博報堂DYグループは、広告会社として、スポーツ領域における事業展開、アスリートキャスティング事業などを推進しています。スポーツクライミングに関しては、日本山岳協会と2016年シーズンの契約を行い、競技の支援を行っています。今回は、国内外の大会で数多くの優勝経験を持ち、「世界女王」として日本のクライミング界をけん引し続ける野口啓代選手に2020年東京オリンピックの正式種目となり、今後注目が高まる「スポーツクライミング」の魅力、オリンピックへの想いなどについてうかがいました。

スポーツクライミングの魅力は―選手の個性が出る自由度の高いスポーツ

スポーツクライミングには大きく分けて3種目あります。ロープによる確保なしで5mほどの壁を登る「ボルダリング」、ロープで支点を確保しながら10m以上の壁を登る「リード」、高さ10メートルもしくは15メートルの壁で、予めホールドの配置が周知されているコースをどれだけ早く登るかを競う「スピード」です。いずれも大会でのカテゴリーは男女に分かれているくらいで、年齢、体重などでは区切られていません。ほかのスポーツに比べるとちょっと珍しいかもしれませんね。ときには16歳*と30歳の選手が、あるいは身長が160センチと180センチの選手が同じ課題を争います。だから選手の体型もさまざまで、筋骨隆々に鍛えている人もいれば、小柄でやせ型の人もいる。どうやって課題をクリアしていくかにそれぞれの選手の持ち味、個性が出る、とても自由度の高いスポーツといえると思います。
*ワールドカップなどの国際大会は16歳から出場

クライミングに適した体型というのは一概には言えないのですが、もしかしたら日本人に向いているスポーツかもしれません。日本はさまざまなクライミングの国際大会で上位入賞が多い、世界でもかなりの強豪国。難しい局面を体の柔軟性や細かい重心移動でクリアするなど、登り方をいろいろと工夫する点、また器用に体を動かす点などは日本人選手特有の強みなのかもしれません。

野口啓代さんがプロフリークライマーになるまで―木登り大好きな少女が目指したこと

私自身は、実はスポーツ全般が得意ではなくて。走るのも泳ぐのも球技もダメ、本当に苦手なんです(笑)。でも登ることだけはずっと好きでした。牧場を営む茨城の実家では、よく木登りをしたり牛舎の屋根に上ったりして遊んでいました。クライミングを始めたきっかけは小学5年生の頃のグアム旅行。家族で行ったゲームセンターにクライミング体験ができる設備があって、一度やってみたところ本当に楽しくて。ちょうどその年地元にクライミングジムがオープンしたので、日本に戻ってから早速通い始めました。
小学校最後の年に挑戦した全日本ユースで優勝することができたのですが、当時の感覚としては木登りで遊んでいた延長のようなものでした。登れる楽しさにすっかり夢中になっていたんですね。

中学に上がる頃には、父が知り合いの方などに手伝ってもらいながら、牛舎を改装してクライミング用の壁をつくってくれたんです。それからは家でも好きなだけ練習することができました。2008年のワールドカップでの初優勝をきっかけにプロになることを決意。以来、少しでも楽しく、いいクライミングをすることを目標に、さまざまな大会で経験値を積んでいます。

いまも昔もずっと変わらないのは、登れなかったところが登れるようになったり、できなかった動きができるようになる喜びと達成感です。高いところはずっと好きだったので(笑)、10m以上の高さでも特に怖いと思うことはありません。

スポーツクライミングが2020年東京オリンピックの種目になってー野口啓代さんの新たな挑戦とは

いま、スポーツクライミング人気はすごく高まっていると実感しています。初心者やお子さんで挑戦する人が増えていて、ビギナーやユースの大会も盛況です。日本は都内だけでも100軒以上のクライミングジムがあって、世界的に見てもすごくいい環境にあるんですよ。国内外でいろいろな大会が開催されていますが、競技中はお客さんの歓声で会場がすごく盛り上がりますし、声援を受けて力が湧いてくることもある。応援してくれる人と一緒に登っているという感じがあります。
2020年の東京オリンピックでの正式種目決定を受けて、ますますクライミングの注目度は増すと思います。日本人の活躍を知ることで子どもたちの夢にもつながれば、選手のすそ野もどんどん広がっていくでしょう。そのために私も頑張りたいなと思います。そして東京オリンピックは、私にとっても間違いなく一生に一度の出来事になると思う。もちろん選手として出場したいと思いますし、出場できるのであれば、いい成績を収められるとうれしいですね。ひとまずは、9月の世界選手権での優勝を目指してしっかり練習を積んでいきたいです。

