日和制作所横の綺麗に咲いた桜の木の下で。右から今回取材にご協力いただいた石野雅俊さん、泉田志穂さん、博報堂ブランド・イノベーションデザインの岡田庄生。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第18回に登場するのは、手彫りの菓子木型を使って丁寧に作り出される和三盆菓子ブランド「HIYORI」を提供する、高松市は日和制作所の泉田志穂さん、石野雅俊さん。元は県外で活動していたデザイナーと元銀行員のお二人による商品開発の背景とは?また、込めた想いとは―。聞き手は、実は甘いものが大好きなブラたま編集長の岡田庄生です。

地元名産・和三盆への熱量が引き寄せた出会い

「HIYORI」は、香川県産の和三盆糖「さぬき和三盆」を用いた干菓子のブランドです。まるで雑貨のようなキュートなデザインが特徴で、瀬戸内海の風景をイメージした花や鳥モチーフのほか、ギターをかたどったユニークな商品なども提案。お土産や贈り物として人気を博しています。
これらの商品は、いずれも日本の伝統工芸品である「手彫りの菓子木型」を用いてつくられたもの。実は、この木型を彫る事ができる職人の数は全国的に減少しており、四国にはただ一人。そのひとつひとつが、丁寧な手作業による逸品です。


キュートな見た目で人気を集めるHIYORI。

手彫り木型。

岡田:もともとHIYORIさんを発見したのは、私の妻なんです。雑誌か何かで見つけたようで、「可愛い!」と注目していました。僕もサイトを拝見したら、お菓子のキュートなデザインはもちろん、木型を丁寧に紹介されているのがおもしろいと感じて。ブランドの象徴に「木型」を使われていますね。そのあたりの核心もお聞きしたいと思い、お声がけさせていただきました。
まずは泉田さんと石野さんの出会い、そしてHIYORIブランドを立ち上げた経緯から教えていただけますか。

泉田:私は香川県で生まれ、高校まで香川で育ちました。昔からクラフトが好きだったので、大学では工芸工業デザインを専攻したんですね。卒業してからは少し東京で働いたのち、大阪で個人事務所を立ち上げ、グラフィックを中心に仕事をしていました。そのころから、いつか地元の名産をデザインしたいという気持ちがあったんです。
あるとき友人から「結婚式の引出物に和三盆のデザインを考えてほしい」という依頼があって。宝石・椿・寿の形を作ったのですが、その評判がよかった。ずっとやりたかったことでもあったので、じゃあ自分で新しい形の和三盆を売っていこうかなと思ったのがきっかけでした。
最初はその友人を巻き込み二人で始めたのですが、これから売り出そうと試行錯誤していたところ、香川県庁の方から和三盆で起業しようとしている青年がいると教えてもらいました。それが石野君。10歳違うんですけれど、ぜひ会いたいとすぐに連絡しました。

石野:僕は、高校まで香川県にいて、大学で上京しました。上京後も、住まいは香川県の県民寮、アルバイトも讃岐会館という、東京にいながら香川漬けの生活をしていたんです。漠然と将来も香川県に何かしら関わっていたいなという思いがありました。
あるとき大学に里帰り土産で和三盆を持っていったら、同級生から様々な反応がありました。和三盆のことを知らない人もいれば、砂糖を食べるということに違和感を持っている人もいて。でも、食べたら「おいしい」と言ってくれるんです。こんなにおいしいものなのに、もったいないなぁと感じて、もっと知ってほしいと思いました。あとは、たまたまお酒の席で友達が「和三盆ってお酒にも合うね!」と言ったんです。和三盆って実はいろんなものと合うんじゃないかなと、思うようになり、その頃から和三盆をもっと知ってもらうためにはどうしたら良いかなと考えるようになりました。
結局普通に就職活動をして、銀行に入ったのですが、その時考えていたことをどうしてもやりたくて。勤めながら香川の老舗製糖所さんに「和三盆のつくり方を教えてください」「弟子にしてください」とラブレターを送りました(笑)。でもダメだった。

