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ブランドたまご 第12回 / あなたならどう「編集」する?島根の名品を組み合わせる贈り物ブランド「YUTTE」

2017.01.30
#ブランディング#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
島根のYUTTEストアにて。左から、今回取材にご協力いただいたシマネプロモーションの売豆紀拓さん、博報堂ブランドデザインの美田真知子。
「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第12回に登場するのは、メイドイン島根の産品でつくる贈りものの新ブランド「YUTTE(ユッテ)」を提供する、シマネプロモーションの売豆紀(めづき)拓さん。島根出身、東京での暮らしを経て売豆紀さんが生み出した、本ブランド成功の秘訣とは―。
今回の聞き手は、博報堂ブランドデザインの美田真知子です。実は取材中、母親へ「YUTTE」の贈り物をした彼女。自身も体感したブランドの魅力をお伝えします!

ユニークな経歴と自身の結婚式体験から生まれた「YUTTE」構想

「YUTTE(ユッテ)」は、縁結びの地・島根の民藝品・工芸品と食品をひとつに詰め込んだ贈りもののブランドです。ブランド名の由来は、縁結びの「結(ゆう)」。センス良くキュレーションされた“島根のよいもの”をセミオーダーで詰め込み、贈るという新しいスタイルが人気を博し、引き出物、結婚祝い、出産祝いなどで活用されています。

YUTTEの贈り物の一例。多様な島根の産品を、予算や好みに合わせて詰めることが出来る。
YUTTEストア内に陳列の産品たち。

美田:今日お邪魔しているYUTTEストアは、2016年の夏にオープンされたばかりと伺いました!商品を実際に見て触れる、とっても素敵な空間ですね。レトロな外観も魅力的です。まずはYUTTEブランドが生まれた背景から教えてください。

売豆紀:もともと僕は、18歳で上京して、12年間東京で過ごしていたんですよ。しかも、上京理由はバンド(笑)。でも、結局うまくいかず、4~5年フリーターをしていました。めちゃくちゃですよね(笑)。

美田:すごくユニークな経歴なんですね。

売豆紀:そうそう。その後、インテリアショップの販売員をしたのですが、これが最初の転機でした。そのショップのブランディングに携わっていたのがD&DEPARTMENTで、研修等で関わりが出来たんですね。その流れで、D&DEPARTMENTがネットショップの店長候補を探していることを知り、参画することになりました。
ちょうど僕が入ったタイミングは、D&DEPARTMENTが47都道府県に目を向け始めたときだったんですよ。当然、僕もつくり手さんとか、島根の方々ともつき合うことが増えてきて。東京にいながらもどこかで島根に戻りたいと思っていた僕は、もしかしてここで得た販売・Eコマースの知識、そして人とのつながりを活かして、ネットで事業ができないかなとふわふわ考え始めました。
実は、「YUTTE」構想が明確になったのは、自分の結婚式がきっかけです。D&DEPARTMENTが当時開催していた、「NIPPON VISION 2 GIFT」という47都道府県の名品をボックスで展示する試みにヒントを得て、結婚式の引き出物に島根のいいものを詰め合わせたギフトボックスを作ろうと思ったんですね。でも、そのようなサービスや仕組みが全くなかった。結局、自分で商品をかき集めてボックスを仕立てたのですが、すごく好評で。じゃあ、会社を辞めて、これを事業化してみようかなと思い始めました。

美田:なるほど。すごい行動力ですね。

売豆紀:そうですね。そして思いきってYUTTEをやるために島根に戻りました。
最初はネット販売もしていなくて、口コミだけでスタートしたんですよ。
問い合わせがあったら、行商みたいに僕が出向いていた。器や食品を箱に詰めて持って行って、カフェで打合せして、引き出物を決めるんです。今はギフト全般ですが、最初引き出物から始めたのは、一回の単価が大きいことと、在庫を持たなくていいことからでした。

美田:今、たくさん商品がありますけれど、立ち上げた当初のYUTTEは、どのくらいの商品数があったのですか?

売豆紀:ちょっと覚えてないのですが、今の半分くらいでしょうか。最初はD&DEPARTMENT時代のつながりをもとにお声がけをしていました。その後、新規のメーカーさんへは、直接問い合わせをして、自分で現地に出向いて、お話しています。
今、商品数はだいたい30~40種類ありますね。

YUTTEの強みは、「目利き」。 大切にするのは、自身の体験、製法、デザイン、生産者。

美田:YUTTEの魅力は商品のセレクトだと思うのですが、どのような選定基準をお持ちですか。

売豆紀:まず大切にしているのは、絶対に自分で食べてみる・経験してみるということです。その上で良いと思ったものを選びます。島根に同業のメーカーさんが複数あった場合は、全部試して、ここが一番と思ったものをセレクトしますね。

