博報堂は、2016年4月、生活者の買物行動活性化につなげる独自のプラニング手法「ショッパーズ・カスケ―ド™モデル」を発表しました。
「ショッパーズ・カスケ―ド™モデル」は、これまで明らかに出来なかった店頭におけるリアルな買物行動検討プロセスを様々なテクノロジーで可視化し、メーカー・流通小売業双方の売上・利益拡大につながるマーケティング施策に導く、今までにない新しいマーケティングモデルです。

すでに具体ソリューションとして「無意識下の調査プログラム」「ショッパーセプション社と連携した棚前行動測定サービス」を提供しています。

今回は、上記取り組みについて、開発から現在運用に携わる4人の社員が、経緯や狙いなどを語りました。

(左から)青木雅人、岸村俊哉、長谷川恭平、佐藤智施

まずはみなさんの経歴を簡単に教えてください。

青木:2010年から買物研究所に在籍しており、2014年からショッパー・リテール・マーケティング局(以下SRM局)の局長となりました。ちょうど「ショッパーズ・カスケードモデル」をつくったのはこのときです。今年の4月からは博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターと博報堂の研究開発局を担当しているので、現在は、店内行動をリサーチするという側面に加え、ターゲティングによる情報発信の可能性を探るという面からも関わっているような状況です。

佐藤:私は3年前に博報堂に入社しました。博報堂に入社する前も含めて、長年、マーケティングサービスの領域で事業やサービス開発に携わってきました。ショッパー・マーケティング領域でビジネス開発をする機会も多く、特にデータを活用したサービスを数多く手がけてきました。店内においてID-POS分析のみではカバーできない課題を解決するために、この「ショッパーズ・カスケードモデル」の開発を志向しました。

岸村:初任は営業職で、通信キャリアを担当していました。中でも主にインタラクティブなキャンペーンを数多く担当していました。その経験を生かして、現在はデジタル化を推進していくために、テクノロジーを活用して新しいビジネスやサービスを開発する役割を担っています。

長谷川:2012年博報堂に入社し、初任がTBWA\HAKUHODOでした。マーケティングの担当として主に自動車メーカーや食品メーカー、家電メーカーを担当し、広告コミュニケーションのプラニング業務を遂行していました。去年の10月にSRM局に異動になり、「ショッパーズ・カスケ―ド™モデル」の開発に携わりました。現在は「ショッパーセプション社と連携した棚前行動測定サービス」の導入の役割を担っています。

長谷川:2012年博報堂に入社し、初任がTBWA\HAKUHODOでした。マーケティングの担当として主に自動車メーカーや食品メーカー、家電メーカーを担当し、広告コミュニケーションのプラニング業務を遂行していました。去年の10月にSRM局に異動になり、「ショッパーズ・カスケ―ド™モデル」の開発に携わりました。現在は「ショッパーセプション社と連携した棚前行動測定サービス」の導入の役割を担っています。

「ショッパーズ・カスケード™モデル」で買物行動の“ブラックボックス”を可視化する

今回、「ショッパーズ・カスケード™モデル」の構築に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。

青木:得意先が博報堂に求める要件の変化が挙げられます。これまでは、広告会社に求められることは、認知やイメージの向上、話題性づくりなどマーケティングコミュニケーション領域を主とした課題解決の施策でした。ここ数年は、その上で、その施策がどのように売上へ寄与をしたのか施策対効果が問われています。つまり、広告会社に求める期待の幅が変わってきたのです。従って、SRM局としては売上に寄与させるために認知やイメージに留まらず、購買までの買物行動をデザインすることが重要なミッションとなっていました。買物行動をデザインする上では、得意先が想定しているターゲット顧客のみならず、潜在顧客に対する需要の発掘が必要です。例えば売場に来ているけれど買われないとか、商品を見ているのに手に取ってくれないとか、手に取ってくれているけれども買われないとか、買物行動に注目することで、これらの潜在需要を見極めていくやり方があるのではないかと思ったのです。

長谷川:すごく重要なことは、買い物客が棚の前でどのような意思決定をしているのか、得意先の関心が集まってきたということです。「それ、迷って買っているの?」とか「指名買いだよね?」みたいな議論って、実はこれまでもカメラでサンプル調査をしてきたけれど、それをきちんと数値化できなかった。定性的なアプローチがメインだったんです。それが今回、新しいテクノロジーを活用して棚前行動データを定量化し可視化できる、というところが今すごく期待されているな、と感じています。

