秋田の田園風景をバックに。左から、博報堂ブランドデザインの阿部成美、今回取材にご協力いただいた武田昌大さん。

「ブランドたまご」とは、生まれて間もない、まさにこれから大きく羽ばたこうとしている商品ブランドのこと。中でも、伝統を活かしながら革新を起こしている魅力あふれるブランドに注目し、その担い手に博報堂ブランドデザインのメンバーが話をうかがう連載対談企画です。
第三回に登場するのは、こだわりの厳選純米「トラ男米(トラおまい)」を秋田から産地直送する「トラ男」プロジェクト・プロデューサーの武田昌大さん。秋田と東京、2拠点で活動する武田さんの、本プロジェクト誕生の背景や込めた想いとは――。
今回の聞き手は、博報堂ブランドデザインの阿部成美。大学時代は農学部に在籍、農業に関心の高い彼女が、武田さんに迫ります。

秋田の農家100人ヒアリングで知った「農家のこだわり」を伝えたい― インターネットを活用し、流通改革にチャレンジ

「トラ男」とは、トラクターに乗る男前農家集団のこと。秋田県の専業農家の3代目である3人の「つくり手」と、彼らの思いを伝える1人の「つたえ手」(武田さん)、4人のチームです。3人の農家が丹精込めて作ったお米(=「トラ男米」)は、それぞれ「TAKUMI米」「YUTAKA米」「TAKAO米」と名付けられ、単一農家100%の純米として、主にWEBサイト「torao.jp」で販売されています。
本プロジェクトは、2010年に武田さんによって始められました。現在は18トン/年を家庭や飲食店に提供しています。通販だけでなく、実際に「トラ男に会える活動」として、都内等でイベントやワークショップを実施したりしています。
また、「トラ男一家(ファミリー)」という、ユニークな定期購入の仕組みも開発、食べ手とつくり手をつなぐ挑戦を続けています。

見た目もキュートなトラ男米。左から、「TAKUMI米」「YUTAKA米」「TAKAO米」。

阿部:私は、大学時代農業経済を学んでいましたが、日本では食べ手とつくり手が遠く、お互いの顔が見えないことをずっと課題に感じていました。でも、直売所で顔写真を貼るだけというのは何か違うと思っていて。この「トラ男」の取り組みを知ったときは、こういうやり方があったんだ!と思ったんです。「トラ男」プロジェクトを立ち上げられた経緯を教えていただけますか?

武田:僕は秋田県の出身で、高校まで秋田で過ごしました。その後、関西の大学を経て、東京のゲーム会社で働いていたんです。
あるとき、久しぶりに地元に帰ってきたら、商店街にはシャッターが閉まっているし、昔よく集った遊び場には誰もいない。まちが衰退していると感じ、ショックを受けました。そこから地元を何とかしたいと思い始め、東京で開催される秋田のイベントに顔を出すようになったんですね。
その活動を続けていく中で、秋田と言えば、食糧自給率も日本で2位だし、これだけ田んぼも多いじゃないですか。だから農業から活性化出来ないかなと思い始めました。自分はデジタル領域を得意としていたので、アナログな農業を掛け合わせて、農家を盛り上げていけないかと思ったんです。でも、自分自身は農業に触れたことがなくて。それじゃ何もできないと思って、18日間かけて秋田県じゅう回り、100人の農家にヒアリングしました。

阿部:18日で100人ですか!それはすごいですね。

武田:月~金は東京で働きながら、土日は秋田に帰って。働いている農家さんを見かけたら「すみません、農業について教えてください」と声をかけましたね。そのうち徐々に農業の現状や課題が見えてきたのですが、特に課題と感じたのは“流通”でした。100人会った農家は、みんながこだわりを持っていて、稲の感覚や、水を入れるタイミング、肥料のタイミングなどがそれぞれ違うんです。でも、実際は全部混ぜられて一つの「あきたこまち」としてパッケージ化され、売られていく。
農家ヒアリングと同タイミングで、東京のスーパーでもヒアリングをしたんですよ。米売場に一日いて、買いに来た方に「何でそのお米を選んだんですか」というのを聞くという。そのときにわかったのが、お客さんの選択基準に生産者情報というのがほとんどないんです。スーパーで売っているお米からは、精米年月日、値段、産地、ブランドぐらいしかわからない。その奥にある、僕が生で見てきたこだわりって一切伝わらないんですね。そこをもっと伝えてつなげていきたいなと。どっちも行ってそう感じました。

