キャリジョ研ではこれまで「働く女性」をテーマに、トレンドや調査データをもとに女性たちのインサイトを探してきました。しかし、世の中にはもっともっと女性のことを知っている人がいるはず。更に女性について学ぶために、その道のプロたちに話を伺うことにしました。
お目当ての相手は、女性たちのハートにささりまくる人気コンテンツをつくっている素敵なクリエーターやプロデューサーたち。これまでの紆余曲折から、業界の裏話、秘伝のワザまで。根ほり葉ほり聞きだすことで、女性たちの気持ち、本音、インサイトを学ばせていただきます。最後まで読んでいただくことで、これからのマーケティングやプランニング、もしかしたら人生観にまで、ヒントを感じていただければ幸いです。

記念すべき第一回のゲストは、『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス)でデビュー以来、テレビや書籍などを通し、ユニークな視点で社会や女性の生態に切り込んできたイラストエッセイストの犬山紙子さん。デビューまでの生い立ちや、ブログや著作の作り方、そして犬山さんの作品の根底にある想いについて伺いました。

大ヒットしたブログでは、どんなネタがSNSで反響があるかを検証しながら執筆。 執筆の背景にあるのは悩みを共有したいという気持ち。女性の応援ではなく、共有。

瀧川:今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。私も文章を書くのが好きで、以前からファンとして犬山さんの作品を愛読していました。この連載企画を始めるにあたって、ぜひ初回は犬山さんにお話を伺いたいと思っていたので、すごく嬉しいです!

犬山:そう言っていただけると私も嬉しいです。ありがとうございます!

瀧川:犬山さんと言えば、象徴的なのが2011年のデビュー作でもある『負け美女』です。人気ブログがもとになったご著書なわけですが、ブログを始めたきっかけは何だったんですか。

犬山:もともと仙台の出版社で編集者をしていたんですが、母の介護のために辞めることになって。家でできる仕事は何かないかなと考えていたんですね。最初は漫画家になりたくて、作品の持ち込みなんかもしていたんです。でも、担当の方が付くまではいくんですが、なかなかその先には進めなくて。1コマとか4コマは描けても16ページものを作り込むのは大変なんですよね。自分には漫画の才能がないんだろうな、と落ち込んでいたところに、友人が勧めてくれたのがブログだったんです。イラストも文章も好きだったし、実際に始めてみたら楽しくてしょうがなくて、やるんだったらこれしかないなと思った。それが2009年位です。そもそも仕事探しからスタートしているので、最初からちゃんと人に読まれるブログにしたいとは思っていました。当時は今ほどイラストと文章で読ませるブログというのもなかったですし。これを私なりの仕事にしていきたい、という意識で始めたんです。

瀧川:最初から読み手を意識して書かれていたのですね。ターゲットは女性を想定されていたのですか?

犬山:いえ、特にそういうわけではありません。どうやったら読者に喜んでもらえるんだろうと考えていたところ、男女のネタを書いたらツイッターで一気にバズって。それで、恋愛ものは反響がある、ということがわかったんです。基本的には自分が興味を持っているテーマの一つに恋愛があり、その反応がよかった。それで、周囲にいた美女の、しかもうまくいっている恋愛ではなくて、ちょっと残念な恋愛エピソードについて書いていったんです。

瀧川:女性についてというよりは、恋愛ネタの反応がよかったということなのですね。

犬山:そうですね。その後書いたものも女性にまつわるテーマがほとんどですが、エッセイストとして仕事をする以上、必然的に自分について書くことになります。だからその時々の興味のあることや、自分の状況に何かしらリンクするものが対象になる。いまだったら妊娠や子育てについてが自然とテーマになりやすいですね。

瀧川:同じような境遇だったり、悩みを抱えていたりする読者を応援するといったスタンスなのでしょうか?

