珪藻土を用いたバス・キッチングッズが人気のプロダクトブランド“soil”の作業場にて。右から、今回取材にご協力いただいた石動博一さん、博報堂ブランドデザインの岡田庄生。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第13回に登場するのは、ヒット商品のバスマットを始め、珪藻土を用いたバス・キッチングッズが人気のプロダクトブランド「soil(ソイル)」を生みだした、株式会社soil代表取締役社長の石動博一さん。代々左官業を営む家系に生まれた石動さんの、本ブランド誕生の背景や成功の秘訣とは―。
聞き手は、自宅でsoilのソープディッシュを愛用する、ブラたま編集長で博報堂ブランドデザインの岡田庄生です。今回の対談、まずは「soil」作業場訪問から始まりました!

地元女性の丹念な手作業から生まれる、soilのプロダクト。

「soil」は、左官の技術と材料(珪藻土)を用いてつくられる、ライフスタイルプロダクトのブランドです。保湿性や吸水性に優れ、呼吸する素材としても注目される土の特性を活かし、主力商品のバスマットを始め、多様なバス・キッチン用品を展開しています。自然の恵みを凝縮させたナチュラルなデザインも特徴的で、メディアでも多数取り上げられ、人気を博しています。オンラインショップのほか、全国の百貨店・インテリアショップで販売しており、近年ではホテルの客室でも使用されているのだとか。

主力商品のバスマット。形や色、デザインの違いにより様々なバリエーションがある。写真は“wave<ウェーブ>”。

バス・キッチン用品の一部。左上から時計回りにソープディッシュ・ドライングエッグ(調湿脱臭剤)・ソープディッシュforバス(スクエア)・ドライングブロック(調湿剤)。

(※作業場にて)
岡田:すごく開放的で、明るい作業場ですね。ここからsoilの商品は生まれているんですね。

石動:soilの作業は、まず生地づくりから始まります。粉末状の珪藻土に水を加え、混ぜていく。土の状態や気候、水の分量や混ぜ方で生地が変わるので、注意深く見ながら作っていきます。
その後、製品に合わせたシリコンの型にその生地をいれていく。左官のコテを使って、丁寧にならすんです。急な硬化や気泡を防ぐために、1つ1つ丹念に作業していきます。その後、固めて仕上げですね。
現在、バスマットは一部機械生産をしていますが、それ以外の商品は全部手作業なんですよ。

岡田:きめ細やかな作業で驚きました。職人さんの手作りと聞いていたので、男性の方が担当されているとばかり思っていましたが、ほとんどが女性のスタッフさんなんですね。

石動:そうですね。今、約80人の方がパートで来てくれていますが、ほとんどが女性です。全員地元の方なんですよ。左官業からの男性職人もいますが、それだけではまかなえないので、教えながら覚えていただいた形です。女性は細かい作業が丁寧で、今ではみんなプロフェッショナルですよ。

岡田:みなさん、黙々と真剣に作業をされていますね。

石動:soilの商品づくりは、分業ではなく一人で完結する仕組みです。だから、朝来たら、珪藻土の粉に水を入れて練って、型に入れて、コテでならして乾かす。その間にちょっと休憩したり、ごはんを食べたりして、乾き始めたら、また形を整える。あとは乾くまでまた置いておく。最後に、型を洗って、乾かして帰るという流れです。一枚ごとに買い取るというやり方をしているので、通い内職のようなものですね。

soilの作業場の風景。一人に一つ大きな作業台が割り当てられている。

左官のものづくりの強みから、バス・キッチン用品制作を発起。外部のアドバイスで、本気で取り組むことに…

岡田:ここからは、soil誕生の物語をお伺いできればと思います。もともとsoilの母体、株式会社イスルギさんは、左官業を営む会社なんですよね。左官の技術からインテリア商品が生まれた背景を教えてください。

石動:もともと私の家系は、江戸時代に富山で左官業を始め、1917年に金沢でイスルギを創立しました。住宅やマンション・ビルの壁面工事のほか、金沢城の復元工事など、歴史的な建造物の復元工事も手掛けてきました。
高度経済期の建築ラッシュが終わったあたりから、コンクリート仕上げが主流になってきて、左官の仕事が減少してきたんですね。だけど、土というのは、呼吸もするし、調湿もするし、ちゃんと理にかなっている材料。私はもともとイスルギの営業職だったのですが、このままでは左官の仕事が無くなってしまう、左官の高い技術をなんとか残していきたいという危機感を覚えました。そこで、持ち運びの出来るミニチュアの仕上げサンプルをつくったんです。