阿部:なるほど。今「トラ男」で一緒にやっている農家さんたちというのは、ヒアリング過程で出会われたんですか。同世代、若手の方と組まれていますが。

武田:はい。ヒアリングする中で、徐々に「インターネットを使って直接流通させたい」という構想が芽生えてきていたので、「こういうことをやりたいんですが、一緒にやってくれませんか」という話をしました。初めはインターネットで米の通販なんて、怪しいと言われましたね(笑)。
秋田県では、65歳以上の農家が60%を越えています。今後10年20年30年続ける、若手の農家が辞めてしまっては終わりなので、まずはそこを盛り上げていきたいという思いがありました。また、よりお客さんとつながるためにソーシャルメディアを使っていきたいと思っていたので、ネットリテラシーがあるという意味でも若い世代に声をかけました。

農業はカッコいい!トラクターに乗る男前農家集団=「トラ男」 ネーミングに込めた思い

阿部:「トラ男」という名前がまたとっても素敵ですよね。キャッチーですし、ユーモアを感じます。

武田:ありがとうございます。ネーミングにはかなりこだわりました(笑)。
「トラ男」にした理由は、ワードが短いのと、あと「男」という漢字が「田」んぼに「力」と書くんですよ。農家こそが本当の男だという意味合いを込めました。農業をかっこよくしていきたい、若い人たちに農業にもっと興味を持ってもらいたいという思いがあったこともあって。

阿部:農業をかっこよくしていきたいと思われたのはなぜですか?

武田:農業は実はとってもかっこいい仕事だと、自分が身を持って感じたことが大きいですね。ヒアリングをしていた時、農家さんの家で飲むことも多かったのですが、たいてい朝3時ごろまで飲んでいるんですね。で、いつの間にか寝ちゃっているんですが、早朝には「オイ、何寝てんだ。行くぞ。」って軽トラに乗せられるんです。朝4時ぐらいですよ。「何しに行くんですか」って聞くと、この時間の、太陽が上がるぐらいの水滴がどれぐらい葉っぱについているか見ないと、今日一日の作業を組み立てられないんだとおっしゃって。そんな、朝日を浴びながら、軽トラに乗って走っている父さんがかっこいいと思いましたね。そういう農業というか、農家さんが持っている本来のかっこよさ、男らしさを出したいなと思ったんです。

阿部:農家さん1人1人の見せ方も工夫されていますよね。「燃える愛菜家TAKUMI」とか、「金色の山男YUTAKA」とか。お米にも「TAKUMI米」等名前を出されています。銘柄名等が主流な中、大きな決断だなと思うんです。

武田:そうですね。もちろんお米って味・品質だと思うんですが、+αで生産者の人柄、人を好きになってもらいたいという思いがあったんです。あと、「なぜTAKUMI米とかYUTAKA米とかっていう名前なの?」と聞かれたときに「生産者が違うからですよ。こだわりが違うんです。味も違うんですよ」というとわかりやすいじゃないですか。

つくり手と食べ手は“家族”   ファンコミュニティという新しい仕組みづくり

阿部:「トラ男」の取組の中でも、私は、食べ手を巻き込む「トラ男一家(ファミリー)」っていう制度が特に素敵だなと思っているんです。この制度はいつ頃から始められたんですか。

武田:2012年からです。ネット通販を始めて2年ほど経つと徐々に固定のお客さんも増えてきたので、定期購入の仕組みを作ろうと思ったんですね。
で、どういうものにしようか練っていたときに、全国にいる「トラ男」ファンのコミュニティが支えてくれているという、新しい形のCSA(※)もありじゃないかと思ったんです。つくり手と食べ手、どちらが上とかではなくて、あなたのためにつくっているし、あなたのために買っているといった、同じレベルで会話したいなと思ったので、じゃ家族だなとファミリーにしたんですね。

阿部:現在、ファミリーはどれぐらいの人数いらっしゃるんですか。

武田:まだ少ないです。100ぐらいしかいないです。

阿部:でも、100人家族ですよ(笑)。すごいことです。武田さんは「トラ男」ファミリーの大黒柱なんですね。ファミリーになったお客さんの反応はいかがですか?通常の販売とはまた違った関係が生まれそうですが。

武田:そうですね。「おいしい」という声を継続的にいただくので、嬉しく思っています。あとは、「うまい米に慣れ過ぎた」みたいな、逆クレームも(笑)。6年ぐらい買い続けてくれているお客さんもいて、「もう外で他の米を食べられない。なんて贅沢な口になってしまったんだ」と。どうしたらいいでしょう(笑)。

阿部:つくり手の3人の方々にとっても、お客さんの顔が見えるようになるというのは大きな変化だと思いますが、いかがでしょうか。

武田:そうですね。ソーシャル上でつながっているので、お客さんから「こうやって今日米食べました」っていう反応があったりするんですね。食べる人の顔が見えることで、改めて良い米をつくろうと、日々取り組む姿勢も変わってきた気がします。

