光浦醸造工業の味のある看板前にて。左から今回取材にご協力いただいた光浦健太郎さん、博報堂ブランドデザインの阿部成美。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第14回に登場するのは、乾燥レモンとティ―バックをセットにした新しい形のレモンティー「フロートレモンティー」、さらには乾燥夏みかんとシロップでつくる「フロートナツミカネ―ド」を生み出した、山口県は防府市の光浦醸造8代目社長・光浦健太郎さん。家業である味噌や醤油の醸造とは一風異なったこれらの商品開発の背景とは?また、込めた想いとは―。
山口県で生まれ育った博報堂ブランドデザイン阿部成美が、自身も大ファンというブランドの秘密を探りに、地元の先輩を尋ねました。

「保存食」カテゴリーで、新たな家業の柱を。 伝統×ビジネス視点で生まれた「フロートレモンティー」

「フロートレモンティー」は、瀬戸内産の輪切り乾燥レモンと宮崎産のティーバッグでつくる、新しい形のレモンティーです。お湯さえあれば本格的なレモンティーが出来る手軽さと、見た目のキュートさが話題を生み、多くのファンを得ています。さらに、そのアイデアを応用し、山口県の特産「夏みかん」を使ったレモネードならぬ「フロートナツミカネ―ド」も提案。オンラインショップのほか、「中川政七商店」をはじめとするセレクトショップ・雑貨店などで展開しています。

左からフロートナツミカネード、フロートレモンティー。鮮やかでどこかノスタルジックなパッケージも印象的。

実際にお湯を入れたところ。こちらは季節限定「フロートレモンティー<レモンハート>」。

阿部:「フロートレモンティー」と「フロートナツミカネード」は、新聞や雑誌にも多く掲載されていますね!「中川政七商店」でも、目立つ場所に陳列されています。私の地元山口発のブランドということで、ずっとお話を伺いたいと思っていました。
早速、「フロートレモンティー」と「フロートナツミカネード」誕生の物語をお伺いしようと思いますが、光浦さんは代々「醸造」業をやっていらして、醤油や味噌を作ってこられたんですよね。先に発売されたのは「フロートレモンティー」ですが、どういった経緯で開発されたのでしょうか?

光浦:醤油と味噌とかけ離れた商品ですよね(笑)。
おっしゃるとおり、弊社は代々味噌と醤油をつくってきました。大学を卒業してすぐ、家業を手伝い始めたのですが、将来のことを考えると、醸造業はどうしても衰退していく産業だった。これは、人口減少や食生活の変化を考えると、避けられないんですね。
だからと言って、味噌と醤油の需要を高めるためだけに、食文化を壊す提案はしたくなかったんです。例えばピザ用味噌、醤油味のアイスクリームといったように。だって、一生懸命作った味噌はお味噌汁が一番美味しいと思うんです。
そこで、視点を変えて、「日本の保存食」というカテゴリーの中で何か家業の新しい柱が作れないかと考えました。今つくっている味噌や醤油も保存食ですから、同じカテゴリーで、でも何かこれまでとは一風変わった提案をしたいと思ったんです。
そんな時に、地元の同級生がやっている乾燥機メーカーの「木原製作所」が、食品の乾燥に力を入れていることを知って、「乾燥」を工程に入れた商品展開を考え始め、思いついたのが“レモンを乾燥させ、ティーバックとセットにした”新しい形の「レモンティー」でした。

阿部:なるほど、そういった経緯だったのですね。

光浦:実は乾燥食品は、送料があまりかからない点も魅力でした。
ローカルからビジネスを展開していくには、発送コストは非常に重要です。味噌や醤油は、商品あたりの値段の割に配送料が高い点が課題でした。たとえば東京に配送する場合、最大で400円~500円位の一升瓶を6本しか送れないのに、配送料は1000円くらいかかってしまうんです。
レモンティーや乾燥食品は軽くても、ある程度の値段で販売出来るため、チャンスだと考えました。

阿部:なるほど。ビジネス的な視点と、伝統をどう続けるかという視点、両方から生まれたアイデアだったのですね。

鮮やかな商品パッケージは、なんと光浦さん自身がデザイン!

阿部:商品のロゴやパッケージもとっても可愛いですが、地元のデザイナーと組まれているのですか?

