日本が世界に先駆けて直面する「独身5割の社会」とはどんな社会なのか?そのとき社会には何が生まれ、いまとはどう変わるのか?本企画は、ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダーである荒川和久が専門家を訪ね、20年後のソロ社会で起こりうる課題に対し、解決のヒントを探っていく対談連載です。第1回のゲストは「ゲーム理論」を専門に研究されている経済学者の安田洋祐先生。前編に続き、独身者が増え続ける現代をどうとらえるか、また20年後のソロ社会に備えて何ができるのかなどについて語りました。

ソロも高齢者も、社会的役割を感じながら自己肯定できる社会に

荒川:自己肯定感とか幸福度に関する件なんですが、既婚者はソロと比べて幸福度が高い。それを盾に既婚者が「だから、ソロは不幸なんだ」と言いがちなんですが、本当に既婚者は幸せなのか?って思うんですよ。実際にアンケートで自己申告してもらう内容って、バイアスがかかっていると思っていまして。

安田:それはあると思いますよ。既婚者がアンケートで自分は幸せだと答えるのも、案外、「子どもがいてこれだけ忙しくしているんだから、幸せと思わないとやっていられない」なんていう理由かもしれない。先進国を対象にした幸福度に関するアンケートなどでも、日本の数値は低いんですよね。自己肯定感が低い傾向があるから、そこはデータを見る上でも気を付けないといけません。

荒川:確かにそうなんですよね。そしてソロの場合、自己肯定感の低さがさらに顕著になる。結婚をしていない、子どもがいない、という人に対して社会が一人前と認めないところがあるからだと思うんです。でも、結婚して子どもを産むことだけが人間の価値ではないはずで、子どもを産む産まないではなくて、自分の子どもじゃなくても育てることに価値があると思えるような社会規範づくりをしていかないと、いつまでたってもソロは自分を認められない人生になってしまう。

安田:国の政策として、今後は子育て支援とか、待機児童対策とかにもっと予算が付くようになるかもしれない。ある意味それはソロから家族への所得の移転が行われることになりますよね。そうするとソロの人たちも、子どもがいる、いないに関わらず、自分も税金を払うことで十分に子育てへの社会貢献をしていると言いやすくなるかもしれない。

荒川:確かにそうですね。
それから、日本は世界に先駆けて高齢化社会になっています。でも65歳以上女性で見ると、就業率は15%しかない。子育て家族の育児のサポートをするとか、ソロの人たちの疑似的なおばあちゃん役を担って家事や料理を提供するとか、できることは結構あるはずなんです。そういう力がまったく活かされないままだと、もったいないと感じますね。

安田:ご著書の中でも書かれていましたけど、とりわけ女性で高齢の方というのは一人でいる期間が圧倒的に長い。その時間をある意味有効活用というか、生きがいを見つけられるような社会に本来はしていくべきですよね。
高齢化社会ってネガティブなイメージでしかあまり語られませんが、ある意味で人類の成熟度が試されるというか、自分たちのやりたいことをどこまでできるかだと思うんです。過去の人類史にはない、新しい充実した生き方ができるかどうかというのは、チャレンジングな課題だという気がします。

ソロ社会における人の関係性、コミュニティの在り方とは?

荒川:ソロの人たちは、消費意欲が高いんですね。これは、既婚者が結婚や家族から得るような幸福感を感じることができないから、結果的に趣味などへの消費に走る。消費行動によって得られるドーパミンで、幸せを代替しているんですね。しかも、ソロの消費の方が単価的には家族よりも使います。だから人口の半分がソロになる時代には、消費の市場規模は増えるんだと思います。だからといって、ただ浪費しているわけじゃない。使うときは使うけど、同時にシェアリングエコノミーのような形で、節約すべきところはきっちり節約する。そういうメリハリの利いた消費行動をしています。

