博報堂人が、社会テーマや旬のトピックスを題材に、生活者の暮らしの変化を語る対談企画「キザシ」。
第五回は、プロダクトデザイナーの鈴木 元(すずき・げん)さんをゲストに、博報堂のプロダクト・イノベーション・チーム「monom」代表・小野直紀(おの・なおき)が、これからのプロダクトデザインについて語ります。

広告制作、コンサルの領域から捉えるプロダクトデザイン

小野:僕は会社の外でYOY(ヨイ)というプロダクトデザインの活動をやりつつ、2015年の2月に博報堂でmonom(モノム)というモノづくりのチームを立ち上げました。それまで、コピー、CM、空間、デジタルと、幅広いクリエイティブをやってきたのですが、すべてに共通しているのが「人の気持ちを動かす」ことだと考えていて、その中で身につけたアプローチとプロダクトをつくる職能が掛け合わさることで、何か新しいモノが生まれるんじゃないかと思ったんですね。鈴木さんは、パナソニックからロイヤル・カレッジ・オブ・アートへ行かれ、その後IDEOでも仕事をなさっていますよね。どういう経緯で独立されて、いまどんなことを考えていらっしゃるか伺いたいなと思ったんですけれど。

鈴木:IDEOには7年ほどいたんですが、一つのプロジェクトは3、4か月間で終わることが多いんですね。そうすると最終的に出てくるモノに対していつも自分が責任を持って細部まで関われるとは限らないわけです。プロダクトっていうのは、テクノロジーとかビジネスとか色んなことを見つつ、最後の最後まできっちり筋を通さないと良くならないと思うんです。いまは、そこの全体を見渡しながらデザインを考えていきつつ、かつ、最終的にきちっとしたデザインまで落とし込むっていうところをやっていきたいなと。

小野:僕もまさに同じような思いがあって、手を動かしてディテールを詰めていくことが、モノをつくっていく上で非常に重要だと考えています。一方で、僕の場合、プロダクトのデザインだけではなくて、世の中の人がどういう価値をいま求めているのかというところからプロダクトを発想することがやりたいんですね。モノの入口づくりというか、そういうことにすごく興味を持っているんです。かつ、それを最後の出口、モノが形を成すまでの、この角度が、この寸法がっていうところまで見る。最近は、アプリとかサービスとか、モノだけではないところで、使ってみた感触であったり気持ちよさであったり、体験全てがプロダクトになってきていると思うんですね。そこの設計をするとなると、これまでのプロダクトデザインの定義の中だけではできないのかなと思っていて。

鈴木:僕の場合はアイデアとデザインは別だと考えていて、アイデアの部分はたぶん、人を感動させたり人に驚きを与えたりという、何をつくるかっていうテーマ設定に近いと思うんです。じゃあそれをどうやって実現するか、どうやって形にするかっていうところを含めたものがデザインであって、そのデザインとしてプロダクトもあれば、サービスもあれば、流通もあると思うんですね。最近やっている仕事に「キャスパー」っていう、マットレスをはじめとした眠りに関するライフスタイルブランドを目指すニューヨークの会社があって、何がおもしろいかというと、彼らはマットレスを丸めて小さな箱に入れて売るということをしている。日本だとピンとこないかもしれないですが、アメリカでマットレスを買おうとすると、いわゆるマットレスの専門店で買うために中間マージンを取られるからすごく高くて、ショッピング自体もあんまりいいエクスペリエンスではないんです。ところが、キャスパーはインターネットで買えて100日間無料で返せるんですね。マットレスってどうやったらイノベーティブなことができるんだ?っていうようなモノだったのに、インターネットで買うという流通のデザインを行ったとき、形も変わったわけです。2年前に創業したんですけれど、今、全米の最もホットなスタートアップベスト10に選ばれたりして企業価値500憶円みたいな、そんな状態になっています。この場合は、流通のデザインをすることによって利便性を高めて、しかも安くいいものを提供できるようになった。アイデアだけでなく、それを具体的な形にしていくところに自分の役割があるというか、僕はそこでブリッジの役目を果たしているのかもしれないですね。

小野:デザイナーにとって、いいテーマと出会うってすごく大事ですよね。

テクノロジーはモノの何を変えるのか?!

鈴木:プロダクトデザインって最終的にはモノのデザインですよね。じゃあモノって何ですか?という定義って難しいと思うんですけれど、これはすごいなと思ったのは、解剖学者の養老孟司さんの定義で、「一つの対象が五感のすべてで捉えられるとき、それをモノと呼ぶ」。

小野:なるほど!

