2016年5月、博報堂DYホールティングスは、「AD+VENTURE」(※1)制度により「株式会社LGBT総合研究所(以下LGBT総合研究所)」を設立したことを発表しました。

LGBT総合研究所は、LGBTに関連する調査・研究を行い、企業・自治体が正しい知識を持ち、理解し、向き合うことを実現するためのマーケティングサポートを実施する専門のシンクタンクです。

今回、本研究所設立にあたり、メンバーが背景や意気込みを語りました。

(左から)森永貴彦、東松秀典

LGBTというソーシャルイシュ―に向き合いたい 「AD+VENTURE」5度目の挑戦で、事業化を実現

-おふたりの経歴を教えて下さい。

森永2011年大広に入社し、1年間営業職を経験しました。その後、希望していたマーケティング職となり、製薬、化粧品、健康食品領域の得意先を担当しました。最初は商品回りのマーケティングが中心でしたが、次第に通販事業の立ち上げや再構築といった事業開発に携わる機会が増えました。

東松僕は2012年に大広に入社しました。営業として住宅メーカー、不動産仲介、総合エネルギー、食品会社など、幅広い業種の得意先を担当しました。その中で、ラジオ局のスタジオ開設20周年を記念して親子がスタジオでDJ体験できるキャンペーンを実施するなど、新しい取り組みを提案して生み出してきました。

-今回、LGBT総合研究所を設立された背景を教えてください。

森永僕自身がLGBTの中のG、ゲイセクシャルに該当するということがありますが、入社前からずっとLGBTというソーシャルイシューについて向き合いたいと考えていました。大学生になった頃からカミングアウトしたのですが、特に差別を受けることもなく、生活する中で困ったことは何一つありませんでした。
ですが、周りで困っているLGBTの人達に出会うたびに、社会のLGBTに対する認識が不足しているので、これを変えていかなければならないのだろうなと考えるようになりました。社会人になって、広告会社に就職し、ここで出来ることは何だろう?と問う中で、「AD+VENTURE」という制度に出会いました。実は、それから5年間、LGBTに関する事業を提案し続けていたんです。何度もビジネスモデルを検討し直し、今年、晴れて事業として認めていただき、テストマーケティングを開始出来ることになりました。

-おふたりで組んだきっかけは?

東松:もともと、LGBTへの取り組みの自主提案を一緒にやっていたんです。その中で、森永さんから、「今年も『AD+VENTURE』に応募しているけど、仲間になってくれないか?」との話を持ちかけられ、二つ返事で「一緒にやりましょう!」と答えました。森永さんにとっては5回目の「AD+VENTURE」への挑戦でしたが、僕にとっては初めての挑戦でした。

森永僕は当事者ですが、ストレート(※2)の人が、LGBTに関わる事業を一緒にやっていくというのは、とても覚悟の要ることだと思います。だから、そんなに気安く声かけはできませんでした。もちろん事業を応援してくれたり、見守ってくれる人は沢山いるのですけれども。彼とは、1年一緒に活動してきた中で、このテーマに非常に興味を持ってくれていたのと、営業とマーケティングという立場で仕事をしたときに安心感があったので、ぜひ協力してほしいと話しました。

東松:入社当初から毎日のようにご飯に行ったり、休日も森永さんのホームパーティに行ったりしていましたね(笑)。その中で「一緒に仕事ができたらいいね」という話になり、自主提案、そして「AD+VENTURE」につながっていきました。

-設立に向け、苦労したことなどのエピソードを教えてください。

森永「AD+VENTURE」の審査を通過するのには、かなり苦労しましたね。LGBTという未開拓なテーマにおいて、事業としてスケールさせていく、その可能性を説得していくのが非常に大変でした。工夫したこととしては、見せられる数字が本当に何もなかったので、得意先企業に意見をたくさん聞いたこと。実際、「その事業が始まったら応援しますよ」というコメントをいただいていたので、「AD+VENTURE」のプレゼン時にはサポートしてくれる得意先がいることを見せました。
現時点での苦労は、まだそんなに無く、新しいことを始める楽しさを味わっている最中です。やることはとにかく山のようにあり、これまでとは比較にならない忙しさなのですが、それは当たり前のこと。一つずつ優先順位を決めてこなし、楽しんでいます。

企業や自治体のCSR活動からマーケティング活動まで、一貫してサポート

 
―具体的なサービス内容を教えてください。

森永:事業は3つの柱を想定しています。
LGBTイシューに対し、今、企業が必要としていることは3つ。
1つは「LGBTを知る」こと、2つめは「LGBTとつながる」こと、3つめが「LGBTと向き合う」ことです。これに対し、弊社は「ナレッジ」「タッチポイント」「ストラテジー」を提供していきます。
ナレッジサービスでは、企業がLGBTを「知る」ためのサービスを提供します。主にLGBTとは何か、を理解するための情報提供サービスです。企業のリテラシー向上のサポートは現在NPOが中心になってやっているのですが、LGBT総合研究所ではセミナー、社内研修プログラム、独自の調査データなどを用意しています。
次にLGBTと「つながる」ためのタッチポイント事業ですが、LGBTに関する正しい知識を得た後に、「LGBTフレンドリー、つまりLGBTに対してきちんと取り組んでいる企業ですよ」ということを、社会に表明していく必要があると思います。LGBTの人たちや、LGBTアライ(支援者層)に、これを知ってもらうためのプロモーションサポートなどを実施します。そのためにLGBTやLGBTアライの人たちが読む、セグメントメディアとも連携しています。
3つ目のLGBTと「向き合う」ステップですが、LGBTを意識した商品開発や、コミュニケーション展開を行っていくためのストラテジー提供事業になります。

