生活者が、あるものを「欲しい」と思っても、次々と更新される情報の中で買物欲を消費へと結びつけられず、忘れ、失うという現象。ウェブによってモノに対する評価、価格情報が可視化され、さらにモノの種類自体が増加する現代は「モノが売れない時代」と言われてきたが、「モノを欲しいと思っても買物に結びつきにくい時代」を迎えていると言える。

21世紀に入って、流通する情報量は劇的に増加した。2005年からの9年間で、日本国内に流通するデータの量は10倍近くに増えたと言われている。もちろん、商品やサービスに関する情報も増えている。例えば、コンビニエンスストアの店頭で飲料を買物するだけで、視線が及ぶアイテム数は、平均79.6個にも上る(博報堂買物研究所調べ)。

 情報量が増大した結果、生活者の多くは、自分に関係がないと思った情報を「流す」ようになっている。博報堂買物研究所が全国の20代~60代の男女を対象に行った調査では、「自分に関係ないと思った情報は無視したり放置したりすることが多い」という項目に対し、81.8%が「あてはまる」と答えている。

 買物欲はあるが、その欲求はメッセージアプリのタイムラインのように、常時更新されていく。結果、欲求は大きくなる前に流れていき、買物に結びつかずに消えていく──。その現象がすなわち欲求流去である。「モノが売れない」と言われるのは、欲求があるのにそれが流去しているからだということだ。

 さらに、欲求流去の実態についてさらに詳しく見ていくと、「この半年間を振り返り、ある商品を“欲しい”と思ったにもかかわらず、いつの間にかそのことを忘れてしまったり、欲しいという気持ちをなくしてしまったりする(欲求流去)経験はありますか?」という質問に、75.1%が欲求流去の経験があると回答。うち約7割が「この1~2年で欲求流去が増加している」と認識している。

 この欲求流去の原因を分析してみると三つの情報の増加から、買物へのストレスが生まれていることがわかった。
一つめは、口コミ・ランキング情報の氾濫(はんらん)。そこから、どの情報を信じていいか分からない「情報選択ストレス」が発生。
二つめは、価格・スペックの激しい変動とその情報の氾濫。そこから、いつ、どこで買えば正しいのかがわからない「タイミング選択ストレス」が発生
三つめは、商品バリエーションの多様化。そこから商品の選択肢が多すぎてどれが本当に必要かわからない「モノ選択ストレス」が発生。

 いま生活者は買物ストレスによって、買物を先送りし、日々新たな情報と接するうちに元々あったはずの買物欲を忘れ、欲求を流去させている。

 欲求が流去する時代にいかに買物を生み出すのか?生活者の購買行動を更に詳細に把握し、新しい買物を生み出すための仕掛けを考えることが必要不可欠となっている。

【調査概要】「欲求流去実態調査」
「欲求流去の経験」「買物意識」「情報意識」「欲求流去が起きるプロセス」を把握するための調査を実施。
対象者:全国20~60代男女2,063人 ※性年代の割り付けは最新人口動態調査結果に準じる

手法:インターネット調査
期間:2016年2月5~7日

博報堂 買物研究所 ストラテジックプラニングディレクター
山本泰士(やまもと・やすし)

1980年神奈川県生まれ。 2003年東京大学教育学部卒、 同年、博報堂入社。マーケティングプランナーとして教育、自動車、飲料、トイレタリー、外食などのコミュニケーションプランニングを担当。07年より博報堂大学こどもごころ製作所プロジェクトに 参加し、クラヤミ食堂など体験型コンテンツの企画、運営を担当。11年より博報堂生活総合研究所にて、生活者の未来洞察コンテンツの研究、発表を担当。「総子化」「インフラ友達」「デュアル・マス」などの制作・執筆に関わる。15年より博報堂買物研究所に異動。近未来の買物行動予測研究と、買物行動を起点としたマーケティングに従事。

「ウェブ広告朝日」より転載

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