「LIVE JACKET」のオーケストラ版「ORCHESTRA JACKET」と。左から開発に関わった落合陽一氏、博報堂の宇佐美雅俊。

博報堂は、4月26日、「LIVE JACKET」の開発を発表しました。
※ご参考 http://www.hakuhodo.co.jp/archives/announcement/38600
どこでもライブ体験を実現するジャケット型デバイスとは?開発の裏側や、LIVE JACKETの魅力、活用の可能性などについて、協業パートナーである筑波大学助教でメディアアーティストの落合陽一氏と博報堂 統合プラニング局の宇佐美雅俊が語りました。

音をまとい、全身で聴く、まったく新しい音楽体験

落合:僕はふだんメディアアーティストという肩書で活動していますが、いまテーマとしているのが、“エジソンの発明したテクノロジーの時代をいかに終わらせるか”です。どういうことかというと、音楽の世界では、近代においてエジソンが発明した“量産化された”オーディオ・ビジュアルの流れがいまだに続いています。それをコンピューター時代の今、どうやって適切にアップデートするかということに非常に興味があるんです。
ですからこのプロジェクトで目指したのも、“音楽体験のアップデート”。実際、音楽がデータ化され、ソフトウェアの形で販売されていくという流れに、いま行き詰まりがきている。耳の中にイヤホンを突っ込んで聴くというように、音楽を聴くことがきわめて個人的な体験になり、ライブ体験から遠ざかってしまっていったんです。たとえばフェス人気が加速しているのもその反動だと思います。そんな中、大勢に聴かせる音楽でもなく、イヤホンで聞く音楽体験でもない、その間に位置する中規模な音楽体験というのが必要だと思っていたんです。そんなタイミングでこのLIVE JACKETが生まれました。

宇佐美:昨年、ONE OK ROCKという日本のロックバンドの仕事に携わることになり、新アルバム発売にからめた企画を検討していました。新アルバムが「Ambitions」=野望というタイトルだったので、何か音楽に対して野望のようなものをぶつけられないかと考えました。CDがどんどん売れなくなってきている時代に、フェスやライブの人気が高まっているという社会背景からも、音楽は単に聴く「モノ」から、体験する「コト」に価値が置かれていると思ったんです。そこで、ONE OK ROCKがライブに絶大な人気を持つバンドであったこともあり、音楽を体験化するために何ができるか、というアプローチで考え始めました。具体的に形にしていくにあたり、メディアアーティストの落合さんに声を掛けさせていただきました。

落合:「変わった音の鳴らし方がしたい」というお題目をいただいてから、骨伝導にするとか超音波スピーカーを使うなどの案が出ましたが、いろいろと検討した結果、“着る”音楽がいいんじゃないかと。最終的に、楽曲を演奏パートごとに分解し、特殊なジャケットの内部にある全16チャンネル、20個の超小型スピーカーから個々に音を出してミックスするという方法に落ち着きました。
ライブだったらその場に行かないと体験できませんが、これはライブをどこでも持ち運びできるような感覚。でもウォークマンとも違うのは、自分の体の動きに応じて音の聴こえ方が変わってきますし、特にサブウーファーが生む低音や振動が、本当にライブ会場にいるような感覚にさせてくれるんです。

ファンも涙する、極上の一体感を味わえる

落合:実際にイベントでONE OK ROCKのファンの方に体験していただいたところ、感極まって泣かれてしまったんですよね。僕はメディアアートの仕事をしていて、「すごいね」とは言われても、泣かれたことはなかったので驚きました(笑)。ジャケットはボーカルの方が着ているものをレプリカで再現したものなので、それを着て音を聴いていると何とも言えない一体感を味わうことができるんです。スピーカーは完全に隠れているし軽いので、女性でも普通に服を着ている感覚でいられますし、普段ヘッドホンでは聴かない音や振動が伝わってきて、ボーカル本人と同一化している感覚になるんじゃないかと思う。それはファンにはたまらないんじゃないでしょうかね。

宇佐美:そうですよね。ファンのモチベーションとしては、ボーカルと同じ格好をしているというのが一つと、もう一つは、これを着ると全身から音が聞こえてくるので、まるで自分自身もライブステージの真ん中に立っているような感覚を味わえる。これはとても新しい体験なんじゃないかなと思います。
ちなみにスピーカーの配置で言うと、たとえばドラムの音はお腹にズンズン来る方がいいからお腹のあたりから出すようにしようとか、ボーカルは肩のあたりからダイレクトに耳に向けて音を出そうとか、そういった工夫を凝らした音響デザインをしています。

