繊細で美しい「hatsutoki」の洋服と共に。左から島田製織株式会社の嶋田社長、「hatsutoki」ブランドをプロデュースするデザイナーの村田さん、博報堂ブランドデザインの加藤。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第17回に登場するのは、播州織(ばんしゅうおり)で有名な兵庫県西脇市で「hatsutoki」ブランドをプロデュースするデザイナーの村田裕樹さん。東京の大学を卒業してすぐに移り住み、若い仲間達と共に奮闘する村田さんにお話をお聞きしました。聞き手は、博報堂ブランドデザインの加藤由佳です。

産地巡りが僕の就職活動。ツイッターでつながった経営者とデザイナー。

hatsutoki(ハツトキ)は、播州織の産地、兵庫県西脇市にある島田製織株式会社が立ち上げたファッションブランドです。細い糸で織りなす繊細さが特徴の播州織。その卓越した技術を生かした透明感のあるデザインで、30代から60代まで幅広い女性に人気です。優しいコットンのスカーフや服が持つ滑らかな肌触りと着心地のよさで、多くのリピーターの心を掴んでいます。

加藤:ファッションが好きな私の友人から「ブラたまで取材したらいいよ」と紹介されたのがhatsutokiだったんです。今日はぜひお会いしたいと思って楽しみにしていました。

村田:それはうれしいですね。ありがとうございます。

加藤:今日は嶋田社長もご同席頂いて、ありがとうございます。村田さんが西脇に来る前の事を、簡単に教えて頂いてもいいですか。

嶋田:もともと西脇は、播州織を世界中に輸出していました。アメリカで売られている安いコットンのシャツのほとんどが西脇産、という時代もあったんです。ところが、時代が平成に入る頃から為替の影響もあって需要が急激に落ち込みました。国内のアパレルや百貨店の状況も良くない。今までのように、外からの受注を待つのではなくて、自分達で企画を考えて生地開発をやろう、そして情報発信していこうと思い、7年前にブランドとして立ち上げたのがhatsutokiでした。

加藤:なるほど。hatsutokiは、当初は島田製織の生地を売るために嶋田社長が立ち上げたブランドだったんですね。

嶋田:はい。ですので、基本的にはBtoB、企業に対する生地提供が中心でした。ただ、せっかく良い生地が出来てきたから、最終製品である洋服までやろうということになりました。ところが、うちの人間では製品や販売の事がよくわからない。そんな時に出会ったのが、当時学生だった村田君です。私のツイッターに連絡があって、東京で会おうと。話しを聞くと、すごく本気だったんですね。だったらこちらも本腰入れてやらなあかんと、彼を専属として受け入れました。

加藤:ツイッターが最初のきっかけって、すごい面白いですね。村田さんはどういう経緯で島田さんのツイッターにたどり着いたんですか?

村田:子どもの頃から洋服は好きだったんです。祖母が洋服の仕立てが出来る人だったので、夏休みに通い詰めて教えてもらったり、その後も独学で洋服作りを学びました。
大学時代には、昼間は色々なアパレル企業でインターンをしつつ、夜間の大学に通いました。大学4年生になって、普通の就職活動はしたくないと考え、生地の産地を巡るようになったんです。親には「これが僕の就職活動だ」とか言ってましたね(笑)。そんな中で、当時では珍しく産地から情報発信していたのがhatsutokiであり、島田社長のツイッターだったんです。

加藤:なぜ生地の産地を巡ろうと思ったんですか?

村田:当時「日本には各地に良い生地はあるけれど、今後は衰退していくだろう」と言われていました。でも、何が良くて、なぜ衰退するのか、自分の目で見たい。そう思ったからです。実際に産地を巡って見ると、東京では見られない面白い素材が産地にはゴロゴロしている事が分かりました。東京には、マーケティングされた、売れそうな生地しかありません。でも産地には、職人が試しに織ってみた生地が工場の隅にくちゃっと置いてあったりして、「これ、どうやって織ったんですか?」なんて聞いたりもできる。宝の山だったんです。

加藤:それはやっぱり東京の企業では味わえないことなんですね。

村田:そうですね。東京から電話やメールで連絡するよりも、すぐ横に工場があって、職人がいて、今すぐピッチをこうかえたい、あと数ミリこうしたら…といったやり取りから、何か新しいものが生まれそうじゃないですか。そういう、リアルタイム感があるもの作りが産地の面白さですね。

