玉川堂青山店の前にて。左から、今回取材にご協力いただいた株式会社玉川堂の潮真理絵さん、原朗子さん、博報堂ブランドデザインの阿部成美。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第五回に登場するのは若き女性鎚起銅器(ついきどうき)職人の原朗子さん、潮真理絵さん。彼女たちが手掛けた「フラワーボール」誕生の背景や想いとは――。
今回の聞き手は博報堂ブランドデザインの阿部成美。同世代の女性3人、女子会のような形で対談は始まりました。

同世代女性が気軽に「かわいい!」と手に取れるものを…  鎚起銅器の新提案「フラワーボール」

お二人が勤める「玉川堂(ぎょくせんどう)」は、新潟県燕市を拠点に200年にわたり銅器づくり一筋に歩んできた、老舗企業。1枚の銅板を鎚でたたき起こして銅器を製作する「鎚起銅器」の伝統技術を保持しています。さらに、銅に多彩な着色をほどこす技術によって豊かな表現を実現した銅器は、その高い品質が世界に認められ、注目されています。また、現在の社長(玉川堂七代目)の叔父にあたる玉川宣夫さんは「木目金」という技法で人間国宝に認定されており、その技術を受け継ぐ職人も育っています。
鎚起銅器の制作では、銅をたたいて伸ばすのではなく、叩きながら縮めていきます。縮めるのも丸めるのも職人の勘ひとつ。さらに叩いて硬くなった銅を火炉で熱して柔らかくする「焼き鈍し(やきなまし)」の行程を繰り返し、器状に成形していきます。1枚の銅板から、本体と注ぎ口に継ぎ目のない「口打出」という湯沸の製作には、熟練の職人でも約1週間もの時間がかかるそうです。一人前になるには15〜20年かかるのだとか。
「フラワーボール」は、お二人がデザイン・開発した鎚起銅器の1輪生(いちりんいけ)ですが、これまでの玉川堂の鎚起銅器と少し装いの違う、斬新な製品です。


お二人が制作した「フラワーボール」。色、模様の異なる3種類が販売されている。

阿部:鎚起銅器は渋みのある重厚さが特徴だと思うのですが、最初にこのフラワーボールを目にしたときは本当に直感的に「かわいい!」と思いました。

原:ありがとうございます!伝統工芸というと、すごいね、素晴らしいね、などと思ってもらえる一方で、手が届きにくい印象があるのも事実だと思います。まさに私たち世代の女性に「かわいい」と思って気軽に手に取ってもらえるようなものを目指していたので、そう言っていただけると嬉しいです。

阿部:お二人は、どのような経緯で玉川堂に入られたのですか?

原:私は小さなころから燕市で育ちました。もともと職人になりたくて。金物の町なので、自分も製造に携わりたかったんです。高校卒業後、デザイン系の専門学校に進み、玉川堂に就職しました。

潮:私は関東出身で。美大で金工を学びました。玉川堂の技術に惹かれて入社しましたね。

阿部:バックグラウンドがまったく異なっていらっしゃるんですね。そもそも、お二人で「フラワーボール」を手掛けられたきっかけは何だったんですか?

潮:フランクフルトで開催される国際見本市に出展するという企画が社内であり、2015年の見本市へは3人の女性職人で挑戦することになったんです。産休で1人抜けたため、途中からは私たち2人で取り組みました。条件は「鎚起銅器であること」と「女性目線で考えること」。明確なお題がなくてほぼ自由だった分、かえって頭を悩まされました(苦笑)。

原:先ほども話しましたが、3人で話していて共通していたのが、私たち世代が目にして「かわいい、ほしい」と思えるものをつくりたいということです。もともと玉川堂の製品は、昔ながらの日本家屋に合うものや立派な家の床の間に飾るような大きなものが多く、今の女性のライフスタイルに合うものがなかなかありませんでした。「自分だったらどんな商品が欲しいか」というところから発想していき、若い女性がふだんの生活に取り入れられるものに絞っていろいろとアイデアを出し合いました。その結果、小ぶりな花瓶がいいのでは?と思ったんです。アパートの部屋にもなじむような、ベッドサイドやテーブル、小窓などに1輪だけ花を飾れるものがあれば素敵なんじゃないかと。たとえ花を挿さなくても、それだけでインテリアとして使えるようなデザインにもしたかった。あと、花を生けたときのバランスや、両手で持ったときに両掌におさまり、ほっこりするような“かわいらしい”サイズ感にもこだわりました。