落合:あと、僕自身、作業をしていて発見があったのが今回つくったオーケストラ版です。僕の作業としては、16チャンネルあるスピーカーを体のどこに配置するか、音源ごとに割り振らないといけない。これが結構面倒なんです(笑)。人の声は二つに分離はできませんが、オーケストラの場合はそもそも楽器ごとに分離されているものなので、それらを正しい位置に配置さえすればなんの小細工もいらずにきれいに音が鳴ったんですね。普通にスピーカーで聴くよりも断然いい音が出たので、オオーッとなった(笑)。あれは気持ちよかったですね。

宇佐美:落合さんが以前、“音のシャワー”を浴びる感じだと表現されていた。まさにそんな感覚になります。僕は音のバリアのような粘膜に包まれる感じを抱きました。

落合:バリアというのもわかる。しかもヘッドホンはしてませんからね。この開放感は他では味わえないと思います。

いままでにない聴覚の拡張体験を、これからどう展開していくか

宇佐美:すごく相性がいいと思うのは、たとえばダフトパンクとかレディーガガとか、コスチューム性が高いアーティストさんじゃないでしょうか。ライブとCDの中間体験ができるイベントとして、面白くできる気がします。あと、カラオケボックスの新しい形として、さらにエンタメショー化するという方向もある。コスプレのような感覚で、それを着て、その人の歌を歌うという…。それから、VRが視覚の拡張体験だとしたら、これは聴覚の拡張体験と言える。たとえばテーマパークのアトラクションなんかに発展する未来もあるかもしれません。遊園地でこのジャケットを着てジェットコースターに乗って、自分の周りから効果音が出てきたら……本当に恐ろしいジェットコースターになりますね(笑)。

落合:それは是非やりたいですね(笑)。LIVE JACKETはスピーカーともヘッドホンとも違って、自分自身は音楽を全身で体感できながら、少し音漏れをしているような状態なんですね。そういうのって、テーマパークもしかり、イベントもしかり、晴れの場にすごく合うと思うんです。そういう方向に拡張させていけたら面白いかな、とも思います。
あと、宇佐美さんは建築がご専門とうかがったので、ぜひ建築とからめた何かを実現させたいですね。ビジュアルアーティストさんって、画面とスピーカーを扱われるんですが、僕は空間の音響伝達とか視覚に特化しているので、建築とは相性いいんですよ。

宇佐美:そうなんですね。それはぜひ、よろしくお願いします。

落合:こちらこそ。これからも何か面白いことを一緒につくっていきましょう!

※4月28日(金)~5月27日(土)開催中の、落合陽一氏の展示会「Yahoo! JAPAN Technology Art #01 ジャパニーズテクニウム展」にて、「LIVE JACKET」が展示されている(「WEARABLE ONE OK ROCK」のジャケットと「ORCHESTRA JACKET」)。オキュラスリフト(VR)とセットで体験することも可能。


(左)「LIVE JACKET」のオーケストラ版「ORCHESTRA JACKET」(右)「WEARABLE ONE OK ROCK」のジャケット。

実際に着用すると、身体中が音楽で溢れた。テンションが上がり、身体を動かしたくなる新体験。

落合陽一(おちあい・よういち)

メディアアーティスト/筑波大学学長補佐・助教 デジタルネイチャー研究室主宰/Pixie Dust Technologies CEO/VR コンソーシアム理事
映像を超えたマルチメディアの可能性に興味を持ち、デジタルネイチャーと呼ぶビジョンに向けて研究に従事。映像と物質の垣根を再構築する表現を計算機物理場(計算機ホログラム)によって実現している。情報処理推進機構から「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定。アルスエレクトロニカやワールドテクノロジーアワードなど国内外で受賞多数。直近ではLeader of Tomorrow 200, Knowledge Pool 40に選出(第47回ザンガレンシンポジウム・スイス/5月)、世界経済フォーラムグローバルシェイパーズなど。

宇佐美雅俊(うさみ・まさとし)

博報堂 統合プラニング局 コピーライター
1984年新潟生まれ。2009年早稲田大学大学院建築学修了、博報堂入社。スペースデザイン職、プロモーション職を経て、現在、クリエイティブ職。Ars Electronic(アルスエレクトロニカ)やSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に出展するなど広告領域を超えて幅広い活動を行う。国内外のアワード受賞歴多数。