2つの「循環」から生まれる、hatsutokiブランドの価値

加藤:確かにワクワクしますね。村田さんは、hatsutokiはどんなブランドだと捉えているんですか。

村田:生地の品質やもの作りのレベルの高さは当然なのですが、ブランドはそれだけでは成り立ちません。Hatsutokiのブランドらしさは、やはり西脇という産地から生まれてくるものだと思うんです。産地の面白さを一言でいうと、循環です。

加藤:循環、ですか。

村田:はい。私は、hatsutokiには2つの「循環」があると考えています。一つは、織物の循環です。西脇には色々な織物に関係する会社が集まっていて、分業体制なんです。企画を考える会社。糸を染める会社。織る会社。加工する会社。西脇全体が一つの工場のように「循環」していて、どこか一つ欠けても成り立ちません。もう一つの「循環」は自然です。西脇は水がすごく豊かなところです。川が町中にあって、山から霧が出て…。水があってこその染色です。この、2つの循環が重なり合って、hatsutokiが生まれてくる。僕自身も、この知に移り住んで、西脇の水を飲み、空気をすって、水や空気から感じた事を、hatsutokiのデザインに込めています。

加藤:私も、hatsutokiのデザインを見た時に、透けるような繊細な感じが印象的だったのですが、そういうところから生まれているんですね。

村田:もともと西脇の播州織は細い糸が特徴でしたが、そういった素材面だけでなく、西脇が持つ自然の繊細さや、hatsutokiを着る女性像の繊細さ、暮らしの細部まで大事にする丁寧さにリンクさせていける。それがhatsutokiらしさかなと思っています。

良い服と丁寧な暮らし。その原点には祖母の影響があった。

加藤:産地の特性が、そうやってブランドの価値になっていくんですね。ところで、そんなhatsutokiのお客様には、どんな方が多いのですか?

村田:うちの服って便利じゃないんです。例えば、繊細な素材なので、手で洗って下さいとお願いしています。時代に逆行していますよね(笑)。洗濯機でガシガシ洗える服の方が便利ですよね。でも、逆にその感覚がいいな、と思って下さるお客様がいらっしゃるんです。特に50代、60代の女性から、「そうよね。昔はそうだったわよね」と共感して頂きます。忘れかけていた感覚を新鮮に感じる方が多いようです。
例えば、ゴムを使ったストレッチのゆるゆるパンツは、着ていて楽ですよね。でも、10年後に娘さんがお母さんのクローゼットを探した時に、ゆるゆるパンツが出てきたら、どう思いますか。hatsutokiはキレイなシルエットのパンツなんですけど、そこまで楽ではない。でも、目の前のニーズを満たす服だけでなく、10年後クローゼットから出てきても価値がある服を持っていたい、そういう価値観に共感してくれるのがhatsutokiのお客様ですね。

加藤:ああ、なるほど。ちゃんとした服を、クローゼットにって、すごく共感しました。村田さんがそう思うようになったのは、どうしてですか? ご自身のおばあさまの影響もあるのかな、と思ったのですが。

村田:ああ…。いま初めて思いましたけど、たしかに祖母の影響ですね。

加藤:やっぱり、そうだったんですね。

村田:はい。祖母は、すごくセンスが良いとか、目利きだとか、そういう人ではないんです。でも、何かが壊れたら直して使う。そういった事をごく自然に、空気を吸うようにやっている人でした。ものが溢れている時代しか知らない僕達からしたら「買った方が早い」と思ってしまいがちなのですが、祖母の価値の判断基準は「経済性」ではないんですね。

加藤:空気を吸うように、ですか。

村田:はい。自然にそうするんですよね。今も、僕が作った洋服を見せると、すぐに電話がかかって来て厳しい指導が入るんですよ(笑)。ここのステッチが荒いとか、襟が左右非対称だとか、本当に細かい。「一着一着、手で作っているわけじゃないからしょうがないじゃん」とイラっとするんですが(笑)、でも、祖母がどこに文句をつけるかは分かっているので、文句がいわれないものを作ってやろうと思っています。でもそれが、お客さんに対して「よい服を作りたい」と考える事と同じだと思います。

加藤:なるほど、おばあさまに見せて恥ずかしくないものづくりが、村田さんの判断基準なんですね。

もしもこの産地が20年続いたら、どんなものが生み出せるだろう。

加藤:最後の質問なのですが、hatsutokiが10年後、20年後、どんなブランドになっていたらいいな、と思いますか?