岡田:断られちゃったんですね。

石野:はい。その後も諦められず手紙を送っていたのですが、何度も断られました。僕のことを気遣ってくれていたのです。それでも、文献を読んで不思議に思ったことを質問したり、自分で調べたことをまとめて提出したりして、ようやく和三盆のことを教えていただいたり、自分がやりたいことをする上でのご協力をいただけることになったのです。このやりとりがあってから、もっと和三盆にのめり込むようになりました。
今は銀行から別の会社に転職をして、その会社の仕事を香川県の自宅でテレワークでやりながら、HIYORIの活動もしています。泉田さんとお会いしたのは、銀行を辞めたタイミングだったんです。その時見せてもらった和三盆の試作がすごく可愛くて。こんな素敵な和三盆を多くの人に知ってほしいなと思い、「一緒にやらせてください」とお願いしました。

岡田:なるほど。お二人が引き寄せられた和三盆というのは、そもそも香川県の名産なのですね。ご自宅でも良く食べられていたのですか?

石野:そうですね。僕はもともとすごく好きでした。祖母の家に行く途中に和三盆の製糖所があって、よく立ち寄っていたんです。

泉田:私、実は子どものころは嫌いだったんです(笑)。大人になってから出来立ての和三盆を食べたときに、本当に美味しくて。それからはまってしまいました。

岡田:私も和三盆はもちろん知っていましたが、香川県がその名産地だとは知りませんでした。そういう方、多いかもしれませんね。

石野:そうですね。とくに若い方は、名前は知っていても、何に使われているのか、どうやって食べるのかなどあまりご存知ないと思います。

1年間のお手伝いを通じて、ようやく築いた信頼関係

岡田:そこからお二人の活動が始まったわけですが、どのように商品化を進めていかれたのですか。

泉田:継続的に商品にする上でまず大変だったのが、専用の木型を作っていただくことです。これまで、伝統的な和三盆は木型でつくられてきたんですね。もちろん今は機械化で、樹脂の型やレーザーなんかで作るメーカーさんも増えてきているのですが、自身が造形を専門にしてきたこともあり、どうしても手彫りの木型で商品化したかった。
今、「HIYORI」の工房の近くに住む木型職人の伝統工芸士さんにお願いしているのですが、木型を彫る仕事ができる職人は四国でお一人しかいらっしゃらないんです。お忙しいですし、何より歴史ある仕事ですから、急に行って「これを作ってほしい」と言って作っていただけるものではない。最低限のマナーとして、伝統や背景を勉強してからご相談するべきなんじゃないかと思って、1年ほど、職人の方が行っている実演販売などについて回って、色々な知識を教えてもらいました。それを経てようやくHIYORIの木型を継続的にお願いすることが出来たんです。

岡田:なるほど。和三盆をつくるプロセスの前に、そもそも職人の方と一緒に木型をつくるというプロセスの大変さがあるのですね。先ほどの石野さんのお話にも、何度もお手紙を書いたというエピソードがありましたが、本気でやりたいか、そして根気があるかというのが伝統産業を革新しようとするブランドにはとても大事だと感じましたし、知恵や経験をお持ちの先人達に受け入れられるかどうかの指針なのかもしれませんね。
ところで、HIYORIのネーミングや商品のデザインはどのようにつくられたのですか。

泉田:自分だけの「日和」ができたら、日常がちょっといい日になるんじゃないかという思いをこめて、HIYORIという名前にしました。デザインについては、瀬戸内海の景色など自分の好きなものを形にしていますね。今は「せとうち日和」と「コーヒーブルース」と「わさんぼん日和」を展開しています。

岡田:フレーバーもユニークですよね。「コーヒーさんぼん(下記写真参照)」はコーヒー味の和三盆なんですね?