鈴木:つまり目の前の机ってモノなんですよ。見ることができるし、触ることができるし、鼻を近づけたら匂いもするだろうし、なめたらたぶん味もする。つまりモノのデザインっていうのは、そもそも五感と関わっていることだと思うんですよね。だから、見た目の形がどうこうというだけの話じゃなくて、叩いた音とか、触った感じとかをプロダクトデザインでは無意識に考えている。それがいま、アプリやサービスなどがどんどんくっついて来たとき、そこも一緒にして全体として気持ちがいいのかっていうところまで、やっぱりプロダクトデザイナーの目って見てしまうというか、見ると思うんです。見ないと自然じゃない。

小野:そうそう。

鈴木:その要素が増えてきているので一人でやるのは難しくなってきていて、みんなでやっていかなくちゃいけないと思っていました。そういう意味で、広告会社にいてプロダクトデザインをやっている小野さんみたいな方が、プロデューサー的な視点で全体を見渡しながらやっていくっていうのは、これからのプロダクトデザインに適しているんじゃないかという気がします。

小野:アプリやソフトウェアは世に出た後でも更新できるけど、モノは変えられないですよね。タイムスパンが長いものであればあるほど、本質をつかんでいないと、何かしっくりこないモノができちゃうんじゃないかと思うんですね。嗜好性とある種の普遍性、そこのバランスっていうのがすごく難しいなぁと思っていて。例えば自動運転が普通のものになったとき、それでヒューマンエラーは防ぐことができるけれど、マシンエラーはどうなるの?という疑問に対して、ぶつかっても安全な〝柔らかい車“が出てくるかもしれない。でも、それってもう、既存の車の概念ではないですよね。

鈴木:本当の意味での自動運転ができるようになると、車っていうものの概念が大きく変わる可能性もありますよね。自分が動かすものではなくなったときに、それこそ嗜好性がなくなってくる気がして。動く空間みたいな位置づけになる方向はすごくあるんじゃないかと。もちろん一方で嗜好性の高いスポーツカーみたいなものも存続すると思うのですが、極論を言うとそれってある意味個人の欲望なので、自分で車を運転するなんてエゴだみたいな価値観が大勢を占めるかもしれない (笑)。

小野:あと、プロダクト=インターフェイスっていう視点もありますよね。

鈴木:例えば、ロボットもいまはプロダクトですよね。このロボットという形は、たぶん一つのアイデアでしかないかなと思います。AIみたいなものがあるとして、そのAIを使うインターフェイスとして、ペットみたいなものがいいか、それとも何もない空間に向かって話しかけたほうがいいか、いつもの通りのスマホでいいんじゃないか。その辺はこれから色んな試行錯誤が出てきて、たぶん淘汰されていって、最終的に何が残っていくのかは、今現在では誰もが未知の部分なんじゃないかと思いますね。

身体的視点がデザインをイノベーティブにする

小野:その淘汰されて収斂されていく課程において、人が気持ちいいと思うデザインかどうかっていうのは、時代と共に変わっていくのか、それともテクノロジーで変わっていくのか、どうお考えですか。

鈴木:僕はあまり変わらないと思っています。テクノロジーって、人の気持ちに関係なく、こんなことができるとどんどんって進むものなので、それはそれでいいのですが、テクノロジーがいくら進歩しても人間自体は変わらないんですよね。動物として二本の足で立っていて、二本の手があってっていうところは変わらない。僕は、未来人って今とあんまり変わらない生活をしているんじゃないかと思うんです。文化的なところでは変わるとは思うんですけれど、何が気持ちいいかという身体的な意味ではあまり変わらないと思っているんですね。そこの冷静さみたいなところ、身体的視点っていうのはデザイン的視点だと思うので。たぶん身体的なところで価値をつくっていくというのは、デザインの大切なところだと思うんです。テクノロジーはどんどん先に行くけれど、それってほんとに気持ちいいの?ほんとに快適なの?というところは、やっぱりデザインになるのかなと。

小野:たぶん、明日くらいなんですよね、プロダクトデザイナーが目指す未来って。自分の職能を持って提示できるものは近い未来なんです。遠い未来のものは提示しない。自動運転の車が自由に道路を動き回る未来を描くのは簡単じゃないですか。でもデザイナーの仕事はその未来を描くことではないっていうか。モノって限りなくリアルだからですよね。いまある技術で、いま何ができて、それで新しい価値として何を提示できるかっていうところをつくっていくんだろうと思います。

