年間300件のワークショップを手がける博報堂ブランドデザインメンバーが語る、 ワークショップの奥義とは?

アイデア創造や体験共有、合意形成など、今やビジネスにおいて様々な目的で用いられるようになった「ワークショップ」。でも、いざ実施しても、思うような効果が得られない、参加者のモチベーション維持が難しいといった悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。
年間300件のワークショップを手がける博報堂ブランドデザインのメンバーが、前編に続きワークショップの奥義について語ります。

余念のない準備の上で光る、ファシリテ―タ―の役割

-準備をしっかりした上で、ファシリテ―タ―の出番ですね。

小原:はい。ファシリテーターって、円滑に言葉を引き出すことが最大の役割なので、会場やレイアウト、食べ物、音楽などもそのためツールなんです。だから、そのときそのときの状況に合わせてコーディネートしていく。音楽ひとつにしても、うるさそうであれば控えるなど、おしつけではない姿勢をお伝えしています。「場づくり」の上でも引き出しをいっぱい持った上で、ご提案していきます。
あとは、スタンスとして、出席者がどういう世界を見ているのかをすごく気にしています。世界というのは、その人たちの日頃の生活の目線。その目線が異なると、そもそも心開いてくれないだろうなと思っていて。
例えば、先日のワークショップではウェルカムシートというのをつくりました。A4の紙に可愛く「Welcome」と書いて、参加者の名前をあしらって。その時はホスピタリティーのことをすごく重要視しているクライアントだったから実施したんです。でも、別のクライアントで同じことをすると、失敗することもある。
服装でも、体育会系の方が集まる時はパンツスーツ、ファッション系の方であればオシャレに少しだけ気を使うなど、調整します。参加者にこの人は自分と同じ目線でものを聞いてくれるんだなというふうに感じてもらうにはどうしたらいいか、いつも考えますね。そのためのヒントは、事前の打ち合わせ等から得ます。

森:何か話してもらうためには、逆にこちらが何を考えてる人か知って頂く必要があるので、ずばり実演。僕がしている蝶ネクタイは、まずほどいてみせる。「1人1人思うことはあって、同じ会社の社員でも、結び目が無ければ形になっていない、だから話し合ってほしい」と。で、実際に結んでみせます。一度海外のクライアントにこの話をしたら、2回目にお会いした時に皆さんお揃いの蝶ネクタイをしてくださったことがありました。ブランドデザインの「リボンフレーム(※)」もこれで言える。

山田:ファシリテ―タ―って、ただの司会進行ではなくて、どうやったら参加者からキーとなる発言が引き出せるか、なにより、どうやったらそういう雰囲気がつくれるのか、ということですね。座組みだって、流れだって大事だし、各テーブルで何が起きているか把握しないといけない。
「こんなの何のためにやるんだ」とおっしゃる方もいるけど、そういう現場で起こる突発事象に対応していく。こういう反応をする方は、実は逆に誰よりも真剣に考えてきた人だから、「キラキラした砂金」を持っていたりするんです。出会ったら、やったぞ、くらいに思わないと。

小原:同じように、案外ボソッとおっしゃった一言が究極的な発見だったりする。一見つまらないと思われるアイデアでも、それを具体事例と結びつけたり、どうしてそれを思いついたのかを聞いたりしていく過程で、そのアイデアが意味のあるものになるのだと気付いてもらうこともあります。

※「インプット」「コンセプト」「アウトプット」の3つのステップからなる。インプットではできるだけ多くの情報を収集し(拡散)、コンセプトを絞り込み(収束)、そこからアウトプットを多彩に拡げていく(拡散)フレームで、図の形状がリボンのような形のためこのように呼んでいる。

これからのワークショップ

-みなさんにとってワークショップとは何でしょうか。

森:もともとワークショップって、美術家が自分のアトリエに来てもらって、同じようにものをつくらせる、みたいなことですね。僕はミンツバーグの”Crafting Strategy”(1987)になぞらえて「ろくろを回しながら未来を考える」ものだと思っています。最初は土なわけですね。形はないんですけど、手で泥を触って、ろくろを回していくと、だんだん自分の指や土の具合で形ができてくる。みんなで話し合っていくと、最初は考えていなかったものができてくる。

加藤:そうですよね。「一人じゃできない活動でも、複数人が理解し合うことで生まれてくるものは無限大なんだ」という言葉があるのですが、やっぱり1+1を無限大にする場所という感覚がありますね。

小原:ワークショップは、化学反応が醍醐味だよね。一人で考えても解が出ないものを、みんなで考えることによって意外な最善の策が生まれる。
最近、世の中でワークショップという言葉があふれすぎていることに違和感を感じます。たとえば料理教室の場合、レシピが決まっていて伝達だけの講習をワークショップと名付けていたりするんです。

竹田:ブランドデザインと東大の共同プログラムである「ブランドデザインスタジオ」のキャッチコピーが「正解のない問いに、共に挑む」ですけれど、まさにそうですよね。

小原:一方で、「自信を持つ」ためのものでもありますね。自分1人で考えていたことが、周りと同意見だったりして、「いいんだ、これで」と思えることもある。

山田:その効果、確かにありますよね。

森:ワークショップって、何となく茶室の発展形なんじゃないか。茶室って、昔、身分の区別がもっと激しかった時代に、区別なく狭い部屋に入って、上座も下座もなくて、出てきたお茶をみんなで回し飲みして、やはりみんなで話し合う。これからこの国をどうするか、とかね。そういう話をしていた場所の変容なんじゃないかな。動乱の時代にやっていたことで、刀で命のやりとりをしていた時代に、心のやりとりをする場所もあった。以前にも当社主催のセミナーでお話しましたが、芸術が示唆する事業へのヒント、という視点でも私は理解できると思っています。

-ワークショップがこれからの時代に果たす役割についてはいかがでしょうか。

加藤:先ほど茶室が原点という話もありましたが、今課題が複雑化して、一人、一組織、一企業で解決できない問題が増えてきた中で、複数のステークホルダーが集まって解決しなければいけないケースが増えてきた。だからこそ、ワークショップ、共創の場というのは今後もますます求められていくんじゃないかなと思いますね。

森:きょうはワークショップの奥義ってはじまりでしたが、本質を言うと「やはり難しいし、簡単なものではない」。でも確実に工夫して成果を上げられる所もある。案外そうしたことが知られていない。過去にブランドデザインのfacebook等でワークショップのコツを発信してきましたが、反響も大きかった。そこで今、そうした「確実に成果の上がる基本動作」を再編集して公開しようとしているんです。ワークショップをやりたいなって思った方が調べたときに、それを見れば大体TO DOがわかるといったようなもの。
もともとブレーンストーミングという言葉は広告会社がつくったものだそうです。広告会社はクリエイターとかマーケッタ―とか、多様な職種の人間が同じ部屋に入って、アイデアを形にしていた。今後もその経験をずっとしてきたわれわれだからこそできる提案をしていきたいですね。

<終>