泉田:はい。伝統的な和三盆は、日本茶と合わせるイメージですけど、最近コーヒーの消費量が多くなっていますよね。現代の生活の中にどうやったら和三盆が入っていけるか考えた結果生まれた商品です。

石野:和三盆はコーヒーとの相性も良いんです。口の中で溶かしながらコーヒーを飲むと、マグカップの中のコーヒーの味や香りを消さずに、口の中で甘さを楽しめるという新しい楽しみ方を伝えています。コーヒーにこだわっているカフェの店長さんに気に入ってもらってお店に置いてもらうなど、拡がりも出てきました。

岡田:お二人の基本的な役割は、泉田さんがデザインをされて、石野さんが販売企画をされている、ということですが、お話を聞いてそれぞれの得意分野をうまく重ねていかれたことで商品が出来上がったように感じました。

泉田:そうかもしれません。私は直感タイプ。石野君は考えるタイプ。お互い意見を聞きながら、進めていきました。


コーヒーさんぼん。形もコーヒー豆。

HIYORIをいただく岡田編集長。「おいしい。日常のおやつで気軽にいただきたい」とご満悦。

木型からつくられる和三盆は“食べられる工芸品”―背景を知って商品を購入してほしい

岡田:冒頭にも申し上げましたが、このHIYORIというブランドをコミュニケーションされる際に、木型をかなり前面的に紹介されていますよね。どういったご意図があるのですか?

HIYORIのWEBサイト、トップページには木型の写真がたくさん使われている。

泉田:まず私が木型が好きだからという理由が大きいですね。加えて、こういう場所でつくられていてこういう人がつくっているという背景を知って食べてほしいという思いがありました。

岡田:お二人から見て木型の良さはどういうところですか。

泉田:“手のブレ”が出るところでしょうか。機械でつくるときれい過ぎて、CGみたいに見えちゃうんです。私はこのクラフト感がすごく好き。木=自然のものでできているところもいいですね。もちろん、味もまろやかに仕上がります。

石野:お客さんと会話をする中で、木型をつかっているからこそできること、できないことなど作り手のポリシーを丁寧に伝えるようにしています。そういう物語を添えられるところも木型の良さなのかなと思います。

岡田:木型についての、バイヤーさんやお客さんの反応はどうですか?

泉田:こういった背景を気に入ってくださる方が多い印象です。イベントのときも必ずディスプレイしていますね。

岡田:ふと思ったのですが、木型に触れることで、「大切な自然のものをいただいている事実に気付かされる」ということもあるかもしれませんね。和三盆というお菓子は、実は型は桜の木でできていて、和三盆は瀬戸内のサトウキビでできている。それを人が一つ一つつくっている。

泉田:そうですね。木型からつくられる和三盆は“食べられる工芸品”と言われています。なので、HIYORI制作所の「制」は、製造の「製」ではなく、工芸品をつくるという「制」にしているんです。

実は「木型ブランド」だった!粒違いの二人がつくるHIYORIの未来

岡田:現在はECサイトに加え、一部セレクトショップ等でも売っていらっしゃるのですね。

泉田:はい。ほかにも個別でギフトなどの注文も受けたりしています。仲間を中心に、作り手の人数も増えました。

石野:新しい商品も、少しずつつくっています。今度お酒と混ぜた和三盆をイベントで紹介するんです。もちろん、お酒を混ぜたとしても、和三盆の味や口どけを消さず、引き立てるというのが大前提。あまりにもこれまでの和三盆とかけ離れたものにはしないつもりです。ある人にとっては、HIYORIが生まれて初めての「和三盆」かもしれません。その時に、和三盆を誤解されたくないな、と思っています。

岡田:なるほど、昔からある和三盆を否定するのではなく、和三盆が持っている魅力に気づいてもらうきっかけをつくっていきたいという思いなんですね。最後に、HIYORIブランドをおふたりが今後どのように育てていきたいとお考えなのか、教えていただけますか。