鈴木:最近、デザインがイノベーションの文脈で語られることが多いですが、デザインとイノベーションは、本来は全く別のものだと思っているんです。いま、IT革命が起こってどんどん技術が一人歩きしている部分があると思うんですね。技術と生活とのギャップが大きくなっていったとき、デザインが「いや、こっちのほうが自然じゃない?」「この辺が気持ちいいんじゃないの?」と示した場合に、それがイノベーションになることがある。だから、いまみたいな時代はデザインによるイノベーションが起こりやすいので、デザイン=イノベーションみたいなことをよく言われたりすると思うんですけど、僕はむしろある意味で保守的なことをやっているのがデザインなんじゃないかという気がするんです。それが、いまの時代は新しく見えたりするんじゃないかと思うんですね。

小野:新しい技術が出てきたときに、「可能性がいっぱいあります」ってことを僕らは言わなくて、ものすごい現実的に「この可能性はある」「この可能性はない」「だからここまでやる」っていう、ある種可能性をせばめていく作業でもあるというか。何でもできる状態ではなくて、何ができて何ができないのかっていうのをクリアにして、それを使うユーザーがいかに気持ち良く使えるか、いまの生活に無理なく馴染んでいくかを考えながら、機能や形、体験を統合していく作業がプロダクトをデザインするということで、その先にあるのが本当のイノベーションなんじゃないかと考えています。

鈴木:バランスが大事ですよね。モノにしないと確定感がないというか。サービスとかUXみたいなものが価値の中心になったときに、一方でつかみどころがない感じがするんですよね。UXって形がないから、そこに確固とした形を与えてあげることがやっぱり大事で、それって新しいアイデアでもなんでもなくて。例えば国って国旗がないとたぶん成り立たないのではと思うんです。日本という国に日本の国旗がないことを想像すると、日本の輪郭って急に曖昧に感じられるんじゃないかなと思う。例えば結婚指輪も同じで、結婚っていう曖昧なものに、モノとして指輪が付帯すると、ああ、結婚したのかぁって思う。「把握する」っていうじゃないですか。英語だと「grasp」で日本語と同じなんですよね。「握る」「つかむ」ことを「理解する」と言う。だから世界がバーチャルで抽象的になればなるほど、「つかめる」とか「触れられる」とかいう五感すべてで捉えられるモノの価値っていうのは相対的に高くなると思うんですね。

多くのひとの手を経て、おのずと完成する、ど真ん中のデザイン

鈴木:90年代くらいまではモノでしか解決できないことが多かった時代だったんです。それがスマホにぎゅっと凝縮されてきて、そんなにモノを増やさなくても解決できてしまうことが多くなりましたよね。モノに頼らなくてもいいというか。ただコップみたいに人と道具と技術の関係のバランスがいいものは残りますよね。スマホで水を飲むわけにもいかないですし(笑)

小野:人が使うことを前提にするのがプロダクトだと思うんですね。あれもこれもできたほうがいいってどんどん研究・開発は進んでいくんだろうけれど、いまの時点で利用可能な技術を、人が使うモノとしてひとつの形に落とし込んで、世の中に対して「これだよね」と提示する。それをエンジニアと連携をとりながらやっていくという。

鈴木:それでいま思いだしたんですけど、IDEOが90年代にやった手術中に使う医療機器のデザインで、それまでは両手でオペレーションしなければいけなかったのですが、片手で出来るようにデザインしたんですね。何故かというと空いた手で患者の手を握ってあげられるから。それは患者にとってすごく励みになる。こういうことってデザインの視点じゃないとできにくいことだと思うんですね。テクノロジーとしては同じなんだけど、ちょっとした人間的な視点を入れていくというか。

小野:そうですね。そこの根本は結構シンプルであればあるほどいいですよね。マットレスも物流のところがプロダクトのコアとなるアイデアで、僕なら、それに合わせてマットレスが巻かれている状態の形のきれいさや、開ける瞬間が気持ちいいとかっていうところをデザインしたいなって思うんですけれど、そういう体験を生むためのシンボリックなものが必要なんだなと思います。新しいテクノロジーがプロダクトのコアになっている場合なら、より人に喜ばれたりとか、使いやすさを自然に体現できるものをつくるためにはどういうアイデアが必要なのかっていうところを考えるでしょうね。技術に対してデザインの視点というか、人が使う際の課題を解決したり、その技術をよりいいものとして提供するということ、そこがデザインなんだと思うんですね。