村田:20年後ですか…。hatsutokiがどうなるかの前に、西脇という産地が存続しているかどうか分かりませんね。

加藤:えっ、そうなんですか。

村田:跡継ぎが少なくて廃業する会社も出てきます。西脇はとても危機的な状況です。とはいえ、少ないながらも20代、30代の若い跡継ぎがいる会社も出てきています。

加藤:やはり、年代が近い職人さんには無理難題もお願いしやすかったりしますか?

村田:そうですね(笑)。上の世代よりも感覚を共有しやすいですね。あと、西脇だけでなく、他の産地とのつながりも強いんです。各地で同じような危機感と取り組みをしている人がいて、その人たちを窓口にネットワークが広がっているんです。

嶋田:受注産業の時代には、他の産地との交流はほどんど無かったです。今では、ウールに強い一宮や、繊維の街である桐生など、色々な産地と交流が増えていますね。

村田:ですので、もしも20年後もこの地でものづくりが出来たらと想像するとすごくワクワクするんですよ。僕はそういう人たちと一緒に年を取って行くわけですよね。お互いに20年も切磋琢磨しながら技術を磨いたら、ものすごいものが作れるんじゃないかって。そんなポジティブな想像もしています。

嶋田:その頃には若いデザイナーに、「村田さん、もう古いですよ」っていわれるんやないの?(笑)

村田:そうかもしれませんね(笑)。でも、三宅一生さんのように、年をとっても時代の空気を読んで、新しいものを取り入れて行く人もいるし、そういう大人になりたいですね。

加藤:ファッションは、トレンドが大事だと良く聞きますが、そのようにお感じになりますか。

村田:トレンドは大事ですが、振り回されないようにしています。分かりやすいトレンドは「色」ですよね。海外から今年の流行色が情報発信されて、市場に出回ります。でも、本当に大事なのは、トレンドの源流にある時代の価値観の変化を掴むことです。流行の色を追いかける人は、情報処理が下手な人。なぜその色が流行するのかを掴んで、その価値観を服に反映させることこそが重要です。
時代の価値観は半年や1年程度のサイクルではありません。短くても2年3年、大きな災害などで急激に変わる事もありますが、基本的にはゆっくり変わって行くものです。その大きい流れを感じ取るアンテナを持ち続ける事を大事にしていきたいですね。

加藤:ファッションに限らず、ブランドを育てる上で大事な視点ですね。今日は本当にありがとうございました。


工房の様子。働くみなさまとともに。

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「属」の視点で、「hatsutoki」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントをご紹介したいと思います。

【属】 良いコミュニティは、苦労も喜びも分かち合う
壊れたら直しては、また使う。手をかけて大切にする。hatsutokiの世界観には、村田さんがおばあさまの背中から自然と受け継いだ“循環”の考え方が根底に流れていました。
「うちの服は、便利じゃないんです。」村田さんが言うように、hatsutokiは繊細な素材ゆえの手間がかかったり、価格も気軽に手が伸びる商品ではありません。つくるのも、職人泣かせのチャレンジングなもの。しかし、hatsutokiのお客さんは「質の良いモノを大切に着た時に感じる、あの忘れかけていた感覚を取り戻させてくれるブランド」として愛用し、職人さんも、応援する気持ちで多くの時間を割いて支えてくれています。私はここに、他のブランドとは違う、属のつくり方を感じました。
ブランドのコミュニティづくりというと、ファンページを作って沢山「いいね!」を集めたり、インセンティブを与えてファンの数を増やそうとしたりする“押しつけのコミュニティ”になりがちです。しかし、hatsutokiのお客さんは、手間と価格を“引き受け”、服を大切にする生活を、職人さんも難題を“引き受け”新しい商品をつくっています。この“引き受け”こそが、自然と特別な愛着を生み、「丁寧に着たいブランド」を一緒に形作っているのではないでしょうか。
本来のブランドコミュニティとは、「好き」という表明を束ねることでも、何か属するメリットを与えることでもなく、皆が同じものを“引き受ける”ことで生まれるものなのかもしれません。

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