このように、弊社の事業は、現状、NPOを中心とした団体が担っているCSR活動で終わってしまうのではなく、マーケティング領域、コミュニケーションまで一貫してサポートするというのが強みです。僕が社内プロジェクトではなく会社設立にこだわったのは、この点を実現したかったからなんです。

 

―LGBT総合研究所としては、独自に営業を図ると同時に、博報堂DYグループ各社とも強固に連携していくんですよね。

東松せっかくグループ横断型の「AD+VENTURE」で会社をつくらせていただいたので、博報堂、大広、読売広告社などのすべてのグループ会社と連携して、より多くの企業に働きかけ、事業拡大を加速させていきたいと思っています。

森永:グループ総動員で動けば、より多くの企業に対してこのLGBTの課題を解決することができると思っていて。どんなにちょっとした活動でもいい、企業から「LGBTに取り組んでみます」というようなことを発信してもらえればベストかなと。そのためには、我々二人だけではなく、博報堂DYグループの営業やナレッジ開発担当者と協力しながら進めていけたらと思っています。


―設立を発表してから、周りの反応はいかがでしたか。

森永反響はすごく大きかったです。もちろん企業からのお問い合わせもありましたが、それ以上に社内から「このテーマに取り組むということを知り、当事者として非常にうれしく思っています」というようなメールまでもらいました。あとは、営業さんからの問い合わせも非常に多かったです。「得意先とディスカッションしたいんだけど、同行できる?」とか、「社内勉強会が良かったので、得意先にも提案したいけど、いかがでしょうか」など。もちろんできますし、どんどん拡げていきたいです。

誰もが幸せな社会を目指して- LGBT総合研究所はポジティブな提案を続けます!

―6/1よりサービスを開始していますが、意気込みと今後実現したいことを教えてください。

森永:まずは多くの得意先にサービスを提案し、動かしていきたい。企業や自治体がLGBTについて正しく理解し、コミュニケーションを図っていくことに取り組んでくださると、勤めている方々のリテラシーも高まってきますし、社会が変わっていく大きなチャンスになるのです。

なので、初めは研修活動だけでも構わないので、取り組んでくださる得意先を増やしていきたい。そのためにもグループ内連携は欠かせないものです。

東松:僕自身はストレートですが、周囲に今回の事業化を報告すると、「おまえはやっぱりゲイなのか」と言う方もいました。そう言われるのは覚悟の上なので何とも思わないのですが、LGBTに限らず、あらゆるマイノリティの問題に取り組むことを「当事者だから取り組む必要がある」と認識されている方々が今は多いと感じています。当事者だからとか当事者ではないからではなく、誰もが一人の人間として、世の中の問題を解決したいという思いがあれば、思い切って行動してみたら良いと思います。その先に今とは全く違う新しい社会(LGBTで言えば、個性あふれるダイバーシティ社会)がある。「新しい社会をつくろう」と言うような旗揚げの動きをどんどんつくっていくことが、今後実現したいことです。

森永:あとは、個人的な話ですが、僕のLGBTの友人はすごくユニークで楽しい人が多いんです。自分の得意領域を個性として生かしていくことを得意とする方々が多い印象です。そして、キラキラと輝いてる。

生きづらい社会の中で、辛さを抱えている当事者も、まだまだ沢山いらっしゃいますが、そういうネガティブなところをフォーカスするのではなく、ポジティブな面をいかに社会にどんどん見せていくかを考えたい。そうすればLGBTって素敵な人たちだなという風に、社会的認識も変わっていくと思うので、そうした企画を数多く生み出したいです。たとえば、グループ内でLGBTのクリエイターやマーケッター等が企画をすると、どんなおもしろいものが生まれるのだろうとワクワクしたりしています。

とは言え、カミングアウトは非常にセンシティブな問題。したくないと思っている方も大勢いらっしゃると理解しています。もし実現できれば、といったレベルですが、今年度中にLGBTクリエイターズの募集はしてみたいと思っているところです。

<終>

(※1)2010年に、博報堂DYホールディングスが事業会社である博報堂、大広、読売広告社、博報堂DYメディアパートナーズとともに開始し、現在は博報堂DYグループ傘下の54社を横断する社内公募型ビジネスアイデア募集・育成プログラム。

(※2)セクシャルマイノリティに該当しない層。

【プロフィール】

株式会社LGBT総合研究所  代表取締役社長
森永 貴彦(もりなが・たかひこ)

2011年株式会社大広入社。戦略プランナーとして、化粧品、トイレタリー、健康食品、製薬企業を中心に数多くの 企業のマーケティング戦略立案、事業開発、商品開発、リサーチなどを担当。博報堂DYグループの AD+VENTUREプログラムを勝ち抜き、2016 年に同社を設立。LGBT 当事者として、セクシャルマイノリティに向き合う企業をマーケティング視点でサポートし、ダイバーシティ社会の形成を実現していくことを目指す。

株式会社LGBT総合研究所 取締役副社長
東松 秀典(とうまつ・ひでのり)

2012年株式会社大広入社。営業として、住宅メーカー、不動産仲介、総合エネルギー、食品会社など幅広い業種の得意先を担当、特にTVや新聞等のマスメディアとタッグを組んだ企画に様々従事。LGBT当事者ではないが、社長の森永の想いに賛同し、博報堂DYグループの AD+VENTUREプログラムへの参加を決意。2016 年同社を設立。企業や生活者がセクシャルマイノリティと向き合う機会を創出し、アライを増やしダイバーシティ社会形成を実現していくことを目指す。