モデルや料理研究家のインスタでも人気のノンカフェイン桑の葉茶、「さぬきマルベリーティー」。左から、今回取材にご協力いただいた西森丈士さん、博報堂ブランドデザインの加藤由佳。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第6回に登場するのは、香川県産桑の葉茶ブランド「さぬきマルベリーティー」を提供する、有限会社西森園代表取締役の西森丈士さん。香川県で代々日本茶専門店を営む家系に生まれ育った西森さんの、本ブランド誕生に込めた想いや誕生の背景とは―。
今回の聞き手は、会社の休憩時間にほっと一息のお茶が欠かせない博報堂ブランドデザインの加藤由佳です。

生活様式が多様化し、需要が少なくなっていた日本茶への危機感。 そんな時出会ったのが、「さぬき市の桑の葉茶」だった。

「さぬきマルベリーティー」は、香川県の日本茶専門店「西森園」が提供する桑の葉茶のブランド。「桑」を意味するマルベリーの葉を使った地元生産者の「おばちゃん」の丁寧な手作業でつくられるこのお茶は、水色鮮やかで、まろやかな甘みとやさしい香りが特徴です。インターネット通販のほか、全国の百貨店・雑貨店等で販売されています。モデルや料理研究家のインスタグラム等でも紹介され、20〜30代の女性を中心に人気を博しています。


さぬきマルベリーティーは、「おばちゃん」のキュートなイラストが特徴。ノーマルの桑の葉茶のほか、レモンフレーバー・玄米フレーバーの3種類ある。

加藤:さぬきマルベリーティーは、会社の同僚に教えてもらって知りました。「おばちゃん」のイラストが印象的ですよね。西森園さんはもともと老舗の日本茶専門店ということですが、本ブランドが生まれた背景を教えてください。

西森:西森園は、祖父の代から始めて私で3代目になります。これまで、自茶園での日本茶の栽培や選定、商品企画・販売を行ってきました。
私が継いでしばらく経つと、バブルの崩壊による経済の低迷、生活様式の多様化によって、お茶の消費が右肩下がりになっていったんですね。このままずっと同じ商売をしていくのは難しいのではという危機感を覚えました。
そこで、我々がこれまでターゲットとしてこなかった、急須も持っていないような若い方向けのオリジナルのお茶が作れないかと、原材料を探し始めたんです。地場産に絞って探していたときに、ちょうど3年ぐらい前ですね、香川県東部さぬき市の桑の葉茶にたどり着きました。
生産者さんに会いに行ったら、さぬき市の女性部というおばちゃんの団体でした。つくり方を見ると、すべて手摘みの手切りなんです。おばちゃんが枝葉を切って、それをトラックに載せて体育館みたいなところまで運んで、一斉に一枚一枚はさみで切る。本当に全部手作業のお茶だったんですよ。

加藤:それはすごいですね。

西森:そうなんです。あと、通常桑の葉茶というと天日干しの商品が多いんですが、このお茶は日本茶製法でつくっているので、緑がすごくきれいなんです。なおかつ味がまろやかになるのと、甘味がすごく出るんですね。