潮:あと、買ってくれたお客さんと、今後も繋がりを持てるような製品にしたいと思っていました。というのも、たとえば湯沸やぐい呑だと、1つ購入したらなかなか続けて買うものではないですよね。フラワーボールは3種類作ったのですが、集めたくなるようにと思ったからなんです。1つでも、並べてもかわいいように。

阿部:わたしもブランディングの仕事をしていますが、魅力的な商品をただ購入するのではなくいかに気持ちのつながり、絆をつくるか、に挑戦しているのですごく共感します。鎚起銅器だからこそ出来るものを、という思いもありましたか?

原:はい、それはありました。銅には抗菌作用があって水が腐りにくいので、花も長持ちします。それから、金鎚で銅板を打ち付けることで「鎚目」という模様を入れていくのですが、直線的な形より丸みを帯びた形のほうがその模様が映えるんです。それもあって丸い形に決めました。

伝統工芸×デザインの融合  若き女性職人、二人三脚の挑戦

阿部:コンセプトが決まったら、試作品を作る段階ですね。

原:はい。でもなかなか形が決まらなくて。5~6月からはじめて、年内にほぼできていないといけなかったのに、結局この形になったのは12月くらいでぎりぎりでした(笑)。
鎚起銅器は、試作するのにかなりの時間がかります。つくるのは本当に大変だし、時間をかけて作っても、やっぱりこれは違う、の繰り返し。絵で描いて良くても実際に作ってみると、あれ?ちがうな?ということになる。それからまた別の試作を作るにも時間がかかりますし、これが完成しなかったら来年に持ち越すのかなと日々思っていましたね。毎日作業が終わってから工場に残って必死で試作品を作っていました。

潮:私は入社してまもないタイミングだったので、まだ製品をつくることは出来なくて。デザインを担当していました。これなら制作できると思って描いたものが、できないよと言われることも多々ありましたね。

原:2人でやってみて、すごく勉強になりましたね。私はこの企画をやったときは4年目くらいで。鎚起銅器はこうでなきゃ、って頭がかちかちになっていたところもあったんですね。彼女が来ていろいろとアイデアを出してくれて。私の頭だと考えつかないアイデアが、刺激になってよかったです。

阿部:伝統ってとっても大事で、でも繰り返しやっていると次のステージに進むときに難しいこともあるんだろうなと想像します。そこは潮さんが新しいアイデアを持ち込んでくれたんですね。

潮:たとえば、この口の形(下記写真参照)、これまでの玉川堂の製品だと、円のままのものが一番多いんです。でもこの製品は、鎚目に合わせた形にして、ちょっと斜めに段をつけて形を強調してはどうですか?と聞いてみた。そしたらそれは時間がかかる、製品の価格にはねかえるぞと言われて。それでもそっちのほうがいいなと思ってお願いしました。価格を気にしてものをつくるということをやったことがなかったので…。また、自分の作品だったらどれだけ細かくても大丈夫ですけれど、製品となるとみんなが作れるものでないといけない。生産を見越して考えるという点が、勉強になりました。

阿部:老舗企業の中で新しいものをつくるのは勇気がいると思います。プレッシャーはありましたか?

原:私はありました。「フラワーボール」の制作段階では、「玉川堂の作風から離れすぎているのではないか」とか「本当に買ってくれる人はいるのか」などとアドバイスを受けることもあって…。いろいろと悩みましたね。

潮:私はなかったです(笑)。もっと新しいものをつくりたいという気持ちがずっとあったので、これはいい機会だと思って言いたいことをいろいろ言っていました。

こだわったという、「フラワーボール」の口の形。円ではなく、五角形や星型に挑戦している。

伝統の枠組みの中で、革新を起こす- 「自分の思いを信じて、まずは形に」

阿部:お客さまの反応はいかがですか?