鈴木:何をもっていいデザインとするかということはあるけれど、いいデザインのモノって残るんですよね。本当にいいデザインのものはすごく反復されているというか。そのプロセスを開発途中でちゃんと経ているものって、残っていく確率が高くなると思う。最終的には時間をかけて、たくさん世界中の人が使っていく中で、デザインっておのずとできあがっていくと思うんです。例えば、コップみたいな形で。それを先読みしてちゃんとできているかどうかっていうところがポイントだと思うんですね。そこにぴたっとはまったものが提示できていたらちゃんと残る。テクノロジーが新しくなればなるほど、AIみたいなものがコアになればなるほど、そこの予測ってすごく難しいんです。でもプロダクトって、世界中で同時多発的に、みんなでつくっているものなので、使っているうちにだんだん角が取れて丸くなっていくというか、最終的にそれなりに使いやすい、理にかなったものが残っていく、という考えを持っています。

未来に残るデザインをつくる、技術と人をつなぐバランサー

小野:定着するまで、たぶん、どのプロダクトもあくまでたたき台なんですよね。あれがあるから、これはここをよくしていこうとかっていうことを繰り返していく。

鈴木:みんなでプロトタイピングをしているような感じだと思う。

小野:それを事前に読み解いていたら、残っていくという。

鈴木:それをやれたら、そこを取れたらいいのですが、難しいです。僕らも、例えばスマートフォンのプロジェクトをやったりすると、もうiPhoneが真ん中を取ってるから、そこを避けようとすると装飾的にならざるをえないというか。iPhoneは、スマートフォンってどういう形が快適なんだろう、一番ちょうどいいんだろうって考えた結果できたものだと思うんです。デザイナーがエゴでデザインしているわけではなくて、冷静に色んなバランスを見て、これが一番素直なんじゃない?っていうところがちゃんとできてるんですよね。それができてるものは強いですよね。

小野:それはやりたいですね。テーマとの出会いも関係する。そんなに簡単にいいテーマと出会えるわけではないですからね。

鈴木:キャスパーは、その後、世界中で類似品が出たんですね。それはいいことだと僕は思っていて、やっぱりそれが理にかなっているとみんなが納得したからだと思うんです。本当にたくさん出たんですよ。でも、そうやって言葉にできるアイデアっていうのは真似されちゃうんですよね。「マットレスを丸めて送りましょう」っていうのは言葉にできちゃうから。その中でキャスパーが一番いいブランドとして残っていくためには、真似できない次のステップがまた必要です。それこそもやっとした、言葉にできない気持ちよさとか、「なんかいいね、これ」っていうのをつくっていかなくてはいけなくて、いまキャスパーではスリープにまつわる色んなプロダクトをつくり始めているんですけれど、例えばそういうことでブランド全体を真似できないものにしていくというような。

小野:真似されるプロダクトって、嫌だけどいいことですよね。

鈴木:真似されるということは、その時の解になっているということなので。

小野:例えばfacebookができたときに、日本ではすでに他のSNSがあったのに、facebookがいま一番大きい状態になっていると思うんです。プロダクトではないですが、考え方は一緒だと思うんですよね。そこで最終的に勝つのは体験性だったり、使い心地であったりという、サービスのデザインがすごく洗練されていったところが残っていくと信じています。デザインは、テクノロジーと人をつなぐ役割なんだと思います。

鈴木:プロダクトデザイナーってブリッジでもあり、バランサーなんですよね。

小野:遠い先の未来、例えば1000年後に使われているモノってどんなモノなんですかね?

鈴木:意外と変わってないですよ、きっと。

小野:プロダクトデザイナーとか、どういう語られ方してるのかなぁ。

鈴木:そんな時代もあったなぁみたいな、そういう感じかもしれないですね(笑)。

<終>

PROFILE

鈴木 元(すずき・げん)
プロダクトデザイナー / GEN SUZUKI STUDIO 代表

1975年生まれ。金沢美術工芸大学卒。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクツ科修了。松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)、IDEOロンドン・ボストンオフィスを経て2014年に帰国。GEN SUZUKI STUDIOを設立。日用品、家電、家具など幅広い領域で、国内外の企業に対してデザインやコンサルティングを行っている。金沢美術工芸大学および多摩美術大学非常勤講師。

小野 直紀(おの・なおき)
株式会社博報堂 プロダクトデザイナー・コピーライター / monom代表

博報堂入社以来、広告、空間、インタラクティブと幅広いクリエイティブ領域を経験する中で、多数のプロダクト開発業務に従事。2015年に博報堂社内で、プロダクト・イノベーション・チーム「monom」を立ち上げる。また、社外ではプロダクトデザインスタジオ「YOY」を主宰。その作品はMoMAをはじめ世界中で販売され、国内外で多数のアワードを受賞している。武蔵野美術大学非常勤講師。

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