佐藤:ショッパー向けのマーケティングで重要なことは大きく2つあり、1つは来店を促すこと。もう一つは、実際にその商品を買ってもらうことです。それらのマーケティング活動の中で、来店や購買は効果検証が出来ました。しかし、その来店から特定の商品を買ってもらうまでの買い物行動はブラックボックスだった。仮に買ってもらえなかったとしたら、それは迷って買われなかったのか、それともその棚に立ち寄ってもいなかったのか、測定が出来なかったわけですよね。そこをうまく可視化してあげる仕組みが「ショッパーズ・カスケード™モデル」です。いわばその店頭や商品の健康診断をしてあげるということなんです。そうすると、具合が悪くなる前の予防治療ができるじゃないですか。売上が下がった後で手を打つというのは、どちらかというと病気になってから治療するという話なので。結果の指標だけでなく、先行指標をマーケティング活動の評価指標とすることで、攻めの改善ができると思われます。

青木:そうだよね。今、ショッパーズ・カスケードという言い方をしているけれども、商品ブランドのカスケードというのはすでに一般的にも使われている言葉です。認知、理解があって、好意、購入意向があって。ただ、買いたいという気持ちって、お店に行った時にちょっと気になるものがあったとか、また広告が好きとか、日々の様々な体験が積み重なって、少しずつ徐々につくられていくものなのだと思っている。なので、商品ブランドのカスケードを使って「今、好意が落ちています」というときには、すでに店頭での購買傾向は悲惨なことが起きているかもしれない。頭の中でブランドができるというのはすごく時間がかかるから…。「行動」がマーケティング活動の先行指標になり得るんじゃないかなということなんです。

佐藤:新しいマーケティング手法の効果の予兆も発見できます。例えば店頭での実験の場合、短期間で売上や購買にはね返るかというと、必ずしも効果が出ない場合が多々あります。でも、「行動」を先行指標と捉えれば、実は購買には至っていないが商品への接触が増えているよね、商品に接触していれば“迷っている”ので購入の検討候補に意外と入っている、みたいなこととか。そういう指標で観察していると、意外と1~2か月後には売上や購買にも効いてくるかもといった、効果の予兆みたいなところの測定ができるというのは非常におもしろい点かなと思っています。
また、流通小売業とメーカーが同じ指標で対話ができるというのが1つのポイントになっています。今までは異なる指標で語っていたのを、一元化して一つのモデルで評価できる。

青木:あとは、本モデルを活用することで、博報堂として4Pの中で“Place”と“Price”に深くかかわることが出来るんです。“Promotion”領域では我々はずっと力を発揮してきたと思うのですけれども、実は“Place”と“Price”の領域にはあまり武器がなかったんですね。
この「ショッパーズ・カスケード™モデル」の中に、今後、競合ブランドも含めたプライシング変動をモニタリングする仕組みなんかが入っていったりすると、さらに博報堂のマーケッターは、深い提案ができるのかなと。得意先側の課題に加えて、博報堂としてのマーケティング強化という意図もありましたね。

リサーチサービスだけじゃない、大きなビジネスを・・・ 1年半の試行錯誤を経て、テクノロジーパートナーとの協業を実現

今回、「ショッパーズ・カスケード™モデル」は、特に無意識下の行動の可視化と、アクチュアルデータによる行動捕捉に着目すると発表をしています。なぜここに着目されたか教えてください。また、実際に、無意識下の調査プログラムやショッパーセプションと取り組みを開始していますが、実現に向けたエピソードがあれば教えてください。

青木:無意識下の行動に注目した一つのきっかけとして、飲料の売場で、アイカメラを使った実験調査をやってみたんです。そうすると、実は一回の買物行動で、約80以上の商品に目を合わせていることがわかった。これ、0.何秒という瞬間の数なんです。でも、インタビューやアンケート調査で「あなたがよく比較検討されているブランドを挙げてください」と言うと、3~4個しか挙がっていかない。つまり、今までの調査フレームではわからないけれど、このような調査を通じてショッパーは膨大な情報量を手に入れているという事実がわかってきました。その中で、ショッパーは直感的にこれが私に向いているとか、何かこれいいかもって思う。その領域って、実は広告会社がそれほど解明できてなかったところなんじゃないかと。

あとは、定性的に買物行動を見ることが出来ても、アクチュアルに行動データとして買物行動を評価することが出来なかった。いわゆる、定量的に買物行動を可視化出来なかったんです。アクチュアルデータ化は海外でも研究が進化している領域であり、博報堂としても強化したかったというのはあります。

佐藤:裏話としては、今、この領域って、テクノロジーを含めてものすごく進化が激しくて…。われわれが外部機関と協業する上でどのようなテクノロジーが適切かというところに、かなり力を注ぎましたね。ちなみに何件ぐらい検討しましたっけ?