疲労がたまると関節の動きが悪くなるうえ、炎症を起こして太くなってしまうことも。

クライミングを始めたころから指の丁寧なストレッチを欠かさず行ってきたという野口さんの指は、力強いだけでなく、クライマーとしては際立って美しい。「マニキュアの色は赤が定番です。指先はつねに視線の先にあるので、気分があがる色にしたいから」。

野口さんの最大の武器が、強靭な指の力と全身の高い柔軟性。

足先までを自在に操ることで、難易度の高い課題を独創的な足運びでクリアしていく。まるで重力を感じさせないようなしなやかなクライミングを可能にしている。

登っているときは常に筋トレをしているような状態にある。

トレーニングには1日6時間ほどかけることもあるが、登るだけでなく、入念なストレッチや前後のウォーミングアップ、クールダウンも同じくらい大切なのだとか。

同世代の女性アスリートとして、フィギュアスケートの浅田真央選手に感銘を受けるという野口さん。

同世代の女性アスリートとして、フィギュアスケートの浅田真央選手に感銘を受けるという野口さん。「フィギュアもクライミングも、個人種目とはいえ競う相手もいる。大会の緊張感や選手の集中する様子に自分を重ね合わせて、感情移入してしまいます。そんな世界で長年トップに立ち続ける浅田選手はすごいですよね」。

プロフィール
野口啓代(のぐちあきよ)
1989年生まれ。小学校5年生のとき家族旅行で訪れたグアムでクライミングを初体験、その後ジムに通い始める。小学生最後の春休みに開催された前日本ユース選手権で初優勝。天才少女出現と話題に。2008年、ボルダリング・ワールドカップ・フランス大会で日本人女性初となる優勝。2009年、2010年、2014年、2015年、ボルダリング・ワールドカップ年間優勝。国内大会では第1回~第9回のボルダリング・ジャパンカップで9大会連続優勝。2016年の第11回大会で10回目の優勝を果たした。

博報堂DYグループのスポーツビジネスへの携わりについて ~ スポーツクライミング ~

博報堂DYメディアパートナーズ
スポーツビジネス局コンテンツプロデューサー
伊江望

現在、博報堂DYメディアパートナーズとしては、日本のスポーツクライミング競技を管轄する公益社団法人日本山岳協会さんと向き合いながら、スポーツクライミングを盛り上げるさまざまなお手伝いをしているところです。
スポーツには大きくわけて、相撲やプロ野球のように主に観戦を楽しむ「See スポーツ」と、マラソンのように競技人口が多い「Do スポーツ」の2種がありますが、スポーツクライミングはどちらの要素も持ち合わせた競技。大きな壁を力強く登っていく様子は迫力がありますし、トップの競技者レベル、趣味レベル問わず子どもも大人も同じ課題に取り組み、年齢に関係なく挑戦できます。(*大会によっては年齢制限が設定されています)。特に子どもにとっては、どう攻めていくかを考えることで思考力や想像力を培う「知育」の効果もあるとされ、非常に大きな可能性のあるスポーツなんです。
先般、2020年の東京オリンピックで新たに正式種目として加わることになり、いままさにスポーツクライミングへの注目が高まっています。すでに何人もの日本人クライマーが世界選手権やワールドカップで素晴らしい成績を残しており、東京オリンピックでの活躍も期待されますが、オリンピックはあくまでも一つの通過点。博報堂DYメディアパートナーズとしては、「生活者視点」に根差した知見やノウハウを活かしながら、長期的視点で、その価値をさらに高め、「See+ Do スポーツ」として大きく育てていくお手伝いができればいいなと思います。
私自身、趣味でスポーツクライミングをやっていたこともあり、スポーツクライミングの振興にかかわるのが入社時からの夢でもありました。誰もが自由に自分のペースで挑戦でき、達成感を味わうことのできるスポーツです。もっと多くの方に体験していただき、その魅力を知っていただけると嬉しいですね。