安田:ソロの消費意欲が高いというのはとてもよくわかります。でもひとつ心配なのは、彼らが若いうちは好きなだけ個人消費に回せるかもしれませんが、結局老後に頼れるものはお金、つまり貯蓄か公的年金になる。公的年金はいまやそこまで頼れなくなってきているので、結局ある年代になれば貯蓄せざるを得なくなります。もし貯蓄をしないソロがどんどん増加していくとなると、それはそれで社会的にも大きな問題につながりかねない。

荒川:おっしゃる通りです。だからソロたちはある年代から急に貯蓄するようになる。40代以降のソロ女は特にそう。とたんに消費しなくなりますね。
それから最近は、自己承認欲求のための消費を、ちょっとした達成感に換えてくれるものも出てきた。それがクラウドファンディングです。今までこの世になかったものを自分の支援で実現させられるとか、これは大きな達成感です。

安田:なるほど。小額で達成感を得られる消費であれば、将来に備えた貯蓄とも両立しますね。

荒川:一方で、お金だけでどうにかすべき問題でもないと思っています。本当は、江戸時代の長屋みたいに、互いが支えあえるような関係性というか、信用みたいなものがやはり必要で、それは別に血縁じゃなくてもいいし、近隣に住んでなくてもいい。従来のコミュニティのように安定した強固なものじゃなくてもいい。ゆるいけれどたくさんつながっているから安心できる。そういう社会が理想的なんですが。

安田:そうですよね。結婚して気づいたのは、子どもができると良くも悪くもコミュニティとの関わりが増えていくんです。幼稚園や保育園、小学校のつながりができ始めると、そこから町内会の集まりや行事にどんどん参加するようになる。一方で、ソロの人はなかなかコミュニティに参加するきっかけがない。行事を手伝ったりする機会もほとんどないですよね。今後のことを考えると、そこでいかにソロの人たちを巻き込んでいけるか、コミュニティに参加してもらう仕掛けのようなものも、必要になってくるだろうなと思います。

荒川:実は、ひとつ思うのは、そういうコミュニティとして大学の役割も大きいと思うんです。最近では、50代を過ぎてからもう一回大学に入り直そう、もう一回勉強し直そうという意欲のあるシニア層も増えています。何も大学って、高校卒業した18歳から22歳くらいの若者しか行っちゃいけない場所ではないので。年齢とか経験に関係なく、幅広い層と出会える場として機能すると、それこそ個人のネットワーク拡充のコミュニティになり得ると思うんです。

安田:確かに、企業においても、シニア世代と若い世代が協力することによって、イノベーションを起こすことは、今後ますます鍵を握ってくると思うんです。若者だけでは地に足のついたプロジェクトはできないし、シニアばかりだと新しいアイデアが出てこない。でも、現状の日本を見渡すと、年齢を超えた出会いってなかなかないんですよね。
豊かなソロ社会っていうのは、ソロでありながら、年齢を超えたいろんな人との出会いがあって、コミュニティの一員だと実感できる社会だと思うんです。でも、それって結局は、ソロであるかどうかと関係なく、すべての人々が豊かさを感じられる社会のような気がします。豊かなソロ社会の実現を目指すことによって、社会がみんなにとって豊かなものに変わっていくと良いですよね。

荒川:未婚とか既婚とか、ソロとか家族とか、子どもとか大人とか、そういう分断のない、ゆるいコミュニティネットワークが実現される社会になるといいと思います。
今日はいろいろなお話をさせていただけて楽しかったです!長時間ありがとうございました!

安田洋祐(やすだ・ようすけ)‎

1980年東京都生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し、経済学部卒業生総代となる。2007年プリンストン大学よりPh.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン。学術研究の傍らマスメディアを通した一般向けの情報発信や、政府での委員活動にも積極的に取り組んでいる。フジテレビ「とくダネ!」にコメンテーター(隔週・火曜日)として出演中。財務省「理論研修」講師、金融庁「金融審議会」専門委員などを務める。

荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダー
早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディア多数出演。著書に『超ソロ社会-独身大国日本の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち-増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー携書)など。