光浦:実は、パッケージは、ほとんど僕がデザインしているんですよ。

阿部:ご自分でやっておられるなんて!驚きました。

光浦:そうなんです(笑)。
実は、これらのパッケージデザインは、大正時代の醤油のラベルからインスピレーションを受けているんですね。うちの先代の先代が残していたラベル集(※下記写真参照)を見つけたのがきっかけでした。昔のきめ細やかで鮮やかで美しいラベル達は、僕にとって衝撃だった。求めていたデザインはこれだ、と思ったんです。
今の時代のデザイナーって、本当に絵が好きな人というより、マーケティングやブランディングに携わる人が多い印象なんですね。なので、どうしても似通った、少し無機質なデザインになってしまう。売れるかもしれないけれど、僕には20~30年後に残っている気がしませんでした。結局、ラベル集を参考にしながら、自分で描くというのを今でも続けています。プロのデザイナーが見ると、スキがあるというか、完璧ではないデザインなのですが、だからこそ安心感があるみたいです。

せっかく山口らしいものをつくるなら、食文化にしたい! 「フロートナツミカネード」の誕生

阿部:「フロートナツミカネード」をつくられたのは、レモンティー発売から約5年後ですよね。どういった経緯だったのですか。

光浦:「フロートナツミカネード」は、当初新幹線の車内販売用に作ったんです。
山陽新幹線全線開業40周年の企画で、中川政七商店とコラボした車内販売「走る日本市」というものがあったんですね。通常のワゴン販売ではなく、特産品などを売るものだったのですが、ちょうど第1弾が山口県でした。
ある日中川政七商店の社長がうちに来て、「光浦さんも山口県らしいものを何かつくってください」ってオーダーされたんですね(笑)。でも実は、これまであえて「山口県らしいもの」を作ってこなかったので、最初は戸惑い、悩みました。

阿部:山口県らしい商品を出されてこなかったのは、なぜですか?

光浦:山口県らしさを出すと、県外、とくに東京で販売される時に、特産品売場に置かれるのが嫌だったんです。
というのも、特産品売り場って、バイヤーに半分同情が入っていると思うんですね。ローカルで頑張っているから応援しようといった思いがあるから、商品力だけで置いてもらっているわけではない。それだと悔しいですし、ずっと特産品コーナーから出られないんじゃないかと思うんです。

阿部:なるほど、おもしろいですね。

光浦:なので、これまで「山口県らしさ」って何かを考えたこともなかった。だから、話をいただいた時に、地元の友達や、東京の友達に「山口県らしさって何だと思う?」と聞いて回りました。でも、フグ、明治維新、萩とかしか挙がらないんです。

阿部:私も聞かれたらそう言うと思います。

光浦:そうですよね。そんな時に、山口県の県の花である夏みかんを思い出し、これはよいなと、開発を始めました。香りもよいですし、飲み物に適していると思ったんです。
あとは、せっかく山口のものを作るなら、名物というか、食文化にまでしてみたいと思いました。山口の喫茶店に行くと、「ナツミカネード」がメニューにある、というゴールをイメージしました。これ、うちで商標は取っていないんです。使いたい人にぜひ使ってほしいなと思っていて。「山口はみんなナツミカネードを飲んでいるんだよね」って東京の人に語られるくらいになりたいなと。

阿部:ナツミカネードをレモネードぐらい一般的なカテゴリーにしたいということなんですね。もともと山口のものを作っていなかったのに、せっかくつくるなら食文化にまでしてしまおうという、その思いの背景はどういったものだったのですか。

光浦:東京である程度仕事をしたことで、逆にだんだん地元を大切にしたいという思いが芽生えてきたんです。中川さんの依頼もきっかけになり、自分が生まれた街をちゃんと育てていきたいと思い始めました。
僕は、会社だからこそ出来ることがあると思うんですね。いろんな商品提案を通じて文化をつくることができるし、雇用をつくることも出来る。僕の会社も、もともと6人だったのが、現在は28人に増えているんです。
今度、本社を大道駅(※光浦醸造最寄駅)前に移転するんですね。というのも、大道駅というのは無人駅で、今は本当に何もない。でも、僕らが子どもの頃は、駄菓子屋や本屋があって、大切な時間を過ごしてきた場所。だから、ここに私たちが本社を移転することで、若い人が後に続いてお店を出店したり、街に活気が出るんじゃないかなと思っています。そういう貢献が出来るのも、会社ならではですよね。

足すのではなく、「ひく」ことで文化になる。

阿部:先ほど、文化をつくりたいというお話がありましたが、そのために工夫をされていることはありますか。

光浦:どうやったら文化が作れるか、私も知りたいですね(笑)。でも、1つ思っているのは、奇をてらった提案では絶対無理なんです。砂糖が角砂糖になって新たな文化を作ったように、これまでもあったものの見方を変えるとか、カタチは変わったけれど誰もが使い方がわかるとか、そういうことだと思うんです。「これ、どうやって使うの?」と疑問を持つようなものは文化にならない。このフロートレモンティーも多分、説明しなくても誰もがみんな開けたら飲み方がわかるようなものだと思います。

阿部:たしかに、シンプルなものほどずっと残るのかもしれないですね。そこに、味噌と醤油とは一見全く異なるこのナツミカネードやレモンティーと共通するところがあると感じました。