加藤:なるほど、製法によってずいぶん味が違うのですね。

西森:はい。しかもノンカフェイン。女性に安心して楽しんでもらえるお茶になるのではと思い、ぜひうちで商品化させてくださいと頼みこみました。

地域に根付いた人間がどのように作っているか。 お茶に「つくり手」という新しい判断基準を

加藤:おばちゃんのパッケージが目をひきますが、パッケージやWEBサイト、ツール等でおばちゃんを全面的に起用されたのはどういう経緯だったのですか。

西森:この商品は、最初、「さぬきの桑茶」という商品名で売り出したんですね。パッケージもお茶によくあるクラフト地のもので。中身は今と同じでしたが、全く受けませんでした(笑)。
どうやったら中身に興味を持ってもらえるかと四苦八苦していたのですが、あるとき、畑で生産者のおばちゃんがカラフルな格好をしているのが目について。デザイナーがそのイラストを描いてくれたとき、「おばちゃん」をシンボルにブランドづくりをしていこうと閃きました。
というのも、お茶の一番のキーはやっぱり原材料で、それには「地域性」は重要なポイントなんですが、たいていの製品は「その地域で出来ました」ということを伝えて終わりなんですね。でも、実は「その地域に根付いた人間がどのようにつくっているか」ということまでを伝えて初めて、原材料に説得性が出てくる。これまでの「さぬきの桑茶」に足りなかった部分はそこだと思いました。
そこでパッケージに大きくおばちゃんのイラストを描き、後ろには写真でおばちゃんの活動を紹介することにしました。このパッケージ、実は通常であれば作るはずの印刷の版を作っていないのですが、それは後ろの写真を定期的に変えるためなんです。買ってくれている人に、そのときそのときのリアルなおばちゃんの活動を紹介できたらと思っているんですね。

加藤:おもしろいですね。

西森:「今年の収穫時期は、雨が多かったです」といった、その時期その時期の生産の様子を伝えます。
それは、お茶って当たり前に同じものがあるように思われがちなのですが、やっぱり農作物なので、今年のものも去年のものもそれぞれ違うんですね。生産や収穫に携わっているおばちゃんの努力もさまざまですから、そういったことを少しでも表現できたらなと思っているんです。

加藤:素敵ですね。お茶を選ぶ基準って、宇治茶とか烏龍茶といった茶葉の種類だったり、産地だったりがメインだったと思うんです。そういう選択肢の中で、「つくる人」という新しい選択肢を提示しているんですね。おばちゃんたちの反応はいかがでしたか。自分が絵になったり、写真になっているのは、喜ばれると思いますが。

西森:通常のお茶のパッケージとはあまりに違い過ぎて、最初は驚いていましたね。今は何も言わないですが、喜んでくれているようです。

加藤:雑誌やインスタグラムでも多数取り上げられていますが、やはり、おばちゃんのイラストがフォトジェニックということも大きいのでしょうね。

西森:そうですね。イラストがかわいくて手に取って、「さぬき」と書いているので、ああ、香川県の桑の葉茶だと気づく。そして、こういうおばちゃんたちがこういうふうにつくっているなら安心だから一度飲んでみようかと、お試しいただくケースが多いですね。そして、おいしいからとまた買っていただく。今、リピート率35%以上なんです。
でもね、このパッケージは入口に過ぎないと思っています。表現の一つではあるんでしょうけど、そんな製品は他にもいっぱいあると思うんですね。もう一度飲みたいと思ってもらっているのは最終的には中身の力。おばちゃんがつくっている、その原材料の力なんだと思います。


印刷の版を作っていないという商品パッケージ(裏面)。

製品を売ることで、地域の雇用を生み出す―。大切なのは、つくり手と売り手が信頼し合い、認め合うこと。

加藤:さぬきマルベリーティーブランドを育てるために、大切にされていることは何ですか。

西森:実は、おととしに始めたマルベリーティーの売上が、毎年倍で推移しているんですね。桑の葉の生産量もその分増えているのですが、手作業の多い桑茶の売上増加は地域の雇用増加に繋がっています。一昨年が25人、去年が30人、今年45人ぐらいと関わってくれるおばちゃんが増えているんですね。つまり、売れる手摘みの桑茶を作ることは、地域の雇用を生み出すということ。その責任感を強く持っていますね。
また、原材料を生産者にとってちゃんと収益が出るような安定した価格で買い取る約束をしています。生産者の所得が減少している中、農業に新しい付加価値を見出していかなければと思っていて。作り手が安心して自信のあるものづくりができ、次世代に繋がる環境を全部揃えた上で、この事業を広げていきたいですね。

加藤:お話を聞いていると、西森さん自身の、おばちゃんに対するリスペクトを感じますね。

西森:最初は、おばちゃん側も、本当にどれだけ売ってくれるんだろうかといった思いがあったと思うんですね。
でも、そこは、嘘をつかず、約束した値段でずっと買い続けて、かつお客さんの反応を還元し続けることで、信用してもらうしかないんですね。
今年、おかげさまで県から賞をもらいました。従来であれば商品におすみつきがつくとかそういう意味もあるんでしょうけど、僕にとっては「一緒にやってきて、これだけの評価をしてもらえたね」とおばちゃんたちと確かめ合う意味合いがあったんです。互いの努力が認められたねと、一緒に喜ぶためのものだったんですね。僕はこの「マルベリーティー」を自分だけのものと思ったことは一度もありません。