岡田:なるほど。作った壁まで見に行ってもらわなくても、仕上げの美しさを見てもらえる仕組みですね。

石動:そうなんです。左官の仕事を増やすための営業ツールですね。そうしたら、そのサンプルが「工芸品みたいでおもしろい」と言われるようになって「左官アート額」として商品化し、更にこれをきっかけに、石川県からデザイナーとものづくり企業のマッチングプロジェクトを紹介されました。左官の仕事を開拓できるチャンスだと思いましたし、何より、左官のものづくりとデザインの掛け合わせなんておもしろいと思って、参加することにしたんです。
そうしたら、コーディネーターとして入っていただいていたアッシュコンセプトという会社の名児耶(なごや)社長から、「土を固めただけのプロダクトなんて、世界中どこを探してもない。石動さん、本気で新しいビジネスをやってみませんか?」と言われました。最初は、どちらかというとサンプルの延長というか、お客さんが左官の技術と直接触れ合う機会になればいいなと思っていたけれど、そのように外部から言われて初めて真剣に事業化を考え始めたんですね。

岡田:ものづくりを始めるにあたって、商品ラインナップはどのように考えられたのですか? やはり一番最初はバスマットから始められたのでしょうか。

石動:「左官のものづくりの強みは何か」をまず考えました。それは素材として珪藻土を使い、水・湿気を吸うということだった。じゃあ、我々の身の回りでこういうものが必要な場所は?と考えると、バス系商品とキッチン系商品だったんです。この2カテゴリーで考えようと決めたら、あとはとにかくブレーンストーミングをしました。実は、バスマットは、2年目に作った商品なんですよ。初年度はコースターやソープディッシュから始まりました。

岡田:そうだったのですか。てっきりバスマットから商品を拡げていかれたのかと思っていました。ところで、「soil」というブランド名はどのように決定されたのですか。

石動:最初のプレゼンがあったときに、デザイナーが考えてきた名前が「soil」だったんです。土や泥という意味であまりきれいな言葉ではないのですが、左官業にぴったりだと思い、決めました。

岡田:今となってはすごくしっくり来る名前ですけれど、当時、社内や左官業界の方からの「soil」に対する反応はいかがでしたか。

石動:最初は、「なんか変なことを始めたな」という感じでしたね。職人達も奇異な目で見ていましたし…。ただ、みんなよくわからないので反対する理由もない。だから、「まあちょっとやってみれば」といった感じでスタートしました。
最初は私とイスルギの仕事と兼務の男性社員2名、専任の女性社員1名、4名で始めたんですね。彼女はもともと事務系職員だったのですが、こういう仕事をやるからちょっと手伝ってほしいと声をかけた。そしたら彼女が最初に言ったのは、「すごいことだ。例えばグッチとかヴィトンと同じようなブランドをつくろうとしているんですね」って言ったんです。僕、そんなことは一度も考えなかった(笑)。

岡田:そうなのですか。でも、石動さんの中には、名児耶さんをはじめコーディネーターさんやデザイナーさんとの出会いがあって、ひょっとするとひょっとするぞという感覚はあったんですか。

石動:うーん、五分五分でしたね。だめでもしようがないやと思っていました。
そんな中、名児耶さんは「必ず売れる」と言っていた。「ただ、石動さん、5年か6年我慢しないとダメよ」って。ブランドというのはそうやってつくっていかないといけない、あんまり焦ってもダメだよって言われていたんです。
そうして、1年目、2年目と展示会を中心に商品を紹介し、展開していきました。ただ、ある程度話題になってはいたものの、売り上げ的には微妙な状態が続いていた。
3年目の2011年、イスルギの社長から、「今年結果が出なかったら、もうおしまい」と言われたんですね。これはまずいぞと、必死になって営業していたら、タイミングよくマスコミにバスマットのことがたびたびメディアに取り上げられて、それで一気に売上が上がったんです。

「soilの商品は女性の悩みを解決している」 BtoC事業への参入で得られた、嬉しい反応。

岡田:先ほど、もともと営業職とお聞きしましたが、相手が分かっているB to Bの世界とB to Cの世界って、相当な違いがあると思うんです。ブランド展開の中で、ご苦労があったんじゃないですか。

石動:そうですね。まず大変だったのは、商品づくりです。左官の技術を活かすといっても、作るものは全然違う。最初は職人から「できない」と言われることが多かったですね。僕は「できない」という言葉が嫌いなので、なんとか作ってほしいといろいろなアイデアを出しました。私自身が左官職人ではないからこそ言えたのですが、そうすると、職人も少しずつ「じゃあ、やってみるか」と言ってくれるようになって。
今ではお互い提案し合っていいものを作ろうとしています。職人とのやりとりを重ねる中で、ものづくりっておもしろいなと思うようになりましたね。
でもね、一番大変だったのは、お客様から直接クレームが来ること。今もそうですが、ほぼ2日に1回来る。
例えば、soilの商品って、生地の中に時に斑点があるでしょう?ちょっとした土の粒の色味の違いなのですが、それだけでお客様はもうダメなんです。壁をつくっている時には何も言われなかったので、最初は理解できませんでした。

