WEB・雑誌の編集者、TV・ラジオのプロデューサー・ディレクター等のメディア・キーパーソンと連携し、ニュース性の高いコンテンツを開発するプロジェクトチーム「tide(タイド)」。tideチームリーダーの川下和彦が、時のメディア・キーパーソンの方々と「潮流のつくり方」を語るシリーズです。

第二回のゲストは、“世界一の朝食”で一躍有名となったbillsや行列のできるかき氷店ICE MONSTERなど、飲食店を中心にヒットコンテンツを次々と世に送り出しているトランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さん。トレンドを生み出すコツや、仕事におけるこだわりなどについて伺いました。

(左より)tideチームリーダー・川下、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕社長。

インプットとアウトプットの繰り返しが目利きを育てる

川下:僕らはtideというプロジェクトに取り組んでいるのですが、tideは潮流という意味で、逆から読むと編集(edit)になります。編集歴の長い人が企業の製品やサービス、コンテンツ自体を編集することで何か面白いものが生み出せるのではないか、時代の潮流は編集からつくられるのではないかと考えているんです。前回(第一回 ※リンク先URL)東京カレンダー大槻篤編集長との対談で、中村さんのような方が本当の意味での編集者なのかもしれないという話で盛り上がり、今回お話を伺うことになりました。

中村さんは飲食オペレーションを筆頭に打率9割ともいわれるほどいくつものヒットを生み出されていますが、その鍵はどこにあるのでしょうか?

中村:ヒットに必要な要素は大きく二つあります。一つはヒットするものを見つけてくること。もう1つはそのネタをいかに話題にしていくかということです。順を追って説明しますね。

ヒットするものを見つけるために、うちの会社ではまずひたすらインプットを行います。僕だけでなく、社員はみんな暇さえあれば書店に行ったりネットを見たり、必要であれば海外でも実際に現地に足を伸ばす。あるいは周囲にいる情報感度の高い人たちと交流するなかから、さまざまな情報を得ていきます。そんな風にして何が流行りそうかを探っていくんです。ちなみに収集する情報のジャンルはグルメやホテルなどが主ですが、僕が好きな芸能ネタなど(笑)ありとあらゆるジャンルに及びます。よさそうな情報を見つけた社員はすぐに社内メールで展開するので、いつのまにか全員が、単なるミーハーを超えたスーパーミーハーになっていくんですね。これをひたすら続けていって3年も経てば、社員は立派な情報の「目利き」になっています。社長の僕としては、そうやって集まった情報のなかからどのコンテンツが強力かを見ることに注力しています。

意外かもしれませんが、インプットと同じくらい大事なのがアウトプットです。たとえば東京カレンダーのように飲食に強いことで知られる雑誌であれば、編集部にはおのずと飲食関連のよい情報が入るようになるはずなんです。個人のメディアでも、SNSでおいしい料理のネタをしょっちゅう投稿している人のもとには、まったく投稿していない人よりもおいしい店の情報は入ってきているはずです。要はそういう情報をつねにアウトプットしている人というイメージがつくれれば、情報が自然と集まってくるようになる。だからうちの会社では、マーケティング力=強力なアウトプット力だと捉えているんです。

0.5歩先を行き、火種を爆発させる

中村:僕らがお店をプロデュースするにあたって最初に取り組むのが、キャッチフレーズ。要はお店のコンセプトづくりです。その次にインテリア、デザイン、制服、メニューなどカテゴリーごとにコンテンツ案を書き出していきます。ここで行き詰れば書店やネットなどでのインプットに戻るわけですが、その際、メディアにおける「取り上げられ方」がそのままコンテンツのアイデアの重要なヒントになります。どういうことかというと、たとえば「イケメンカフェ特集」であれば「スタッフ」という切り口が、「女子会に使えるカフェ特集」であれば「使われ方」という切り口があるのだとわかる。そうした切り口からヒントを得ながら、たとえば雑誌の特集でどうやったら見開き1ページで取り上げられるかという視点から逆算してコンテンツを考えるんです。次にキャスティング。たとえばデザートであれば、パンケーキとかかき氷とか具体的なものに落とし込んでいきます。そうしたアウトプットをスタッフ総動員で行います。

その後の話題づくりは、まさにうちが得意とするところです。10年ほど前僕らがカフェを始めたころは一部のカルチャー誌に掲載されることこそがカッコイイと考えていて、そういうエッジのきいたメディアで紹介されることを目標としていました。でも近年SNSが台頭してきてからは、情報番組やグルメ情報誌などのマスメディアにいかに取り上げてもらえるかを考えるようになった。朝の情報番組で一度取り上げられれば、SNSで瞬く間に拡散されるからです。企画段階から雑誌でどういう形で取り上げられ得るか、情報番組でどんな風に紹介され得るかを意識しておき、一瞬にして話題を呼び、そこからビジネスが拡大していくという僕らの得意なパターンができていった感じですね。

