なるほど。歴史を振り返るという行為は、白水さんの中では自分の感覚を実証したり、自信を持って発信するための作業なのですね。
MONPEが受け入れられた理由は、ほかにどういったことがあるとお考えですか?

白水:ヒットしたりリピートや口コミにつながる商品って、機能的要素と、文化的要素、それに視覚的な要素が揃っていると思っています。機能的要素というのは、そもそもの持つ機能のことですね。文化的な要素は、それがもっている文化のこと。視覚的要素は、いわゆるデザイン・ビジュアルですね。
MONPEも、機能面から入ったら文化も面白かった。デザインという意味では、久留米絣は模様の種類が豊富にあるのですが、MONPEにはあえて現代に受け入れられるように無地の布を使ったものが多いんです。
よく、デザインを変えたらうまくいくと言いますが、視覚的要素だけだと失敗するんです。複合的に商品を作っていかないといけないと思いますね。

阿部:共感します。お店で見て、何かおしゃれなんだけど惹かれないなっていうのは、この差なんだと思いました。
最初にMONPEを立ち上げられた時は、どんな人に履いてほしいとイメージされていたのですか?

白水:あんまりターゲットを絞らず、プレーンにやることを心がけていました。いろいろな年代に着てほしいと思って。なので、WEBサイトやカタログでも、20代~60代の方に履いてもらいました。
ちなみに、「うなぎの寝床」に置いている商品も、「プレーンであること」を大切にして選んでいます。なので、自分や店長の春口が買いたいものとは少しずらしているんです。趣味的なものだと、一部の人の楽しみで終わってしまいますから。先ほどの作り手や地域性、経済的な観点に加えて、機能・文化・視覚の3つの要素も意識しつつ、セレクトを心がけています。

主観を押し付けることなく、「社会によって残される」機会を創る

阿部:先ほど、生産効率の話があったと思うのですが、白水さんは、伝統産業に関してもフラットな視点でとらえていらっしゃいますね。

白水:日本でものを作るって、そもそも効率が悪いし、人件費もかかるじゃないですか。なので、日本のものづくりが今度続いていくために、譲れるところ、譲れないところを知るのはすごく大切だと思っているんです。肝心なところは残しながら、機械やシステムを入れたほうがよければ入れる。
もしくは、完全に昔ながらのやり方をして、すごく高額で売るか、どちらかだと思いますね。

阿部:作り手さんと一緒に、残すべきところ、効率化するところを見極めながらチャレンジされているということなんですね。
白水さんとしても、久留米絣の伝統を絶対に残したいという思いなんですか。

白水:というよりは、社会に受け入れられる可能性があるのに気付かれないまま終わるのはもったいないという気持ちですね。なので、とにかく多くの人に知らせて、いいかどうかを尋ねている。その上で残るならそれは社会によって残されたと思うんです。

阿部:なるほど。この伝統は俺が好きだから絶対に残すんだ、というよりは、社会との接点を提供して、対話しながら取り組まれているということなんですね。

白水さんは不動のセンター!織元さんと築いた関係性

<最後に、実際に白水さんに、久留米絣の織元である下川織物さんの工房に連れて行ってもらいました>

もう生産されていないという織り機を使った作業。糸の補修や柄の微調整などが必要なため、4台に1人、人が付く必要がある。

阿部:白水さんから「MONPE」の依頼があった時は、どのように思われましたか?

下川:この業界に若い人が入ることがほとんどないので、嬉しかったですね。年下の方と付き合うことが産業を続ける鍵だと思っているので、「若造が」といった気持ちもありませんでした。
また、自分でブランドを作るという方法もありますが、そうするとどうしても同業者がライバルになりますし、視野が狭くなるんですね。しかも、私は誰よりも職人であると思っているので、自分がやるのではなく、応援するという立場で参画させていただくのはとても有り難い機会でした。

阿部:下川さんは、他にもSNSで積極的に発信したり、工房見学をしたり、新しい活動をされていらっしゃいますね。

下川:そうですね。縁を大事にしているので、人とつながることは積極的に行っていますね。私は、工房を「スタジオ」と呼んでいます。作っているところは「ライブ」(笑)。SNSは、「ライブ配信」なんです。昔は工房をAKB劇場って呼んでいました。自分が秋元さんで、応援する立場。来てくださる関係者のみなさんがAKBという位置づけです。白水さんは、不動のセンターなんですよ。いつも、ご自身の立場を冷静に見て判断されている。すごいなと思います。

下川織物さんにて。右が下川織物代表の下川富彌さん。

自身の役割は「地域文化商社」 ノウハウを活用し、他の地域にも還元したい

阿部:不動のセンターという表現は面白いですね。そんな白水さんは現在、ショップを経営しながらブランドを作られたり、展示会や動画制作などにも取り組んでいらっしゃいますが、ご自身の役割をあえていうなら、どのようなものだとお考えですか?

白水:そうですね、最近は「地域文化商社」のようなものかな、とぼんやり思っています。地域にある文化を掘り出して、外の世界に伝えていく役割ですね。
ですので、今後はこのモデルを他の地域にも還元することが役割なのかなと思い始めました。筑後地方はものづくりが盛んだったので、「うなぎの寝床」はものづくりのアンテナショップですけれど、真ん中に置くものはその地域の特性に合わせて応用しつつ、ノウハウは活用できるかなと思っています。

阿部:「うなぎの寝床」や「MONPE」のモデルが他の地域に広がっていくのは、とても楽しみですね。
今日は本当にありがとうございました。

■ご参考
「MONPE」http://monpe.info/

【撮影協力】広瀬麻子

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「MONPE」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【形】「プレーン」に社会と対話することで、良好な絆を育てる。
対談中、少しびっくりしたことがありました。
私が「MONPEは誰に向けて開発したものですか?」と聞くと、「特にターゲットは決めていない。」と回答されたことです。むしろあえて誰もが使いやすい「プレーン」な「形」を心がけているそう。ターゲットを絞る方がブランディングはしやすいと言われています。なぜそんな難しいことにあえて挑戦しているのでしょうか。
MONPEの開発を簡単に振り返ってみると、始まりは白水さん自身がもんぺの着心地の良さに感動したことでした。そこで歴史に立ち返ると、もんぺは農作業着として愛され、定着していた時代があった。だから、もんぺが日常着になる可能性を感じ提案した、という流れでした。
そこで、「もんぺを現代風にアレンジして、○○層に売って儲けよう」と考えるのが普通です。しかし白水さんは、自身でターゲットを絞り込まずに、「自分が良いと感じたものが、世の中のどんな人から反応があるかをまず知りたい。」という発想で活動していました。あくまで「ブランドが受け入れられるかどうかは自分が決めることではない。」というスタンスを持っているからこそ、「日本のジーンズ」キャッチコピーや無地の生地を使った商品など、「プレーン」な「形」で提案できたのではないでしょうか。その結果、若い人から年配の方まで、幅広いファンを獲得しています。
良いブランドには、ブランドとお客さんの間に良好な絆があります。だからこそブランドと顧客がお互いに惹かれあう関係性をつくることが重要です。
その前提に立つと、最初からこのターゲットと決めて、できたものを何が何でも売るというやり方よりも、まずはプレーンに「これどう?」と社会に問いかけて見る。そして社会と対話しながらブランドを育てていくというやり方の方が、効率的なのかもしれません。

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