260年の歴史を持つ富山の老舗和菓子店、五郎丸屋にて。今回取材にご協力いただいた五郎丸屋の渡邉克明さん(写真真ん中)、地元富山のデザイナー宮田裕美詠さん(写真右)、博報堂ブランドデザインの岡田庄生(写真左)。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第11回に登場するのは、新しい富山土産として注目の和菓子ブランド「T五(ティーゴ)」を生みだした、㈱五郎丸屋代表取締役の渡邉克明さん。創業宝暦2年(!)、260年の歴史を持つ老舗和菓子店の十六代目が、本ブランド誕生に込めた思いとは―。
今回の聞き手は、初登場、ブラたま編集長で博報堂ブランドデザインの岡田庄生です。T五のパッケージデザインも手がけた富山で活躍するデザイナーの宮田裕美詠さんにもご同席頂きました。

ゆったりとした時間を演出する、粋な和菓子「T五」。

「T五」は、富山産のお米を使用した薄い煎餅に、素材を混ぜた高級和三盆を独自の製法で塗り重ねた干菓子。口に入れると雪解けのようにすっと溶ける逸品です。カラフルで美しい色味、丸くてシンプルな佇まいが印象的なこのお菓子は、観光庁主催「世界にも通用する究極のお土産」にも選出されました。
実はこの「T五」、五郎丸屋創業当時からの銘菓「薄氷(うすごおり)」という干菓子をベースにつくられたもの。藩政時代には加賀藩主から幕府への献上菓子として、また明治以降は宮内省御用達の銘菓として、茶道界などを中心に推賞を得ています。

まるで宝石のような「T五」。桜(塩味)、抹茶(苦味)、ゆず(酸味)、胡麻(滋味)、和三盆(甘味)の五味五色が愉しめる。ほかにも、「紅茶」「加賀棒茶」(北陸限定)といったフレーバーも。

渡邉:岡田さん。まずはぜひ、「T五」を召し上がってください。

岡田:お言葉に甘えて早速いただきます。おすすめの食べ方はありますか。

渡邉:一口では食べられないので、手元で4分の1ぐらいに割ってください。柚子はそのまま食べていただいて。でも紅茶は、口の中でゆっくり溶かすようにしていただくと、口の中で味が変化します。

岡田:じゃあ、紅茶からいただきます。
(岡田、「T五」を口に含む)
あっ、二重構造になっているんですね。口の中でスーッと溶けていく。おおーっ、すごい。

渡邉:富山の氷筍水という湧き水で、二次発酵させた紅茶(ダージリン)を使ってるんですよ。最初は甘味、そのあとマスカットのようなフレーバーが来て、最後に紅茶の渋味がちょっと残ると思うんです。

岡田:この味と食感は食べてみないとわからないですね。すごくおいしいです。せっかくなので柚子もいただきます。

渡邉:柚子は皮ごと絞った柚子の果汁を使っているので、ちょっと甘酸っぱいでしょう。

岡田:本当だ。このお菓子をいただいていると、ゆったりとした気持ちになりますね。

渡邉:そうですね。一個一個手づくりなんです。漆塗りみたく、刷毛塗りしていくんですよ。1枚つくるのに丸二日くらいかかります。

岡田:なるほど。大量生産はできないですね。

渡邉:はい。「T五」は「薄氷」をベースにしていますが、和菓子のジャンルで言うと、和三盆糖で作られる干菓子です。お茶席が主体となるようなお菓子ですね。つくられたのは江戸時代中期の1752年。2月、3月ごろ北陸の雪が溶けてきて、田んぼや道に薄い氷が張った、その割れた風景をお菓子にうつしたのが「薄氷」なんです。

急病を機に、和菓子店の跡継ぎを決意―。当初は、「薄氷」を否定していた。

岡田:では、早速お話を伺いたいと思いますが、まずは渡邉さんのご経歴について教えてください。

渡邉:私は高校まで富山にいて、大学時代は東京で過ごしました。専門も、今と全く関係のないソフトウェア開発だったんです。
私、実は次男で末っ子なので、跡を継ぐことなんて全く考えていませんでした。

岡田:お兄さんが継ぐのかなという感じですよね。そんな渡邉さんが和菓子の世界に入るきっかけは何だったのでしょうか。

渡邉:大学3年のときに体調を崩して、救急車で運ばれたことです。深刻な事態だったので、多分自分はこのまま死ぬんだと感じたのですが、今死んだら自分が生きた証は何も残せないと強く思いました。そのときに初めて、自分が小さいときから見てきた和菓子の世界で、何か残したいと思ったんです。

岡田:そんなきっかけだったのですね。

渡邉:そうです。その後大学を卒業して、東京の和菓子店で3年ほど修業をしたあと、五郎丸屋に戻りました。
実は最初帰ってきたとき、「薄氷」を否定していたんです。

岡田:そうなんですか?