美田:探すところから大変ですね。

売豆紀:そうですね。でもおっしゃっていただいたとおり、YUTTEの強みは、やっぱり目利きだと思うんですね。YUTTEには「島根の本当にいいもの」が揃っている、と思ってもらえるようにならないといけない。でないと、ただの物産詰め合わせになってしまいます。
商品発掘目的でたまにやるのが、島根中の「道の駅」ツアーです(笑)。「道の駅」は地元の人たちが行きやすく、地元の生産者たちが商品を持って行きやすい販売所なので、いいものが集まりやすいんですね。
あとは、中には、問い合わせをしてメーカーさんの工場を尋ねると、売場にないけれどとってもいいものがあったりする。「なぜこれを店頭に出さないのですか」と聞くと、「高いから売れないと思って」と言われたり。このように直接会ってやり取りすることで、新たないいものを発掘する喜びもありますね。

美田:自分の足を使って発掘するからこそ、特別な品揃えになるんですね。ところで、「本当にいいもの」とは何か、もう少しだけお聞きしたいのですが、味以外にはどのような要素があるんですか?

売豆紀:1つは製法ですね。昔ながらの製法で、大切に作られたものを選びます。それと、できるだけ島根産の原材料を使っているものを選びますね。あとは、パッケージです。デザインが魅力的であるというのも基準として持っています。
でも、重要なのは、生産者さんですね。出会ったときの感覚や、そこに込めている思いの強さで決めたりします。

美田:なるほど。やっぱりその場に行かないと分からない、売豆紀さんならではの基準があるんですね。あと、YUTTEは箱にもすごくこだわりがあると伺いました。

売豆紀:そうなんですよ。この箱、島根の文化に沿ったものなんです。
もともと松江城主の松平不昧(ふまい)公が茶人だったこともあって、松江市には現在でも家でお茶を楽しむ方がたくさんいらっしゃるんですね。お茶の消費量も全国平均に比べて多いんです。
お茶を飲むということは、お茶菓子が必要になるじゃないですか。なので、お茶菓子屋さんも松江には多いのですが、お茶菓子の箱は全部貼り箱なので、箱をつくる職人も松江にたくさんいる。
そういった背景があり、この箱も、お茶菓子の箱をつくっている貼り箱職人さんにつくってもらっているんです。
僕らの中で箱は、中に贈り物を詰める道具じゃない。これ自体も贈り物として位置づけています。だから、YUTTEには商品全部に説明カードを付けているんですけれど、箱自体の説明カードも付けているんです。

美田:こんなに立派できれいだと捨てられないですね。インテリアに使いたくなります。

相手を思いながら、丁寧に選ぶ。 本来の贈り物の価値を大事にしたい―。

美田:YUTTEブランドを育てる上で、大切にされていることはありますか?

売豆紀:本来贈り物が持つ価値を大事にし、育てていきたいと思っています。
現代の贈り物、とくに引き出物って、選び方がすごく雑だと思うんですよね。
本当は来てくれたゲストに対しての感謝の気持ちなのに、無難だからとカタログギフトにする方も多いでしょう。もらったゲストも、カタログの中から強いていえばこれかなといった感じで選ぶから、多分、バザーに出されると思うんです。要は、その贈り物に理由がない。

美田:確かに、そこに贈る人や受け取る人の思いってあんまりないですよね。

売豆紀:そうなんです。なので、贈る相手のことを思って、中身を決めていく。そのプロセスも大切にしたいと思っています。
あとは、われわれの役割は、「リアルな体験の場」をつくることだとも思っています。
贈り物って、まあ、半ば無理やり届くものじゃないですか。つまり、自分では買わなかったけれど、それが自分の生活に入る。そうした「体験」があって始めて、今まで買わなかった人が買うきっかけになると思うんですよ。
そういう意味で、僕らはものづくりはできないけれど、ものづくりしている人たちのものを違うやり方で届けているんだ、と思っています。

美田:なるほど。不意にもらうこと自体を「体験」と捉えて、新しいものに出会う大事なきっかけにしているということですね。

美田真知子、母に「YUTTE」を贈る。

美田:実は、今日、この場でギフトセットをつくらせていただけたらなと思っているんです。「美田セレクション」を。

売豆紀:ほんとですか(笑)。どなた宛にですか?

美田:普段なかなか実家に帰らず、いつも心配をかけている母に贈りたいと思っています。私、食べることが好きで、器も好きなのですが、いずれも母譲りなんですね。母と私の好みは似ているので、自分がいいなと思ったものを選べばハズレはないような気もするんですけれど、何にしようかな。島根に行くのを羨ましがっていたので、東京では手に入らない、島根の魅力をふんだんに感じることができるものが良いかな。

売豆紀:普段お料理される方ですか。

美田:します。大好きですね。

売豆紀:であれば調味料がいいと思います。あんまり料理されない方だと、麺等をお勧めするのですけれど。これなんかいかがですか?(※写真右のケチャップを指して)。斐川町ってトマトの名産地で、そこの農協の女子部がつくっているトマトケチャップなんですよ。何にでも合います。シンプルに焼いたお肉につけてもいいし、ナポリタンもいい。一番のお勧めは、チーズトーストの下に塗ることですね!最高ですよ。

美田:パッケージもかわいいですよね。これにします!