川下:面白いですね。僕もPRを長年やってきて、すでにある製品やサービスに後付けでニュース性を持たせるよりも、中村さんのやってらっしゃるように、逆算して、製品ができる前からどうやったらPRになるか、ニュース性が持たせられるかを意識しながらクライアントさんと一緒に考えていきたいと思っているので、その考え方にはとても共感できます。

中村:忘れてはいけないのは、何も火種がないところで爆発はしないということ。僕らは何もないゼロの状態から先駆的に何かをやるというわけではなくて、すでに周辺のカルチャーが盛り上がっていたり、そのジャンルのお店が何店か出店していたりといった土壌があって初めて攻めていくんです。1歩先を行くのではなく、0.5歩先を行く感覚。ICE MONSTERの場合、六本木に1年中かき氷が食べられるお店が出店していたり、かき氷マニアがかき氷を食べ歩き、雑誌に特集が組まれたりしていた。そういう火種をつねに探しておいて、何か引っかかる、ピンとくるものがあればそこに火を着け、大きく爆発させるという戦略です。

川下:中村さんが手掛けられたどのお店も大きなブームを呼んできた背景には、そんな戦略があったんですね。でもすごいなと思うのは、それぞれのブームが一過性のものにとどまらず、その後もコンスタントに話題になり、行列が続くことです。そこにはどんな工夫がありますか?

中村:もちろん、メディアで繰り返し取り上げられるように地道に新メニュー開発を行ったり、間を開けず拡散されるように影響力のある方に体験していただいたりといったことは行っています。でも、それとは別に根っこのところで意識していることがある。それは、僕らの目的はブームをつくることではなくて、その先の、ライフスタイルに浸透するまでの「カルチャー」に育てることなんだということ。たとえばbillsなら、「パンケーキブーム」をつくりたいんじゃなくて、「新しい朝食カルチャー」をつくりたいと思った。マックスブレナーなら、それまではコンビニのお菓子やバレンタイン、「高級チョコ」しか存在しなかった日本のチョコレートシーンに、「カフェでカジュアルにチョコレートを楽しむカルチャー」を根付かせたかった。そういう指針があればたとえブームが一段落しても、ぶれることなくお店の目指す方向をメッセージとして出していくことができるんですね。

ではどういうものなら日本人に受けて、日本のライフスタイルに浸透するまでになるかというと、これは僕のコンプレックスでもあるんですが、やっぱり海外、特に欧米に憧れる気持ちをくすぐるようなもの。いわゆる西海岸とかニューヨークのライフスタイルで日本にないものは、単純にかっこよく見えるんですよね。僕らはシェアオフィスも手掛けていますが、最初はニューヨークのSOHOにおしゃれなクリエイターたちが集まるシェアオフィスがあって、それを見たときに純粋にいいな、かっこいいなと思ったことがきっかけだった。海外の雑誌や映画にもたくさん目を通してインプットしますが、やっぱりかっこいいものはないか、そしてそのうえで日本にも浸透しそうなものはないかを探しています。コンテンツ探しにおいて、海外のおしゃれなライフスタイルを感じさせることができるかどうかはかなり重要なんです。

だからお店づくりにおいてももっとも重視するのは、現地と同じサイズ、味、雰囲気にすること。そこだけは社長である僕が絶対に死守すべき点だと思っています。よく甘すぎないように、大きすぎないようにと日本仕様に変えてしてしまうお店がありますが、そうすると「現地と違うじゃん」と言われてしまう。それって僕らにとっては一番の失敗なんですよね。とはいえ日本人の技術力とか素材に対する意識はやっぱりすごいから、結果的に現地よりおいしくなってしまうことが多々ある。マックスブレナーに関しては、日本で開発したピザ生地がおいしいということで、逆にニューヨーク店でもそれが採用されることになりました。

川下:そんな現象も起きるんですね(笑)。

中村貞裕 トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長

1971年生まれ。慶應義塾大学卒業後、伊勢丹を経て2001年、30歳の時にトランジットジェネラルオフィスを設立。カフェブームの仕掛け人として「sign」などの人気カフェを手がけるほか、台湾発のかき氷店「ICE MONSTER」、チョコレートショップ「MAX BRENNER」、モダンギリシャ料理「THE APOLLO」など手がける店が次々と話題を呼ぶ。ホテル、鉄道、新幹線、商業施設などをプロデュース。活躍は多岐にわたる。

川下和彦 博報堂 tideチームリーダー

2000年博報堂に入社。マーケティング部門を経て、PR部門にてジャンルを超えた企画と実施を担当。自動車、食品・飲料、IT、トイレタリーなど、幅広い領域で大手クライアント業務を手掛ける。「tide(タイド)」を発足後、積極的に社外のコンテンツホルダーと連携し、幅広いネットワークを持つ。著書に『勤トレ 勤力を鍛えるトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等がある。