青木:15件ぐらい。

岸村:そうですね。15件の中で、どの企業やテクノロジーを選択するかというのが大変でした。海外のカンファレンスにも参加したり、いろいろやりましたよね。

青木:半年ぐらいは、まずテクノロジーの評価をして、有望だったテクノロジーのテストをまた半年ぐらい。そこからテクノロジー企業と交渉に入って、契約までまた半年ぐらい、と結構かかっているんですよ。だから、最初にこの話をし始めてからたぶん1年半ぐらいかかっている。その中でショッパーセプション社が決め手になったのは、棚前の商品接触までデータ化できるところですね。

あと、今回興味深かったのは、交渉の過程でサービスの検討領域を広げることができたこと。最初はリサーチサービスで協業しようとディスカッションしていたものが、「博報堂にはこういうケーパピリティがあるんだ」という話をすると、じゃ、こういう違う領域でもっと一緒にできるんじゃないかという話になって。お互いの掛け算で出来ることは何か、というディスカッションを続けたのが、契約に半年ぐらいかかった理由かな。

長谷川:まさに私も同様の発見がありました。ショッパーセプション社はリサーチサービスを日本で展開したいだけではなく、自分達のテクノロジーを活用して情報配信するというビジネスも進めていきたいという大きな構想があり、その構想を実現するために博報堂とのアライアンスを考えてくれました。同時に博報堂も、リサーチサービスを単体で販売していくのではなく、大きなビジネスの構想の中でテクノロジーを活用することを考えていて。すごく目まぐるしいテクノロジーが進化していく中で、やりながら一緒に進み方を考えているというような、動的な感じがありました。

佐藤:海外のテクノロジーパートナー企業はスケールを一番考えるよね。お互いのビジネスの構想をどれだけ描けるか。それが契約も含めアライアンスが成功をするか否かのトリガーになっているんです。そこのフェイズにこぎつくまでにみんなで四苦八苦しました。

青木:グローバル企業との仕事の仕方を変えられるきっかけになるとうれしいよね。グローバルのデータホルダーと組むことで、逆に、博報堂のグローバルにおける得意先リソースを拡大したりとか。今までの得意先の課題がありきという仕事も大事ですけれども、もう少し違う視点でグローバルの仕事をつくっていくことに、すごくポテンシャルを感じています。

※後編へ続く

<プロフィール>

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター室長
兼)博報堂 研究開発局長 兼)ショッパー・リテールマーケティング局
青木 雅人(あおき・まさと)

1989年 株式会社博報堂入社。生活者データベースの構築、社会テーマ・メディアに関する研究、マーケティング・テクノロジー開発を担当。

データドリブンマーケティング局ビジネスディベロップメントディレクター
佐藤 智施(さとう・さとし)

IT ベンチャー、外資系マーケティングサービス、M&Aコンサルティング企業において、一貫してサービスや事業開発を担当。2013 年、株式会社博報堂入社。現在は、データの利活用を推進するサービス開発やパートナー提携などのビジネス開発を担当。

データドリブンマーケティング局ビジネスディベロップメントスーパーバイザー
岸村 俊哉(きしむら・としや)

2006年博報堂入社。主に通信・ハイテク・ネット企業のマーケティング戦略立案、およびデジタル領域での事業企画やサービス開発に従事。共著に「マーケティング立国ニッポンへ~デジタル時代、再生のカギはCMO機能~」(日経BP)。

ショッパー・リテールマーケティング局ストラテジックプラナー
長谷川 恭平(はせがわ・きょうへい)

2012年博報堂入社。同年からTBWA\HAKUHODOで、ブランド・コミュニケーションの戦略立案を担当。2015年よりSRM局にて、生活者の購買行動起点のマーケティングを推進するソリューションやサービスの開発、及びその活用を通じたプラニングに従事。