博報堂イノベーションデザイン / 博報堂こそだて家族研究所
根本 かおり

■“こども未来発想”とは?
「こどもを通じて未来を考えてみると、次世代の豊かな社会づくりのヒントがもらえるのではないだろうか。」このような問いを出発点に、博報堂イノベーションデザインと博報堂こそだて家族研究所の2つの組織がタッグを組み、協働でワークを実施しました。この連続企画では、本取り組みをご紹介しながら、得られたきづきや成果をご紹介していきます。

「博報堂イノベーションデザイン」:企業のイノベーション創発活動支援の専門チーム
「博報堂こそだて家族研究所」:こそだて家族に関する専門ナレッジをもつプランニングチーム

導き出された3つのシナリオ

博報堂イノベーションデザインの「Future Scenario Mapping」というオリジナルプログラムを用いて、こそだて研メンバーによる「こそだて家族の未来」を洞察しました。そして、その結果みえてきた未来シナリオと、それぞれのシナリオと関連の深いペルソナや具体的な商品・サービス、またその商品・サービスのある暮らしイメージをチームで検討しました。、さらにそれぞれのシナリオと関連の深い、現在の先行的な取り組みについて、取材をしています。順番にご紹介していきます。

シナリオ①:「次世代こそだてネットワーカーの台頭」

シナリオ①の概要

教育の個性化、「教育移住」ニーズの拡大、などを背景に、こそだて環境は地域コミュニティの運営方針と切り離しては語れなくなるだろう。例えば、「自然派こそだて」「英才エリートこそだて」など、地域ごとに特色のある「こそだてエリアブランド」のフラグは今後もどんどん拡大・多様化していくだろう。その結果、それぞれの地域が特色のあるこそだて環境を整備・アピールし、こそだて層の流入による地域活性化を目指すだろう。

そのとき、行政や企業は「こそだてコミュニティ」を入口として、エリア発想、まちづくり発想で政策やマーケティングを捉え直すことが重要課題となるだろう。例えば、家庭生活において誰かのケアが常態化したときの地域コミュニティや間取りのあり方はどうあるべきか、といった発想が大事になってくるだろう。

そのような潮流のなかで、これまで地域コミュニティをリードしてきた主婦・女性層とは違ったスタイルや組織のつくり方で、男性やシニアなどがこそだてプレーヤーとして活躍が目立つようになり、これからのコミュニティ運営をリードする存在となるだろう。例えば、男性がリードするコミュニティ運営は今までよりも社会や企業との結びつきが強まり、企業の組織風土が地域コミュニティにも適用されることにより、よりオープンで多様なステークホルダーを巻き込んだ地域活性化が実現するかもしれない。

このように、地域コミュニティの新しいキーパーソンの発掘・維持が、サスティナブルなコミュニティ運営の鍵になってくるだろう。

いま:「こそだては、女性・主婦がメインプレーヤー」
これから:「こそだては、男性やシニアも含めマルチプレーヤー化」

ペルソナ(こそだてネットワーカー)

このシナリオと関連する具体的な商品・サービスアイデア

「子育てネットワークデッキ」

~デジタルでつながるこそだて分担プラットフォーム~

両親、祖父母、地域の人々、外部シッターなどが育児状況やスケジュール管理をやりとりするデジタルプラットフォーム。
「親機」と「子機」をそれぞれの自宅に設置し、随時スケジュールや必要なメッセージ、子供たちの画像などの交信が可能。スマホとも連動でき、忙しい両親を取り巻く育児ステークホルダー同士がオンラインで必要な情報をやり取りできる。

<使用イメージ>

ターゲット:忙野ファミリー 父(30)、母(23)、娘(2)
東京都郊外の住宅街(調布)の戸建て在住。
父:耐久財メーカー勤務 母:助産師。
祖父:保育士の非常勤パート 祖母:東京オリンピックのボランティアを担当予定(現在英語を勉強中)
娘は近隣の保育園に通う。