売豆紀:あとは、このポン酢もおすすめです。森田醤油店さんというメーカーなのですが、普通こういった商品ってOEMに出したりするのを、自社開発して自社製造しているんです。味も一般的なポン酢とはずいぶん違いますよ。

美田:じゃあ、ポン酢にしようかな。鍋の時期ですしね。

売豆紀:そうそう。僕も水炊きがとっても好きなんですが、いつもこれを使っています。

美田:最後にお皿ですね。ポン酢を入れる小皿が良いかなぁ。これはどうですか?(※写真真ん中の白いお皿を指して)

売豆紀:白磁工房の石飛勲さんの器ですよ。シンプルで、すっとしていてきれいですよね。しかも、箱にぴったりと収まりますよ!

美田:やった!「美田セレクション」完成ですね。

完成した母への贈り物を手に。このあとYUTTEより発送いただきました。

YUTTEは「島根の良きもの」の編集活動。 食堂に、仕送りに…YUTTEの物語は続く。

美田:ギフト選びにお付き合いいただき、ありがとうございました。こうやって売豆紀さんにアドバイスをいただきながら、大切な人を思って選ぶ贈り物って、いいですね。母の反応が今からとても楽しみです。この企画を、島根以外に広げてほしいといったお声があったりするのではないですか?

売豆紀:実際、言われることはありますね。でも、多分できないと思うんですよ。愛がないと(笑)。

美田:愛?

売豆紀:愛というのは、地元愛という意味もありますが、執着してモノを選ぶとか、つくり手さんとの関係をつくりながら売っていくという気持ちのことですね。
特に、器は、できる時期とできない時期が実はあるんですね。関係性があって初めて少し無理をお願いしたり、相談することが出来る。

美田:たしかに、「売豆紀さんが言うんだったら、受けるよ」という関係が重要そうですね。YUTTEのキャッチコピー「ご縁の国のおくりもの」ってすごくいいなと思っているのですが、YUTTEのお仕事自体も、“ご縁”を大切にされているんだと感じました。最後に、YUTTEブランドの今後の展望を教えてください。

売豆紀:僕らは、YUTTEをギフトじゃなくて、「島根のいいものを選ぶ編集機能」として捉えて、拡大していきたいと思っています。具体的には、「YUTTEテーブル」という食堂などを検討しています。本当に島根でしか味わえないいいものって、究極は生鮮だと思うんですよね。
あとは、「YUTTEの仕送り」という宅配制度もやってみたい。都心に住む人にたまには地元を思い出してほしいという思いを込めて、「島根の旬」のものを四半期に1回ぐらい届けるんです。
ほかにも、つくり手さんと商品開発もしたいですし、宿泊施設運営もやりたいですね。
いろいろ言いましたけれど、いずれも島根に貢献、というよりは、「まちに溶け込んで、まちの機能になる」ことを、目指していきたいです。

美田:今後の展開がとっても楽しみです。今日はありがとうございました。

■ご参考■
YUTTE http://yutte.com/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「YUTTE」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。


【形】意志のあるラインナップの広げ方
島根を中心とした産品のユニークな編集機能として、独自の「らしさ」を持つYUTTE。そのブランドらしさの「形」が色濃く表れているのが、YUTTEのお店自体でした。
YUTTEのお店作りの秘訣を、売豆紀さんはこう教えてくれました。
「YUTTEの商品って、すごく偏りがあるんですよね」
普通、商品ラインナップに醤油があれば、塩、味噌、お酢と、調味料を一通り揃えたくなるものです。ところが売豆紀さんは、納得がいく塩や味噌が見つからなければ、お店には置かないそうです。売豆紀さん自身が「これは!」と思うものに出会わない限り、お店には置かない。だから、商品ラインナップに偏りが出てくるのだそうです。
しかし、そんな不揃いのラインナップだからこそ、お店にいるだけで、YUTTEのブランドらしさを感じる事ができます。「相手を想いながら、自分もいいと思う物を選ぶ」事が贈りものの本質。売豆紀さんもまた、お客さんを想いながら、自分がいいと思うものだけを、お店に並べています。スーパーやコンビニとは違う、意志のあるラインナップだからこそ、それを包む商品パッケージとお店の雰囲気となにより売豆紀さんと話し過ごす素敵な時間も含めて、YUTTEブランドの全てを体感できるお店になっているのです。
この視点は、ブランドエクステンションを考える時にも重要です。世の中には、製造や流通など、企業の都合で安易に商品ラインナップを広げてしまっている場合も少なくありません。しかし、ブランドの魅力を高めるラインナップを作るには、常にブランドの原点を確認する必要がある。そんな事をYUTTEが教えてくれました。
ちなみに、先日、YUTTEから荷物が届いたと母から電話がありました。
島根に一度も行ったことがなく、縁もゆかりもない母。もしかしたら、島根のものと知りながら食したのは初めてのことかもしれません。
「とってもおいしかった!これ、お取り寄せできるのかしら。」
まんまと売豆紀さんの術中にはまったようです(笑)。

>>博報堂ブランドデザインについて詳しくはこちら

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