岡田:たしかに、マンションの壁などで同じことが起こっても、何も思わないですよね。

石動:検品のときに一個一個見ているので、例えば変な模様がついていたり、傷がついていたりしたら避けますけれど、これは生地の“味”なので…。でも、いわゆるインテリアを買う人というのは、いかに厳しい目を持っているかということを学びました。

岡田:建築業からインテリア業に変わることのギャップは、思った以上に大きいなと感じられたのですね。

石動:本当に。日々苦戦しています。

岡田:逆に、建築業や左官業では味わえない嬉しいエピソードなどはありましたか。

石動:soilの商品を買ってくれる人はほとんどが女性なのですが、立ち上げて3年目頃、参加した池袋西武のイベント担当の女性バイヤーの方に「あなたのつくっているものはすばらしい。何でかわかる?」と言われたんですね。「何でですか?」と聞くと、「あなたは、女性の悩みを全部解決しているのよ」と言われた。「石鹸が溶ける、塩が固まる、バスマットの洗濯が面倒くさい。これをあなたは全部解決しているんだから、すごいわよ」って。すごくうれしかったですよ。soilはつくる人も買う人も女性。女性に支えられています。

強みを活かして、soilは次のステージへ。 “最後まで諦めない”経営者の挑戦は続く。

岡田:今、soilのユーザーがどんどん広がっていると思いますが、クレームも含めていろんな声を聞く中で、石動さん自身のsoil像は変化していますか?

石動:現在、多くの方に知ってもらっているというのは非常に嬉しいことですが、バスマットについてはすでに類似の商品が出てきてしまっているんですね。しかも、うちより安い。
そんな中soilの強みは何かと改めて考えると、やっぱり手作業であること。誰もつくれない部分だから、こちらにシフトしないといけないと思っています。今年、第2工場をつくったんですよ。また地域の女性を採用しました。
soilを立ち上げた時は、そもそも類似品が出てくることも、第2工場をつくることも予想してなかった。それから、今、海外にもどんどん紹介しているんですけれど、それも予想しなかったですね。

岡田:なるほど。バスマットがヒットしてひと安心というわけではなく、もう一回手づくり品で勝負しようという、次のステージを迎えられているんですね。

石動:安心なんて、とんでもない。日々格闘している最中です。

岡田:最後に少し角度の違う質問なんですけれど、今日本各地で、親の代から続いている家業を継いでいて、新しいことがしたいけれど悩んでいる方ってすごく多いのではないかと思います。そういう方々にあえてアドバイスをすると、何かありますか。

石動:おこがましいことは到底言えないのですが、1つあるとすると、最後まで諦めるなということですね。諦めずにやっていれば、必ず何かチャンスはやって来る。
私も諦めたいと思った瞬間は何度もありました。でも、今振り返ると、あのとき続けてよかったと本当に思う。

岡田:石動さんが諦めなかった理由は何ですか。

石動:僕の性格がしつこいからですかね(笑)。負けず嫌いなんです。今でも社員には、「最後の最後まで安心しちゃいけないよ」というのと「最後の最後まで諦めるな」と言っています。

岡田:今日は勇気をいただけるお話をありがとうございました。

■ご参考■
soil http://soil-isurugi.jp/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「属」の視点で、「soil」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。

【属】作り手でもあり使い手でもある。女性達が支えるsoilのコミュニティ。
soilというブランドは3つの強い「属」(コミュニティ)を持っています。
1つ目は、デザイナーや職人など、soilの商品を生み出すコアチーム。soilの定番商品のいくつかはデザイン会社の若い女性デザイナーが発案したものも多いと聞きました。
2つ目は、工場で働くパートのみなさん。会社の寮だった建物の2階をリノベーションした作業場は、明るい光が差し込み、遠くにラジオが流れている、まさに「工房」と呼びたくなるような場所でした。小学校の図工室を思わせるその工房で生まれる穏やかな雰囲気が、soilのブランドらしさに繋がっているのを感じます。
そして最後は、百貨店のバイヤーが言っていたように、soilを愛用している全国の女性たち。「2日に1回」来るという厳しいクレームに鍛えられたsoilは、きっと海外では高品質ブランドとして評価されることでしょう。
これらの3つの「属」を貫くのは、soilが持つ「世の中の女性の悩みを解決する」というブランド価値。商品を考える人も、作る人も、その多くが女性です。自分自身が使い手でもあるからこそ価値感が共有され、3つのコミュニティが違和感なく続いているのだと感じました。インナー(社内)ブランディングとアウター(社外)ブランディングが見事に統合されていると言えるのではないでしょうか。
特に、雰囲気の良いインナーコミュニティはブランド作りには欠かせません。工場で働くパートの女性達は、石動さんが近寄っても緊張する事も無く、楽しげに会話を交わしていました。「彼女達を束ねるもの大変なんですよ」と言いながら笑う石動さんの表情が、少しだけ大家族のお父さんのように見えました。

>>博報堂ブランドデザインについて詳しくはこちら

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