大学駅伝3冠と箱根駅伝3連覇を目指すリーダーと、博報堂ブランドデザイン若者研リーダーの対談「力を引き出す~『ゆとり世代』の伸ばし方」が、12月20日に講談社より上梓されました。分野は違いますが、若者と深く向き合う二人が「ゆとり世代」について語り尽くしています。若者研究所の原田リーダーが、本書籍について語りました。

-出版に至る経緯を教えてください。

原晋監督と初めてお会いしたのは、ある出版社が主催した懇親会でした。その時、原監督と話しているととてもしっくりと会話がかみ合うと感じました。それは、スポーツとビジネス、活動の場は違っていても、若者と向き合う二人の姿勢が同じだからだと思います。この話を講談社の書籍編集の方にしたら、二人の対談本を企画してみたら面白いんじゃないですかと仰っていただき、それで原監督に出版のオファーをさせていただいたのです。
対談が行われた場所は、菅平と妙高高原の合宿所です。4日間合宿に密着させてもらい、練習の合間にじっくりと対談をさせていただきました。実際に長時間お話ししてみると、若者に対する分析、どう接すれば彼らが伸びるのか、二人の認識が共通する点がとても多くて驚きました。

-若者の力を引き出すポイントとは?

一つめは「『基本』をしっかり守らせることが大事」ということです。
強豪校ではなかった青学陸上競技部を箱根駅伝優勝まで導いたのは、「特効薬のような特殊な取り組み」ではなく「基本ルールを徹底させる」ことでした。「外出する時は玄関の自分の名札をひっくり返す」とか「朝食は全員一緒に食べてお互いのコンディションを感じ合う」とか、基本となるルールはしっかり守り、「それ以外は自由でいい」と指導しているそうです。
この基本的な部分を守ることは結構たいへんで、意外と体育会系の組織でもそこに抜け漏れがあるらしいのです。原監督は、「敬語の使い方を細かく指導する」とか「先輩が座るまで座るな」とかそんなことはどうでもいい、いろいろと指導を分散させるのではなくて、求める「基本」に部員の意識を集中させようとしています。基礎的な部分はしっかり守らせて、そこ以外は若者が委縮しないように、自由度を高めるというやり方です。
僕もまったく同じことを考えていて、若者研に参加している学生に対しても、遅刻したり、課題提出が遅れたりすると叱ります。学生の「生の感覚」は活かしてほしいのですが、ビジネスの場である以上、基本ルールはちゃんと守ってほしいと考えています。一方で、きつく叱った子でも、夜の飲み会では僕に気軽に声をかけられる関係作りも大事にしています。
得意先やメディアの方が若者研を見学に来られると驚かれますね。厳しい部分とゆるい部分が両立していると。若者と接する時にそのバランスはとても大事だと考えています。全部ガチガチにやるといまの子たちはハレーションを起こしますし、友達感覚だけで接するとゆるくなる。基本部分は締めて、締めながらも自由にやらせる、そのバランスが大事だと思います。

二つめは「自分の言葉で表現することを大事にさせる」です。
原監督は、自分の言葉で表現することができる選手をスカウトするし、そうできるように部員たちを育成することを重視しているといいます。体育会系というと、「無口で黙々と励むのがいい選手」というイメージがありますがその逆ですね。
それにはふたつの理由があって、ひとつは「自分の言葉で表現すること」は「自分で考えること」に直結するからです。青学の陸上競技部は、監督が全部を指示する強権的な組織ではなく、コンセプトを提示してそれを個々の部員が解釈しながら強くなっていく組織だといいます。そこでは、「無口に励む」ことよりも「自分で考え、それを表現する」ことが、部員も組織も伸びていく条件となるそうです。そしてふたつめは、社会人になっても通用するコミュニケーション能力を身につけてもらいたいからだといいます。大学の運動部も人生の通過点であり、圧倒的に長い社会人になってからの準備をさせるのも指導者の務めであると考えているとのことです。
合宿でもその姿勢は徹底していて、部員にプレゼンテーションをたくさんさせています。「朝の一言スピーチ」や「目標管理ミーティング」など、話す機会を大事にしている印象でした。若者研も同じ考えで、ファインディングスを出すことはもちろん大切ですが、博報堂の組織である限りはプレゼンテーションをおこない、相手に納得してもらう能力を重視しています。ここも両組織の共通点だと思いました。

三つめは「評価軸を多く持つ」です。
原監督は、速い選手だからといって特別扱いはしません。掃除のうまい選手、場を盛り上げることがうまい選手は、速く走れる選手と同じように評価されるべきだと考えています。それぞれのキャラクターを評価して伸ばしていく。その考え方は、いまの若者に適していて、以前は競争を煽った方が良い時代もありましたが、いまは「だれが一番」だとか押し付けることは通じないと思います。
若者研でも、宿題にうまく対応できない学生には、ほかの評価軸を探すようにしています。方向を絞られるとなかなか乗ってこない子でも、評価軸に多様性があるとわかれば、自分に近い評価軸のところで頑張るようになるからです。

-どんな人に読んでもらいたいですか?

30代から50代の企業人、組織人でしょうか。やはり若い人に関わる立場にある人。人事セクション以外でも部下のトレーナーをやっている方などです。また、若者を対象とした企画を考える上でもヒントはたくさん詰まっているような気がします。
アカデミックに若者を分析している本ではありません。スポーツという実践の場で大きな実績をあげている原監督の若者論、その伸ばし方を知ることができます。どうぞご期待ください。

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー
原田 曜平(はらだ・ようへい)

博報堂入社後、ストラテジックプラニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。大学生や20代の社会人と共に、若者の消費行動について調査・分析し、次世代に流行るものをいち早く紹介するほか、マーケッターの立ち場から現代社会を読み解く。著書に「近頃の若者はなぜダメなのか」(光文社新書)、「さとり世代」(角川oneテーマ21)、「ヤンキー経済」(幻冬舎新書)、「パリピ経済」(新潮新書)、「ママっ子男子とバブルママ」(PHP新書)などがある。TV出演も多数。