原:フラワーボールを購入するために、遠方から燕市の本店を訪ねてくる人がいるのは嬉しいですね。「これに一目ぼれしたんですよ」と買ってくださったり、「今度店を出すので飾ります」とおっしゃって笑顔で帰られたこともありました。最初にこちらが考えていたコンセプト通りの用途で使っていただけるのが、ああよかったなあと思います。

阿部:社内の反応も変わったのではないですか?

原:そうですね。実際に買ってくれるお客さまがいるということで、社内でもある程度は認められた部分もあるのかなと思えて、安心しています。

潮:誰も何も言わなくなりましたね(笑)。

阿部:今回のお二人の挑戦が、玉川堂の社員のみなさまの中でも新しい刺激になったのかもしれませんね。これからのご活躍がますます期待されるお二人ですが、今後の展望を聞かせてください。

原:鎚起銅器の技術や文化は何百年もの間大切に守られて続けてきたものです。その歴史があるからこそ、私たちも新しいことに挑戦ができる。今後も伝統の枠組みの中で、古きよき部分と新しい感性を生かす部分とを共存させていけたらいいなと思っています。

潮:私はデザインできる職人になりたいです。ゼロからは難しいかもしれないけれど、いまある型をちょっとだけ加工してみたりして、新しいものをつくっていきたい。応用できたらいいなと思います。

阿部:最後に今後製品開発にチャレンジする後輩や、何か新しいブランドを開発しようと取り組まれている方々にメッセージはありますか?

原:周りからいろいろと言われたとしても、とりあえず挑戦してみてほしいと思います。いいと思ったことを信じてみて、やってみればいい。私もずいぶん「らしさ」に囚われ悩んだのですが、結果的には良かったので。

潮:私もそう思います。会社のきまりは多少無視してでも(笑)。大変ですが、一部分だけでも変えてみることが大切だと思います。新しいことをやろうとする意識ですね。
一方で、先輩職人の仕事を間近で見続けることで技術のすごさを身にしみて感じるようになりました。なので鎚起銅器の魅力はもっと多くの人に伝えていきたいですね。「フラワーボール」制作に取り組んだからこそ得られた気づきだと思います。

阿部:これからも素敵な作品をつくり続けてくださいね。今日はありがとうございました。

■ご参考■
株式会社玉川堂 http://www.gyokusendo.com/

 博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「形」の視点で、「フラワーボール」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントをご紹介したいと思います。

【形】 専門性の異なる仲間で共創する

 「コンセプトが決まってから、実際の形にするまでが長かった」とのお二人の発言は大変印象的でした。
初めて目にした時、直感的に「可愛い!」と思ってしまった「フラワーボール」。その「可愛い」の背景には、サイズや口の部分に至るまで、何カ月も作っては考え直すことを繰り返したお二人の努力がありました。
作りながら考える“プロトタイピング”は博報堂ブランドデザインでも良く実践している手法です。頭の中にある構想を文字や絵で表現するだけでなく、実際に形にしてみる。そのことを通じて真に思いの伝わる商品を生み出すことができることをお二人の話からも実感しました。
しかし、単にプロトタイプを繰り返すだけでは今回の素晴らしい商品は生まれなかったように思います。
対談させていただいた原さんは会社のある燕三条のご出身。地元の伝統や技術に強い思いを持っていらっしゃいました。対する潮さんは、東京の美術大学を卒業されたばかりで、自らデザインしたいという思いを強く持っていらっしゃいました。思いや専門性の異なる2人が全力で考え、何度も試作を繰り返すことで、絶妙なバランスで伝統と革新が両立する「フラワーボール」は誕生したのだと思います。
博報堂ブランドデザインでは、このように専門性の異なるメンバー同士が共に考え、形を作っていくことを「共創」と呼んでいます。
1人ではなく、仲間と共に考える。そして実際に形にしながら考える。新しいものを生み出したいとのお考えをお持ちの方は、まずそうした「共創」を取り入れてみることから始めてみるのはいかがでしょうか。

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★バックナンバー★
ブランドたまご 第1回 / おめかし八ッ橋 「nikiniki」
ブランドたまご 第2回 / 擦る、香る。五感マッチ 「hibi」
ブランドたまご 第3回 / ひと口食べればもう家族「トラ男米」
ブランドたまご 第4回 / 朝食にLOVE&PEACEを。「HAPPY NUTS DAY」