泉田:私は、HIYORIは私や石野だけでなく、木型職人の方や製糖所の皆さん、工房の作り手など、みんなで作っていると考えています。ですので、今後もお世話になっている皆さんに敬意を示しながら、本物の和三盆を提供することに注力したいと思っています。売上げだけに走るようなブランドにはしたくありません。
あとは、コラボレーションにも挑戦したいですね。私たちが用意した「せとうち日和」や「わさんぼん日和」以外にも、さまざまな形の「◯◯日和」がどんどん増えるといいな、と思っています。ほかにも、和三盆と瀬戸内銘菓のお土産セットを作ったり、木型を使ったブローチをつくったり、和三盆用の漆の器をつくったり…。さまざまな提案をしたいと考えています。

岡田:なるほど、極端にいえば泉田さんの中では、HIYORIは和三盆ブランドというより「木型ブランド」なのかもしれませんね。だから木型そのものが世の中に出たり、今後も持続する環境をつくることを大切にされているんですね。だからこそ、最終的な商品は柔軟性を持っていると感じます。そう考えるとHIYORIブランドの中心に「木型」があることも、大変しっくりきました。石野さんはいかがですか?

石野:HIYORI=伝統工芸を基軸にしたお干菓子ブランドという立ち位置を守りながら、和三盆糖自体の情報発信も強化したいと思っています。サトウキビがどうやって育てられているか、どのように製糖しているかなど、もっとたくさんの人に知ってほしいです。製糖所によって和三盆糖の味が全く違うということも伝えていきたいです。また、HIYORIというお干菓子ブランド以外にも、お菓子屋さん等とコラボした和三盆糖を使った別のお菓子ブランドにも挑戦して和三盆糖の拡がりをつくりたいですね。

岡田:お二人で取り組まれるHIYORIという活動が真ん中にありつつ、お互いが少し違った興味範囲をお持ちになり、それぞれ拡げていこうとされているんですね。今後もお二人のご活躍をささやかながら見守らせていただきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

お二人の木型の師匠である市原さんの工房にもご案内いただきました(真ん中:市原さん)。

【撮影協力】桑原雷太

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「HIYORI」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【形】”食べられる工芸品”が一目で分かる、シンボルとしての木型
初めて「HIYORI」のウェブサイトを見たとき、「木型」の印象が強く残りました。さらに読みすすめてみると、木型職人が四国ではあと一人しかいないという事実を知りました。とても心に残るエピソードだと思いつつも、大変失礼な言い方をすれば、「お涙頂戴の宣伝手法ではないか」と疑っていた自分がいました。(ごめんなさい!)
ところが、実際に作り手のお二人にお会いして伝わってきたのは、工芸や和三盆糖に対する純粋な「好き」という気持ちと、職人に対する尊敬のまなざしでした。なるほど、「HIYORI」はお菓子ブランドではなく、工芸品ブランドなんだな、と腑に落ちた瞬間でした。
それと同時に、なぜ私自身が「木型」に興味を持ったのかも、お話を聞く中で分かってきました。泉田さんが取材中におっしゃっていたのですが、今の若い人たちは、決して奇抜なものが欲しい訳ではないけれど、人と少しだけ違うものが欲しい、そんな気持ちを持っています。よくみると一つ一つの形が少しずつ違う「木型」で作られたHIYORIは、そんな現代の若者の心を捉えます。木型は、「瀬戸内の自然から生まれて、職人の手によって作られた、あなただけのお菓子」という「HIYORI」の世界観を一瞬で伝えてくれる媒体でもあるのです。
無機質に思われがちな、製造プロセスの中にある道具に、ちょっとした差異、人が介在する温かみ、自然のぬくもりを感じ取り、ブランドの「形」としてシンボリックに表現する。そんな「HIYORI」のブランディングに学ぶところは多いと感じました。

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