加藤:わぁ、素敵です。

西森:先日、おばちゃんが集まる会合で、今、年間400~500キロぐらいの生産量なのに「2年以内に1トンにします」って言ったんですよ。それは「1トン売れるような状態に持っていきます」という売上拡大の意思表示だったんですが、おばちゃんたちはそうとは気が付かずに。「あら、今の倍つくるんか」と驚いていた(笑)。でも、「ほな、頑張らないかんな」とおばちゃんが口ぐちに言ってくれました。一体感が高まってきたことをすごくうれしく感じましたし、同時に僕こそ頑張らなきゃだめだと、気がひきしまりましたね。

自分の子ども世代が“守れる”製品を・・・ 老舗日本茶専門店3代目の挑戦は続く。

加藤:さぬきマルベリーティーの今後の展望はいかがですか。

西森:フレーバーの展開を増やしたいと思っています。アップルやオレンジといったフルーツ系のもの。それぞれおばちゃんのイラストももうでき上がっているんですよ(笑)。あとは、香川産の黒豆などをブレンドした和のフレーバー も作りたいですね。他にも、お店を東京に出すという夢もあります。マルベリーティーだけでなく、この桑の葉を食べさせたにわとりの卵を使ったスィーツ等を提供する、カフェ併設のショップです。

加藤:それはまた話題になりそうですね。ぜひ実現していただきたいです。

西森:知り合いの社長が「1代目が創り、2代目が守る。3代目が創り、4代目は守る。100年続く経営とはその繰り返しなんだ」と言っていたのですが、まさにうちもそうなんですね。祖父が新しいことをして、2代目の父が守り、3代目の僕が今挑戦的なことをしている。うちには息子が2人いるのですが、彼らが守れるものを今どれだけ創れるかなと思っています。これからも、生産者さんもお客さんも喜んでいただけるような提案を続けていきたいですね。

加藤:今日は本当にありがとうございました。

■ご参考■
さぬきマルベリーティー http://www.nishimorien.com/sanuki-mulberry.html

ブラたまEYE ~編集後記~

博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「属」の視点で、「さぬきマルベリーティー」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントをご紹介したいと思います。

【属】絆の見える化が、安心を生み、ファンをつくる。

お茶を選ぶ基準は、今まで茶葉の種類や産地がメインでしたが、さぬきマルベリーティーは、作り手の「おばちゃん」をシンボルキャラクターにしたことで、「作っている人たち」で選ぶ、という新しい選択基準を生みだしました。これは、情報量がたくさんありすぎる現代社会において、「ブランドは何で形成されるのか」のヒントになるように思います。
この商品が選ばれる理由として西森さんはこのように言っていました。「こういうおばちゃんたちが、こういうふうにつくっているなら安心だから一度飲んでみようかな、と試して頂くケースが多い。」「実はその地域に根付いた人間がどのようにつくっているかということまでを伝えて初めて、原材料に説得性がでてくる。」
商品の原材料について伝えるとき、私たちはつい「無添加」「産地」などが安全であるという印だと考えてしまいがちです。しかし、おばちゃんのイラストを見るだけで「作り手、土地、工程」の3つを受け手が一瞬でイメージできたことが、一番の安心づくりになったのかもしれません。
さらにこのイラストが作り手のおばちゃんたちのモチベーションになり、よりよいもの作りに繋がり、またそれが消費者に伝わってファンを生む、という好循環を生んでいます。これは作り手と売り手の日ごろからの信頼と互いのリスペクトがなければ実現が難しいこと。生産者コミュニティ(属)の強い絆をブランドの軸にできたことが、高いリピート率につながっているのではないでしょうか。

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★バックナンバー★
ブランドたまご 第1回 / おめかし八ッ橋 「nikiniki」
ブランドたまご 第2回 / 擦る、香る。五感マッチ 「hibi」
ブランドたまご 第3回 / ひと口食べればもう家族「トラ男米」
ブランドたまご 第4回 / 朝食にLOVE&PEACEを。「HAPPY NUTS DAY」
ブランドたまご 第5回 / 二百年の、技が咲く。「フラワーボール」