博報堂の安藤執行役員、山之口マーケティングシステムコンサルティング局長がノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院モハン・ソーニー教授にインタビューした記事がDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに掲載されましたので、全文転載いたします。(全4回)

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デジタル化により顧客を知る手段が膨大に増えたことから、マーケティング部門は、新たな役割を期待される。そんな時代にCMOが果たす役割とは何か。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で、デジタルマーケティングの第一人者であるモハン・ソーニー教授へのインタビューを連載する。聞き手は、博報堂の安藤元博氏と山之口援氏。

これから企業を変革に導き、新しい価値を創造していくという点でCMOが果たす役割は非常に大きいと考えられます。

モハン・ソーニー(以下略):これまでは、CMOは、マーケティングコミュニケーション機能管理の責任者として業務を行ってきました。顧客や市場の動向を探るマーケット調査を行ったり、広告を制作したり、ブランド戦略を考えたり、マーケティングキャンペーンを行ったり、といった業務がありました。多くの組織では、こうした業務が今もCMOの主な業務となっています。つまり、マーケティングコミュニケーションですね。ですから私は、これをMCO(Marketing Communication Officer)と呼びたくなることがよくあります。これが、CMOの主な責任業務とみなされているからです。

ところが、我々がデジタル化時代へと進んでゆくにつれて、顧客とはさまざまな新しい形でつながることができるようになりました。顧客からの新しいデータもありますし、顧客とコミュニケーションを図れる新しいチャネルもあります。マーケティングは今や、その責任がより深く問われるようになっています。まさに、マーケティングは売上げを牽引していると考えられていますし、企業の成長に欠かせない存在だとみなされていますし、価値の創造源だともみなされています。ですから、このような状況からして、CMOは、企業のデジタル変革におけるリーダーだとみなされているのです。

いまはデジタルディスラプション(デジタルによる創造的破壊)の時代であり、顧客への提供価値も変化しているのです。金融業界、ネット販売業、小売り業界にしても、創造破壊的な価値を提供できる企業は、顧客により付加価値の高いサービスや製品を提供しています。顧客の自由度、利便性、選択の幅、コスト、といった様々な面で付加価値をつけています。そこで、マーケティング組織こそが、デジタル変革における論理的に最も適したリーダーだと言えます。ですから、ある意味で、デジタル変革とは「顧客を第一とする変革」であり、それを主導するのが、CMOだと思います。

それでは、CMOの新しい役割の主眼や特徴といったものは何でしょうか。

これまでの「クリエイティブ」という役割も、「コンテンツの管理」という概念にとって代わられます。CMOの役割の一つは、顧客とのエンゲージメントを図る戦略を明確にすることです。そうして、顧客が購買判断をする一連のプロセスを通じて、その購買体験を豊かにするために必要とされるコンテンツを作成するのです。コンテンツを作成する役割、コンテンツのキュレーション(精選)をする役割、コンテンツをクラウドソーシングする役割、そして、それらをターゲット顧客に適したチャネルから届けられるように整理し編成する役割といった、さまざまな役割を担っていかなくてはなりません。これが、CMOの新しい責任業務の一つなのです。

ですからマーケットリサーチの役割も変化します。これが今や、我々が顧客から得ているすべての新しいデータソースの分析の管理という役割を含んだものに進化しているのです。実は、マーケットリサーチとセグメンテーションも変わってきています。顧客行動やカスタマー・インタラクション(顧客間交流)の自動分析に基づいて、もっとリアルタイムな分析と対応になってきています。私はこれを、顧客行動に基づいたマーケティングと呼んでいます。そこで、データを管理し、データ分析を管理するということが、CMOのもう一つの新しい役割となっています。

