博報堂人が、社会テーマや旬のトピックスを題材に、生活者の暮らしの変化を語る対談企画「キザシ」。
第9回は、学校になじめない子どもたちの力を引き出す「異才発掘プロジェクト ROCKET」を率いる東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)教授をゲストに迎えました。博報堂こそだて家族研究所/博報堂イノベーションデザインに所属する根本かおりと、「こそだてと社会」のキザシについて語ります。

「子どもは破滅の道を歩んでいる」

根本:「博報堂こそだて家族研究所」では、子育て家族のいまを研究する活動を行っているのですが、私が同時に博報堂イノベーションデザインに所属していることもあり、今後子育て家族の未来がどうなるかということも研究しようと、いくつか取り組みを始めています。
その中で、子育てをする側に必要なことは何か、考えているのですが、中邑先生が主宰されている「異才発掘プロジェクト ROCKET」( https://rocket.tokyo/ )では、学校教育になじめないお子さんたちの力をどう引き出すかという、とてもユニークな取り組みをなさっておられますよね。私は、子どものために大人がやることによる子どもの学びというよりは、逆に大人側がそこから何を気付くのかに非常に興味があって、先生が取り組まれている中での発見などをお聞きしたいなと思いました。

中邑:はい。でも、実はスタンスが全然違うんですね。僕は子どもに何かしてやろうなんて全然思っていない人間なんです。大人が色んなことをし過ぎているからややこしいことになっていて、子どもはいま破滅の道を歩んでいる、というのが僕の考えなんですね。
いまの子どもたちは、小さな頃からつまらぬことばかり教えられて、幼児からの英語教育が大流行。また、とにかく過保護です。危ないことは一切させない。たとえば袋菓子でも、開けやすいものばかりでしょう。海外製のものを渡すと、「硬くて開かない」って言うから、「歯で噛め」と言うと「汚い」って言うんですよ。「じゃあハサミ持ってこい」「めんどくさいよ」と。「いらないのか?」と聞くと、「いらないよ、先生。こんなお菓子」みたいなことを言うんです。生意気だって思うわけですよ(笑)。そういう子が英語を話せるようになるわけです。途上国の子なんか、食うため、生きるために必死になっている。同じように国際人として、国連の職員として働こうとなったときに、どちらが活躍できるかっていうと途上国の子に決まっているんです。いま、大学卒の新人採用をしても、おもろいやつがいないっていう社会になってきたなと。なぜかというと、コンプライアンスだのなんだので、何事もルール、ルールだから。決まりに当てはまる人しか、実は生きていけない。イノベーションなんかこの国から興るものかと僕は思っているんです。

根本:なるほど。たしかに、最近、こそだて研が母親を対象に聞いた調査でも、「身につけさせたいスキル」1位は英語でした。親の「こうなってほしい」という思いが強いかもしれませんね。いつ頃から問題意識を持たれたんですか?

中邑:10年前、20年前かな。特にこの10年間はそうですよね。世の中矛盾だらけなんですよ。そういうふうに型に当てはめた社会の中で国際的な子どもを育てるって言うけれど、国際社会なんてルールがあってないようなもので、常に不確実。変動している。その中で生きるような子どもたちっていうのは、もっと自由な子ですよ。空気読めない子、言うことをきかない子。空気読めない子、言うことをきかない子、僕は大好きなんです(笑)。
でも、そういう子は排除される。いま、大学まで行くのはだいたいよく言うことをきいて、みんなと仲良くできる子どもです。そういう8割の子どもがいる一方で、2割の変人もいるんですよ。この2割をどう生かすかということを、いま僕は研究しています。

知識を蓄積するプロセスとリアリティの関係の、深い意味

中邑:ROCKETにやって来る、学校に行かない子どもたち。賢いですよ。ずっとインターネットしていますから、その検索能力たるや素晴らしい。だけどそのリアリティのなさも超素晴らしい。
先日、「鳥居を探してこい」っていう授業をしたんです。朝から1日がかりで。彼らに、「鳥居には何種類ある?」と聞いたとしたら、ネットで10分以内に調べることができます、「ああ、先生、2種類だよ。神明型と明神型」と。でも、この授業では情報機器の利用を一切禁止しているので、「なんでー、先生、どこにあんの?」って。「どこにあるかなんて知るもんか。とにかく時間はたっぷりある。紙と鉛筆渡すから、鳥居をできるだけ大きくスケッチしてこい」と。
彼らが帰ってきて、描いた鳥居の絵見て、「これ、木だった?金属だった?」と聞くと「わかりません」と言う。「だめだな。木か金属か石かという分類だってできるのに、それさえ見てないじゃないか」と。ネットのみに知識を依存した状態では、これでいいんだぐらいのことになっちゃう。そして、枠ができる。色んな視点で一つのものを見ていくことができるにも係らず。いまの子どもたちは、知識はタダだと思っている。知識を集積していくっていうプロセスを知らないまま大きくなっているんですよ。
学問というものがどれだけ大変なのかということが、こうするとわかるんですよ。とにかく時間をかけなきゃダメだと言うと「うわ、めんどくせぇー」って言うんだけれど、確かに面倒くさいんですよ(笑)。「どこに鳥居あるんだよう」「お前聞けよ、あのおじさんに」みたいな世界です。でも、「学者というのはこういうもんだ」と言うとやるんです。いま、学者がなりたい職業の上位になっていますからね。けれども、そういうふうにやっていかないといい研究者にはなれない。とにかくリアリティをどう与えるか。それが僕たちの教育なんですよ。
今年、自然やサイエンスが好きな子どもたちに、「食物連鎖は本当か?」という授業をします。だいたいの子どもは食物連鎖の絵を描けるんですね。「ほんとか?  お前、鳥が魚を食うところ、小さい魚を大きな魚が食うところ、見たことあるのか?」「ない」「うそじゃん、それ」と。「ほんとかどうか確かめろ」と言って、一日、鳥を観察させてやろう、船に乗せて魚をつかまえて観察させてやろうかと思っています。リアルって何なのかっていうことを徹底的にやっていく。それしか教えてない。

根本:いまの子どもたちは本当にデジタルネイティブなんだなと思います。こちらもこそだて研の調査ですが、小学校高学年では約8割がパソコンを使っていました(2014年調査時)。リアルにこだわるというのは、子どもたちがネットの世界にどっぷり浸かっているという以外にも理由はあるんですか?