犬山:応援というよりは、一緒に悩みを共有したいという気持ちかもしれません。いまの世の中って、女性が働きながら生きていくうえでは、環境面、制度面でどうしたって生きづらさが出てくると思うんです。それは私も感じていることなので、そこの部分を共有できたらいいな、という想いを持って書いていますし、アンケートをとるときも「悩みを教えてください」と呼びかけています。

秘訣は、日常で感じる“モヤモヤ”に名前を付けること。 違和感の正体がわかれば、気持ちを整理しやすくなるはず

瀧川:『負け美女』もそうですが、最近のご著書では『言ってはいけないクソバイス』というタイトルが印象的です。ほかにも『SNS盛』『地雷女子』とか、「痛男!(イタメン)」という連載も。どれもインパクトがありますね。

犬山:私の書くものって、タイトルだけ見ると恥ずかしくて書店でレジに持っていきにくいんじゃないかな(笑)。でもいつも気を付けているのは、キャッチーで、ぱっと見ただけで意味がわかるような、新しい言葉を考えること。あと、何だか最近モヤモヤを感じるけど、なぜかはわからないことってよくあると思うんですが、そういう気持ちや現象の正体を見つけて、名前を付けること。龍波ユカリさんとの共著の『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』なんかはその最たる例かもしれません。女性同士で時折起こる、「自分の方が幸せであることをアピールし、小さな優越感を感じようとする」ことに対して、龍波さんが“それはマウンティングだ”と説明した。女性なら誰にも覚えがあるような現象の正体がわかったことで、読者の方も、それまで自分の中だけで感じていた違和感を整理しやすくなったんじゃないかなと思います。

瀧川:確かにそうかもしれないですね。ちなみに『クソバイス』は、その名の通り、クソみたいなアドバイスということで(笑)。求めてもいないのに、上から目線で一方的にされるアドバイスのことですね。

犬山:そうです。たとえば「仕事ばかりしてると婚期を逃すよ」とか「若いんだからもっと積極的にならないと」とか、一見相手のことを思って言っているようでいて、実はその人の持論を勝手に押し付けているだけという。言っている方は気持ちいいかもしれないけど、言われた方は気分が悪い。私自身、これまでクソバイスを受けてしんどい思いを多々してきましたし、実際にクソバイスに悩んでいる人も結構多いんじゃないかと思ったんです。でも実際、「こういうアドバイスされるのは自分がダメだからだ」とか、「イライラしてしまうのは自分の心が狭いからだ」なんて思ってしまうまじめな人が本当に多い。いやいや、単にそれはクソバイスなんだよと明言することで、「ああ、別に真に受けることはないんだ」「受け流してもいいんだ」と、ちょっと安心してもらえたんじゃないかと思います。

瀧川:実は私、犬山さんがSNSでクソバイスの例を募集されていたときに、私もネタを投稿して、書籍に採用されたんですよ。個人的な話で恐縮ですが(笑)。

犬山:そうだったんですか(笑)!このネタは編集者とも盛り上がりましたよ(笑)。立派なクソバイスでしたね。

(…どんなクソバイスだったかは、著書のP114をご覧ください。)

⇒後編「女を定義するなかれ。まずは腹を割って本音を探るべし!」に続く(後日公開)

犬山紙子(いぬやま・かみこ)

1981年生まれ。イラストエッセイスト。美人なのになぜか恋愛がうまくいかない人たちの生態を綴ったエッセイ『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。雑誌やWEBでの連載のほか、ラジオ、テレビのコメンテーターとして活躍。『SNS盛』(学研マーケティング)、『地雷手帖 嫌われ女子50の秘密』(文藝春秋)、『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)、『悲しきオンナたちの口癖』(ぶんか社)などの著書がある。

瀧川千智(たきがわ・ちさと)
博報堂 キャリジョ研

2005年博報堂入社。マーケティング職を8年経験したのち、博報堂DYメディアパートナーズの雑誌局へ異動。女性プロジェクト「キャリジョ研」のメンバー。好きな科目は日本史、好きな食べ物は漬け物、好きなニュースは芸能情報。