したがって、CMOはITに今までより深く関わっていくことになるでしょう。なぜなら、マーケティングの自動化が、膨大なデータをさばきつつ、しかも顧客の期待する短い時間内に回答のできる唯一の方法だからです。顧客は即答がほしいのです。ツイッターに投稿したり、電話をしたりして、企業から即答をもらいたいわけです。ということは、顧客とのエンゲージメント用のマーケティング自動化のプラットフォームを構築しなければならない。私はこれをフロントオフィスITと呼んでいます。これは、顧客のエンゲージメントを図るために使われる情報技術です。CMOはこれを先導しなければなりません。

顧客の購買体験におけるインタラクションを自動化し始めると、売上のパイプラインがはっきりと見えてきます。ですから、セールス部門のために販売のきっかけを作ったという実績が明確になってくるわけです。

実は最近、マイクロソフト社における米国市場のCMOと話をしたのですが、彼らにはMAQL(Marketing Automation Qualified Leads=マーケティング自動化による販売のきっかけ)というノルマが割り当てられている、と言っていました。つまり、このCMOは、セールス部門のために購買者となりうる顧客を数多く集める責任があるのです。ですから、マーケティングは今や、販売実績や売上獲得のためのパイプラインと密接にリンクされているわけです。

かといって、従来のクリエイティブの役割やマーケティングコミュニケーションを作成する役割がなくなるわけではありません。それも今や、進化しているわけです。それは、ブランドの物語を語るというマーケティングです。この物語を語るという創造的な作業はなくなりませんが、この作業もデジタル化されます。あらゆるソーシャルチャネルを使って、ブランドの物語が語られます。こうしたチャネルでは、物語を語るという体験が創造されています。

こうした役割を組み合わせますと、CMOは、物語の語り手でもあるし、マーケティング自動化の管理者でもあるし、コンテンツの構築者でもあるし、顧客の購買体験の管理者でもある。これは、フロントオフィスにおける顧客とのインタラクションをすべて管理するという、おおいに拡大されたCMOの役割ですね。そして、価値の創造と売上の獲得の両方に、CMOは責任があるということをより明確にするわけです。

日米のCMOの違い、そして日本におけるCMOはどうあるべきでしょうか。それらの論点について、日本企業の現状を踏まえてお話しください。

日本市場はテクノロジー、ネットワーク、デバイスの使用において非常に先進的な市場ですが、日本企業は、組織としてはまだ従来型で、ヒエラルキーがあります。マーケティング組織におけるリーダー的立場の人は、デジタル変革に対し従来型の仕事の仕方に違和感を持っているようです。これがいま日本企業の直面している課題でしょう。日本企業のCMOは、なぜ遅れをとっているのか、私は実は疑問に思っていたのです。これは、技術的な問題ではなく、文化や考え方・思考態度の問題だと思うのです。

日本におけるマーケティングはご存知のように宣伝中心です。また、企業はものづくりとセールスの二つを軸にして活動しているケースが多い。その中でマーケティングが価値創造の中心になるには、どのように転換すればいいのでしょうか。

それは、非常にいい質問だと思います。ここではっきりとさせておきたいのは、「変革」は、欧州や米国では、それぞれの業界で、その成熟度は異なったレベルにあるということです。ですから、すべての企業がこの移行を成し遂げたというわけではありません。さらにどの業界が先を行っているかを見ますと、何がきっかけとなっているのかのヒントを見出すことができます。

デジタル変革で先行している業界は、テクノロジー、金融、通信(テレコミュニケーション)、小売りです。こうした業界で共通しているのは、顧客と直接関わり合う回数が多い、つまり関わりの持てるチャネルをたくさん持っているということです。金融業界の企業であるなら、毎日のように顧客と関わり合っているでしょう。電子商取引を扱う企業、あるいは、小売業者であったら、膨大なデータを持っているわけですね。ですから、きっかけとしては、顧客との直接の関わりがある中で、突然、膨大な新しい情報源が手に入った。一方で、テクノロジーは、例えばソフトウェアの提供からサービスの提供へと移行したことから顧客のデータが手に入るようになりました。