中邑:感覚ですよね。例えばロケットを打ち上げるときに何が重要かというと、最終的にはそれを判断する人の天候を感じる力なんです。生きるか死ぬか、最終的にはそれなんですよ。

「意図しないという子育て」とは何か

根本:そういう活動の中で、お子さんに変化が出てくると思うんですけど、その変化を親御さんも見られているわけですよね。

中邑:いや、実はね、「プロジェクトで何が変わりましたか?」とよく聞かれるんだけれど、「僕らは、別に何も変わることを期待してないし、知りません」と言うことにしているんです。つまり、変化を期待するっていうのは、目的があるんですよ。目的をつくっちゃうと、僕たちは目的に誘導してしまう。けれども、子どもの本来の力って、そういうところじゃないところにあるかもしれない。変なことをやっていると、親ってだいたい止めますよね。「そんなことしてどうするの?」と。そうして無駄な部分って削がれていくんだけれど、その無駄をやらせることができるということが、僕は重要だと思っているんです。だから、「変化は何ですか?」というと、「いや、子どもがとりあえず楽しそうに生きていますね」と、それだけです。

根本:私には子どもが二人いて、上の子が小学2年生なんですけれども、私は子どものときに学校が嫌いで、隙あらばサボりたいというタイプだったので、子どもってみんなそうだろうという目で接しがちだったんです。でも、意外にも我が子は、学校で決められたことを守ることが気持ちいいと思っているようで、あるとき、「学童に行きたくない。一人で家にいる。学童はうるさくて宿題がゆっくりできないから」って。それを聞いて、「そんなことってあるのか?」と思ったんですね。子どもは勉強が好きじゃないはずという思い込みがあって、自分の子に対してそういうスタンスで接していたら、子どもは自分の思う通りにはなっていなかったという。そのまま一人で宿題なりをさせておくべきなのか、「遊びなさいよ」と促すべきなのかを悩んだ時期があって、結果的に放置したところ、自分で学童に行くと言い出して。待つのって確かに難しい。

中邑:ですよね。不安になりますよね。

根本:不安だらけです。自分の子育てもそうですし、子どもを通して未来を見ることを考えるとき、ワークショップなどをやっても、子どものやってることに「どうしてそれそう思うの?」とか「何を目指してやろうとしているの?」と、つい答えを聞きたくなってしまうのを、いかにぐっと我慢して、寝かせて待って観察するかというのは、言うのは簡単だけどやるのは難しいと思います。

中邑:子どもがなぜそんなことやっているかというと、おもしろいからに決まっていますよね。答えろと言われても子どもは答えられないし、たぶん親は違うことを望んでいるんだろうなということを窺いながらやっているわけですよ。いまの子どもたちって、褒められることが好きになっているから言うことをきく。そうすると他人に責任をゆだねることができるから楽なんですよ。
子育てだってそうですよ。いまの子どもを育てている人達っていうのはね、どんな子どもに育てようと考えているとは言うけれど、いい大学へ行っていい仕事を見つけられたらいいということしか考えていない。つまり、ほとんどの人がそう考えているっていうことは、敷かれたレールが一つしかないということです。レールに向かって、塾があり、教育産業があり、教材がある。だから、そこに乗っちゃったら何も考えない。でも、そこから離れてしまうと「どうしよう」と戸惑うわけです。プロジェクトに来ている、そこから離れた子どもたちっていいんですよ。暇があるし、親が諦めていますからダメって言わない。「どこでも、先生、連れてってください」と。僕たちが不登校の子どもになぜ注目しているかというと、時間がたっぷりあるからです。一日かけて鳥居を見てこようなんて、学校じゃできない。

※後編へ続く

東京大学 先端科学技術研究センター
人間支援工学分野 中邑研究室
中邑 賢龍(なかむら・けんりゅう)教授

専門は心理学。関心のあるのはAI(人工知能)時代の新しい教育。障害のある子どもがスマホを使って受験可能かを追求するDOIT Japan、不登校のユニークな子ども達の新しい学びのスタイルを追求する異才発掘プロジェクトROCKETなどの社会課題解決型研究を進めている。

博報堂 こそだて家族研究所 / 博報堂イノベーションデザイン
根本 かおり(ねもと・かおり)

広告づくりの現場で自動車、化粧品、家庭用品など各種広告マーケティングやブランディングにたずさわる。その後、生活者発想・未来発想に軸足を置いた事業・商品・サービスデザインに従事。博報堂内シンクタンク・こそだて家族研究所にも在籍し、妊娠期~小学生の子どもを持つ家族の生活を研究、提案を行っている。自身も2児のママ。

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□第8回 / 生活者のための食と医療(後編)
□第8回 / 生活者のための食と医療(前編)
□第7回 / 落語に見る日本発想
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