NPO関係者やエンジニア、クリエイターとの幅広いネットワークを活用して、社会課題を解決するためのアイデア、事業を生み出すサービス「ソーシャル・クリエイティブ・クロス」。これまで、課題を抱える人たちと、エンジニア、クリエイターをつなぐいくつかのプログラムを実施して取組みの方向性を見定めてきました。今後は、企業との協働による新事業開発にステージを移そうとしています。これまでの活動とこれからの展望について、サービスを開発した博報堂ソーシャルデザイン山田英治さんに話を聞きました。

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きっかけは東日本大震災での多くのボランティア団体との出会い

山田さんの経歴を教えてください。

山田:1993年に博報堂に入社し、コピーライター、CMプランナーとクリエイティブ畑で過ごしてきました。自動車、不動産、食品など多くの業種のCM制作に携わり、クリエイティブを軸とした時代が長かったですね。

「ソーシャル・クリエイティブ・クロス」の活動を始めた経緯は?

山田:会社ではCM制作などクリエイティブ業務を担当し、会社を離れてもTV番組の脚本を書いたり、劇場公開映画の監督をしたりと「映像」にどっぷりとはまっていました。そんな映像中心に過ごしていた時期に、東日本大震災が起きて、テレビコマーシャルが流れなくなるという期間がありました。被災地のために何か自分にできることがないだろうかと思い、思い切って長めの休暇をとり被災地にボランティアとして入りました。そこでボランティア活動をおこなっていた多くのNPOや団体と出会います。

彼らは資金や人材を確保するための広報が不足していると感じたので、そこを補うための広報支援を行うことにしました。ボランティアに携わる団体のコマーシャルをボランティアで作る作業を始めたのです。自分でCMの構成も考えて、実際に取材に行き、カメラを回して、ナレーションも考えて、それを編集して、友人のミュージシャンに音楽をつけてもらって、こうしてボランティアで様々の団体のコマーシャルをつくりました。

ボランティア団体の支援を通じて被災地の課題に向き合うと、被災地の課題は、高齢化や過疎の問題だったり、一次産業の課題だったりと、実は日本全国の課題と共通だということに気付きました。そして、多くのNPOや団体の人材や知見を、社会課題の解決に関心のあるエンジニアやクリエイターと結ぶことで新たな「創造的な発想」が生まれることを確信しました。さらに、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を志向する企業とも共創していけば、NPOや団体、エンジニア、クリエイター、企業関係者がWin-Winの関係になり、社会的にも意義のある事業・サービスを開発できるかもしれないと考えました。それが「ソーシャル・クリエイティブ・クロス」の原点になります。NPO、エンジニア、クリエイター、企業関係者が課題を共有した上で、「ソーシャルアイデアソン」をおこない、そこで得られた事業アイデアを市場デビューまで導くサービスです。

■「ソーシャル・クリエイティブ・クロス」のワークフロー

イシューホルダーとエンジニアを結び付けるアイデアソンから「つながる合宿」まで

その仮説を検証するためにいくつかのプログラムを実施されたと聞きました。

山田:はい、2013年に2つのテストプログラムを実施しています。どちらも課題を抱える当事者、イシューホルダーの人たちに集まってもらい、その社会課題に関心のある「市民ハッカー」と言われているエンジニア、クリエイターとともにアイデアソンを実施し、短い時間で実現可能性の高い事業アイデアを共創した事例です。

最初のプログラムは「シングルマザーの育児」をテーマにしました。育児環境を社会全体で良くしていこうというムーブメントはありますが、中でも一番大変な状況にある「シングルマザー」たちとアイデアを作っていきたいと思いました。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」というシングルマザーを支援しているNPOと、「Stand for mothers」という、若いママたちを対象として活動している団体と一緒に、ボランティアで参加してくれるIT系のエンジニアとクリエイターで、「ソーシャル・クリエイティブ・クロス」の仕組みを使ってアイデアソンを行いました。

その中で出たアイデアに「ままっち」という企画があります。子供を預ける相手がいない場合でも、お互い無料で預け合うことができるサービスです。ママとママをマッチングするサービスは、IT系企業と一緒に取り組めば事業化できそうだと思いました。このように事業開発に発展しそうな複数のアイデアがこの取組みから生まれています。

次は介護士さんと、介護環境を改善するためのハードウェアを考えようという企画です。メカ系のエンジニアに集まってもらいアイデアソンを実施しました。このときも、要介護度合いをさらに悪化させないためにはどんなハードウェアがあればいいのかなど熱心に考えてもらいました 。

例えば、高齢者が転倒しても身体のダメージを軽減してくれる「歩行者用エアバッグ」。自動車関連企業が参加すれば製品化できそうなアイデアだと思いました。また、認知症の高齢者向けに「GPSの付いたシューズ」を開発できないかなど、可能性を秘めたアイデアが出されていました。

イシューホルダーとエンジニアによるアイデアソンをやって「手応え」を得たということですね。

山田:そうです。2015年には岩手県陸前高田市で、若者の自立支援になる自動車免許合宿「つながる合宿」を実施しています。「つながる合宿」の原案を得たのも、被災地のベンチャー企業と一緒に、被災地に人を集める新事業を考えた「東北復興新事業アイデアソン」によるものです。その中で優秀賞を取ったアイデアは、もともとは「農業体験付き合宿免許」というアイデアでした。さらに、NPO「育て上げネット」、陸前高田市、地元自動車免許センターに参加していただき、ニートなどの若年無業者の自立支援を目指す「つながる合宿」という実際の事業になりました。

社会的な課題の解決のために大手企業との共創関係を築いていきたい

これからの展望について聞かせてください。

山田:これまでの活動を通じて、イシューホルダーとエンジニア、クリエイターを組み合わせて共創イベントを実施する仕組み作り、関係する団体とのネットワーク作りについては深化できました。今後は大手企業との共創関係を築く事例を作りたいと考えています。例えば、商品開発部の方と、ソーシャルアイデアソンの仕組みを使って、イシューホルダーと直接開発をしていくということをどんどんやっていきたいと。本当に深くまで、ディープなインサイトを発見することができますし、我々クリエイターも参加しているので、コンパクトな時間でアウトプットまで導くことができます。是非、このサービスを活用してもらいたいと考えています。また、注力していきたい社会課題としては、育児、介護、コミュニティの再生が挙げられます。それに、一次産業の課題。農業・林業、水産業をうまく盛り上げていけるようなことをやっていきたいと思っています。

<終>

博報堂ソーシャルデザイン
山田 英治(やまだ えいじ)

コピーライター、CMプランナーをへて現職。様々な企業のTVCMを手がける一方で、映画監督や脚本家としても活躍。2011年の東日本大震災の復興支援がきっかけに、社会課題をクリエイティブで解決していくためのサービス、Social Creative Crossを開発。NPO、ベンチャー、大企業、中小企業とクリエイター、エンジニアとをつなげることで、社会がよくなり、企業活動にも貢献できるCSV事業の企画立案を実施している。