阿部:私も企業のマーケティング担当の方、開発担当の方とお仕事をすることが多いのですが、お客さんの反応や声が一番のモチベーションだと皆さんおっしゃいますね。

  • Community Supported Agriculture(地域支援型農業)の略。 前払いによる農産物の定期購入を通じて、 生産者と消費者が支え合う仕組み。 欧米を中心に新たな農業の一形態として注目されている。

夢はチーム「トラ男ジャパン」をつくること! “予想外の体験作り”を全国に展開

阿部:現在はプロデューサーというお立場だと思うのですが、自分の役割についてどのようにお考えですか。

武田:僕の役割は、人の心をときめかせる仕組みづくりだと思っています。人がおもしろいと感じて参加してくれるような体験作りですね。
たとえば、まじめに秋田の農業の現状を伝えて「この米を買ってください」って言ってもなかなか響かないけれど、「トラ男ファミリーになりませんか」って言うと、「何それ?」と興味を持ってくれる。僕にとって、おもしろさとは予想外ということなんです。秋田や農業に全く関係ない若者たちを巻き込んでいくには、そういう要素がとても大事だと思いますね。

阿部:なるほど。「トラ男」の今後の展望はいかがですか。

武田:秋田に限らず日本全国に困っている農家はいるので、そういう人たちとチームを組みたいですね。どういう形になるかわからないですけど、「トラ男ジャパン」をこれからつくりたいです(笑)。

阿部:ああ、おもしろいですね。それ、ぜひやってほしいですね。

武田:その一歩としてお店を出すという構想もあるんです。お店を持てば出口ができるので、参加できる農家を増やしていけるなと。

阿部:そのモデル、全国にぜひ拡げて欲しいです。最後に、武田さんみたいに新しい挑戦をしたいけれど一歩踏み出せないでいる方にアドバイスするとしたら、どんなことをおっしゃりたいですか。

武田:むずかしい質問(笑)。でも、とにかく惚れることですかね。仕事にするって、たぶん情熱が注げるものじゃないとやり続けられないと思うし。好きなことを見つけたらいいんじゃないですかね。
僕、よく小学生に「誰にも負けないぐらい得意なことと寝なくてもいいぐらい好きなことを見つけましょう」って言っています。その2つを掛け合わせれば、夢を叶えることもできるかもしれないし、何かやりがいのある仕事を見つけられるかもしれない。

阿部:素敵ですね。武田さんの場合は、寝なくてもいいぐらい好きになったのが秋田だったんですね。

武田:そうです(笑)。これからも秋田のことだったら何でもしたいですね。

阿部:今日はありがとうございました。

■ご参考■
http://www.torao.jp/

ブラたまEYE ~編集後記~

 博報堂ブランドデザインでは、これからのブランドには「志」「属」「形」の3要素が不可欠だと考えています。「志」はその社会的な意義、「形」はその独自の個性、“らしさ”、「属」はそれを応援、支持するコミュニティを指しています。(詳しくはこちらをご覧ください)
今回は「属」の視点で、「トラ男米」から読み取れるこれからのブランド作りのヒントをご紹介したいと思います。

【属】お客様は「買い手」ではなく、「家族」

 地元秋田への強い思いを入口に始まったトラ男米。その人気の背景には、相手にどう伝えたら面白いと思ってもらえるか?を常に考える武田さんのユーモアがありました。
定期購買のお客様を「トラ男ファミリー」と呼ぶのもその一つ。人を資産にするトラ男米だからこそ、お客様を「ファミリー」として迎え入れることは、お客様の喜びとなっています。ところが、更に話をお伺いしていると「ファミリー」にはこんな思いが込められていることが分かりました。
「家族は、互いに助け合う、協力し合うことは当たり前。生産者とお客様もどちらが偉いではなく、対等な立場で互いにありがとうを言える関係でいたい」。
お客様をどう喜ばせるかを考える前に、お客様とどんな関係を築きたいかを考える。その結果として「ファミリー」という考え方が生まれたのです。そしてファミリーだからこそ、会いに行って稲刈りの手伝いもできるし、お揃いのTシャツを着ることもできる。ファミリーというお客様との関係性の捉え方から連動した施策も秀逸です。
ブランドのファン、「属」のつくり方で悩んでいる方は多いと思います。ぜひお客様に気にいられるにはどうすればいいかを考える前に、お客様との理想の関係性をイメージするところから始めてみて下さい。そしてその上で、どんな施策をしたら良いか考えてみて下さい。改めてブランドが大切にする価値観に気づくきっかけにもなるかもしれません。

>>博報堂ブランドデザインについて詳しくはこちら

★バックナンバー★
ブランドたまご 第1回 / おめかし八ッ橋 「nikiniki」
ブランドたまご 第2回 / 擦る、香る。五感マッチ 「hibi」