夫の両親とは近居、妻の両親は車で一時間の場所に住んでおり、 妻の勤務が不規則なため、皆で協力して子育てをしている。

若くして結婚した2人ははじめての子育てに戸惑い 両親のサポートがないととてもじゃないけど生活がまわらない状況。 まだ両親が若く元気なこともあり、好意に甘えて頼らざるをえない。 夫と妻の両方の両親のサポートはあるが、 実際夫婦の負担は減っているとはいえず、 毎日ギリギリの状態で過ごしている。 特に、子育てに関わるメンバー全員の スケジュール調整や急な事態が勃発したときの 連絡網などで不便を感じている。

•2018年、母の張子は子育てとシフト制の助産師の仕事との両立をこなす毎日で、まったく余裕が持てず、イライラしてストレスがたまる日々を送っていた。両親も自分の趣味や仕事で忙しく過ごしているので頼りきりにできないもどかしさもあるし、夫ともちょっとしたことで喧嘩する頻度も増えている。

そんなある日、保育士のパートをしている祖父から今話題の「子育てネットワークデッキ」を教えてもらった。家族全員のスケジュールをデバイスに関係なくどこでも共有でき、メッセージも簡単にやり取りできるらしい。「いいかも!」本体2万円で月々の支払いは980円。夫に相談し、まずは1カ月トライアルからはじめることにした。

•2日後、「親機」「子機」のデッキセットが届いた。早速自宅のリビングに設置し、アプリをスマホにダウンロード。機械に弱い張子でも夫に頼ることなく自分で簡単に設定できた。「オプションで設定サービスをお願いしたから、きっと両親の家でも無事設定できたはず」。家族とのスケジュールは今までキッチンの冷蔵庫に貼っていた大きなカレンダーで管理していたが、予定変更が反映できないものもあり、刻々と変わる状況がスタンダードな小さい子がいる家族にとっては使いづらい。言った、言わない、などのトラブルも発生していた。これならリアルタイムで全員の最新のスケジュールが確認でき、いつ誰が時間に余裕があるのか、一目でわかるのが助かると張子は思った。

•利用を始めて1週間、生活がみるみる改善していくのを実感。夫は、仕事の合間に会社のPCから自分のスケジュールを登録している様子。「以前は、予定の伝え忘れで娘の迎えが連携できずによく喧嘩していたのが嘘のようだわ」と思う。両親はリビングにあるTVとも連携させているため、以前はなかなか返信をもらえずにイライラしていたが、今ではメッセージにすぐに気づいてもらえるようになり助かる。先日は、夜中に突然娘に湿疹が出てきてしまい、翌朝病院に連れて行く必要があったが、張子が仕事で朝番であったため、すぐに家族のスケジュールを確認し、夫の母親にお願いすることができた。

•1カ月が過ぎ、気がつけば、「最近イライラしたり突然の娘の出来事にあたふたすることがなくなっている」と張子はふと思う。心に少しゆとりが出てきており、夫とも喧嘩する頻度が激減した。空いた時間でキャリアアップにつながる勉強を始めようかと考える余裕すら生まれてきてる。トライアルが終了し、来月からは本サービスが始まる。保育士をしている祖父が、地域のこそだてネットワーカーから紹介してもらったシニアこそだてサポーターも急な病気や仕事発生など非常時の対応をしてくれることになった。もちろんこのサービスに登録してもらうつもりだ。
娘の成長を家族や地域で支えることのできるこのサービス、ますます手放せなくなりそうだ。

いかがでしたか?
次回は、このシナリオに関連した現在の先行的な取り組み事例について、取材結果をご紹介します。

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・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?①
・「こども」を通じて「未来」を考えてみる―。“「こども未来」発想”とは?②

■プロフィール■
根本 かおり (ねもと・かおり)
広告づくりの現場で自動車、化粧品、家庭用品など各種広告マーケティングやブランディングにたずさわる。その後、生活者発想・未来発想に軸足を置いた事業・商品・サービスデザインに従事。博報堂内シンクタンク・こそだて家族研究所にも在籍し、妊娠期~小学生の子どもを持つ家族の生活を研究、提案を行っている。自身も2児のママ。