渡邉:はい。「薄氷」って、ふだん食べるお菓子ではないですよね。今の時代には合っていないと思ったんです。自分はもう少し日常的に食べられる和菓子をつくりたいと思っていたので、そのあたりの商品開発に力を入れていました。でも、色々試してもあまりぱっとしなかった。
そんな中、あるとき「季節の薄氷」という商品をつくったんです。例えば春だったら桜の花びら、夏場だったらホタルといった、季節ごとに「薄氷」のモチ―フを変えたものです。そしたら急にメディアに取り上げられて、大手のデパートさんでも取り扱ってもらえるようになりました。

岡田:なるほど。普通の和菓子の商品開発はなかなかうまくいかなくて、逆に「薄氷」を手がけたら世の中から注目が集まったんですね。

渡邉:そうなんです。やはりうちは独自の「薄氷」の技術を生かすべきなんだと気が付きました。そこからは、これまで「薄氷」を知らない、とくに若い世代に食べてもらうためにどうすればよいのかを考え始めたんです。

未来のスタンダードになって欲しい… 「T五」ネーミングの由来は「テイク・ファイブ」!

岡田:いよいよ「T五」誕生の物語ですね。

渡邉:はい。「T五」のきっかけは、お客様の声でした。「季節の薄氷」の販売で催事に立っていたときに、例えばピンク色の「桜」なら「これ、桜の味なの?」とか、水色のホタルなら「ラムネ味なの?」という風に声をかけられることが多かったんですね。そのときに、ああ、味まで変えるのもおもしろいなと思ったんです。これまでは見た目を変えているだけで、味は和三盆の味のままだったので。そこで、見た目ごとに味を変えれば、もっと世界観が広がるかなと思いました。

岡田:なるほど。

渡邉:そんな時、たまたま、県の補助事業でデザイナーさんと一緒に商品をつくるきっかけをいただいて。出会ったのが、「T五」のパッケージなどをデザインいただいた宮田さんなんです。

岡田:そうなのですね。
そこからお2人のプロジェクトが始まったわけですが…。まずは商品名の由来からお聞きしましょうか。これまでの和菓子とは一線を画すネーミングですよね。

渡邉:はい(笑)。名前を決めたのは、商品化ぎりぎりのタイミングでした。
実はその時期、寝ても覚めてもジャズしか聴いていなかったんですね。そして、名前を決める会議に行く車中で聞いていた曲が、『テイク・ファイブ』というジャズのスタンダードナンバーでした。
この曲の時代背景を考えると、それまで2拍子、4拍子という偶数拍子の曲しかなかったところに、『テイク・ファイブ』は初めて5拍子という変拍子でつくられた曲でした。でも、今となっては誰もが一度は聴いたことのある曲になっています。そういう後世にも続くお菓子になってほしいなという思いがあり、「T(テイク)五(ファイブ)」と名付けました。もちろんそれだけではなく、“テイストとトーンが5つある”という意味や、TOYAMAのTなども込めているんですけどね。

岡田:なるほど。デザイナーの宮田さんは、初めて名前を聞いた時はどんな気持ちでしたか。びっくりされたと思いますが…。

宮田:さすがだなぁと思いました。私は小さい頃から「薄氷」が大好きでしたし、渡邉社長のセンスも抜群だと思っていました。だから、商品名はつくり手がつくるのが一番良いと思っていたんです。

岡田:驚くというより、感心されたんですね。では逆に、渡邉さんは宮田さんと組んだことで、取り入れたことや新しい発見はありましたか。

渡邉:「置かれる場所」からイメージして商品をつくる、ということですね。宮田さんは常々「T五」がDEAN & DELUCAのようなセレクトショップに置かれるといいな、とおっしゃっていました。買う人はイメージしても、置かれる場所をイメージするという発想はなかったので新鮮でした。

宮田:感度のいい人が買ってくれるものにしたいと思っていたんです。

渡邉:あとは、宮田さんと組むことで、「薄氷」の意外な魅力を再認識できました。たとえば、「T五」は「薄氷」と同様緩衝材として綿を使っているんですが(※下写真参照)、もともとは現代風の緩衝材に変えようと思っていた。でも宮田さんが「この綿がいいんです」っておっしゃって、結局、綿を残すことにしたんですね。

岡田:たしかに、この綿があるだけで、中のお菓子がものすごく貴重なものに感じますね。
何かを新しく変えるというのはとてもパワーが要りますが、逆に言うと、変えない部分を決めるのも、大事な作業だと思います。第三者の視点によって初めて気付く良さもありますね。