例えばマイクロソフトのような会社を見てみましょう。マイクロソフト社は、ソフトウェアを販売していましたが、そのソフトウェアを使って人々が何をしていたかは、会社として全く把握していませんでした。しかし今や、ソフトウェアやサービスを販売すると、それがどのように使われているのかをモニターすることができるようになっています。毎日毎日、どのようなパターンで使われているのかを把握できるのです。このようにして、企業は顧客とより直接的な関わりを持つことができるようになりました。これが一つの顕著な要因だと思います。

米国で最初に顧客とのインタラクションを始めた業界は、アマゾンのようなネット販売業界です。こうした会社が、分析を行う際に手持ちの顧客データを活用した草分けです。こうした手法が、今や他の業界にも使われています。ですから、活用できるデータがあったことと、顧客とデジタルでインタラクションできる能力があったということです。

一方、B2Bの製造業者や不動産業者などは、この変革に追いついていません。消費財メーカーも相対的には変革が先に進んでいません。なぜなら、こうした企業は顧客との直接のインタラクションがないからです。まず消費財を市場に出して、それが卸や量販店などのパートナー経由で小売りへ行き渡るという流通過程を経るからです。しかし、それも今や変化をしています。ユニリーバやプロクター&ギャンブルやクラフトなどの会社は、この分野においても食い込んできています。電子取引で販売の向上を図るというよりも、ブランドの物語を語り、顧客とのエンゲージメントを図るという点です。

もう一つ考慮すべき点は、率直に言って、競争の原理です。競争が激しくなると、ゲームの仕方も変わってきます。競合他社がこの変革の方向に動いているなら、自分たちも乗り遅れてはならない、さもないと市場のシェアを失い始める、という厳然たる事実があります。たとえば、米国にベストバイという電化製品の小売業者があります。この会社は、アマゾンのおかげで、業務速度を上げ、業務遂行能力を高めることを余儀なくされています。ウォールマートにしても同じで、Jet.comという会社を買収するという大胆な手を打ちました。やはり、競合他社からのプレッシャーを感じていたのでしょう。ですから、きっかけとしては、顧客に関する要因、すなわち顧客データ分析と顧客とのインタラクションに関わる要因と、競争の原理に関わる要因、すなわち、自分もなにかしなければ、競争において行かれるという要因の二つがあると思います。

こうしたきっかけは、日本にも当てはまるのではないでしょうか。ですから、もっと大胆に動くべき会社は、まず、創造的破壊者から影響を受けている会社、次に、実際の購入まで顧客と直接インタラクションできる会社ではないでしょうか。

こうしたことが、きっかけとなっていると思います。

※第2回につづく。

モハン・ソーニー
(Mohan Sawhney)
ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授

イノベーション、戦略的マーケティング、ニューメディア領域において世界的に著名。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院における当領域の責任者。世界経済フォーラムのフェローでもある。戦略コンサルタントとしては、アクセンチュア、アドビ、AT&T、ボーイング、デル、GE、ジョンソン&ジョンソン、マイクロソフト、マクドナルドなどに助言している。

安藤 元博
博報堂 執行役員
エグゼクティブマーケティングディレクター

1988年博報堂入社。以来、50を超える企業の事業・商品開発、キャンペーン開発、グローバルブランディングに従事。現在、博報堂DYグループの“生活者データ・ドリブン”マーケティングの中核推進組織を率いる。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness(Best Integrated Marketing Campaign)他受賞多数。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。著書『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代、再生のカギはCMO機能』(共著)。

山之口 援
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長
博報堂コンサルティング 代表取締役共同CEO

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程修了。都市銀行、戦略コンサルティング会社を経て、2001年、博報堂ブランドコンサルティングの立ち上げに参画。IMJとの合弁で設立した博報堂ネットプリズム代表取締役社長、日立製作所とのビッグデータ解析プロジェクト、マーケット・インテリジェンス・ラボの共同代表を歴任。2016年4月より現職。ITを活用したマーケティング改革を専門とする。