光浦:まさにそうですね。味噌・醤油もできるかぎりシンプルな作り方を心がけています。
実は、もともと家業を継いだとき、味噌には添加物が入っていたのですね。それは悪意ではなくて、保存がきくとか、よりおいしくなるといった理由からです。僕がその世代にいたら絶対やっていたと思う。でも、当時はよかったのが、いまの時代は違うので、どんどん減らしていって、今は極力無添加にしています。
そういうふうに足すんじゃなくて、ひいてつくる、こういうシンプルなものづくりこそが文化になり得るんじゃないかと思いますね。

「創る」と「つくり続ける」を混同しない。 実は大切なのは、「つくり続ける」こと

阿部:光浦さんのホームページに「大切にすること10」という記載を拝見したのですが、とても印象的でした。「心をつくし、手をつくす。」とか、「職人となり食人となる。」とか、個性的ですよね。

光浦:ありがとうございます。社員が増えて、リクルートも行うようになったので、自分の思いを理解してもらえたらと思い文章化しました。
たとえば、「人や食材との繋がりを大切にする。」というのは、レモンティーの茶葉を選ぶときに、値段や供給量ではなく、きちんと農家の方とやりとりをした上で、思いを共有して選ぶといったことですね。
「旅をする。」というのは、自分が旅をしたいので、書いておけば、誰にも文句言われないかなって(笑)。といいつつ、社員にぜひ旅行に有休を使って行ってほしいという思いがあります。気分転換にもなるし、たくさんインプットされます。いろんな文化に触れることで、自分たちも文化を創っている会社なんだと改めて感じてもらいたいんです。

阿部:お話を聞いていると、職人というよりも、経営者として、会社の雰囲気をよりよくする工夫をされているんだなと感じました。今後の光浦さんの展望をお聞かせいただけますか。

光浦: 今度、移転した本社でショップをつくる予定なので、そこでおもしろい商品をたくさん提案したいですね。今までは保存に耐えられることが重要なファクターだったのですが、今後は生ドレッシングとか、そういったライブ感のある展開をおこなっていきたいです。

阿部:楽しみですね。私も絶対訪れます!最後に同じように伝統を引き継いで奮闘していらっしゃる全国の経営者にアドバイスをお願いします。

光浦:「創ること」と「つくり続けること」を混同しない、ということでしょうか。「ものづくり」というとクリエイティブな部分ばかりピックアップされてしまいがちですが、私たちのようなメーカーの場合、実はそういう作家さんのように創る部分は商品の寿命から考えるとすごく短い時間であって、その後同じ商品を地道にコツコツ微調整しながら作り続けることこそが圧倒的に大切なことで、文化をつくり守っていくために必要なことです。
商品開発に関しても安易にデザイナーやクリエイターと呼ばれるような人に任せて「創って終わり」なんじゃなくて、自分たちで徹底的に時間を費やして商品に向き合って創り、作り続けることで自社らしい商品になるのだと思いますし、多分、お客様もそういう「武骨で滲み出てる商品」を待ってるんだと思います。

阿部:今日は素敵なお話を本当にありがとうございました。

■ご参考■
光浦醸造工業株式会社 http://mitsuura.jp/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「フロートレモンティー/フロートナツミカネード」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【志】デザイン力は「未来の解像度」で磨かれる
フロートレモンティー、ナツミカネードが人気を集めている理由の一つに、パッケージデザインの良さがあります。そのデザインを作っているのはデザイナーではなく、ほとんどが光浦さん本人とのこと! 素晴らしいデザインが生み出せるのは、光浦さんが「センスが良いから」なのかとも思ったのですが、どうもそれだけではなさそう。デザイナーではない光浦さんのデザイン力の背景には何があるのか、改めて考えてみました。
光浦さんの発言を振り返って見ると、未来像を言葉にするのがとてもうまい事に気が付きます。例えば、「特産品売場に置かれるのが嫌」「山口の喫茶店に行くとメニューに書いてある」など、ブランドが成功した先の未来像を具体的に語っていました。ここに、光浦さんならではのデザイン力が関係しているのではないでしょうか。私たちは、0からデザインを作るには感覚的な力が大事だと思ってしまいます。「私はセンスが無いから」とデザインを敬遠する人も少なくありません。しかし、光浦さんは自らのビジョンに対して「似合うかどうか」という判断基準で論理的にデザインを考えているように思います。クリアなビジョンを持つことが、デザインを作る上でも重要な役割をはたしているのです。
昔のお醤油のラベル集からパッケージデザインのヒントを得ると言っていた光浦さん。「このブランドがどこに置かれたいか」「どのように使ってほしいか」というクリアなビジョンが頭の中にあるのだとすると、昔のラベル集はきっとヒントの宝庫なのでしょう。解像度の高い未来像をビジョンとして語る事。それはデザイナーに限らず、ブランドの作り手全員が磨くべき「デザイン力」ではないかと感じました。

>>博報堂ブランドデザインについて詳しくはこちら

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