封を空けると、緩衝材のふわふわの綿が入っている。

DEAN & DELUCA横川社長の推薦で得た、観光庁のおすみつき

岡田:そうして誕生した「T五」ですが、観光庁主催の「世界にも通用する究極のおみやげ」に選ばれたんですよね。

渡邉:はい。発売した年の年末に品評会があったのですが、世の中に広く知っていただく一番の転機でした。
審査員は10人いたのですが、偶然その中にDEAN & DELUCAの横川社長がいらしたんですね。実は当日、熱があって解熱剤を飲んでいたのですが、横川さんがブースにいらっしゃるときには、とにかくテンションを上げて商品の紹介をしました(笑)。

岡田:「お会いしたかったです」みたいな(笑)。

渡邉:そうそう。体力的に辛かったので、とにかく横川さんだけには後悔しないようにアピールしようと思って。
品評会では、当日に結果が発表されるんですね。10人の審査員が1人一品ずつ選んでいかれるんですけれど、最後の9人の時点では「T五」は選ばれていなかったんです。実は横川さんが審査員の10人目。無理そうだな、でもここで横川さんが言ってくれたら奇跡だよなぁと思っていたんです。そしたらほんとに「T五」を選んでくれた。鳥肌が立ちました。

岡田:それは本当にドラマみたいですね。

「T五」成功の今だからこそ、挑戦したい昔からの夢。 「日常の和菓子をつくりたい」

岡田:国の品評会でも選ばれて、新しいお客様も増えたことで、ご自身の「T五」に対する心境の変化はありましたか。

渡邉:和菓子の世界に「生涯一品」という言葉があるのですが、要は生きた証として自分の世代で一品残す、というものなんですね。「T五」をつくったときは、これが自分の「生涯一品」だという思いでした。ところが、最近はそこで満足するのは違うなと思いはじめました。次世代に何が残るかなんて今わからないですし、可能性がある限り様々な挑戦をし続けたいと思うようになったんです。今後は、T五ブランドも進化させたいと思いますが、「T五」と別に挑戦したい和菓子の世界があるんです。それは、「日常に必要な和菓子」。「T五」や薄氷は、なんだかんだいってもやはりお茶の席などの特別な時のものなので、日常的に食べる和菓子に挑戦しようと考えています。すでに具体的なイメージもあって、宮田さんにも相談し始めています。

岡田:なるほど。それって、最初に渡邉さんが五郎丸屋さんに戻られたときに感じてらした、もっと現代に合う日常の和菓子を作りたいという思いとリンクするんじゃないでしょうか。一周してもともとの思いに戻られた感じがします。

渡邉:うんうん、そうですね。今私も、お話ししながら、そう言えばそうだなと思いました(笑)。

岡田:でもそれは昔に戻った訳ではなく、「T五」を成功された今だからこそ出来るチャレンジかもしれないですね。新しい和菓子、とても楽しみにしています。
最後に、日本各地で新しいブランドを生み出そうと試行錯誤してらっしゃる方々にアドバイスをお願いできますか。

渡邉:「T五」のカタログで使っている写真や文章は、私が小さい頃から育ったこの街の風景や感じた言葉を綴っています。商品の名前も、自分が大好きなジャズから見つけました。新しいブランドを生み出す時には、何か新しいものを吸収していくのではなく、自分が今まで歩んできた人生の中にヒントが隠されていると思うので、それを見つめ直すことが大事ではないでしょうか。

岡田:今日は本当にいいお話が聞けました。ありがとうございました。

■ご参考
薄氷本舗 五朗丸屋 http://www.usugori.co.jp/

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「志」の視点で、「T五」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントを考えてみたいと思います。
【志】「生涯一品」の心構えでブランドと向き合えているか?
自分が生きた証を残したい。
渡邉さんの口調は、決して情熱的な感じではありません。どちらかといえば、穏やかに淡々と話すタイプです。だからこそ、「T五」に自分の人生をかけたんだ、という強い執念が伝わってきます。そんな渡邉さんの話しにどんどん引き込まれていくと同時に、私自身は日々の仕事と向き合うなかで「人生をかけた仕事にするんだ」という強い気持ちでやっていたのか、とハッとさせられました。
とはいえ、渡邉さんのブランド作りには、強い決意はありますが、悲壮感はありません。
取材前に少し時間があったので、五朗丸屋がある石動(いするぎ)の街を車で案内して頂きました。「ここは子どもの頃毎週のようにバス釣りに来ていたんですよ」「この景色をカタログの写真に使ったんです」「あの奥には秘境のような綺麗な場所があるんですよ」。ジャズが流れる車で案内された場所たちは、どれも今の「T五」ブランドにつながる大事な要素でした。
人が覚悟を決めた時、その答えは意外と近くにあるのかもしれません。
最先端の技術やブランディングのトレンドに踊らされることなく、受け継がれてきたものと今自分が持っているものを見つめ直すこと。ブランド作りの大きなヒントを頂いた一日でした。

>>博報堂ブランドデザインについて詳しくはこちら

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